ナタリー PowerPush - 風味堂

“ぼくらのイス”に座り続けるために

デビュー10年目に突入した風味堂が約4年8カ月ぶりとなるニューアルバム「風味堂5~ぼくらのイス~」を、11月10日にリリースする。メンバーそれぞれがバンドとしての方向性やシーンでの立ち位置に関して思い悩んだ末に生み出されたという本作には、その迷いを軽やかに乗り越えた、未来に向けた力強い一歩が刻まれている。

バンドとしての原点を見つめ直しつつ、デビュー10年目の新たなる決意表明を掲げた本作について、メンバー3人に話を聞いた。

取材・文 / もりひでゆき 撮影 / 佐藤類

「相変わらずの風味堂が帰ってきた」

──ニューアルバム「風味堂5~ぼくらのイス~」の仕上がりについての感想からまず聞かせてください。

左から中富雄也(Dr, Cho)、渡和久(Vo, Piano)、鳥口 JOHN マサヤ(B, Cho)。

渡和久(Vo, Piano) 収録曲のうち半分くらいはすでにライブで演奏しているし、それ以外の曲に関してもライブでやることを想定してレコーディングしていったので、過剰な演出をすることなく、どれも自然体で表現できている気がしますね。昔よりも力が抜けてリラックスしているというか。 

中富雄也(Dr, Cho) うん。ありのままだよね。今の自分たち以上のことをやろうともしていないし、かと言って手を抜いたわけでも当然ない。約10年やってきた自分たちの身の丈にあったアルバムになったなっていう手応えがありますね。

鳥口 JOHN マサヤ(B, Cho) 制作自体スムーズでしたし。仕上がりにもすごく満足しています。

──オリジナルアルバムとしては、かなりひさしぶりですよね。

中富 前作の「風味堂4」が2009年の3月リリースだったから、ほぼ5年ですもんね。

──それだけに、ファンの期待値はかなり高まっていたと思うのですが、結果的にバンドの根幹を改めて示すストレートな作品になったのはどうしてなんでしょう?

 そこに関しての打ち合わせはかなり何度もやったんですよ。これまでの風味堂はアルバムごとに毎回テイストを変えていたので、きっとファンの人たちは「次はどんなものになるんだろう」っていう期待をしてくれていたと思うんです。ただ今回は、これまでのように新しい実験をするというよりも、「相変わらずの風味堂が帰ってきた」という感想を抱いてもらう内容にしたほうがいいかなっていう気持ちが上回ったんですよね。なのでピアノ、ベース、ドラムという編成がしっかりとした核となっていて、歌がまっすぐに届くという基本を裏切らない作品にしたいなと。そういう基準で数十曲の候補から、10周年ということで10曲を選んでいったんです。

ふわっとからカチッとなった瞬間

──ある種、バンドとしての原点を見つめ直すこととなった本作には、“夢”という大きなテーマが設けられてもいます。10周年を目前に控えた今、改めて“夢”というものに向き合ったのには、バンドとしてのさまざまな思いが影響しているようですね。

渡和久(Vo, Piano)

 そうですね。デビュー当初から歌詞の中に“夢”という言葉はよく出てきてはいたんですけど、10周年に突入した今の風味堂としてはその言葉の捉え方に変化が生じてきているというか。昔はね、夢というものはただただまぶしくて、それを追いかけることだけを考えて前に進めばよかった。でも活動を続けていくことでさまざまな迷いも生まれたし、ときには夢を追いかけ続ける気持ちの強さを持てない瞬間があったりもしたんです。要は夢を持ち続けることの難しさを知ったというか。

──「居場所がどこなのか分からずに」とか「進めば進むほど最初の気持ちはほら遠ざかってく」など、迷いが表れている歌詞が今回はすごく多いですもんね。実際、具体的にそういった感情に押し潰されそうになった瞬間もあったんですか?

 僕の場合、ソロをやった後、バンドに戻ったときに一回ふわっとしたんですよね。

──ふわっと?

 そう。なんか心がふわっとするんですよ(笑)。よくわからなくなるというか。ソロをやるまでの僕は、ほかのバンドにあまり関心がなかったんですけど、ソロとしてバンドの外に出たときに、周りにはすごくカッコいいバンドがたくさんいることを知ったんですよね。同時に風味堂というバンドのことを外から見ることもできた。そうなると「風味堂はシーンの中でどんな位置にいるのかな」とか、「これからどんな音楽をやっていけばいいのかな」っていう思いがすごく浮かんできて、何をしたらいいのかちょっとわからなくなってしまったんです。今思えば、いろんなことを難しく考えすぎちゃったんだと思うんですけど。

──中富さんや鳥口さんにもそういった感情はあったんですか?

中富雄也(Dr, Cho)

中富 僕の場合は、4枚目のアルバムが出たときにちょっとふわっとしましたね(笑)。人生には今までの財産だけでは前に進めなくなる瞬間があると思うんですけど、そういう感覚にちょっと陥ったんです。デビュー当時の勢いのままでは進めなくなっていたというか。そのときに、「ああ、どうしたらいいのかな」っていうのはすごく思っていました。

鳥口 僕がふわっとしたのは、渡さんがソロ活動を、カッチャン(中富)がサポート活動をしてるときですね。そのときに僕はほんとに何もすることがなくなってしまったんですよ。何かやらなきゃって焦る自分もいたので、かなり悶々とした時期ですね。

──なるほど。時期は違えど、それぞれ同じような感情に襲われていたと。ただ、今回の作品にはそういった迷いがリアルに描かれつつも、しっかりと前を向いた風味堂の姿が鮮明に見えてくるんですよ。ということは、そういったふわっとした感情を乗り越えたということなわけですよね。

中富 そうですね。僕はここ1年くらいかな、この3人でバンドを始めた当初の思いがやっぱり大事なんだなっていうことに改めて気付いて、そういう気持ちから抜け出せましたね。

鳥口 僕も3人で改めて動き出したことで気持ちが晴れました。僕らが感じたような迷いや不安を生きていく中で感じている人はきっと多いと思うので、今度は僕たちの曲でそういった人たちの背中を押してあげることができるかもな、とも思いましたし。

 あとはやっぱりバンドとして活動を再開させてツアーをやったことが大きかったですね。難しいことは考えずに、この3人が楽しく音楽をやっているのが風味堂というバンドのスタイルだなと改めて感じることができたし、そうすればお客さんにも僕らの思いはちゃんと伝わるんだなって思えたんです。そのシンプルな図式がライブを通してはっきり見えたときに迷いみたいなものは消えていって、むしろ気持ちが定まったんですよね。ふわっとからカチッとへ変化した(笑)。

ニューアルバム「風味堂5 ~ぼくらのイス~」 / 2013年11月10日発売 / Victor Entertainment
初回限定盤 [CD+DVD] 3800円 / VIZL-594
初回限定盤 [CD+DVD] 3800円 / VIZL-594
通常盤 [CD] 3000円 / VICL-64077
CD収録曲
  1. 夢は二度目から
  2. あふれる愛を伝えたい
  3. 光の道
  4. 銀河鉄道
  5. 泣きたくなる夜に
  6. 夢を抱きし者たちへ
  7. 静かな夜の向こうへ
  8. パズル
  9. ワガママンのテーマ
  10. 足跡の彼方へ
初回限定盤DVD収録内容
  • “風味堂 unplugged live” at 福岡カフェガレリア
  1. 眠れぬ夜のひとりごと
  2. 楽園をめざして
  3. 車窓
  4. 足跡の彼方へ
  5. ママのピアノ
  6. 夢を抱きし者たちへ
  7. エクスタシー
  8. 家出少女A
  9. ナキムシのうた
  10. 宝物
  11. “おかえりなさい”が待っている
  • 「足跡の彼方へ」ビデオクリップ
風味堂(ふうみどう)
風味堂

2000年に渡和久(Vo, Piano)、中富雄也(Dr, Cho)、鳥口JOHNマサヤ(B, Cho)によって結成された鍵盤トリオ。地元福岡で支持を集めたあと、2003年に活動の拠点を東京に移す。同年4月にミニアルバム「花とりどり」をインディーズで発表。2004年11月にシングル「眠れぬ夜のひとりごと」でメジャーデビューする。2005年にはシングル「ナキムシのうた」が多数のFM局でパワープレイを獲得し、2006年にはシングル「愛してる」がオリコン週間ランキングのトップ10入りを果たすなど一気に人気を拡大させた。その後も数々のCMソングやドラマ主題歌を担当し活動の幅を広げる。キャッチーなメロディと渡の情感豊かな歌声、アグレッシブなライブパフォーマンスが魅力。デビュー10周年目に突入した2013年11月に、4年8カ月ぶりとなるアルバム「風味堂5 ~ぼくらのイス~」を発表する。