ゲスの極み乙女。|混沌の時代に一層ゲスらしく

エンジニアたちと作り上げたバンドにとって理想の曲の形

──アルバムには複数のエンジニアが参加していて、中でも今回ゲスの作品に初めて参加している高山徹さんが12曲中6曲を手がけているのはポイントかなと。高山さんを起用した理由を教えてください。

スピッツの自伝(「旅の途中」)を何回も読み直してたんですけど、スピッツは初期に高山さんと一緒にやっていて。そこから音の追求が激しくなっていって、海外レコーディングを試したり、亀田(誠治)さんと一緒にやったり、いろんなことがあって、でもまた高山さんに頼みたいとメンバーが言うシーンがあるんです。それで改めて高山さんが関わった作品を聴いてみたら、すごく有機的だと思ったんですよね。Corneliusも好きだし、くるりともやっていて、緻密な音作りをするバンドの制作に携わっているんです。それで、インディゴの「チューリップ」(2020年2月配信のシングル)で初めて高山さんにお願いして、今回ゲスでもお願いしました。

──高山さんも含めて5人のエンジニアが参加していて、いろんなタイミングで結果的にそうなった部分もあるとは思うけど、それだけ音にこだわった作品だということですよね。

昔は自分の耳が悪かったのかなと思うんですよね(笑)。最近は成長したというか、曲を聴いていてめちゃくちゃいろんなことに気付くようになって、すごい耳が敏感になってきたなと。インディゴで井上うにさんにやってもらったときにそれに気付いたんですよ。今ではエンジニアもメンバーみたいなものだと思っています。昔はなんとなくいいなと思って聴いていたものが、実は“音のよさ”だったとわかったというか。それでいろいろこだわるようになりました。

──高山さんとはどんなやりとりがありましたか?

高山さんは音の組み立てが早くて、具体的に説明しなくてもすごくいい音で録ってくれて。今回は参考音源をいろいろ送って、ドラムの音とか決めていったんですけど、毎回高山さんから上がってくるたびにすごくいい音になって返ってきて。2Dだった音を高山さんが3Dにしてくれたみたいな……すごく立体的になるんですよね。あとは歌の処理も素晴らしくて。インディゴの「チューリップ」は歌がしっかり前にあるのに、楽器もちゃんと聴こえてきて、それってバンドにとって理想の曲だと思うんですよね。

──J-POP的な、歌だけ前に出る感じではないってことですよね。

そう。インディゴもゲスもなんですけど、僕らのアレンジは歌を目立たせようとするアレンジではないというか、場合によっては歌の邪魔をしようとするんで(笑)。でも高山さんのミックスで聴くと、こうあるべきアレンジだったなと納得させられるというか。Corneliusも歌がすごい独特じゃないですか。

──まあ、Corneliusは楽曲の骨格自体が独特ですしね。

楽曲の骨格も歌も独特だからCorneliusの曲のミックスはめちゃくちゃ時間かかるって高山さんが言っていましたね。小山田さんとのやり取りもすごく長いみたいで、それに比べると僕らは短かったみたいで、「もう終わってもいいの?」みたいに言われて。高山さんはものすごくこだわる人たちとばっかりやってるって言っていました(笑)。

ゲスの極み乙女。

今ならもう1回
「ゲスの極み乙女。はこういうバンドです」と言える

──具体的な曲について聞くと、まず去年の年末に出た「キラーボールをもう一度」がタイトルを含めて非常に印象的でした。

ライブを想像して曲を作ることはあんまりないんですけど、「キラーボールをもう一度」に関しては、Coldplayのクリス・マーティンが十字型の道で寝そべって歌ってるライブ映像があって、キメのところでバーッと走ってメンバーのところに戻るのを見て「これだ!」と思ったのでその姿をイメージして作りました。ゲスの極み乙女。のSpotifyの再生回数が一番多いのが「私以外私じゃないの」で、2番目が「キラーボール」なんですけど、「キラーボール」は今聴くとどうしても音が気になるから、録り直したいとずっと思ってたんですよね。でも「そのまま録り直すのもな……」と思ったときに「キラーボール」はライブで一番盛り上がる曲だから、さっき話したColdplayのライブを思い浮かべて、「これを再構築しよう」と思って。それで管楽器が鳴っているのを想像して作ったんですけど……まあ、一番はなめられたくないっていうのが大きかったですね。

──というと?

音に対してすごく敏感になったので、早く更新したいというか、いい音で録りたいなって。この曲を作ってるときに、坂本真綾さんのアルバムに参加させてもらったんです。そのときのエンジニアが高須寛光さんだったんですけど、ひさびさに新しいエンジニアさんに録ってもらってすごくよかったので「キラーボールをもう一度」も高須さんにお願いしました。あとは、ゲスの極み乙女。をもう一度ちゃんとした形で提示したいっていうのもあったから「もう一度」というワードが出てきて、次のツアーのタイトルも「ゲスの極み乙女。をもう一度」にして、リンクさせようっていう。今ならもう1回「ゲスの極み乙女。はこういうバンドです」と言える気がしたんですよね。

──それは何か理由があったのでしょうか?

これまでもずっとそういう気持ちで作ってはいて、「好きなら問わない」(2018年8月発売のアルバム)はその最たるものだったと思うんです。でも「そうじゃない」という気持ちもあったというか、殻に閉じこもってた部分もあった気がして、ちゃんと大衆に提示できる音楽じゃないとダメだなと改めて思ったんです。インディゴも「PULSATE」(2018年7月発売のアルバム)は閉じた作品を作っちゃったなという反省があって。でもああいう時期があったから「濡れゆく私小説」(2019年10月発売のアルバム)ができたんだと思うし、あのアルバムはすごくいいアルバムだった。だからこそゲスでも何かできるはずだと思って。

──ジェニーハイやichikoroなどの活動も含めてさまざまな形でアウトプットを続けてきたことによって、いろんな層の人が「やっぱり川谷絵音の作る曲は面白い」と再認識して、今は音楽家としてフラットなポジションに戻ってきたというか。そんな中でインディゴの評価も上がってきて、ゲスに対しても「もう一度」という思いが強くなってきたのかなと思いました。

“再提示”みたいな意味で言うと、ジェニーハイの活動はけっこうデカかったですね。前はいろんなことをやることに対して「1個に集中したほうがいい」とかいろいろ言われたけど、それは古い考え方っていうか、いっぱい作れない人の話なんですよね。

──今日の話で言うと“ストリーミング以前”の考え方っていうか。

はい。前にワーナーの方に「川谷くんはライブラリが多いから、時代にハマってきてるね」と言われて、そのときはあんまりピンと来てなかったんですけど、今になってそうだなと思うようになりました。だからさっき言った通り、こういう状況で今みんないろんなことを考えていると思うけれど、僕は今までやってきたことがハマってきてるから、このままでもいいというか、自分の中で新しくしていけばいいなって。

──「私以外も私」に関しては「キラーボールをもう一度」のあとに作ったんですか?

そうですね。「キラーボール」を作り変えて、「私以外私じゃないの」をやらない手はないというか、今の自分たちで作って高山さんに録ってもらったら、絶対いいものになるだろうと。「私以外私じゃないの」は言葉自体が強いんですよね。「キラーボール」もこの言葉があるだけですごくいいメロディが浮かんだんですけど、「私以外も私」もワード先行ですぐいいメロディが浮かんで、最初にスタジオで歌ったものからほとんど変わらず今のメロディになった。僕の場合はワードが決まってるとすごくやりやすいんです。

──じゃあ、サンプリングじゃないけど、今後も過去曲からワードを拝借してくるパターンがあるかもしれませんね。

それに頼るのも……(笑)。あとは「ロマンスがありあまる」をやるかやらないかかな。

──あと1曲だったら3部作的な感じになりますね。

まあ、人選のセンス(ゲスの極み乙女。のライバルバンド)でもう「私以外私じゃないの2」をやってるんですけどね(笑)。

再び時代とリンクするモードに

──リード曲になっている1曲目の「人生の針」についても話を聞かせてください。アレンジもメロディも歌詞もバッチリハマっていて、1曲目に相応しい曲だなと。

アルバム制作の後半、今年に入ってから作った曲です。アルバムに何が足りないかなと考えたときに、ちょっと華が足りないかなと思ったんですよ。ゲスのいい部分はやっぱり派手さだと思うんで、パーッと開ける曲が必要だなって。それまでは「私以外も私」を1曲目にしようと思っていて、イントロもそういうイメージだったんですけど、過去に捉われてるように見られるのも嫌だったので。

──確かに、そう見えてしまうかも。

あと今回のアルバムは、音に隙間があって、海外のブラックミュージックとかヒップホップっぽさがありつつ、和洋折衷じゃないけどちゃんと日本らしさ持ち合わせた作品にしたかったので、そのいい塩梅をずっと探していて。で、「人生の針」のメロディができたときにみんなの前で歌ったら「これがリードでしょ」って意見が一致したんですよね。

──ストリングスの派手さがありつつ、決して簡単ではないけど、すごくキャッチーなメロディも絶妙だなと。

米津(玄師)の「海の幽霊」(2019年6月に配信された映画「海獣の子供」の主題歌)って、フランク・オーシャンの曲みたいに声が加工されてたり、メロディがめちゃめちゃ複雑じゃないですか。ああいうのが日本のチャートでトップになるなんて、米津にしかできないと思っていたところに、今度はKing Gnuがものすごく複雑なメロディの曲をヒットさせていて、日本のみんなの耳もちょっと変わってきたかなと思って。もともとゲスは複雑なメロディが多かったし、今なら昔より土壌ができていると思ったから「人生の針」も攻めるところは攻めた曲にしました。

──「人生の針」は歌詞もいいですよね。「わかりあえるはずなのに / あなたは一歩も引かない」「わかりあえる日が来るか / あなたに問うまで走るか」といった箇所からは、現代におけるあらゆる分断を見つめつつ、あきらめるのではなく、その先を見据えるような視点が感じられるのがいいなって。

歌詞に関しては特に時代性とかは考えてなくて、そのとき思ったことをそのまま書きました。でも今、また足の引っ張り合いが世界全体で起こっている気がするから、そういう中で刺さる人には刺さるんじゃないかと思います。

──そこも自然とピントが合ってきてるってことかもしれないですね。

そうですね。2015年くらいの自分たちの活動では何かをするたびに「これはうまくいくだろうな」みたいなものが肌で感じられたんです。当時リリースした「私以外私じゃないの」「ロマンスがありあまる」「オトナチック」とかなんかは社会のムードと勝手に合っちゃったというか。

──「私以外私じゃないの」がマイナンバー制度とリンクしたりとか。

そうそう。しばらくそういうところとは疎遠になってたんですけど、今またそのモードに入りつつあるというか。僕は絶対またそういう時期が来ると信じて3年くらいやってきて、ただただあがいてるように見えてた人もいるかもしれないけど、これまでやってきたことが徐々に実を結びつつあると思うんですよね。そういう中でゲスの極み乙女。として、メンバーみんながちゃんと納得するアルバムを作れたのはすごくデカかったと思います。