12月14日に東京・昭和女子大学人見記念講堂にて、ライブナタリーの企画によるフジファブリックとVaundyのツーマンライブが行われる。
2011年公開の映画「モテキ」で主題歌を担当したフジファブリック。この映画にはナタリー編集部が主人公の勤務先として登場したという縁がある。11年を経て今回ライブナタリーに出演するフジファブリックは、2019年の活動開始から飛躍を続けるVaundyと初めて対バンする。
ライブを前に、音楽ナタリーではフジファブリックの山内総一郎(Vo, G)とVaundyの対談をセッティング。互いの音楽に対する印象やライブに向けた意気込みなどを語り合ってもらった。今回の対談が初対面にもかかわらず、幼少期の体験やそれぞれの音楽性、歌詞に対するリスペクトなどで大いに盛り上がった2人。たくさんの共通項を見出した2組がライブ当日に見せるパフォーマンスにも注目だ。
取材・文 / 天野史彬
ライブ情報
ライブナタリー “フジファブリック × Vaundy”
2022年12月14日(水)東京都 昭和女子大学人見記念講堂
OPEN 17:30 / START 18:30
出演者
フジファブリック / Vaundy
自然と耳に入ってきていたお互いの音楽
──お二人が会うのは今日が初めてなんですね。
山内総一郎(フジファブリック) そうなんです。一方的には知ってましたけど(笑)。
Vaundy いやいや、こちらこそです(笑)。
山内 フジファブリックのこと、知っていましたか?
Vaundy もちろんです。フジファブリックは僕が音楽をちゃんと聴き始める前から活動されているバンドだし、自然に耳に入ってくるというか。普通にみんな知っているし、当たり前のように聴いていました。僕が初めて聴いたのは「若者のすべて」だったんですけど、あの曲がめちゃくちゃ好きで。もう消えちゃっているんですけど、半年くらい、勉強がてらYouTubeにカバーを上げていたことがあって、そこでも「若者のすべて」カバーしていたんですよ。
山内 カバーしてくれているなんて全然知らなかった。
Vaundy そのカバーもみんな喜んでくれていたから、「やっぱり、いい曲なんだな」って思いましたね。
山内 耳に届いてたんだなあ。僕がVaundyくんを知ったのは、確か最初はVaundyくんのサポートをやっているドラマーのBOBOさんから「今度、Vaundyっていう子とやるんだよ」という話を聞いたときだったと思うんだけど、そのあとすぐにラジオやテレビやネットからVaundyくんの音楽が聞こえてきて。何を最初に聴いたのかも覚えていないくらい、自然といろんな曲を聴いたし、気付いたら口ずさんじゃっている。掃除しながら、フンフン~(と、「踊り子」のメロディを口ずさむ)って(笑)。どういう人となりかも知らないまま、「素晴らしい音楽を作る人だな」と思っていて。
Vaundy ありがたいお言葉です……。
山内 僕らは今のVaundyくんの年齢くらいの頃にデビューしているので、けっこう歳は離れているんですけどね。自分のことを思い返して「あの年齢の頃にこんなことをできているなんて、天才だな」と思って聴いていました。
Vaundy いやいやいや、まだまだ勉強が足りないので……(笑)。
共通の原体験はおもちゃ作りとガンプラ
山内 いつから音楽を始めたの?
Vaundy 小さい頃から家で歌ったりはしていて。音楽は「やる」とか「やらない」という感じでもなく、当たり前のように歌っていたし、ギターも全然上手じゃないですけど弾いていたんです。そこから気付いたら音楽が仕事の1つになっていたという感じで。なので、もともとは「これがやりたい!」って音楽家になった感じではないんです。バンドも、高校の軽音部で1つ上の先輩と1回だけ組んだのが最初で最後。それ以降はずっとソロでやっています。
山内 出身は東京ですか?
Vaundy 生まれも育ちも東京です。「東京っぽくない」って言われるんですけど(笑)。
山内 「外国なのかな」って思っていました。親御さんやご兄弟が音楽をやっていたというわけではなくて、自分で好きで楽器とかをいろいろ触り始めたの?
Vaundy 母がジャズやハワイアンをクラブで歌っていたり、母方のおじいちゃんもジャズをやっていたりっていうのはあったんですけど、どちらもプロとかではなかったし、その影響というよりは、僕自身がもともともの作りが大好きで。絵を描いたり、段ボールを使って自分でおもちゃを作ったりしていたんです。おもちゃは買ってもらうより、欲しいものは自分で作る家庭だったので。そういうことの延長で、音楽をやっている感じでした。
山内 わかるなあ。僕も原体験が似ていて。僕は、子供の頃マンションに住んでいる時期があったんですけど、そのマンションの地下に飲食店やスーパーが入っていいて。そこに野菜や衣料品の段ボールが山のように捨ててある場所があって、要はゴミ捨て場なんだけど、僕にとっては宝の山だったんですよ。そこで拾ってきたダンボールを使って、ガンダムとか「聖闘士星矢」の聖衣(クロス)を自作していました。幼稚園のときも友達との交流はほとんどなく、1人で工作をやっているような子供で。でも、それでよかったんですよね。僕もそういう体験が創作の原点にあって、誰に何を言われようと、あの楽しさだけは忘れていないなって今でも感じるんです。
Vaundy 僕、ガンプラは作っていましたね。
山内 あれ、1個パーツ失くすとめっちゃヘコまへん?
Vaundy わかります。今まで何個ガンプラのパーツ失くしたかわかんないです(笑)。でも、パーツを失くしても気合いで完成させていました。プラ板でパーツを作ったりして。
山内 すごい! 俺、泣きながら母親に「バンダイに電話してー!」って言ってたよ(笑)。ガンプラも個数を買ってもらえなかったから、ガンダムやザクのパーツを合わせてキメラを作ったりもしましたね。
Vaundy 懐かしい。僕もやっていました。僕、説明書を見て作れないんですよ。なので説明書を見ずに作って「なんだこれ?」っていうのができたり。今自分がやっている音楽も「なんだこれ?」みたいなもんだと思うんですけどね(笑)。
山内 いやいや、Vaundyくんの音楽は、すごく整合性とれていますよ。空間の使い方もうまいし。
フジファブリックとVaundyが歌詞に求めるもの
Vaundy 僕、フジファブの、あの生々しい歌詞がすごいなと思うんです。聴いたらスッと自分の原体験になるような歌詞ですよね。僕は歌詞を書くと、けっこう曖昧にしちゃうんです。でも、フジファブの歌詞は、ハッキリしているところはハッキリしているなって思うし。あと「日本語だな」ってめちゃくちゃ感じます。
山内 英語をしゃべれないっていうのもあるんだけどね。
Vaundy 僕もしゃべれないです。「英語、しゃべれそうだね」とよく言われるんですけど、全然ダメで。
山内 でも発音はいいよね? Vaundyくんの歌は、母音の柔らかさとか、子音の引っかけるところとか、すごく上手だなと思っていて。言葉の意味という以上に伝えられる歌唱力があるのはうらやましいなと思うんです。
Vaundy でも、「もっと生々しさが欲しい」と思うんですよね。僕は曲作りの最後に歌詞を書くんですけど、僕の歌詞は「曲のメロディが言っていることの日本語訳」っていうイメージなんです。なので、どちらかというと言葉の意味は後付けで、言葉がどうリズムやメロとハマるかを優先しちゃう。そうすると、生々しさが足りないと思ってしまうことがあるんです。詩的ではない気がしてしまうというか。でも、フジファブリックをはじめ、日本のバンドサウンドの中にある言葉って詩的な言葉が多いなと思うんですよ。詩に重きを置き、詩に歌が付いている。僕は逆なので、もうちょっと生々しさが欲しくて。
山内 生々しさ……すごい捉え方だね。自分ではそこまで意識したことはないんだけど、みんながグローブを広げてくれていたら、そこに投げ込みたいっていう気持ちで書いているかな。
Vaundy フジファブリックの歌詞って、聴いている人のすぐ目の前で歌っているようなイメージがあるんです。僕はもっとふわついていて、聴いている人の頭の中で鳴るように歌詞を書いてしまう。でも、「目の前で歌っているな」と聴いている人が思える音楽のほうが日本っぽいと思うんです。僕の歌詞は、まだ音で感じる部分が大きすぎるというか、言葉のわからない洋楽を聴いているのに近い感覚なんじゃないのかなと思っていて。
山内 僕は、Vaundyくんの歌詞には引っかかりがすごくあって、そこがいいなと思うんだよね。「踊り子」だったら、「被害者面でどっかを また練り歩けたらな」っていう歌詞の、あの「被害者」と「面」の間。あそこにめちゃくちゃ引っかかりがあるじゃないですか。そこで一発で好きになっちゃう。「Vaundyくんってどんな人なんだろう?」って。
Vaundy ありがとうございます。「イメージと違う」とはよく言われますけどね(笑)。「もっとムスッとしていると思ってた」って。
山内 でもさ、BOBOさんと一緒にやっているということは、明るい人なんだろうなと思ってたよ(笑)。BOBOさんってずっとしゃべってるでしょ?
Vaundy めっちゃしゃべりますね(笑)。でも僕はしゃべってくれるのがうれしいです。BOBOさんってすごいですよね。フジファブリックでも叩いて、僕のライブでも叩いてくれて、世代をまたいでドラムを叩いている。そういえば僕、BOBOさんの息子の誕生日にベースあげたんですよ。
山内 へえ! セッションできるように?
Vaundy そうなんです。気に入ってくれているみたいで。
次のページ »
「若者のすべて」は世の中に何を届けたか