音楽ナタリー Power Push - 藤巻亮太

5つのトピックで振り返る2015年

No.4英語で歌う苦労「その筋肉、僕にはないんですけど」

──そして9月からは、藤巻さんが歌唱する「大切な人」が使用されたニベアのCMの放送がスタートしました。当初は英語バージョンが流れていましたよね。

もともと英語詞も日本語詞も両方あって。バージョンも4つくらいあったんですよ。それを歌ってくださいという発注でした。英語は苦手なんですけど、せっかくいただいたご縁なのでがんばりますと(笑)。相当練習しましたよ。英語ってね、日本語にはない口の筋肉を使うんですよ。うまく発音できないのは筋肉の問題。「その筋肉、僕にはないんですけど」みたいな感じで、かなり大変でしたね(笑)。

──提供された曲をボーカリストに徹して歌う大変さもありましたか?

歌っちゃえばそんなに変わらないし、何よりメロディがすごくよかったので、そこに関しては勉強になった部分のほうが大きかったかな。スケールの大きな3連の曲って僕は作ったことがなかったので、「あ、こういう感じもいいなあ」って思いながら気持ちよく歌えました。大変だったことで言うと、ワンコーラスだけだったものを1曲にする作業でしたね。

──今回リリースされる「大切な人」は、ワンコーラス目以降を藤巻さんが作り足しているんですよね。

はい。この曲はもともとAメロのあとにすぐサビが来る構成で、すごく短い。そのジャンプ力が素晴らしいんですよ。でも、それを単純に繰り返していくだけだとエネルギーが弱まってしまうから、いかにそこを増幅させながら最後まで持っていくかっていうのが非常に大事で。そこをものすごく考えながら作りましたね。

──そういう意味では藤巻さんが加えた大サビが効いていますよね。

藤巻亮太

ギリギリのラインで違う世界観に持っていく大サビを付け、そこからまたもとの世界に戻ってくるイメージですね。その振り方を間違うと曲自体よくわかんないことになっちゃうんだけど、うまくいったかなって自分としては思ってます。

──歌詞を膨らませていく作業はどうでしたか?

もともとの曲で歌われていた願望がどういった背景、どういった思いから生まれてきたものなのかっていうのを丁寧に書こうと思いました。結果、大切な相手のことを“まもりたい”というだけではなく、相手と“交わしたい”“分かちたい”という感情が出てきたんですよね。もともとあった歌詞と自分の思いをキャッチボールさせながら歌詞を書いていく作業がなかなか大変でした。

──結果として、藤巻さん名義でリリースされる楽曲として違和感のない仕上がりになっていると思います。

フラットな目線で楽曲に向き合って、この曲が一番気持ちよくなるにはどうしたらいいんだろうって考えていたので、僕自身としても聴き心地はすごくいいですね。完璧に僕の曲になったかどうかはわからないけど、楽曲自体にちゃんとシンクロニシティを感じることができたのが大きかったのかなと思います。

──ソロとして柔軟な思考になったとは言え、ご自身と共鳴しない楽曲を歌唱しようとは思わないわけですもんね。

そうそう。そうなるともともとの曲を作った方もハッピーじゃないし、僕自身も消化不良になっちゃうから。だから今回は、いただいた曲が持つ魅力を最大限に引き出せるように、僕なりの息吹を全力で注ぐようにがんばりました。この曲も含め、今年は音楽を通して僕を求めていただけることの喜びをすごく感じられましたね。その上で、自分が思い描いていた勝手な自分像を壊していくというか、新たな挑戦がたくさんできた。それはこれからも大切にしていかなきゃなと思います。

No.5今だから歌える「8分前の僕ら」

──「求められる」という意味では、シングルのもう一方の表題曲「8分前の僕ら」もそうですよね。ネスレ「KIT MUSIC」の第1弾ソングというタイアップがついていますから。

この曲はかなり前からあって、自分の中ですごく大事な曲でもあったんですけど、いいご縁をいただけたのでタイアップさせてもらいました。

──いつ頃作られた曲なんですか?

藤巻亮太

「オオカミ青年」を作ってるときにはもうワンコーラスありました。ただ、「オオカミ青年」という作品は自分の内面を吐き出すという意味合いの強い、ちょっとダークサイドが見える内容だったので、「8分前の僕ら」のような曲のモードではないなと思って、一旦作業をやめていたんですよ。で、ソロとしての第2章というか、気持ちが新たな方向に向いたのをきっかけに1曲として作りきった感じで。「大切な人」に通ずるテーマを、より日常に寄り添った目線で書いた曲ですね。

──ものすごく温かな空気感を持った曲ですよね。でも、それが「オオカミ青年」と同時期にできていたことが驚きですけど。

今振り返ると、「オオカミ青年」に入れた曲たちはほとんどレミオ時代に作ってるんですよ。でもレミオではできないから、ソロとしてやりたいと思ったわけで。

──なるほど。ということは、ソロを始めた当初は、「8分前の僕ら」のような曲はレミオロメンとして歌うべきだと区分していた?

そう思ってたでしょうね。これはソロっぽくないなって。もしレミオが動き出したなら、そこで歌えばいいかなって。そういう分け方をしてました。でも今はそういう感覚がなくなったから、こうやってソロとしてリリースすることができたんです。

アルバムは8合目くらい

──今回のシングルは今の藤巻さんのモードが如実に浮き彫りになった1枚になりましたね。カップリングには先ほどお話にあった、意味や理由を考えずに作ったという「wonder call」も収録されていますし。

藤巻亮太

うん。この曲には1個もメッセージなんて入ってないです(笑)。メッセージがないよさですね、これは。こういう曲って、自分の中に勢いがなきゃできないんですよ。だから、今の状況はすごくいいんじゃないかなって思います。打ち込みで1曲作るっていうのは僕にとって初めての経験だったんだけど、ライブで楽しく歌ってる景色を思い浮かべながら作業することで、いい仕上がりになったと思うな。ライブではアゲていきますよ!

──来年はどんな1年にしたいですか?

すでに全国ツアー「~歌旅編~」が発表されていますけど、ライブを通して音楽が持つ魅力、音楽がいかに楽しいものかを伝えていくことを自分なりの挑戦として2016年は活動していきたいですね。コンスタントにリリースもしていきたいです。実は今アルバムを制作していて、8合目くらいまで来ているんですよ。

──おお! もう頂上が見えてきた感じですね。楽しみです。

でもね、登山って山頂近辺が一番厳しいじゃないですか。ちょっと酸素が薄くなってきてるし。だから遭難しないように気を付けつつ(笑)、最高の山頂の景色をお届けできるようにがんばります。

藤巻亮太 TOUR 2016 ~歌旅編~
2016年2月17日(水)徳島県 徳島市シビックセンター
2016年2月19日(金)秋田県 Club SWINDLE
2016年2月23日(火)長野県 まつもと市民芸術館 小ホール
2016年2月27日(土)熊本県 熊本B.9 V1
2016年2月28日(日)鹿児島県 CAPARVO HALL
2016年3月4日(金)兵庫県 Kobe SLOPE
2016年3月6日(日)三重県 M'AXA
藤巻亮太(フジマキリョウタ)

藤巻亮太

2000年12月に前田啓介(B)、神宮司治(Dr)とともにレミオロメンを結成し、ギター&ボーカルを担当。「3月9日」「南風」「粉雪」などの楽曲群が多くのファンからの支持を集める。2012年2月にレミオロメンの活動休止を発表し、初のソロシングル「光をあつめて」をリリース。同年8月に2ndシングル「月食 / Beautiful day」、10月に1stソロアルバム「オオカミ青年」を発表した。2014年12月に3rdシングル「ing」をリリース。2015年5月にはミニアルバム「旅立ちの日」を発表し、東名阪でバンド編成でのリリースツアーを展開。12月に両A面シングル「大切な人 / 8分前の僕ら」をリリースした。2016年2月からはツアーを開催する。また、同月に自身が世界中を旅して撮り下ろした初の写真集「Sightlines」を発売予定。