ナタリー PowerPush - GOING UNDER GROUND

新生ゴーイング1stアルバム完成 松本素生が新作に込めた思い

洋一が辞めたときに青春が1回終わった感じはある

──アルバムタイトルもそうですけど、今回は曲名や歌詞の中に人名が多く登場します。そういうタイトルや歌詞ができたのには、何かきっかけがあったんですか?

単純に「僕」「僕ら」って一人称で進行する歌詞がウザイと思ったんですね。今まで「僕」「僕」って言いすぎたのかな。結局それは、自分の私小説をそのまま歌にする手法っていうのが自分の中で響かなかったってことだし、自分で響かないものをミュージシャンがやっても聴き手に響くわけないから。

──確かに。

あと、洋一が辞めたときに「終了でーす!」みたいなゴングが鳴らされて青春が1回終わった感じはありますよね。それから「僕ら」って使わなくなったな。

──「さよなら僕のハックルベリー」の歌詞は、その青春が終わる感じが強く出てますよね。

この曲は洋一と俺との関係を歌ってるんです。実は今年の正月に、2年ぶりぐらいに洋一と会ったんですね。ずっと連絡取ってなかったんですけど。俺は本当にこの2年間悔しかったんですよ。洋一が辞めたことに対してふざけんなっていう気持ちもあったし、そこがバネになってたところもあるんだけど、やっぱり許せなくてもう一生会うこともないだろうって思ってたんです。で、急に彼と会うことになったんですけど、人ってこんなにも変わらないのかっていうぐらいなんにも変わってなくて。彼もこの2年で子供ができて、しかも普通の仕事に就いて成長もしてるだろうと思ってたのに、まったく変わってなかったんです。相変わらず「俺、お前らみたいなヤクザの商売なんかもうしたくねえからさあ」みたいなこと言ってるわけですよ。そうやって話してたら、俺はなんでこいつに対して怒ってたのかなって急に思っちゃって。たぶん許せたっていうことなんでしょうね。

──そうだったんですね。

さっきの同世代感や同時代感って話にも通じるんだけど、30代になるとみんな急に学生時代の友達と集まる機会が増えたり、今までまったく誘われなかったクラス会にも声をかけられたりしませんか? で、同級生に会うと昔はスノボのインストラクターになるんだって言ってた奴が普通に肉屋で毎日働いてたり、子供が3人いるんだよねって言ってたりして。みんなやりたいことをやれてるわけじゃないのに、しっかり力強く生活してる。そんな彼らを見ていたら、俺のほうがやりたいことをやってるはずなのに、こいつらに全然追いつけてないって漠然と感じちゃったんです。地元の友達は趣味で車をカスタマイズして、そういう部分でバランスを取ってなんとか暮らしてるんだって。そういう人間の強い部分を見せつけられたら、俺なんてまだまだだなって急に恥ずかしくなっちゃったんですよね。

──なるほど。

で、洋一もそうやって生活してるんだってわかったら、彼についての歌を書きたいなって思うようになって。だから、「さよなら僕のハックルベリー」は降りてきたっていうわけじゃなくて、書こうと思って書いた歌なんです。具体的な気持ちっていうか、表現としてどうだろうっていう言葉もあったんだけど、そこを1回自分の中でなしにしてみようと思って本当になんにも飾らずに書いたら、こういう形になったんです。

「俺たち32歳になっても止められないんだぜ、バカだろ?」

──「さよなら僕のハックルベリー」はすごく個人的な思いを歌詞にしてるけど、特に30代以上の人が聴いたときに重なる部分が多いと思います。

そうですね。自分のやりたいことを諦めて誰かのために生きるとか、20歳のときにはわかんなかった感情だし、そんなことはあり得ないと思ってましたよ。でも、今はそうやってたくましく生きてる人から相当なエネルギーを感じる。逆に言うと、生きていく上でそういった障害をバネにしていかないとしょうがないっていう。それは今回の地震もそうだと思うし、みんなその障害を必死に乗り越えて、明日が来てほしいと思いながらがんばってるわけじゃないですか。そういう、嫌なことも肯定していくっていうことを今、GOING UNDER GROUNDとして歌っていきたいんです。友達が「それってブルースじゃん」って言ったけど、確かにブルースかもしれない。でも、そういう思いが込められたから、これからの10年もずっとやっていくっていう意思表明のアルバムにすることができたし。バンドとして本当に良かったなっていう気持ちでいっぱいですね。

──若いアーティストの中にもブルース的なことを歌ってる人たちはいますが、このアルバムは30代のGOING UNDER GROUNDだからこそ作ることができたアルバムだと思います。

「32歳にもなったおじさんがこれだけカラッカラに渇いて、音楽っていうものを毎日欲してる状況ってどうだい?」ってところを、若い世代に見せていきたいですね。「俺たち32歳になっても止められないんだぜ、バカだろ?」っていう。そこも含めて何か感じてもらえたらいいかな。でも、俺は20歳のときに先輩バンドを観て、そういうことを感じてましたよ。20歳のとき、the pillowsと初めて対バンしたら圧倒的に及ばなくて。何が及ばなかったのかなと考えたときに、「俺はこれ好きなんだよね、一生やりたいんだよね」っていう信念だって気付いて。その、あえて困難な道を進む貪欲な感じがカッコいいなと思って、俺もこれからそういう部分を見せていきたいですね。

──そういう信念は、実際にこのアルバムから強く感じます。

昨日珍しく増子さん(増子直純/怒髪天)に会うなり、このアルバムのことを褒められたのがすげえうれしくて。「ホントいいぞおまえら!」って。

──あはは(笑)。

そういうバンドマンの先輩から褒められるのってすごく励みになるんですよ。

初期の曲もいつだって演奏していけるなって再確認できた

──GOING UNDER GROUNDは今年メジャーデビュー10周年を迎えました。2月からのツアーでは初期のアルバムをテーマにした公演もあって、最近やってなかった曲もいろいろ演奏したんですよね。

音源になってる一番古い曲は10代後半に作った曲なんですけど、久しぶりにやってみて単純に今聴いてもすごく良い曲ばかりだなと思いましたね。

──例えば10代の頃に作った曲を32歳の素生さんが歌うことには、抵抗はないんですか?

全然ないですね。そこはテクニック論みたいなものに頼らずに曲を作ってきて良かったなって。自分たちで普遍的って言ったらちょっとおかしいんですけど、いつだってこの曲を演奏していけるなっていうのを再確認できて。それはバンドにとって本当に誇りだと思います。

──5月には2年ぶりの日比谷野音ライブも控えてますね。

俺の中では、今度の野音は2年前のリベンジですよ。前回は洋一が辞めるときで、もうクソみたいな気分でやってたし、観に来てくれた人たちに申し訳ないなっていう気持ちもあった。で、やっとバンドが元に戻った中で、今は「絶対に圧倒的なライブをやる、見てろコノヤロー!」っていう気持ちです。

GOING UNDER GROUND

ニューアルバム「稲川くん」 / 2011年4月27日発売 / 2800円(税込) / PONYCANYON / PCCA-03350

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CD収録曲
  1. Merry Christmas Mr.INAGAWA
  2. 名もなき夢 ~煩悩青年とワーキング・ママ~
  3. LISTEN TO THE STEREO!!
  4. 所帯持ちのロードムービー
  5. RAW LIFE
  6. ジョニーさん
  7. ベットタウンズ チャイム
  8. さよなら僕のハックルベリー
  9. 詩人にラブソングを
  10. LONG WAY TO GO
GOING UNDER GROUND 10th Anniversary Tour 2011 「Rollin' Rollin'」追加公演

2011年5月4日(水・祝)
東京都 日比谷野外大音楽堂
OPEN 16:30 / START 17:30
料金:前売3500円 / 当日4000円

GOING UNDER GROUND(ごーいんぐあんだーぐらうんど)

THE BLUE HEARTSに憧れて松本素生(Vo, G)、中澤寛規(G, Vo)、石原聡(B)伊藤洋一(Key)が集まって中学時代に結成。河野丈洋(Dr)が加わり、何度かのメンバーチェンジを経て、高校卒業時に5人体制となる。インディーズシーンでの活躍を経て、2001年にシングル「グラフティー」でメジャーデビュー。「ミラージュ」「トワイライト」「ハートビート」など、切なく爽やかメロディで幅広い支持を集める。2005年には「トゥモロウズ ソング」をNHK「みんなのうた」に提供し、新境地を開拓。2006年7月に初の日本武道館公演を行い大成功を収める。2007年初頭には彼らの楽曲が原案となった映画「ハミングライフ」が公開された。2009年4月に伊藤が脱退。以降はサポートメンバーを迎えた形でライブを行いつつ、松本や河野はソロ活動も積極的に行っている。2010年にポニーキャニオンへの移籍を発表。同年5月に新体制として初のシングル「LISTEN TO THE STEREO!!」をリリースした。メジャーデビュー10周年を迎えた2011年は、記念ツアー「GOING UNDER GROUND 10th Anniversary Tour 2011『Rollin' Rollin'』」を実施。4月に約2年ぶりのオリジナルアルバム「稲川くん」をリリース。