GADOROインタビュー|夢の武道館を終えて進む第2章、見せたいのは"生身のまま這い上がる姿" (2/3)

ほかのラッパーができないことをやっている

──ニューアルバム「HOME」の制作は、武道館の前から進めていた?

はい。

──メロディアスな楽曲が多いですよね。ラップのフロウじゃなくて、歌のフロウが強調されている。そこは意識的に?

自分の唯一無二な部分を探そう、と考えたとき「歌しかないな」と思ったんです。なので、メロディは意識しました。聴きやすい部分もありつつ、リリックの中には本当に地元のやつらしか知らん居酒屋とか言葉とかが出てくるし、ありきたりじゃないことを歌っていて。この時代のラッパーで、こういうメロディでこういうことを歌うラッパーは逆におらんと思います。

──今回の制作を経て、より“GADORO”というオリジナルなジャンルを確立することができたんじゃないかと勝手に思っていたんです。

そうですね。ホント、そんな感じです。

──歌うようなフロウやメロディを付けることは、ガチガチにラップすることよりも難しいですか?

もとはずっとラップするスタイルだったし、メロディを付けていくほうが大変かもですね。メロディが思い浮かばない人もいっぱいおると思うし、そういう意味ではほかのラッパーができないことをやっているとも思います。でも、俺はそのやり方が向いているとわかったし、今はその制作方法が楽しいですね。

GADORO

──そういった手法を用いる制作のプロセスは、前作までのプロセスとだいぶ異なりますか?

もう、全部違います。韻も踏んでいるんですけど、前は今ほど踏んでいなかったと思うし。今はメロディを入れながら、その中に5、6文字くらいで踏む韻をばーっと並べたりしているので、「すごいことなんだ」って思っています(笑)。なかなか説明しにくいんですけど。

(ライブDJ、A&R・HITOSHI) 今のスタイルは、いいメロディを出しつつ韻もしっかりヤバい。ヴァースでバチッと決めるところを入れて、緩急をつけて工夫しているという点もありますね。

──曲によっては最初のヴァースと次のヴァースでフロウがまったく異なる箇所もあって、細かいこだわりを感じました。

そうですね。1ヴァースの16小節も、2ヴァース目の16小節も全部違うメロディにしているところもある。

──先ほども「もっと研ぎ澄ませる」と言っていましたが、実際に、どうやってその境地に至るまでの“訓練”みたいなものを行っていますか? 自然と湧き出てくるものもあるとは思うのですが。

メロディは、J-POPもHIPHOPも含め、今まで聴いてきたいろんな曲たちが染み付いているのかなと思います。死ぬほど聴いてきたんで。スナックのカラオケで歌謡曲とかも歌いますし、そういうところから取り入れてるのかも。

──ちなみに、カラオケでの十八番を聞いてもいいですか?

美空ひばりですね、やっぱり。「愛燦燦」を歌うと、いいコブシが入って「ひばりぶってる」とか言われるんです。「川の流れのように」はキーを落として優しく歌う、みたいな。

「安い夢ファンに見せたくねんだ」

──「HOME」は、ノリやすい曲が多いと感じました。言い方が難しいけど、アリーナみたいな大きな場所でオーディエンスが左右に手を振りながら楽しめる曲、というか。「これが第2章か!」と思いながら聴きました。ノリやすさも重視しましたか?

昔、俺のファンでもある友達に「GADOROの音楽ってめっちゃいいけど、正座して聴かんといけん」って言われて。その子はリスペクトを込めて言ってくれたと思うんですけど、俺的にはショックやったんですよ。もっと普通に聴いてほしいのになって。いわゆるポエトリー的にリリックをビートに乗せているものって、リズムが一定になってしまうじゃないですか。

──GADOROさんのリリックはワード数も詰まっているし、余計に「リリック聴かなきゃ」という気持ちになるのかもですね。

だから、今は一周回って、リスナーには逆にこう(手を掲げて大きく左右に振る)されたいなって本当に思います。

──シンプルに、みんなにノッてほしいと。「HOME」というタイトルは以前から決めていたものですか?

直前に決めました。地元のことを歌っているので、故郷であるホームグラウンド、という意味。あと、野球のホームベースとも意味がかかっています。とんちが効いているわけじゃないですけど、紆余曲折あって、またホームに戻ってくる、という意味も込めて。この14曲をまとめるアルバムに適したタイトルじゃないかな?と思っています。

GADORO

──アルバムの最後に収録されている「居場所」という曲は、これまでのキャリアや人生を振り返る内容ですよね。そこまで聴いたときに、アルバムタイトルである「HOME」とすごくうまくつながっているな、と腑に落ちたんです。1曲目の「独壇場」で「ゴールドのチェーンをつけ 車に女連れ そんな安い夢ファンに見せたくねんだ」と歌っていますけど、「ファンに夢を見せる」という姿勢に感銘を受けました。たぶん、GADOROさんの姿と自分の夢を重ね合わせているリスナーも多いんだろうなあ、と思って。

取り繕った姿じゃなく、ただ音楽だけと向き合って、普通に地元で過ごしながら地元の歌を歌う。失敗したこととかも歌って、リスナーに対してもどんどん、普通の俺である“マスモトカズヒロ”を見せていきたいなって思っているんです。幻想ではなく、生身の自分のままで這い上がっていく姿を見せられたら一番カッコいいな、と。

──現在、GADOROの第2章としてはアリーナ公演が現実的な目標でしょうか? 実際、ハシシさんを迎えた「蛾」という曲の中にも「行くよアリーナまで」というリリックが出てくる。

はい、次はアリーナでもっとぶちかましたい。「蛾」という曲なんですけど、俺たち、根本としてはなんだかんだクズというかダメな男だから、ハシシさんとも「俺ら、蛾やな(笑)」と話していて。ハシシさんは本当に唯一無二な人なんです。メロディの付け方もそうですし、リリックも「ヤバいこと言っている」と思わされる。根底にHIPHOP観はずっと備わっている人なんですよね。気だるい感じがあって、逆に“熱血!”という感じじゃないところも好きです。