観る人によって解釈が違う「SUMMERDELICS」ツアー

──アルバム「SUMMERDELICS」をリリースしたあとに改めて感じたことはありましたか?

メンバーのやりたいことを明確にして、それぞれの立ち位置を世の中に伝えるのが一番難しい作業だったんだけど、それがちゃんと伝わった感じがありました。GLAYの中でもちょっと異色なアルバムだったけど、結果にスタッフ一同胸をなで下ろすと言うか。もちろんGLAYとして急に突然変異したわけではないし、出すべくして出した作品だけど、自分たちが狙った場所に球をちゃんと正しく投げられたことに対して「あ、これでよかったんだ」って。自分たちの信じて歩いてきた道の正しさが証明された気もするし。それにおごらず、次なるGLAY像を確立するためにもツアーをやってるところです。

──ええ。

GLAYって、友人のマキタスポーツさんに言わせると「親に紹介できるヴィジュアル系」っていうイメージらしいんだけど、今回のツアーの中では優等生的なGLAYのイメージしかない人にとってはちょっと異色な演出も出てきたりします。それはHISASHIのアイデアなんだけど、俺の中では不思議でもなんでもないし、あまり光が当たらなかったGLAYの一面に光が当てられただけなんです。でもそうやって違った印象を持ってもらえるなら、してやったりという気持ちでもあります。

──ツアーは映像をふんだんに盛り込んだ内容になっているそうで。

俺はライブに関してはギターを弾くことに専念したいので、あんまり口出してないんですけど、今回ほどほかのメンバーのアイデアが色濃く具体化されたステージはないんじゃないですかね。今まではわりと、みんなで意見を出してその間のベストなものをチョイスしてたけど、今回は間を取ったものがなくて、それぞれのこだわりが1曲1曲に出てる。それぞれ個別に作ってるから、ゲネプロまで観たことがない映像演出とかいっぱいありましたよ(笑)。

──そんなに個人個人で違うんですね。

そうそう。どんな演出であろうとも、メンバーそれぞれがGLAYをよりよくするために考えたことだと確信しているので、さほど心配はしてませんけど。「へー、こんなことができるんだ」とか「え、こんなところまで振り切っちゃうんだ」とか、そういうのを含めて「面白いなあ、楽しいなあ」っていうのがゲネプロでの印象でした。

──TAKUROさんが感じる大規模なアリーナ公演のツアーのだいご味とはどんなものですか?

TAKURO(G)

音楽以外のエンタテインメントの部分を強く打ち出せるところ。大会場でやる機会に恵まれているんだから、やっぱりアリーナはアリーナらしく、お客さんが会場に入ってステージを見た瞬間「おお!」って思ってもらえるようなものにしたいと思ってます。あとは長くやってきたGLAYの歴史があるからこそできる演出を意識すること。アリーナ会場であっても、お客さんとの心のやり取りをしていくことですね。すごい演出家の人を連れてきて一緒にやるとかじゃないんです。

──そうなんですね。

ライブが終わったあとにファンのアンケートを読んでるんですけど、「1回では内容を追いきれなかった」っていう意見があって。観る人によって解釈がそれぞれ違うのも面白い。今ってちょっと難しいことをやると、深く意味を考えることなく見送ってしまうような風潮を感じるんですよね。「これってどういうことなんだろう? 作者はどんな意図なんだろう?」って考えなくても、作品の中に答えが全部入ってるエンタテインメントが多い気がするんです。

──わかりやすさが重要?

そうですね。でも「ちょっとわかりづらいんじゃないの?」っていう演出に対して、HISASHIは「これはちゃんと考えてて、このあとのいろいろなGLAYのライブを観ることで答えに行き着くはずだからこれはこのままでいいです。これ以上シンプルにする必要はありません」ってよくメンバーに言うんだよね。彼の書く歌詞も、決して1回読んだだけで理解できるような歌詞ではないけれども、ちゃんと意味がある。例えば、抽象画とか人によって解釈が違うじゃないですか。

──確かにそうですね。

今回は観る人によって感じることが違う、そういう面が表現されたツアーですね。それと昔は食べられなかったものが、大人になってから食べられるようになることってあるでしょ? そういうふうに、曲の解釈も世代ごと、時代ごとに変わっていいと思うんです。小学生の頃に「HOWEVER」を聴いたときの印象と、例えば不倫とかを経験した二十代、家庭を持ったあとの三十代に聴くのはそれぞれ印象が違う。それがGLAYの音楽の面白さなんじゃないかなとも思ってる。

──4カ月におよぶツアーの合間に、TAKUROさんはソロツアーも開催されますね。どう切り替えているんでしょうか?

特にしてないし、切り替える必要がないと思ってます。ソロツアーのほうはアドリブが多いので、そのときに感じた空気感でプレイしてる感じだし。体力的にはしんどい部分は確かにあるけど(笑)、何事にも代えがたいものが得られるんですよ。これまで僕の場合は、自分のシグネイチャートーンは1年に1回出せるか出せないかだったのが、ソロツアーをやったら一晩で何回か出るようになって、それがコントロールできるようにもなった。それをすぐGLAYのアリーナツアーで披露できるわけだから楽しいですよね。

TAKURO(G)

世の中を知った今だから出せる「あなたといきてゆく」

──今回リリースされるシングルのリード曲「あなたといきてゆく」は、前回のインタビュー時に「『SUMMERDELICS』に入れるにはトーンが違う」っておっしゃってた曲ですよね。

ええ。聴いていただければ、ご理解いただけると思うんですけど。

──はい(笑)。ひさしぶりのバラードシングルですね。

そうなりますかね。曲のモチーフ自体は20年近くたゆたっていたんですよ。でもモチーフが浮かんだ当時は二十代で、あんまりこの曲の中で歌われている結婚とか家族愛が、自分たちにとってリアリティがなかったんで。しかも最初は「あなたと私」の歌だったのが、どんどん主人公も変わって、登場人物も増えて……そういうことを含めて2017年まで待つ必要があったんでしょうね、きっと。それとここ何年間か“TAKUROメロディ”を忘れてもらって、才能のあるほかのメンバーをピックアップして世の中に広げていくという目標があったから、王道のメロディのバラードを出していくことが得策とは思えなかったしね。いまだに「HOWEVER」の影響は大きいし、「Winter,again」の存在はデカいし、それがGLAYのイメージだとするならば、それは自分の1つの功罪だと思うので。ある意味そこと決別しないと、この先20年、30年やれないだろうなっていう。テレビに出ていつまでも「HOWEVER」ばっかり歌ってるようなバンドになりたくないと思ってたので。

──だけど「SUMMERDELICS」を出して目標を達することができたと。

そこで満を持したっていう気持ちはありますね。

──そして歌詞やサウンドを考えると夏ではなく……。

人恋しくなる今のほうが合うでしょうね。ま、「SUMMERDELICS」を出してから「やべえな、あんまりHISASHI色出してたらやりづらいな」って思った俺が、「GLAYはこっちでーす」っていう旗を振り出したという部分もありますけどね。

──それは嘘ですよね(笑)。

はい(笑)。

──「あなたといきてゆく」の歌詞世界は「ずっと2人で…」の続編を匂わせるような内容ですが実際にはどうなんですか?

TAKURO(G)

「ずっと2人で…」は、TERUの姉ちゃんの結婚式で披露するために、TERUの姉ちゃんに向けて書いたっていうエピソードがあって。うまいメシを食うために書いた、俺の初のタイアップ曲なんですよ。じゃあ「あなたといきてゆく」がTERUの姉ちゃんの家族の曲なのかと言ったら違うかな。ただ今の俺には間違いなく「ずっと2人で…」のような、世の中を知らない17歳が書くような曲は書けないし、「あなたといきてゆく」は世の中を知った今だから出せる曲だとは思います。

──でも歌詞には実際に体験してきたこと、見てきたものが反映されている?

そうですね。「ずっと2人で…」を作ったあとに感じた悲しみ、喜び、出会った人との出来事が反映されているので、そういう意味では自分の人生を映した作品であるとは言えます。1つ言えるのは、この曲を聴いた人たちが幸せな気持ちになってほしいっていう願いがあるということ。音楽家なら誰しもそうだと思うんですが、自分の作品によってこの世の中が少しでもよくなってほしいし、誰かの人生を豊かにするものであってほしい。その思いは「ずっと2人で…」を作ったときから変わらないです。

──歌詞はどの段階で完成したんですか?

TERUが歌ってる最中も調整してたので、完成したのはTERUの歌入れが終わったときと同時と言えるかも。歌モノの曲はボーカリストのものだから、TERUのクセとか、二十代とは違う円熟味が出るように意識しながら調整してました。

──過去のバージョンに比べて一番変わったところは?

最後の「あなたといきてゆく」は、歌詞もメロディも変わりましたね。それもこれもTERUの声を生かすためです。俺の作家としての仕事は誰が歌ってもいい曲を作ることだと思うんですけど、今までいろんな人に曲を提供してきて、やはりTERUほどの親和性はないっていうのを自覚してるんです。ある意味、TERUの専用作家みたいなところあるんじゃないですかね。分析できない部分が多すぎて、そのメソッドはほかに応用してもうまくいかないけど(笑)。

──アレンジはどうやって作っていったんですか?

俺がスタジオでギターを弾きながら亀田さんの前で歌った音をもとに、ドラムやギターの音を加えて、みたいな感じでした。この曲に関してはわりとフォーク的な匂いが強いので、「あんまり奇抜な音を入れるのではなく、長く聴かれるいいアレンジを目指しましょう」という話をして。亀田さんには全体的なアレンジと、ストリングスのさじ加減を調整してもらってます。

──レコーディングはスムーズでしたか?

秒殺でしたね。こういう“ザ・TAKURO節”に関しては、メンバーは目をつむっても弾けるんじゃないですかね(笑)。JIROとか3テイクも録ってないと思いますよ。

──そういう定番の音を今はてらいもなくちゃんと出せる状態だと。

「この曲、前の何かと似てるよね」とか、「この曲って今新しいんじゃない」とかっていう議論はほぼないんですよ。言うなれば今しかパッケージできないものを意識して、それぞれができる最大の仕事をするのが大事なんです。

TAKURO(G)

2018年は根回しの1年に

──2018年のGLAYの展望を教えていただけますか?

2019年がGLAYのデビュー25周年なので、何かしら大きなことをやるのであれば準備しなきゃならないんですよね。2018年はその助走期間になるかな。周年になるとファンの人たちがGLAYのことをお祝いしてくれるので、その思いに応えられるような動きができればと思ってます。会場の問題とかいろんな壁はあるんだけど、それを1つずつ乗り越えてみんなに「よくがんばったね、25年も」っていうふうに言ってもらえるような活動ができればいいですね。

──25周年に向けての1年だと。

そうですね。根回しの1年ですよ。

──最後にお聞きしたいのですが、TAKUROさんがハマっているものって何かありますか?

今は葛飾北斎。今まで彼の絵を目にしたことはあったけれども、改めてその新しさみたいなものを発見して。ものすごい感銘を受けて、写真集を買ったり、調べたり。何が一番面白いって、彼は150年前の東京の景色を描いているんですよね。例えば日本橋とか。だからその絵を観ながら、実際の場所に足を運んで景色と絵を見比べてみたり。

──それは興味深いですね。

あと何が感動したかって言うと、北斎が死ぬときに「天我をして十年の命を長らわしめば、天我をして五年の命を保たしめば 真正の画工となるを得べし」って、「あと10年、いや5年でも寿命が伸びれば本当の絵が描けたのに」って言ったことなんです。その言葉に俺はギターに対してのモチベーションを掻き立てられたと言うか。北斎のようなレベルにはたどり着けないかもしれないけど、80になってもうまくなりたいっていう思いを持ってギターを弾くことはできるかもしれない。北斎のような生き方をしたいと思いますね。

GLAY「WINTERDELICS.EP~あなたといきてゆく~」
2017年11月22日発売 / LSG
GLAY「WINTERDELICS.EP~あなたといきてゆく~」CD+DVD盤

[CD+DVD]
2160円 / PCCN-00029

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GLAY「WINTERDELICS.EP~あなたといきてゆく~」CD盤

[CD]
1296円 / PCCN-00030

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CD収録曲
  1. あなたといきてゆく
  2. 時計(再録)
  3. Satellite of love(再録)
  4. Joker(LIVE from VISUAL JAPAN SUMMIT 2016)
  5. 「SUMMERDELICS」reprise
DVD収録内容
  • あなたといきてゆく MUSIC VIDEO
  • シン・ゾンビ MUSIC VIDEO
  • XYZ MUSIC VIDEO
  • SUMMERDELICS MUSIC VIDEO
  • あなたといきてゆく(LIVE from Never Ending Supernova 17.5.15 市川市文化会館)
  • BE WITH YOU(LIVE from Never Ending Supernova 17.5.15 市川市文化会館)
  • the other end of the globe(LIVE from TOKYO SUMMERDELICS 17.7.31 お台場)
  • HOWEVER(LIVE from TOKYO SUMMERDELICS 17.7.31 お台場)
GLAY(グレイ)
GLAY
北海道函館市出身の4人組ロックバンド。TAKURO(G)とTERU(Vo)を中心に1988年から活動を開始し、1989年にHISASHI(G)が、1992年にJIRO(B)が加入して現在の体制となった。1994年にシングル「RAIN」でメジャーデビュー。1996年にはシングル「グロリアス」「BELOVED」が立て続けにヒットし、1997年に「HOWEVER」がミリオンセールスを記録したことでトップバンドの仲間入りを果たす。1999年7月には千葉・幕張メッセ駐車場特設会場にて20万人を動員するライブ「MAKUHARI MESSE 10TH ANNIVERSARY GLAY EXPO '99 SURVIVAL」を開催し、有料の単独ライブとしては世界最多観客動員を記録する。2000年に入ってからも数多くのヒット曲やヒットアルバムを生み出し、2010年6月には自主レーベル「loversoul music & associates」(現:LSG)を設立。メジャーデビュー20周年となる2014年は、9月に宮城・ひとめぼれスタジアム宮城にて単独ライブ「GLAY EXPO 2014 TOHOKU」を行い、11月にオリジナルアルバム「MUSIC LIFE」をリリースした。2015年には5月に10年ぶりとなる東京・東京ドーム公演を2日間にわたって開催。2016年1月にシングル「G4・IV」を発表し、同月より全国ツアー「GLAY HIGHCOMMUNICATIONS TOUR 2016 "Supernova"」を開催した。2017年7月に2年半ぶりとなるニューアルバム「SUMMERDELICS」をリリース。9月末から「GLAY ARENA TOUR 2017“SUMMERDELICS”」と題した全国ツアーを開催している。11月にニューシングル「WINTERDELICS.EP~あなたといきてゆく~」を発表。2018年3月17日に台湾・Taipei Arenaにてライブを行う。

2020年8月24日更新