音楽ナタリー Power Push - 藤井隆×西寺郷太(NONA REEVES)対談

11年越しの音楽愛

「Coffee Bar Cowboy」全曲解説・前編

01. YOU OWE ME 作詞:藤井隆、西寺郷太 / 作曲:藤井隆 / 編曲:冨田謙

──ではここから1曲ずつ話を聞かせてください。「YOU OWE ME」は本作のラストでカバーしているBrosの「I OWE YOU NOTHING」と対になったタイトルですけど、これはカバーすることを前提に付けたタイトルなんですか?

藤井 いえ、違うんですよ。Brosをカバーすると決まったのは最後のほうで。この曲は、まず長くしたかったんですね。分数の長い曲にしたくて。

──この曲はアルバムのリードトラックなのに7分57秒あるんですよね。テレビやラジオでフル尺でかかることをまったく想定してないような長さで(笑)。4曲目の「driving me crazy」も7分を超えていて、サビが出てくるまで2分17秒あるんですよ。ポップス尺としてはアルバム全体的に長めですね。

藤井 僕は車で音楽を聴くことが多くて、好きな曲を延々リピートで聴いたりするんですね。そんな話を郷太さんにしたら同じだそうで、車庫入れするときに「ここで曲を止めたくないな」と思ったらもう1回通り道に出たり、そう言うのお互いわかるって(笑)。延々繰り返すような曲にしたいと思って作ったのがこの曲です。

──歌詞のクレジットはお2人の共作になっていますが。

西寺 サビの「YOU OWE ME GIRL 君は借りがある」は僕が手伝った部分なんですけど、これは「Why? なぜに」みたいな、英語と日本語で言う永ちゃん(矢沢永吉)方式ですね(笑)。「OWE」って英単語の「借りがある」って意味は、まさにBrosの「I OWE YOU NOTHING」で僕も高校時代覚えたので、ちゃんと説明しておこう、と。とはいえ、Aメロからの基本的な流れは藤井さんが作ってたまんまですね。物語がしっかりあったので。最初に作った曲をアルバムの1曲目に入れるのがいいなと思ったので、アルバム曲順を決めるときは強く主張しました。藤井さんのエッセンスが一番詰まった曲だなと、すべて完成した今改めて聴き返しても思いますね。

02. Quiet Dance feat. 宇多丸 作詞:藤井隆、宇多丸(RHYMESTER) / 作曲:藤井隆 / 編曲:冨田謙

──2曲目の「Quiet Dance feat. 宇多丸」は、宇多丸さんのラップをフィーチャーした曲としてちょっと新鮮なテンポ感だなと思いました。

左から、藤井隆、西寺郷太。

藤井 テンポを決めてくれたのは郷太さんですね。

西寺 これは117 BPMで、マイケル・ジャクソンの「Billie Jean」とか、ジャスティン・ティンバーレイクの「Sexyback」と同じです。僕は117ってけっこう絶妙なテンポだと思っていて。ポップスとヒップホップのちょうど中間地点がこのあたりなんですよ。ヒップホップはもうちょっと遅くて。宇多丸さんは130 BPMぐらいのもっとハイテンポなラップも合うんですけど、宇多丸さんに117でやってもらうことに新しさを感じたんです。宇多丸さんも80'sが好きな人で、クラブで一緒に80's聴いてるときのうれしそうな顔を知っているから、彼の大好きなサウンドで、普段あんまりやらないようなことをやってもらうのが、僕らをつないでくれた彼への恩返しなんじゃないかなって藤井さんと2人で話して。

──これもやはりタイトルが先なんですよね。「Quiet Dance」というタイトルはどういうイメージで?

藤井 僕、四ツ谷駅の構造が好きで。階段を下りていくときに、まるで踊っているようやなという印象が昔からあったんです。あそこらへんで働いている2人が、迎賓館(赤坂離宮)の手前の二又を分かれていくようなイメージの……。

西寺 藤井さんの歌詞は1つひとつに映像が付いてるんですよ。宇多丸さんとの打ち合わせでも「迎賓館にある国の王子がいて、立食パーティにも疲れたなと窓辺で外を見ていたら、2人の若者が歩いていくところを目撃して」みたいな感じで具体的に話していたんですよ。それがまったくその通りにラップで表現されていてびっくりしました。藤井さんの、言うたら妄想ですよ。いつもなら自分でいろいろシチュエーションを考えて書く宇多丸さんが、藤井さんの投げたイメージを、きれいに韻を踏みながら言葉にしてるんです。作詞作曲家・藤井隆の神髄が出た曲ですね。

03. I just want to hold you(RAM RIDER remix) 作詞・作曲:松田聖子 / 編曲:RAM RIDER

──3曲目はシングル「 I just want to hold you」のリミックスで、作詞作曲は松田聖子さんです。以前藤井さんに話を聞いたとき(参照:藤井隆 Like a Record round! round! round! in 富士急ハイランド インタビュー)、シンガーソングライターとして洋楽志向をモロに出した1990年代の聖子さん、「エスイーアイケーオーの“SEIKO”」の音楽について熱弁されてましたよね。今回のアルバム制作は、“SEIKO”の影響がかなり大きいんじゃないかなと。

西寺 Takashie(西寺郷太、冨田謙、藤井隆による共同プロデュースチーム「Takashie, Temple & YT」での名称)ですからね。アメリカ行きますか!

藤井隆

藤井 あはははは(笑)。今回のアルバムには「She is my new town」と「I just want to hold you」は絶対に入れたかったんです。もう1回聴いてもらいたいという思いが強くて。リミックスしていただいたRAM RIDERさんは、実はその昔、一度曲を提供していただいてたんですね。でもその曲が世に出ることは叶わなくて。ずっと申し訳ないなと思ってたんですけど、去年やつい(いちろう / エレキコミック)さんのフェスで再会して、そのときにぜひ参加していただこうと決めて、リミックスをお願いしました。

──リミックス2曲を最後にボーナストラックでまとめるんじゃなく、バラバラに配置してあるのは珍しいですよね。

藤井 そういう方法もあるよって言われたんですけど、僕はなぜか初めからその考えがなくて。最初からアルバムの流れの中に入れるつもりでした。

ニューアルバム「Coffee Bar Cowboy」 / 2015年6月17日発売 / SLENDERIE RECORD
[CD] 2500円 / YRCN-95247
収録曲
  1. YOU OWE ME 作詞:藤井隆・西寺郷太 / 作曲:藤井隆 / 編曲:冨田謙
  2. Quiet Dance feat. 宇多丸 作詞:藤井隆、宇多丸(RHYMESTER) / 作曲:藤井隆 / 編曲:冨田謙
  3. I just want to hold you(RAM RIDER remix) 作詞・作曲:松田聖子 / 編曲:RAM RIDER
  4. driving me crazy 作詞・作曲:藤井隆 / 編曲:冨田謙
  5. make over feat. 乙葉 作詞 : YOU / 作曲 : 藤井隆 / 編曲:冨田謙
  6. SAVE ONESELF 作詞:西寺郷太、藤井隆 / 作曲・編曲:西寺郷太
  7. discOball 作詞:藤井隆 / 作曲:藤井隆、西寺郷太 / 編曲:冨田謙
  8. She is my new town(tofubeats west-kobe remix) 作詞・作曲:松田聖子 / 編曲:tofubeats
  9. I'M IN with YOU 作詞・作曲・編曲:西寺郷太
  10. I OWE YOU NOTHING with 西寺郷太 作詞・作曲:ニッキー・グラハム、トム・ワトキンス / 編曲:冨田謙
藤井隆(フジイタカシ)

藤井隆

1972年3月10日生まれ。1992年に吉本新喜劇オーディションを経て、お笑い芸人として吉本興業入り。2000年にシングル「ナンダカンダ」で歌手デビューし、同年「NHK紅白歌合戦」に初出場する。数々のシングルのほか、2002年発売のアルバム「ロミオ道行」、2004年発売のアルバム「オール バイ マイセルフ」などで高い評価を得ながらも、2007年8月発売のシングル「真夏の夜の夢」以降はしばらくアーティストとしての活動を休止。2013年6月にニューシングル「She is my new town / I just want to hold you」で6年ぶりに個人としてアーティスト活動を再開した。その後はさまざまなアーティストとのコラボレーションも展開し、2015年6月におよそ11年ぶりとなるオリジナルアルバム「Coffee Bar Cowboy」をリリース。

西寺郷太(ニシデラゴウタ)

1973年11月27日生まれ。小学生の頃からマイケル・ジャクソンやPrince、Wham!などの洋楽に心酔し、独学で作詞・作曲を始める。1995年にNONA REEVESを結成し、1997年11月にシングル「GOLF ep.」でメジャーデビュー。初期はギターポップ色の強い楽曲を得意としていたが、1999年12月発売のメジャー2ndアルバム「FRIDAY NIGHT」を機にディスコ / ソウル色の強いサウンドを追求し始める。NONA REEVESとしてコンスタントに作品をリリースしながら、ソングライター / 音楽プロデューサーとしても活躍し、SMAP、V6、土岐麻子、bump.y、Negicco、岡村靖幸、花澤香菜、吉田凜音ほか多数のアーティストへの楽曲提供やプロデュースを手がけている。またマイケル・ジャクソンやWham!への深い造詣から評論、執筆の機会も多く、「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」「マイケル・ジャクソン」「噂のメロディ・メイカー」といった著書も上梓している。