音楽ナタリー Power Push - 藤巻亮太
5つのトピックで振り返る2015年
藤巻亮太 2015年を振り返る
No.1地元チームへの思いを託した「ゆらせ」
──ここからはいくつかのトピックを挙げながら、1年を振り返っていただければと思います。まずは3月。地元・山梨のサッカーチームであるヴァンフォーレ甲府にアンセム「ゆらせ」を提供しました。
山梨は僕が18年間育った場所だし、レミオロメン時代からいろいろ応援してくれていたので、どこかで恩返ししたいなっていう思いがあったんですよ。しかも僕はサッカーが大好きなので、このオファーをいただいたときには二つ返事で「作らせていただきたいです!」と。僕は、サッカーのようなスポーツも音楽も“いい空気”を観ている人に届ける仕事だと思っているんです。なので、「その空気をもっともっと揺らしていこうよ」っていう思いを込めて「ゆらせ」という曲を作りましたね。
──試合の際には会場でこの曲が流れているそうですね。
そうみたいですね。徐々に浸透していって、サポーターの皆さんに歌ってもらえるようになったらうれしいです。ヴァンフォーレ甲府は今年、3期連続でJ1にい続けることができたのもよかった。僕がアンセムを作った年にJ2に降格しちゃったらヘコみますからね(笑)。来年のJ1開幕時にもピッチでこの曲を歌えたらいいなとも思うし、この「ゆらせ」をきっかけに今後もヴァンフォーレには関わっていけたらいいなと思います。
No.2ニコ超で歌う「粉雪」の意味
──4月には「ニコニコ超会議」へ出演しました。会場では「粉雪」を歌唱し、大合唱が巻き起こったわけですけど、正直、藤巻さんが出演を決めたことが意外な気もしたんですよね。
ほんとにその通りで(笑)。今までの僕だったら出演していなかったかもしれない。「ニコニコ超会議」なんてね、僕にとっては未知の世界だったから「どうなるんだろう」「受け入れてくれるのかな」って不安のほうが大きかったんですよ。でも、「『粉雪』の“こなー”のところをきっかけに弾幕がぶわーっと出るんですよ」とか、そういったお話を聞いたらそんなのうれしいに決まってるじゃないですか(笑)。だから意を決して歌いに行ってみたところ、僕自身もものすごく楽しい時間を過ごせて。
──ソロとして「粉雪」を歌うことへのとまどいもなく?
うん。結局はソロであろうとバンドであろうと僕が作ってきた曲だということは変わらないわけなんですよね。だからこそ「ニコニコ超会議」で「粉雪」を歌うこともできたし、最近のソロライブでレミオの曲をよくやるようにもなったんです。作ってきた音楽って、ちゃんと歌い続けてあげないと自分の中に沈殿してしまう部分があると思うんですよね。でも、それを歌うことでかき混ぜて、酸素をもう一度行き渡らせてやると、曲にとっても自分自身にとっても栄養が充満してくる気がするんです。それに、「粉雪」のようにみんなが喜んでくれる曲をソロとしてももっともっと作っていきたいっていうモチベーションにもなりましたし。そういう意味では、これもまたすごく大きな経験だったと思います。また一緒にリスナーと楽しいことができたらいいなとも思いますしね。
No.3バンドと張り合おうとしなくなった
──5月にはミニアルバム「旅立ちの日」がリリースされ、東名阪ツアーが開催されました。
3本だけでしたけど、ひさしぶりにバンドで音を鳴らすことができた喜びがありましたね。ソロになってからは弾き語りやアコースティックライブも増えたので、僕の中ではもう1回歌に向き合えたし、表現の形態が違ったとしても曲のよさや、曲の持つエネルギーをちゃんと伝えていく意識が高まっていて。そういった経験を経てのバンドツアーだったので、正直もっとやりたいなって思いました(笑)。
──ライブのセットリストは、太陽が昇ってくる夜明けをイメージして構成されたそうですね。そこには新たなフェーズへの突入という気持ちがあったのでしょうか?
はい。1stアルバム「オオカミ青年」(2012年10月リリース)からの僕がどこに向かおうとしているかの確認作業でもあったし、新たなところへ向けて気持ちを切り替える意味合いもあったと思います。あと、「旅立ちの日」というミニアルバムは自分の中にスペースを作るための作品だったとも思っていて。人間ってどこかにスペースがないといろんなものが入ってこないし、遊ぶこともできなくなってしまうんですよね。だからそれをあのミニアルバムでしっかり作り、それをツアーでちゃんと確認できた気もするんですよ。
──ソロとバンドの境界がなくなったことによって生まれたスペースもあるでしょうしね。
そうそう。そういったものをなくして空になることの大事さを知ることができた。で、そこにはこれからいろんなものが入り、そしてまた出ていくことを繰り返していくのかなって思いますね。
──ボーカルに関しては、弾き語りやアコースティックと比べて、バンドならではの表現が出たところもありましたか?
いや、そこはむしろ弾き語りとバンドで変わらなくなりましたね。アコースティックツアーを経験したことで、形態がどうこうではなく、僕が一番気持ちいいように、自分なりの響きで歌うことが大事だと思うようになったんですよ。だからバンドでのライブにおいても、バンドの音と張り合おうと思わなくなって。結果、それがいい相乗効果を生むことにも気付けたんですよね。
──バンドの音と張り合うように声を出していた時期もあったんですか?
レミオロメンはスリーピースだから、そういう意識で歌ってきたところがありましたね。でも陣取りゲームでもなんでもないわけだから、無理に張り合う必要なんてない。今回のバンドツアーを通して、その感覚がさらに目覚めた感じがあったかな。とはいえ、今回は「旅立ちの日」という世界観を大事にするために、「オオカミ青年」で見せていたような荒ぶったセットリストではなかったんですよね。だからこそ冷静だったところもあったような気もしていて。そういう意味では、さらに先に進むための過渡期とも言えるライブだったかもしれないですね。
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収録曲
- 大切な人
- 8分前の僕ら
- wonder call
- 藤巻亮太 TOUR 2016 ~歌旅編~
- 2016年2月17日(水)徳島県 徳島市シビックセンター
- 2016年2月19日(金)秋田県 Club SWINDLE
- 2016年2月23日(火)長野県 まつもと市民芸術館 小ホール
- 2016年2月27日(土)熊本県 熊本B.9 V1
- 2016年2月28日(日)鹿児島県 CAPARVO HALL
- 2016年3月4日(金)兵庫県 Kobe SLOPE
- 2016年3月6日(日)三重県 M'AXA
藤巻亮太(フジマキリョウタ)
2000年12月に前田啓介(B)、神宮司治(Dr)とともにレミオロメンを結成し、ギター&ボーカルを担当。「3月9日」「南風」「粉雪」などの楽曲群が多くのファンからの支持を集める。2012年2月にレミオロメンの活動休止を発表し、初のソロシングル「光をあつめて」をリリース。同年8月に2ndシングル「月食 / Beautiful day」、10月に1stソロアルバム「オオカミ青年」を発表した。2014年12月に3rdシングル「ing」をリリース。2015年5月にはミニアルバム「旅立ちの日」を発表し、東名阪でバンド編成でのリリースツアーを展開。12月に両A面シングル「大切な人 / 8分前の僕ら」をリリースした。2016年2月からはツアーを開催する。また、同月に自身が世界中を旅して撮り下ろした初の写真集「Sightlines」を発売予定。