音楽ナタリー Power Push - 藤巻亮太
5つのトピックで振り返る2015年
藤巻亮太が両A面シングル「大切な人 / 8分前の僕ら」をリリースした。
「大切な人」は9月からニベアCMソングとして流れている美しいバラード。もともとは提供されたワンコーラス分の楽曲を歌唱した音源がCMに使われていたが、今回のリリースにあたって藤巻自身が歌詞とメロディを加え、1曲に仕上げた。もう1曲はネスレ「KIT MUSIC」(※日本のキットカットの魅力をアジア圏に発信するためのプロジェクトの一環で制作された、短編映画との連動型ミュージックビデオ)第1弾ソングとして「KIT KAT Chocolatory」CMでも使用されている「8分前の僕ら」。藤巻が「大事な曲」だと語る、温かな空気感をまとったミディアムナンバーだ。
今回音楽ナタリーでは、2015年の主立ったトピックを挙げながら藤巻自身に1年間の活動を振り返ってもらうことにした。気持ちを外に向け、さまざまな挑戦をしながら邁進してきた藤巻亮太が、新たに手にした柔軟な思考と覚悟とは? 新作に込めた思いも含め、たっぷりと話を聞いた。
取材・文 / もりひでゆき 撮影(メイン&インタビュー写真) / 須田卓馬
意味なんてなくてもいい、理由なんてなくてもいい
──2015年の藤巻さんはリリースにライブにと精力的な活動を見せていましたね。気持ちの部分での変化もあったのではないですか?
去年、SPEEDSTAR RECORDSに移籍する前まではリリースもしばらくなかったですし、「ライブで自分を鍛えていこう」みたいな期間だったと思うんです。でも今年に入ってからは作品をリリースする話も出てきて、気持ちとしてもすごく風通しがよくなってきたんですよね。
──それまでにはいろいろ悩むこともあった?
ソロでの1stアルバム以降、「ソロらしさとはどういったものか」「レミオロメンとの違いを出すこと」みたいな部分での固定観念が自分の中にはあって、それで自分自身を縛ってたところがあったんですよ。でも、今は曲を作るときにそういうことを考えるのをやめてるんです。それがよかった。
──藤巻さんは自分の内面と向き合い、そこにある感情を吐露するためにソロ活動を始めた。それが当初の動機だったわけですけど、今はある意味でソロとバンドとの区別をしなくなったということなのでしょうか?
そう。なんかね、何をやるにしても意味や理由がないと行動しちゃいけないという強迫観念があったんですよ。だからこそ、ソロらしさやバンドらしさを意識してた。でも、最近作った「wonder call」という曲がそうなんですけど、意味なんてなくてもいい、理由なんてなくてもいい、ただ楽しい感情に任せて曲を作ってもいいと思えるようになったんですよね。そこにこそ音楽の生命力みたいなものが宿ると思えたし、そもそもインディーズで活動し始めた当時はそういう気持ちで音楽をやってたわけだから。意識的に頭を使わずに音楽を作れたらいいなと思うようになったんですよね。
──そういうモードになったことで、楽曲も自然とあふれてくるようになってきました?
と言うよりは、あふれてこないときでも焦らなくなったかな。今までだったらあふれてないときでも理屈で作ろうとしていたし、そうするとどこか“痩せた音楽”ができちゃうところもあって。それに対して悩み始めるとドツボにハマっていってしまうっていう。でも、できないときはできないですからね。こちらから求めていくというよりは、機が熟して楽曲のほうからやって来てくれたときにちゃんとキャッチできるよう、素直な気持ちでいることが大事なのかなあって思うんです。
──ご自身にとってはナチュラルな状態かもしれないですね。
そうかもしれないです。いろいろ経験してくると曲ができなくなることや、僕が作った曲がどう見られるかっていうことがすごく怖くなるんだけど、もともとはそんなこと関係なく作ってきたわけだから。そういう意味では自分の中でソロに対する覚悟が決まってきたところもあるような気がします。
いろんな可能性にチャレンジ
──のちほど具体的に振り返っていただきますが、今年の活動全般を見ていると藤巻さんの気持ちが外に向けて開かれている印象があって。そのあたりについてご自身でも感じるところはありますか?
せっかくソロ活動を始めたんだから、もっともっといろんな可能性にチャレンジしてもいいんじゃないかな、とは思うようになりましたね。今回リリースする「大切な人」という楽曲にしても、ボーカリストとしてCMのお話をいただいたことが最初のきっかけでしたからね。
──先方から用意された楽曲の歌唱をするというオファーだったそうですね。
そう。要はワンコーラスだけCM用に曲ができていて、それを歌ってくださいと。僕はレミオロメン時代から自分で曲も歌詞も書いて、それを歌ってきた。そこに対しての強いこだわりもある。でも、自分のボーカルに対して何かを感じてもらえたからこそいただけたオファーは純粋にうれしいことでもあったし、用意されていた楽曲は自分では作ったことがないタイプで大きな魅力を感じることもできた。だったらソロアーティスト藤巻亮太として、新しいことにチャレンジしてみてもいいんじゃないかなって本気で思えたんです。そういう体験によって自分自身をもう一度見つめ直すこともできたので、それはすごく大きなことだったと思いますね。
──今までだったらブレーキを踏んでいた物事に対しても、ゴーを出せる柔軟さが生まれてきたんでしょうね。
そこでもやっぱりソロらしさとかレミオロメンらしさとか、そういったキーワードに引っかかってブレーキを踏んでた部分があったと思うんだけど、そういうことじゃないんだなって。自分が今できることを踏まえて、可能性を広げるための道を選ぶべきだなって思えるようになりましたね。自分の中での勝手な線引きをどんどんなくしていこうかなって。僕……渋滞が嫌いなんですよ。
──はい(笑)。
それって要は、自分の力ではどうにもならないことに対してどうにかしようとするから、ストレスが溜まるんですよね。でも、自分の気持ちや考え方を変えれば気持ちが楽になるところもあるなってすごく思うようになったんです。恋愛だってそうじゃないですか。
──確かに。愛してくれとやみくもに求めるのではなく、まずは自分が相手を愛すことで状況が変わるところはありますもんね。
まさにそう。エーリッヒ・フロムの「愛するということ」という僕の好きな本にもそういうことが書いてありました。恋愛にしても何にしても、強引に何かを変えようとするとそこには歪みが生まれるし、その歪みを直そうとするとそこにはまたさらにエネルギーが必要になってくる。だったら、自分を変えることにエネルギーを使うほうがいいんじゃないかなって思いますね。音楽に関してもそういう気持ちがあるかな、今は。
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収録曲
- 大切な人
- 8分前の僕ら
- wonder call
- 藤巻亮太 TOUR 2016 ~歌旅編~
- 2016年2月17日(水)徳島県 徳島市シビックセンター
- 2016年2月19日(金)秋田県 Club SWINDLE
- 2016年2月23日(火)長野県 まつもと市民芸術館 小ホール
- 2016年2月27日(土)熊本県 熊本B.9 V1
- 2016年2月28日(日)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2016年3月4日(金)兵庫県 Kobe SLOPE
- 2016年3月6日(日)三重県 M'AXA
藤巻亮太(フジマキリョウタ)
2000年12月に前田啓介(B)、神宮司治(Dr)とともにレミオロメンを結成し、ギター&ボーカルを担当。「3月9日」「南風」「粉雪」などの楽曲群が多くのファンからの支持を集める。2012年2月にレミオロメンの活動休止を発表し、初のソロシングル「光をあつめて」をリリース。同年8月に2ndシングル「月食 / Beautiful day」、10月に1stソロアルバム「オオカミ青年」を発表した。2014年12月に3rdシングル「ing」をリリース。2015年5月にはミニアルバム「旅立ちの日」を発表し、東名阪でバンド編成でのリリースツアーを展開。12月に両A面シングル「大切な人 / 8分前の僕ら」をリリースした。2016年2月からはツアーを開催する。また、同月に自身が世界中を旅して撮り下ろした初の写真集「Sightlines」を発売予定。