ナタリー PowerPush - 銀杏BOYZ
峯田和伸×宮藤官九郎対談
中島みゆきのカラオケ効果
宮藤 ほんと自由な発想で作ってますよね。あと今回、歌がめちゃめちゃよかったです。本人を目の前にして言うのもあれですけど、歌手としてすごく挑戦してる感じがして。似たような歌い方をしてる曲が1曲もないなって思いながら聴いてました。
峯田 うれしいです。僕、喉を1回つぶしたことがあって。
宮藤 え、これを作ってる間に?
峯田 はい。すごい扁桃腺が腫れてるときに無理して歌ったライブがあったんですよ。それで声帯をちょっと切っちゃって。手術はしてないんですけど、しばらく歌えない時期があったんですよね。そのときに初めて、歌い方を変えてみようかなって思ったんです。
宮藤 ああ、「愛の裂けめ」とかだいぶ違いますよね。
峯田 昔はがなるだけだったんですけど、もっと朗々と歌いたいなと思って。その歌い方でやってみたら喉もそんなに傷めないし自信がついた。やっと歌手になれたって思いましたね。今回のアルバムに入ってるのは全部喉がよくなってから歌入れしたやつですね。宮藤さん、普段カラオケとか行きます?
宮藤 行かないです。行くの?
峯田 僕1人でよく行きます。
宮藤 マジで?(笑) 何歌うの? カラオケで。
峯田 ちあきなおみと中島みゆきと長渕剛と……。自分の歌い方と似てるんですよね。歌ってて楽なんです。ミスチルとかは全然歌い方が合わない(笑)。
宮藤 あはは(笑)。聴きたいですけどね。
峯田 でもそうやってカラオケで歌ってるのが練習になってて、あるとき中島みゆきさんの曲を歌ってたら「あ、こういう歌い方すればもっと出るんだな」っていうのに気付いたんですよ。
宮藤 面白いなあ。歌の印象が前のアルバムと全然違いますもんね。
峯田 カラオケ効果ですね。
寒い地方の人が作るもの
峯田 なかなかタイミングなくて言えなかったんですけど、宮藤さんの「中学生円山」(2013年公開の映画)すっごい面白かったです。
宮藤 あ、ありがとうございます(笑)。
峯田 中学生っぽい下ネタみたいのも生活の一部として入ってるんですけど、なんていうんだろうな。なんかすごい乾いてるとこが面白かったです。「ジー……」ってちょっと薄いノイズが貼ってあるような。
宮藤 そこはやっぱり自分の持ち味が出ちゃってる部分だと思いますね。たぶん同じテーマでほかの人が作ったら全然違うものになるから。やっぱりカラッとさせたいっていうのはあるんですよね。
峯田 ちょうど最近「ゴリラーマン」を読んでたんですよ。そしたらすごく近いなと思って。ギャグマンガなんですけど乾いてる気がして。
宮藤 後半どんどんシリアスになっていくとこも今読むと面白いですよね。
峯田 暗くて、切なさもあるんだけど、でもやっぱり笑えるところもちゃんとあって。そこのギャップが面白かったんですよね。それは宮藤さんとハロルド先生の世代の共通点なのかもしれないけど。
宮藤 いやいや、ありがとうございます。
峯田 俺も宮藤さんも東北生まれで、なんか近いというか、東北人特有の何かがあるのかもしれないっていうのも思います。
宮藤 ああ、(遠藤)ミチロウさんとかにもそれは感じるんですけど、表現があんなにむき出しなのに、人は全然静かだったりするじゃないですか。東北の人って同じパンクでも違いますもんね。なんとなくね。
峯田 味付けがしょっぱいというか、濃いような気がしますね。
宮藤 大友(良英)さんも福島だけど、東北の人ってお国自慢しないんですよね。むしろ地元のダメなところばっかり言って「なんにもないしどうしようもない田舎でしょ」みたいな。本当にそう思ってるわけじゃないのに。俺、東北の人のそういうとこがすごい好きなんですけど。
峯田 そうですね。
宮藤 震災以来、ホントに同情されちゃうからやっぱりそういうの言いづらくなっちゃって。でも「あまちゃん」はそれを思いっきり言えたというか。あのね、震災直後に俺の友達が芝居観に来て、それに宮崎あおいさんが出演してたんですけど、そいつ「ちょっと被災地から来たんでサインください」つったの(笑)。
峯田 あはは(笑)。
宮藤 それ自分で言うのカッコいいなって思って。そんな切り札出されたらもう断れないじゃないですか(笑)。その、転んでもただじゃ起きない感じは好きなんですよね。
峯田 うん、僕の地元の友達とかに会っても、俺らは俺らでやってるからほっといてくれ、みたいなところもあるし。そういうのに勇気付けられるというか。心強いっていうのはありますね。
宮藤 そういう感じは峯田くんからも感じるし、銀杏BOYZの作品からも感じますね。あ、寒い地方の人が作ってるんだなって。
収録曲
- 17才
- 金輪際
- 愛してるってゆってよね
- I DON'T WANNA DIE FOREVER
- 愛の裂けめ
- 新訳 銀河鉄道の夜
- 光
- ボーイズ・オン・ザ・ラン
- ぽあだむ
- 僕たちは世界を変えることができない
収録曲
- はじまり
- 十七歳
- SKOOL KILL
- 日本発狂
- 若者たち
- 駆け抜けて性春
- 漂流教室
- BABY BABY
- べろちゅー
- 人間
- 東京終曲
- まだ見ぬ明日に
銀杏BOYZ(ぎんなんぼーいず)
2003年1月、GOING STEADYを突然解散させた峯田和伸(Vo, G)が、当初ソロ名義で「銀杏BOYZ」を始動させる。のちに同じくGOING STEADYの安孫子真哉(B)、村井守(Dr)と、新メンバーのチン中村(G)を加え、2003年5月から本格的にバンドとしての活動を開始。2005年1月にアルバム「君と僕の第三次世界大戦的恋愛革命」と「DOOR」を2枚同時発売し、続くツアーやフェス出演では骨折、延期、逮捕など多くの事件を巻き起こす。2007年からはDVD「僕たちは世界を変えることができない」や「あいどんわなだい」「光」といったシングル作品をリリースし、2011年夏のツアーを最後にライブ活動を休止。しばしの沈黙を経て2014年1月に約9年ぶりとなるニューアルバム「光のなかに立っていてね」とライブリミックスアルバム「BEACH」を2枚同時リリースした。チン、安孫子、村井はアルバムの完成に前後してバンドを脱退しており、現在は峯田1人で活動を行っている。
宮藤官九郎(くどうかんくろう)
1970年宮城県生まれ。1991年より大人計画に参加し、多くの作品の脚本、演出などを手がける。1995年からはパンクコントバンド・グループ魂を結成し「暴動」名義でギタリストとして活躍するほか作詞作曲も担当。俳優としてさまざまな作品に出演するほか、ドラマや映画の脚本・監督も数多く手がけており、最近の作品としては、映画「中学生円山」(監督・脚本)、「謝罪の王様」(脚本)、「土竜の唄」(脚本)などがある。2013年に脚本を担当したNHK連続テレビ小説「あまちゃん」は国民的ヒット作として話題を集めた。