宮崎を拠点に活動するラッパー・GADOROが4月22日に4thアルバム「1LDK」をリリースした。
MCバトル「KING OF KINGS」の連覇とバトルからの引退、「ヒプノシスマイク」への楽曲提供など話題の尽きないGADORO。4thアルバムはメジャーを離れてセルフレーベルからのリリースとなり、2017年発売の1stアルバム「四畳半」と同様に間取りをタイトルに冠した原点回帰の作品となった。音楽ナタリーでは彼が作品に込めた思いを聞いた。
取材・文 / 高木"JET"晋一郎 撮影 / 後藤倫人
自分の作りたい音楽をとにかく形にした
──「1LDK」というアルバムタイトルは、1stアルバム「四畳半」を想起させますね。
「四畳半」を作ってた頃に戻るような気持ちで作りたいなと。リリックやトラックを「四畳半」の頃の感覚に寄せつつ、そのときよりも進化した自分を見せたいっていう意味で「1LDK」。実際に今住んでるのが1LDKっていうのもあるんですけど、「四畳半」から進化した俺っていう感じの意味です。
──ヒップホップ的なセリフで言えば、「In the house」から「In the building」に進化したような。原点回帰的な意味合いも自分の中ではあったということですか?
ありますね。これまで3枚のアルバムを出して、前作の「SUIGARA」(2019年3月発売)はメジャーからリリースもさせてもらったんですけど、「どうしたらお客さんは喜ぶんだろう」ってことを考えた部分も少なからずあったんですね。「四畳半」を作ったときはそういう考えはまったくなく、自分の作りたい曲を作ってたのになあって。だから今回は共感や称讃を無視して、自分の作りたい音楽をとにかく形にしたいなって。
──自分の中から湧き上がるものを形にしたかったというか。
自分を信じようと思ったんですよね。他人の意見は当然大事だとは思うんですけど、他人の意見を気にしすぎた部分もあったと思う。だけど「四畳半」の頃は他人から何か言われたとしても、自分の思いにブレがなければ、それを突っぱねるようなエゴが強かったし、その気持ちを思い出そうと。周りの10人からダメって言われたとしても、自分がいいと思ったならば、そっちを選ぼうと思ったのが今作ですね。
──でも、それって怖い部分もありますよね。
そうですね。だけど結局作品をリリースして、その責任を取るのは自分なんですよ。それなら自分で正解を選んだほうが納得もいくなって。人の意見を取り入れすぎると、その結果が芳しくなかったときに誰かを責める可能性も生まれてしまう。でも自分で決めたなら、それは自分の責任だから。
俺がヒプマイを食ってやる
──一方で「ヒプノシスマイク」の楽曲制作にも参加して、神宮寺寂雷「迷宮壁」の歌詞を手がけられました。構造としては、キャラクターにラップを提供するという、ご自身のエゴとは離れた楽曲を形にされましたね。
1つのチャレンジとして面白かったですね。リスナーからの反応も、あの曲を制作してからめちゃめちゃ変わったと思います。去年はヒプマイの大阪城ホールでのライブ(「ヒプノシスマイク -Division Rap Battle-4th LIVE@オオサカ《Welcome to our Hood》」)にも出させてもらったんですけど、出た瞬間にTwitterのフォロワーが何千人も増えたり、「花水木」(2017年11月発売の2ndアルバム)や「SUIGARA」の再生回数が上がったりして、やっぱり規模が違うなって。
──そのライブは僕も現地で拝見しましたが、時間は短いながらも1MCであの広い舞台に立って、しっかりとオーディエンスをつかんだタフなライブになっていたと思います。
絶対ダメなんですけど、たぶん尺は何分もオーバーしたと思います(笑)。
──確かにほかのゲストよりも幾分か長かったですね(笑)。そのステージで「もっと夢を見せたい」であったり、ヒプマイに関わる言葉よりも、ご自身のメッセージを明確にお客さんに伝えていましたね。
基本的には俺のことを知らないお客さんが中心だったので、自分や自分のメッセージをまず伝えないとなって。そのうえで、俺がヒプマイを食ってやるぞ、ぶちかましてやろうっていう感覚で臨みましたね。MCも長めになってしまったんで「調子乗りすぎだろ」って思われてるかもしれないけど、SNSの反応や再生数を見ると食らってくれてる人も多かったようなので、結果オーライだと思ってますね。ただ、あんなにお客さんがいるとは思ってなくて……出た瞬間に歌詞が飛んじゃって、「GO ON」の1ヴァース目をまるまる歌ってないんですよ。リカバーはしたんですけど、実はめっちゃ危なかったっす(笑)。
憧れの般若とのコラボ
──今回のアルバムですが、まず般若さんの参加に驚きました。GADOROさんはこれまでさまざまなインタビューなどで般若さんへのリスペクトを言葉にしてきたので、ついにタッグを組むときが来たんだなと。
般若さんは自分がラップするキッカケになった人でもあって、ずっと昔から大好きな、憧れの人ですね。そういう人と一緒に曲が作れたのは本当にうれしかった。
──面識はあったんですか?
般若さんがライブで宮崎に来たときに、僕のことをライブのMCで話してくれたりっていうのは知っていて。一度ライブで一緒になったことがあって、そこで少しお話をさせていただいた程度で、じっくり話したのは今回の制作タイミングが初めてですね。だから今回のオファーもダメ元っていう気持ちでした。般若さんのお宅に伺って、おしゃべりして、「こういうのを作ろう」っていう話をさせてもらった……んですけど、正直緊張でほぼほぼ覚えてないですね(笑)。
──それくらい憧れの人なんですね。
一緒に作った「U love song feat. 般若」も般若さんのヴァースがヤバすぎて。僕のヴァースは何回も書き直して録り直してます。たぶんインタビュー用にお渡ししてるデモとリリースされるものはまったく違うリリックになってると思います。それくらい書き換えていて。普段はそんなことまったくないんですけど、やっぱり闘争心が刺激されたんですよね。トラックはパブさん(DJ PMX)さんにお願いしたんですが、パブさんのトラックで般若さんとコラボするっていうイメージはずっと持ってたし、「この3人で1曲を作る」っていうのが、まずは制作の絶対条件でした。
次のページ »
電波少女は唯一無二な存在