音楽ナタリー Power Push - 藤井隆×西寺郷太(NONA REEVES)対談

11年越しの音楽愛

「Coffee Bar Cowboy」全曲解説・後編

08. She is my new town(tofubeats west-kobe remix) 作詞・作曲:松田聖子 / 編曲:tofubeats

──そして再びリミックスで、今度は「She is my new town」をtofubeatsが料理しています。

左から、藤井隆、西寺郷太。

藤井 オリジナルをお願いするとき「ニュータウンをテーマで」とお伝えしていたんです。そんで当時MVをYouTubeに上げたとき、一番にコメントしてるのが実はtofubeatsさんなんですよ。彼は神戸のニュータウンで暮らしていて、子供の頃から「ロミオ道行」(2002年2月に発売された藤井の1stアルバム)を聴いてくださっていたらしく……いろんなことが1つにつながったみたいな。「ディスコの神様」のオファーがあって、そのとき初めて彼にお会いしたんですが、そのときも「She is my new town」について熱弁されていて。だから「She is my new town」をリミックスするときは絶対にトーフさんです、って決めてました。上がってきたリミックスを最初に聴いてみたら、すごくアーバンで本当に理想的な……なんていうのかな、立ってるし座ってるしバーに女の人いるし近付いてきたし、あやうくアルコール飲みそうになったけど寸止めでバイクに乗れた感じがしたから、本当にありがとう!って。

──あははははは(笑)。ギリギリまで翻弄されるCoffee Bar Cowboy。

藤井 僕の好きなところをズバッと突いてくれたから、もう感謝しかないですね。トーフくんはすごく頭のキレる人で、話も面白い。一緒に話してると年齢差を感じないんですよ。

西寺 図太い(笑)。いや、僕も同じところがあるし、大事なことだと思うんですよ。中田英寿選手は先輩でも同じグラウンドに立てば「カズ! ゴン!」って呼び捨てで、失礼に見えるかもしれないけど、0コンマ何秒で判断する場面で「カズさん」なんて呼んでられない、と。先輩だからどうとか関係ない、サッカー勝つためにやってるんでしょ?っていう。僕もそう思っていて、いい作品を作るのに上下関係は必要ない。今回も最終段階でいろいろとやり取りできて、藤井さんがつないでくれた縁ですけど、大好きですね。ギャグセンスも最高ですし。きっと大成功しますよ彼は。変な話、2020年の東京オリンピックのセレモニーでも誰かスター歌手と一緒に登場したりするんじゃないですかね。

09. I'M IN with YOU 作詞・作曲・編曲:西寺郷太

──次が先ほど少しお話に出た「I'M IN with YOU」です。藤井さんとYOUさんのデュエットを作る上で、なぜスローテンポを選んだんですか?

西寺 今、プリンス論の本を書いていて。今年の1月ぐらいから合間を見つけてずーっと書いていて、プリンスばっか聴いてたんですね。そんであるとき、藤井さんとYOUさんがデュエットするなら、シーナ・イーストンとプリンスのバラードみたいな、80年代のスター同士のバラードをやりたい、と。

藤井隆

藤井 YOUさんは10何年もレギュラー番組でご一緒していて、僕が東京に出てきたときも食事や飲みに連れていってくれたり、長年さんざんお世話になってるんです。結婚するときもお世話になりましたし、もう一緒にやってないことはないんじゃないかと思うぐらいご一緒してきたけど、デュエットだけはやってなかったんですよ。今回ぜひ一緒に歌いたかったので、夢が叶ってうれしいです。

西寺 素晴らしいアーティストが亡くなったりとか事情で歌えなくなったりする悲しいこともありますけど、「いつか一緒にやろうね」「いつか歌おうね」という約束を1つずつ叶えていくことこそ、今大事やなと思うんですよ。あんなに言うてたのに……みたいなのって、やっぱり残念ですし、藤井さんにしてみれば、YOUさんとかそれこそ乙葉さんとか、近くにいるからむしろわざわざ、みたいなところがあると思うんです。でも今回のアルバムでは、トーフくんもRAMくんも宇多丸さんも、藤井さんが自分で動いてくれて実現させた。素晴らしいです。

──完成した曲を聴いて、YOUさんはどんな感想を?

藤井 完成した2日後に空港でご一緒する機会があったので、その場でヘッドフォンで聴いてもらったんですよ。しばらく聴いてから「……超気持ちいいー!」(ものすごい大声で)って、ヘッドフォンしてる人特有のボリュームで(笑)。あとタイトルはね、僕が郷太さんに渡したのは「I'M IN」だけなんですよ。それが「I'M IN with YOU」になって帰ってきた。「I'M IN feat. YOU」じゃないんです。郷太さんのこういうセンスが好きですね。上品。

10. I OWE YOU NOTHING with 西寺郷太 作詞・作曲:ニッキー・グラハム、トム・ワトキンス / 編曲:冨田謙

──そしてラストを締めくくるのが、お2人のデュエットによる「I OWE YOU NOTHING」と。

左から、藤井隆、西寺郷太。

藤井 最初と最後でオウオウオウオウ言ってますけど(笑)。郷太さんと雑談してるときに、Brosは「When Will I Be Famous?」もいいけど「I OWE YOU NOTHING」がすごく好きで、ってところで合意して。

西寺 ミュージシャンになってから、マイケルは和田唱(TRICERATOPS)、プリンスは向井秀徳(ZAZEN BOYS)くんみたいに「うわー、こんなやつ中学のときクラスにいたらめっちゃ友達になってたわー」って人と巡り会ってきたんですよ。でもBrosの話で気が合う人間はミュージシャンで誰1人いなくて(笑)。ノーナの2人はWham!の音楽的魅力について話せるニッチな仲間が奇跡的に集まったんですけど、Brosはいなかった(笑)。

──活動期間も短いし、あまり多くを語られる存在じゃないですよね。

西寺 去年Wham!の本を出したとき(西寺郷太・著「噂のメロディ・メイカー」。参照:ノーナ西寺郷太、初の“ノンフィクション風小説”書籍化)、当時Wham!の担当だった沼田(洋一)さんという方と一緒に飲むようになって。沼田さんは当時EPICのイギリス人アーティストの宣伝担当で、Dead or Aliveとかポール・ヤングとかのレコードを見ると、全部沼田さんの名前が入ってるんです。Brosも沼田さんの担当だったから「今回、藤井さんとBrosをカバーしました」って報告したらすごく喜んでくれて。完成したあと、聴いてもらったんですが絶賛してくれました(笑)。「I OWE YOU NOTHING」は好きな曲やけど、ノーナでやろうとはメンバーに言いにくかったから(笑)、ホンマうれしかったですね。

藤井 光栄です(笑)。

西寺 藤井さんは宇多丸さんのことを「恩人」、僕のことを「親友」って言うてくれるんですけど、僕は「そんなん水臭い。双子やろ。“Bros”やろ」って(笑)。双子に親友って言うのは水臭いからBrosにしましたという……これから2人でこれを歌うときはこの小話を付けようと思ってます。

「知りませんでした」言われることがないように、届ける努力を

──僕は藤井さんの音楽のファンなので、再始動してくれたのがうれしい反面、正直このアルバムがつまらなかったらどうしようという不安もあったんですよ。でも完成したアルバムを聴いてみたら、藤井さんの次のステップとしてこれ以上ない正解だなと。よかったとかすごかったとかよりも先に、うれしかったですね。

藤井 わあー、よかったあ。本当にうれしいです。

──ここからまた、止まることなく続けていってほしいんですよね。

西寺 うん。また藤井さんは今回歌うだけじゃなくてね、プロデュース能力も見せていると思うので。すごく楽しみなんですよね。

藤井 プロデューサーって……名乗ってみたかったし、実際に楽しかったんですけど、実際にセルフプロデュースをしてみると至らないところばかりなんですよ。とても本職の人に顔向けできない。これミスった!と思う場面が何回もあったんですけど、それを救ってくれたのは全部郷太さんなんですよ。クレジットの表記とかまで含めて、チェックというチェックを完璧にやってくださるんで。細かいチェックをすり抜けたミスまで出てきたんですけど、それも郷太さんが掛け合ってくれて。年末からこれまで何回命拾いしたか(笑)。このあとまだ入稿とかあるからドキドキしてるんですけど、6月17日に無事リリースされるまでは厳しい目で見といてもらわないと。ついつい浮かれちゃうんで(笑)。

西寺 このアルバム、いろんなところで絶賛されると思うんですよ。昔からのファンも納得してくれるクオリティだと思うし、クラブでかけても最高に盛り上がる。

左から、西寺郷太、藤井隆。

藤井 「ナンダカンダ」(2000年3月発売のデビューシングル)という曲があったから、僕は今もこうして音楽に携わることができているんです。あの曲を作ってくれたGAKU-MCさんと浅倉大介さんには今も感謝していますし、そのあともいろんな方の協力で曲を出してきましたけど……「こんな歌出してたんですね。知りませんでした」と言われることがよくあるんです。もちろんいつ聴いて気に入ってくださってもありがたいんですけど、できることならリリースしたその場ですぐに届けたい。今回は「知りませんでした」言われることがないように、できるだけ皆さんに届ける努力をしたいと思っているんです。本当によろしくお願いします。

ニューアルバム「Coffee Bar Cowboy」 / 2015年6月17日発売 / SLENDERIE RECORD
[CD] 2500円 / YRCN-95247
収録曲
  1. YOU OWE ME 作詞:藤井隆・西寺郷太 / 作曲:藤井隆 / 編曲:冨田謙
  2. Quiet Dance feat. 宇多丸 作詞:藤井隆、宇多丸(RHYMESTER) / 作曲:藤井隆 / 編曲:冨田謙
  3. I just want to hold you(RAM RIDER remix) 作詞・作曲:松田聖子 / 編曲:RAM RIDER
  4. driving me crazy 作詞・作曲:藤井隆 / 編曲:冨田謙
  5. make over feat. 乙葉 作詞 : YOU / 作曲 : 藤井隆 / 編曲:冨田謙
  6. SAVE ONESELF 作詞:西寺郷太、藤井隆 / 作曲・編曲:西寺郷太
  7. discOball 作詞:藤井隆 / 作曲:藤井隆、西寺郷太 / 編曲:冨田謙
  8. She is my new town(tofubeats west-kobe remix) 作詞・作曲:松田聖子 / 編曲:tofubeats
  9. I'M IN with YOU 作詞・作曲・編曲:西寺郷太
  10. I OWE YOU NOTHING with 西寺郷太 作詞・作曲:ニッキー・グラハム、トム・ワトキンス / 編曲:冨田謙
藤井隆(フジイタカシ)

藤井隆

1972年3月10日生まれ。1992年に吉本新喜劇オーディションを経て、お笑い芸人として吉本興業入り。2000年にシングル「ナンダカンダ」で歌手デビューし、同年「NHK紅白歌合戦」に初出場する。数々のシングルのほか、2002年発売のアルバム「ロミオ道行」、2004年発売のアルバム「オール バイ マイセルフ」などで高い評価を得ながらも、2007年8月発売のシングル「真夏の夜の夢」以降はしばらくアーティストとしての活動を休止。2013年6月にニューシングル「She is my new town / I just want to hold you」で6年ぶりに個人としてアーティスト活動を再開した。その後はさまざまなアーティストとのコラボレーションも展開し、2015年6月におよそ11年ぶりとなるオリジナルアルバム「Coffee Bar Cowboy」をリリース。

西寺郷太(ニシデラゴウタ)

1973年11月27日生まれ。小学生の頃からマイケル・ジャクソンやPrince、Wham!などの洋楽に心酔し、独学で作詞・作曲を始める。1995年にNONA REEVESを結成し、1997年11月にシングル「GOLF ep.」でメジャーデビュー。初期はギターポップ色の強い楽曲を得意としていたが、1999年12月発売のメジャー2ndアルバム「FRIDAY NIGHT」を機にディスコ / ソウル色の強いサウンドを追求し始める。NONA REEVESとしてコンスタントに作品をリリースしながら、ソングライター / 音楽プロデューサーとしても活躍し、SMAP、V6、土岐麻子、bump.y、Negicco、岡村靖幸、花澤香菜、吉田凜音ほか多数のアーティストへの楽曲提供やプロデュースを手がけている。またマイケル・ジャクソンやWham!への深い造詣から評論、執筆の機会も多く、「新しい『マイケル・ジャクソン』の教科書」「マイケル・ジャクソン」「噂のメロディ・メイカー」といった著書も上梓している。