GADOROインタビュー|夢の武道館を終えて進む第2章、見せたいのは"生身のまま這い上がる姿" (3/3)

GADOROのルーツ:般若とばあちゃん

──リード曲として発表された「RUNNER」には般若さんが参加しています。かつて「U love song」(2020年発表)でも共演していますが、今回は当時と違った意気込みがありましたか?

サプライズで新曲をもう1曲、武道館で歌いたいなと思ったんです。それには、俺がラップするきっかけになった人である般若さんしかおらん、と思って。武道館の3週間前くらいに「やりたいです」って連絡しました。般若さんはそのとき、「警視庁麻薬取締課 MOGURA」(般若が主演を務めたABEMAの連続ドラマ)とかでめちゃくちゃ忙しかった時期だったんですよ。そんなときにオファーしたから、般若さんに「お前、ヤバいな」って笑われたんですけど、やってくれました。「U love song」のときと比べたら、俺自身、進化していて全然ヤバい状態だし、あの曲を塗り替えたと思います。

──共演といえば、おばあちゃんについて歌った紅桜さんとの「もういちど」は泣けました。これまで「カタツムリ」などで亡くなったおばあちゃんについては歌っていらっしゃいますよね。

トラックをもらったときに、パッと浮かんだのが紅桜さんのメロディだったんです。こんなこと今までになかったんですけど、「紅桜さんやったらこう歌いそうやな」ってすぐに浮かんできた。それで、実際に電話してオファーして、紅桜さんの地元の岡山に行ってレコーディングしました。岡山に着いたとき、けっこう腹が減ってたんですけど、紅桜さんに「クレープ食べいくか?」って言われて。「腹が減ってるときに、クレープか……」と思ったんですけど、強く言えなかった。

──(笑)。

それでクレープを食べて腹が減ったまま、紅桜さん家に行って。「酒飲むか?」って言われて、焼酎の二階堂があったので、それを「水割りで」とお願いしたんです。冷蔵庫の中がチラッと見えたときに、絶対ミネラルウォーターがあったんですけど、紅桜さんは水道水で割ってくれて「飲め!」と……。

──空腹クレープからの水道水二階堂。

さすがでした。

──最初から曲のテーマも決めていた?

はい。紅桜さんに「おばあちゃんの歌にしたい」と。俺のラップだけだと、ばあちゃんからは「ラップなんかわからん」と言われそうですけど、そこに紅桜さんのメロディが入ると演歌や歌謡曲っぽい感じになるので、天国のばあちゃんも聴いてくれそうやな、と。昔から「カタツムリ」とか「最期の詩」でばあちゃんのことは歌ってますけど、俺のことを独立してから知った人たちは、俺のルーツにばあちゃんがある、ということを知らないんじゃないかなと思って、GADOROのグッズのタオルにもカタツムリの絵を描いているんです。それも丸まった背中がカタツムリっぽいばあちゃんの姿から来ているんですよね。「最期の詩」と言っていたけど、もう一度歌いたいなという思いがあったんです。

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──歌詞の中には具体的に「おばあちゃん」という単語は出てこないのですが、最後に、紅桜さんがポロッとこぼすように「「いつまでも心の中に居てよおばあちゃん」と歌っていらっしゃいます。そこでグッと涙が出そうになる。

めっちゃわかるっす! エグいですよね。しかもあそこの部分、もともとのリリックにはなくて即興でやってるんですよ。フリースタイルであのリリックが出てきた。そもそも、最初のサビでは「おばあちゃん、おばあちゃん」と歌っていたんですけど、「紅さん、もう1回別のサビをいいですか」と勇気を振り絞ってお願いしたんです。そこでもう1回、岡山に行って作り直したのが今のサビです。

街裏ぴんくと“死ぬほど韻が硬くて、ユニークなラッパー”

──アルバムの流れで言うと、後半、グッとエモーショナルになったところで「自遊空間」のリミックスが入ってきて、一気に流れを変えてきますよね。

これまでのアルバムの流れだと、「もういちど」みたいな曲のまま、しんみりな感じで終わっていたんです。でも、それだと湿っぽいなと思って。ここで「自遊空間 Remix」をブチ込んで、最後に「よかったね~」と終わる流れにしたかった。

──リミックスのアイデアはもとからあったものですか?

アルバムを作っている後半に「リミックスを作ろうか」ということになって。別に、もとから「リミックスを作ろう」と話していたわけでもないんです。いざ作ることになって「誰を呼ぼうか?」と話したときに、街裏ぴんくさんは原曲のミュージックビデオに出てもらったんですけど、「そんな街裏ぴんくさんがほんまにラップしてたら面白くない?」という話になって。

──街裏ぴんくさんに加えて、FORKさんとポチョムキンさんも参加しています。

リミックスでは3名のラッパーに出てもらって「トリプル!」という感じに仕上げたかったんです。「死ぬほど韻が硬くて、ユニークなラッパーって誰だ?」と考えたときに、すぐに頭に浮かんだのがFORKさんとポチョムキンさんだった。結果、イメージ通りの仕上がりになりましたね。今回、フィーチャリングの人たちがマジでカマしてくれてるんです。今まで、フィーチャリングの人を呼ぶときって“戦い”だと思っていたんです。どっちがヤバいヴァースを書けるか、みたいな。でも今回は本当にわーっと俺がやりたいようにやったリリックのケツを拭いてくれるようなサビを歌ってくれたり、その人がおるおかげで、ウン10倍も曲がよくなったりとか。戦ったというより、「本当にお世話になりました!」という。

これからも作り続けるし、現状に満足しない、調子に乗らない

──先ほども「独立した」という話が少し出ましたが、このトピックについても教えてください。2022年にご自身のレーベルであるFour Mud Arrowsを立ち上げています。ミニマムなチームのまま武道館公演を達成して、コンスタントにアルバムもリリースしている。実際に走り始めて、手応えはどうですか?

やっぱり、いいですね。チームで真剣になって取り組める。独立する前と比べても楽しいし、いいです。みんな、俺のリリックや音楽、制作をベースに考えてくれるので、俺がそれ以外のことで頭を使わなくてもいいように環境を整えてくれるんです。例えばワンマンのグッズも、みんなで考えるんですよ。デザインをああしよう、こうしよう、みたいな。そういうのも楽しい。これまで、ずっと音楽やリリックのことだけを考えてやってきましたけど、チームで何かをする、という楽しさがありますね。

──地元の宮崎にいながら、常にGADOROとして成長し続けて、どんどんステージを大きくしていってますよね。GADOROさんの中で、活動していくうえで大切にしていることやモットーはありますか?

ちょっと考えてもいいですか? ……どんな状況でも、1個1個、細かいところにもこだわるということですかね。忙しいからといって適当になってしまったり、例えばグッズ1つをとっても、ほかの会社に任せてダサいものにしたりしない、とか。あと、曲を作ることに対してもそうなんですけど、慢心しないということですかね。制作ペースが緩むラッパーもおるんですけど、俺は楽しいから作り続けている。だから、これからも作り続けるし、現状に満足しない、調子に乗らない、ということはずっと昔から意識しています。

──キャリアの第1章を終えて、これまでのGADOROさんのことをご自身でどう評価していますか? 自分の通信簿をつけるとしたら、どんなことを評価してあげたい?

本当に、がんばったなというか。毎年、いろんなことがあってちょっとずつ進化していって、今ここにいる。急にドン、という感じではないから。何て言えばいいっちゃろ? でもよくやったな、と言ってあげたいですね。

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公演情報

GADORO「“第二章” Zepp Tour」

  • 2025年7月20日(日)北海道 Zepp Sapporo
  • 2025年7月27日(日)大阪府 Zepp Osaka Bayside
  • 2025年8月17日(日)愛知県 Zepp Nagoya
  • 2025年8月24日(日)福岡県 Zepp Fukuoka
  • 2025年8月31日(日)東京都 Zepp DiverCity(TOKYO)

プロフィール

GADORO(ガドロ)

宮崎県在住のラッパー。高校2年生のときに般若の影響でラップを始め、以降数々のMCバトルに出場し、功績を上げる。テレビ朝日「フリースタイルダンジョン」には過去3度出演し、MCバトル大会「KING OF KINGS」では史上初の2連覇を達成した。2017年1月に1stアルバム「四畳半」を発売し、収録曲「クズ」が多くの人々の共感を呼んだ。2019年3月には3rdアルバム「SUIGARA」を日本コロムビアよりリリース。2022年11月に自身のレーベル「Four Mud Arrows」を設立した。2025年3月に自身初となる東京・日本武道館単独公演を開催。本公演の映像を収めたライブ映像作品「四畳半から武道館 at 日本武道館」とニューアルバム「HOME」を同年7月にリリースした。