フジファブリック「PORTRAIT」インタビュー|原点回帰のアルバム「PORTRAIT」で描いたデビュー20周年の肖像 (2/2)

虚しさを感じるのも生きてるということ

──「月見草」(作詞・作曲:山内総一郎)は抒情的な雰囲気のミディアムチューンです。

人生に対してずっと心の中で思っていたことを羅列して、それを自分の中で整理して。「手紙」という曲に「さよならだけが人生だったとしても」というフレーズがあるんですけど、その中にもいろんな感情が含まれていると思います。当たり前だけど“うれしい”“楽しい”ばかりじゃなくて、寂しさ、悲しさもあって。そういう虚しさを感じるのも、生きてるってことだと思うんですよ。

──なるほど。メンバーの年齢もそうですけど、デビュー20年目だからこそ形にできた曲なのかも。

それもあると思います。なんて言うか、人は結局1人で生きていくわけじゃないですか。メンバーや家族もいるし、もちろん大切な存在だけど、孤独とどう付き合っていくかということも大事だなと思っていて。それ歌うには、ホンワカした曲というか、牧歌的なサウンドのほうがいいなと。「月見草」はメロディやサウンドが先にあって、そのあとはずっと歌詞を書いてました。楽しくて(笑)。

──どこか和のテイストが漂っているのもフジファブリックらしいなと。

この曲、メジャーペンタトニックスケール(民謡などでも使われる音階)なんですよ。作ってるときは自然が豊かな場所をイメージしてましたけど、確かに和の要素もありますね。メロディは自分としてもすごく気に入ってます。トロンボーンが入ってるんですけど、デモの段階では僕が口で歌ってて(笑)。それがそのまま採用されたり、わりとプリミティブな感じを形にできたのかなと。

──アルバムの最後に収められている「ショウ・タイム」(作詞・作曲:山内総一郎)はエンタメ性に富んだ楽曲ですね。ジャズからハードロックまで、多彩な要素が取り入れられてます。

「ショウ・タイム」はアルバム制作の最初のほうに作った曲で。僕はQueenの「ボヘミアン・ラプソディ」だったり、ルーファス・ウェインライトもそうですけど、ミュージカル調の曲が好きなんです。ルーファスが2022年のグラストンベリーフェスで(ミュージカル)「アニー」の曲を披露したのを観たときもめちゃくちゃ感動しちゃって。最初にお話しした「KARAKURI」もそうですけど、組曲的な楽曲をこのタイミングで作りたかったんですよ。実はティーンエイジャーだった頃から何度かトライしてきましたが(笑)、なかなかうまくいかなくて。

金澤ダイスケ(Key)

金澤ダイスケ(Key)

──20年以上挑戦してたんですね(笑)。

はい(笑)。どうしても取って付けた感じになっちゃうというか。でも「KARAKURI」と「ショウ・タイム」は頭から最後まで一筆書きみたいに作れたんですよね。自分としては「いろんな要素を取り入れました」という感じではなくて、一気に作ってこの形になったというか。特に「ショウ・タイム」は物語風に作れたかなと思ってます。晴れの日もあれば雨の日もある、いい日もあれば悪い日もある。早く進めるときもあれば、ゆっくりのときもある……そういう感じを表現できたのかなと。曲ができたとき、自分としては「やったぞ!」と思ったけど、デモを聴いてもらったらメンバーは困惑してましたね、最初。「うーん……なんですか、この曲は」って(笑)。

──(笑)。「どうやって演奏しようか?」ということですか?

はい。クリックを聴いているところと聴いてない部分があるんですよ、この曲。レコーディングでも「どうやってテンポ取る?」から始まって。でも、もともと一筆書きみたいに作った曲だし、演奏してみたら頭から最後までスルッといけちゃって。「ショウ・タイム」を聴いてくれた人から「(レコーディングが)大変だったでしょ?」と言われるんですけど、実際は思った以上にスムーズでしたね。

──それもバンドとしてのキャリアの賜物でしょうね。ライブでも盛り上がりそう。

僕らも楽しみにしてますけど、ライブだと気持ちが高ぶってるし、最初は大変なことになると思います。こんなこと言うと「自分に甘いな」と思われるかもしれないけど、「ちょっと失敗してるところを見てもらおう」みたいな感じもあります(笑)。今回のアルバムは、途中でテンポが変わる曲がけっこうあるんですよ。「Portrait」もテンポが細かく変化していて。そこも自分たちのこだわりですね。ハートビートというか、心拍数に合わせるようにデモを作っていたので、テンポが揺れるのも当然で。逆にテンポを一定にする“美学”もあって。「ミラクルレボリューション No.9」「Particle Dreams」などはまったくテンポが揺れてないです。

ギターボーカルになってからのほうが長くなった

──本当に多彩な音楽が反映されたアルバムですよね。いろんな要素が自然と混ざっているのもフジファブリックっぽい。

「みんなで音を出すとこうなる」というのもあるし、やっぱり20年やってることが大きいと思います。3人それぞれの音や言葉、もっと言えばしゃべってることや“その人がいる”という存在そのものがすごく重要で。それが合わさることでフジファブリックの音楽になっていると思うんです。自分でいうのもおかしいですけど、「このバンドじゃないとできないな」というのを全曲に感じますね。

加藤慎一(B)

加藤慎一(B)

──原点回帰を掲げたアルバムを作り上げたことで、バンドの可能性を改めて感じることもできたのでは?

それはめちゃめちゃありますね。制作もそうだし、ライブのリハでメンバーの演奏を聴いていても「こんなことができるんだったら、こういう曲を作ってみたい」というアイデアが湧いてくるんです。例えばソロ演奏のパートだったり、アウトロに入れるフレーズもそうなんですけど、新しい曲のインスピレーションをくれるのはやっぱりバンドのメンバーなので。やればやるほど、バンドという形態って面白いなと思います。ヘンなんですよ、バンドって。バンドマンという生き方自体が面白いし、メンバー同士が混ざることでどうしても歪さが出てきて。最高ですね。

──しかも変化し続けてますからね。「PORTRAIT」というタイトルではありますが、自己模倣感はまったくなくて、今の表現を貫いているところもいいなと。

そう言ってもらえると本当にうれしいし、ありがたいです。「アルバムごとに違うものを作ろう」というのは志村(正彦)くんとも話していたし、決めていたことでもあって。今回のアルバムもそこに忠実だったと思います。前に進めたいメンバーばかりだし、模索しながらではありますが、その心持ちでここまでたどり着いた感覚があるので。

──ということは、このアルバムも途中経過という感覚なのでしょうか?

そうなんですけど、できたてホヤホヤですからね。「ではまた新曲を作りましょう」と言われたら、「ちょっと待って」って思うかもしれない(笑)。まずはアルバムの新曲をたくさん演奏したいと思っていて。そこでメンバーから受け取るインスピレーションもあるだろうし、それを繰り返すことで、“次”が見えてくるのかなと。もちろん新曲は作り続けますけど、このアルバムのハードルはかなり高そうですね。

──確かに。山内さんの歌の表現も大きなポイントだと思います。自身のボーカルについて、今現在はどんな意識を持っていますか?

ソロアルバムで自分の歌に改めて向き合ったんですよね。テクニカルなこと、自分の内面的な部分も含めて、「うまくいってないな」という違和感があって。それをなくすための努力も続けているし、メンバーが書いた歌詞に込めた思いを何倍にもして届けたいという気持ちも強くなっています。メンバー全員の演奏に同じだけ責任があるとは思ってるんだけど、その中でも歌って届きやすいじゃないですか。自分のテンションやモチベーションの機微まで伝わってしまうし、とにかくまっすぐ歌うことを心がけて。なかなかうまくコントロールできないですけど、これからも研鑽を積んでいきたいです。

──ボーカリストとしてのキャリアも長くなってきましたね。

そうですね。フジファブリックのギタリストとしてデビューしたけれど、ギターボーカルになってからの年月のほうが長くなってるんですよ。「だったらもうちょっとうまくなってもいいんだけどな」って思いますけど(笑)、これからもがんばります。

──アルバム「PORTRAIT」から始まるデビュー20周年には、大きなライブも予定されていますね。

はい。まず4月14日にはLINE CUBE SHIBUYAで(「フジファブリック20th anniversary SPECIAL LIVE at LINE CUBE SHIBUYA 2024『NOW IS』」)。デビューシングルの「桜の季節」をリリースしたのが2004年4月14日なんです。そのあと、8月の東京ガーデンシアター(「フジファブリック20th anniversary SPECIAL LIVE at TOKYO GARDEN THEATER 2024『THE BEST MOMENT』」)、11月には大阪城ホールでくるり、ASIAN KUNG-FU GENERATIONとの対バン(「フジファブリック20th anniversary 3マンSPECIAL LIVE at Osaka Jo Hall 2024『ノンフィクション』」)があって。今年はツアーをやらないので、ファンの皆さんには御足労をおかけしますが、ぜひ会場に来てほしいなと思ってます。

ライブ情報

フジファブリック20th anniversary SPECIAL LIVE at LINE CUBE SHIBUYA 2024「NOW IS」

2024年4月14日(日)東京都 LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)


フジファブリック × ライブナタリー “FAB FUN” ~フジファブリック × アイナ・ジ・エンド~

2024年5月9日(木)東京都 Zepp Haneda(TOKYO)
<出演者>
フジファブリック / アイナ・ジ・エンド


フジファブリック20th anniversary SPECIAL LIVE at TOKYO GARDEN THEATER 2024「THE BEST MOMENT」

2024年8月4日(日)東京都 東京ガーデンシアター


フジファブリック20th anniversary 3マンSPECIAL LIVE at OSAKA-JO HALL 2024「ノンフィクション」

2024年11月10日(日)大阪府 大阪城ホール
<出演者>
くるり / ASIAN KUNG-FU GENERATION / フジファブリック

プロフィール

フジファブリック

2000年に志村正彦を中心に結成されたロックバンド。2004年にシングル「桜の季節」にてメジャーデビュー。2009年12月に志村が急逝し、以後は山内総一郎(Vo, G)、加藤慎一(B)、金澤ダイスケ(Key)にサポートメンバーを加えた形で活動している。代表曲は「若者のすべて」「夜明けのBEAT」「STAR」など。デビュー20周年を迎える2024年2月には新作オリジナルアルバム「PORTRAIT」をリリース。4月14日に東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)、8月4日に東京・東京ガーデンシアター、11月10日には大阪・大阪城ホールでくるりとASIAN KUNG-FU GENERATIONを迎えての対バンライブという、3本のアニバーサリーライブを開催する。