40年前、「癒し」と言われることがあまり好きじゃなかった
──ここからはGONTITIの40年についてお話を聞いていきたいと思います。この40年の数え方は、どこが起点になるんでしょうか?
松村 知り合ってから40年、ということですね。レコードデビューからは35年です。
三上 そうですね。
松村 三上さんと出会ったとき、僕はどっちかというとコードのほうを主体にギターでいろいろやってたので、そこに三上さんの独特のリズム感とメロディが入ることで、1つのものができあがった感じがありましたね。2人の音が混ざったときに「音楽ってこういうものなんや」と思えた。そこが最初でした。
──そこから40年。
松村 たまたまこういう感じになったとしか言いようがないですよね。続けるために何かをしてるとかもないですし。
三上 そんなに「宝物」みたいにGONTITIとしての活動に執着してる感じもないですし。そういう意味で風通しがいいから、この長さになったのかなと。
松村 とりあえず音楽してるときは楽しいですからね。それしかないです。おいしいもの食べたりするのと一緒で。
三上 今回のCDのライナーノーツで、立川直樹さんが僕らを「癒しの音楽と言われている」と書いてくださってましてね。以前は、僕ら自身は「癒し」と言われることがそんなに好きじゃなかったんですよ。だけどこの頃ね、水が垂れてる音とか聴いてると素直に「癒されるなあ」って思うんです(笑)。
松村 疲れてるんちゃう?(笑)
三上 今日、この取材前に2人で練習してたんですよ。そしたら、癒されました(笑)。
松村 (笑)。
三上 「これ、いいなあ」って自分が癒されてるというね。「癒しの音楽」って思われるのも嫌じゃないなと思いましたね。
松村 40年経ってね。
三上 そう。40年経って、やっとわかりました。これからは「癒しの音楽」って言っていただいても全然大丈夫です(笑)。僕らの音楽の中に、癒しや元気になれる部分があると皆さんに認識していただけているのならうれしいです。
三上さんはあきらめないんですよ。粘り強いというか、しつこい(笑)
──以前のインタビューでも、ギター2本のインストでデビューするということは、ある意味で反骨心の表れだったとも話されていました。人気が定着した80年代後半以降はラウンジとかリゾートミュージックといった言葉で紹介されたり、CMや映画でGONTITIの音楽をよく耳にするようになるんですが、そんな時期でも音楽の中にある棘みたいなものはぼんやり感じてました。
松村 それは絶対にあります。聴きやすくても、じっくり聴くと「え?」ってなる。そういうのは好きですね。簡単そうに聞こえても、やってみるとできない、みたいな。
三上 リゾートミュージックとか言われてるときも、そういうジャンルの本道で盛り上がってる人たちはいて、僕らはわりと傍系だったんですよ。本道の味付けとしてそのシーンにいるというのは、自分としてはそんなに違和感はなかったです。人が僕らを見つけやすくするためのものとして、インデックスとしてはそういうものなんだなと。
松村 呼ばれ方は、いろいろありましたから(笑)。
三上 「どこの棚に入れたらいいんや?」みたいなね。
──それにしても、若いミュージシャンからしたら40年というのは本当に長い道のりなんですが、いわゆる“匠の境地”みたいないかめしい感じがGONTITIにはまったくないですよね。
三上 全然ないです! ライブ中なんかも、夕飯のことしか考えてないので(笑)。
松村 そうは言うても、三上さんが弾くギターのソロパートでのアドリブが気持ちいいかどうかというのはやっぱり肝なので、そこは集中してやってます。三上さん自身もすごく力を入れて精査してると思います。
三上 まあ、音楽は深いですね。今回もミックスからマスタリングまでの間に数日あったので、ちょっと気になるところを弾き直したんですが、結局マスタリングの日の朝までやってたんですよ。
松村 そこは三上さん、すごいと思いますよ。普通ならあきらめるじゃないですか。でも、三上さんはあきらめないんですよ。粘り強いというか、しつこい(笑)。
三上 言い方悪いな(笑)。
松村 いや、でもそれでいい方向に進んでいくので。悪くなったらだめですけど、確実にいいほうに向かってることは、あきらめないでやる。すごいなあ。僕はびっくりしてます。まあ、いつもですけどね。
よくぞこの2人が出会えたなと
──松村さんにもまた違ったこだわりがあるんだと思います。
松村 ええ。僕は全体像の中で、何か自分の心にグッとくるものがあるかないか、だけなんです。三上さんのすごいフレーズを聴いたりしたときに「これは、トロやな」と感じる(笑)。トロの部分があれば、もう幸せなんですよ。曲の中に、どこかそういう部分があってほしいといつも考えてます。あとは、三上さんが隅から隅まで見てくれてるので。
三上 松村さんには、そういう全体を見る力があるんですよ。今回も松村さんの指摘でちょっとメロディを変えたところがあったんですけど、それで曲が生き返ったりした。2人が同じように細部にこだわってると、知らないうちに変な島に行ってしまうことがありますけど、松村さんはいつもうまく距離をとって「こっちのほうがいい」とか言って修正してくれる。
松村 「トロの部分がちょっと足らんなあ」とね(笑)。
──改めてこれまでの40年を俯瞰して、特別な思い出として振り返る時期はありますか?
三上 最初の数年はレコードも出してないし、ある意味で純粋に余暇の音楽でしたから、別にいつでもやめられるものだったんです。「PHYSICS」(1985年発売の3rdアルバム)以降にアレンジャーの松浦(雅也)くんと3人でやるようになり、「ポップなものも面白いな」と思うようになって、そこから音楽の幅が増えたんです。やっぱり、初めの頃は曲も濃いですよね。ものすごく考えて、溜まっていたものを出す感じもありましたし。それ以降が薄いということでもないですけど、聴く人を意識するという部分が以前はなかったですから。
松村 1stアルバム「ANOTHER MOOD」(1983年発売)の1曲目「Nickel Dance」を最近バンドで演奏したら、これもすごい曲なんですよ。「これは、どこにもない音楽やな」と改めて自分たちでも思いました。
三上 「こういうことちゃんとしてたんや」って思いますね。
──人に見られていない時間の重要さというのはありますよね。みんながレコードとして知るようになる以前のGONTITIの意義というか。
松村 よくぞこの2人が出会えたなと思いますね。三上さんみたいな人じゃなかったらここまで来てないかもしれない。いや、来てないですね。
三上 いや、お互いさまですよ。知り合う前に松村さんの当時の音源は聴いてたから「面白い人やな」とは思ってましたけど、僕はその頃はあんまり人と会うタイプじゃなかった。たまたま引っ張り出してくれた人がいたので松村さんと会えたんです。そのときに2人で弾いた「My Favorite Things」なんか、すごい集中力だった。あのときの演奏はなかなか超えられないかもしれないです(笑)。自分でも「すごいことになってんな」ってやりながら思ってたし。
──そこを超える、その先を感じたい、というのがGONTITIを続ける動機になっていたりするんでしょうか?
三上 どうでしょうね? あのときは純粋に音楽の楽しさだけでやってましたから。出会ったときの本当のコアな喜びというか、音楽に対する喜びですよね。
松村 でもそれは、今日練習してたときの「癒された」みたいな感じと似てるかもしれない。2人でやって、純粋に音楽の中に入ってる感じですよ。それが好きなんかもしれない。
三上 ラジオから流れていて、さっきまで「たいしたことない音楽で退屈やな」と思って聴いてた曲が、急にものすごく輝いたりするんですよ。その瞬間こそが音楽ですよね。今日の練習のときも、そういう瞬間が来ましたからね。それはやっぱり音楽ならではですよ。
- GONTITI「『we are here』-40 years have passed and we are here-」
- 2018年12月19日発売 / ポニーキャニオン
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[CD] 3300円
PCCA-50305
- 収録曲
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- peperoncino
- beso lindo
- dreamboat
- late in summer
- Old Movie Theater
- Hustle and Bustle
- grassland
- Beyond the clouds
- Yellow Umbrella
- Showa café
- Don the Drill
- rainy love theme
- Tree Rings
- ライブ情報
- ゴンチチの年忘れinオキナワ2018
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- 2018年12月30日(日) 沖縄県 桜坂劇場 ホールA
※ゲストアーティスト:辻コースケ(Percussion)
- Daiwa Sakura Aid Presents
ゴンチチ 新春生音三昧 2019 -
- 2019年1月6日(日) 大阪府 いずみホール
- 2019年1月20日(日) 愛知県 電気文化会館 ザ・コンサートホール
- 2019年2月3日(日) 東京都 紀尾井ホール
※ゲストアーティスト:桑野聖(Violin) / 堀沢真己(Cello)
- ゴンチチ 新春生音三昧 2019
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- 2019年2月9日(日) 北海道 札幌コンサートホールKitara 小ホール
- 2019年2月17日(日) 宮城県 宮城野区文化センターパトナホール
- GONTITI(ゴンチチ)
- 1978年に結成された、ゴンザレス三上とチチ松村によるインストゥルメンタルアコースティックギターデュオ。1983年にCDデビュー。現在まで制作したアルバムは40枚を超え、10数枚のアルバムは全米、アジアほかでも発売されている。1992年には竹中直人監督・主演の映画「無能の人」のサウンドプロデュースを手掛け、日本アカデミー賞優秀音楽賞を受賞。以降も2004年カンヌ国際映画祭で史上最年少・最優秀男優賞を受賞した作品「誰も知らない」や2008年公開の映画「歩いても 歩いても」で音楽を担当している。2008年8月6日には結成30周年記念アルバム「VSOD -very special ordinary days-」、2010年には20年ぶりのクリスマスアルバムをリリースした。チチ松村はエッセイなど執筆活動にも定評があり、これまで14冊の著書を上梓。一方ゴンザレス三上もCDGやグラフィックデザインの分野で独自の活動を繰り広げている。2018年12月19日、約7年ぶりとなるオリジナルアルバム「『we are here』-40 years have passed and we are here-」をリリース。