FRIENDSHIP.|ローンチから約2年、FRIENDSHIP.の広がりと新たな可能性

広がるFRIENDSHIP.の輪

──先程、Yutoさんがおっしゃっていた「デジタル上だと音源が並列になってしまう」という話は重要な指摘ですよね。リリースしてもなかなか知られなかったり、聴いてもらえなかったり、届けるのが難しいというか。

Yuto 昔はCDを売ることがゴールやったと思うんですよ。1回売っちゃえばその作品が聴かれようが聴かれまいが関係ないというか、そこに向けて全部のプランを組んでいたと思うんです。でも今の時代はサブスクを使えばほとんどの作品がリリース日から聴けちゃうじゃないですか。今までゴールやった音源を発売するところがスタートで、そこからどうやって広めていくかみたいに順番が逆になっている。だからアルバムだったら先行シングルを出すとか、リリース後にMVを公開するみたいに逆のプロモーションの方法をしていかないと、何万曲とある中で誰もそこにたどり着けないみたいな。

井澤 動線をあとで作る感じだよね。

Yuto そうそう、ライブとかDJイベントで音源を聴いてもらえるように動線を作る必要がある。例えばDJイベントで流れてた曲が帰り道にサブスクで聴けるとかね。ライブラリーにたどり着かせるための動線をどのように作っていくかが重要になってきている印象はありますね。

井澤 最近、みんなリリース日にライブするよね。ライブを観たあとにすぐ聴けますみたいな動線が多い気がする。

Yuto そういう意味で言うと、リリースとライブやフェスの連動の重要性が高まっていった時期にコロナ禍になったからダメージはありますよね。

──実際コロナ禍の影響ってありますか?

片山翔太(下北沢BASEMENTBAR)

片山 ライブハウスで働いている身からしても、去年は出会いがかなり少なくて。というのも大学生がサークルでバンドを組む、みたいな機会が本当にないらしいんですよ。そもそもサークルに行けないし、友達とも顔を合わせることができないみたいな。それは仕方ないことなんですけど、新しいバンドがなかなか出てこなくなった。それに代わって1人でやる人が増えた印象なんですけど、例年に比べると出会いは少なかったですね。

井澤 確かにソロで完結するバンド音楽が最近増えてきている気はしていますね。ある意味、マルチプレイヤーが増えている。プロフィールでドラムを始めたと書いているのにシンガーソングライターだったり、ドラマーって書いてあるのにドラムじゃない楽器をしていたり。こういう時期だからこそできる音楽を模索した結果、アレンジからトラックメイキングまで始めて、歌やラップまで自分で乗せてみるとかも増えたのかもしれない。あと人に頼んで制作している音源も増えていますね。歌ってもらうとか、ラップしてもらうとか、トラックメイキングをやってもらうみたいな。

片山 本人が歌ってない作品もけっこう届きますよね。

金子 FRIENDSHIP.の中でアーティスト同士の交流が生まれて、コラボレーションするというケースも増えましたよね。YutoくんがLITEやShe Her Her Hersの作品に参加していたり、FRIENDSHIP.のリリースアーティストが別のバンドのエンジニアをやっていたり、文字通りFRIENDSHIP.の輪が広がってきている感じがする。それこそ今後音源を送ってきたくれた人を、Yutoくんがエンジニアをやってブラッシュアップするのもありだと思うし。

井澤 前回そういう話したよね。

Yuto そうそう。音楽的にはいいんだけどFRIENDSHIP.で配信するクオリティにはない作品ってあるんですよ。それをプロデュースしたりエンジニアリングできる人がいれば、ブラッシュアップしてリリースすることができるかもしれない。それって面白いなと思って。でも、そこまでやるとデジタルディストリビューションとはちょっと違う話になってくるじゃないですか。

タイラ レーベルというか、事務所みたいな役割だよね。

金子 それが新しい形のプロダクションという見方もできるというか。個人的にそういう可能性も全然あるなとは思っています。

タイラ そういう意味で、さっき話した△の仕組みはいいなと思っていて。「ここさえ補完できたらリリースしたい」と思う音源に対して、コミュニケーションを0にするのではなくて、「このアーティスト気になるからもう1曲聴かせてほしいです」とかグレーなニュアンスみたいなものを拾えたらいいなという思いはありますね。

本来のサービス以外のアウトプット

──FRIENDSHIP.では、アウトプットの方法がたくさんある中で、FM福岡でラジオ番組「Curated Hour ~FRIENDSHIP. RADIO」をスタートさせました(参照:FRIENDSHIP.のラジオ番組がスタート、キュレーター厳選の音楽届ける)。これはどういう理由からなんでしょう。

タイラ 僕たちはアーティストの音楽をたくさんの人に聴いてもらうことを第一に考えているので、アウトプットの手段が多いに越したことはないんですよね。例えば人気のプレイリストに作品が入って楽曲再生回数がどんと増えても、ライブをするとそんなにお客さんは来ないことがあって。ストリーミングの数と、実際の活動のファンベースみたいなものがすぐにはイコールにならなかったりするんですよ。本来アーティストとしては音源がたくさん聴かれて、ファンベースもあって両輪うまく回ってる状態がベストなわけじゃないですか。それを解消する施策の一環として、ラジオを通してFRIENDSHIP.の音楽を届けられるのはいいことだと思うんです。

金子厚武

金子 僕は「Curated Hour ~FRIENDSHIP. RADIO」のコメンテーターをやらせてもらっていて、番組ではFRIENDSHIP.からリリースされる作品をワンコーラスよりちょっと短いぐらいだけど全部流すんです。ジャンルはバラバラなんだけど、自分なりに文脈を付けたり、個人的に好きな作品は濃く紹介したりとか。FRIENDSHIP.のジャンルレスな感じや面白みの部分を解説を付けて発信できるのはラジオの強みだと思います。

──なるほど。プレイリストの再生回数は多くてもライブの集客は弱いというのはよくある話なんですか?

井澤 プレイリストでめちゃくちゃ再生回数が伸びているアーティストのTwitterを見たら、フォロワーがかなり少ないみたいなことはありますね。そこが以前よりくっつかなくなったというか。

Yuto 昔はある程度そこがつながってた印象はあるよね。ライブにも行くし、CDも買うし、グッズも買うしみたいな。今って下手したらSpotifyやApple Musicを楽しんでいる人が、PCやスマホの画面すら見てない可能性がある。1日中プレイリストを聴いているだけで、その中のアーティストにリーチしない層はけっこういるような気がします。

井澤 有線やラジオに近い聴き方かもね。

Yuto でもラジオとの大きな違いとして、プレイリストだとアーティストの紹介が音声では出ないんですよね。それにプレイリスト自体ある程度の期間が経ったら更新されてなくなっちゃう。だから俺もいいなと思ったアーティストは意識的にライブラリーに追加するんだけど、やっぱり追いきれないこともある。そういった意味では、さっきタイラさんが言っていた両輪があることでアーティストが幸せになるって思うんですよね。

タイラ 個が見えている状態だよね。

Yuto うん。一度人気のプレイリストに入って再生回数がポーンと上がっても、次に出した作品は全然再生されへんみたいなことはすごくかわいそうというか。変に上げられて下げられるみたいな。FRIENDSHIP.のいいところって、もうちょっと人間の血が通っているところで。そこをより強化できたらアーティストの幸せにつながるのかなって。

意外性のある提案を

タイラダイスケ(FREE THROW)

タイラ そういう意味で僕は金子さんがキュレーターに入ってくれたことに可能性を感じているんです。昔のCDってライナーノーツが付いてたじゃないですか。僕はそれを読んで数珠つなぎ形式にいろんな音楽を聴いてたんですよ。そういうのが今の配信サービスにはないから、文面で出せる状態を作れたらいいなって。

Yuto 俺も子供の頃はTSUTAYAでライナーノーツ見て、そこに出てきたアーティストの音源を全部持ってきて試聴機で聴きながら、どれを借りるか吟味していたことがあるなあ。

井澤 TSUTAYA内でやってたんだ(笑)。

Yuto そう(笑)。当時はお金がないからパッと適当に借りて、よかったアーティストのライナーノーツから何個かメモって、それをまた引っ張ってみたいな。ちょっと話がズレますけど、毎週SpotifyとApple Musicが勝手に作ってくれるニューミックスが、だんだん面白くなくなってきちゃって。めっちゃ俺の空気読みだしたんです(笑)。

一同 (笑)。

Yuto アルゴリズムなのか、俺の好みの曲ばかり選ばれるようになってきた。一時期Apple MusicとSpotifyとDeezerでプレイリストを見付けまくって聴いていたんですよ。そしたら面白いことにDeezerはテクノ、Spotifyはヒップホップ、Apple Musicはインディーばかりみたいな感じになって。意外性のあるものが流れなくなっちゃったんですよ。

井澤 こっちとしては面白い提案が欲しいよね。こういうの聴いたことないっしょ?みたいなさ。

Yuto そうそう、ライナーノーツってそういうのがあったもんね。例えば「尊敬しているアーティストはこの人」って書いてあって、そのルーツをたどっていくんだけど音楽は全然よくないやんみたいな(笑)。

──確かに失敗も多かったですもんね。

FRIENDSHIP. キュレーターインタビューの様子。

Yuto でも、5年後にめっちゃいいって思うみたいなことってあるんですよね。

井澤 今の俺じゃわからない、みたいな音楽ってあるよね。

タイラ 確かに音楽を聴いたときに「あ、これSpotifyのプレイリストに入りそうだな」と思うものがある。でも、それがいい音楽かどうかはまた別な話なんだよね。Yutoが言うように、感覚的に「こんなのあまり聴いたことない」とか「今これやるんだ」っていうことの方が個人的にはグッときたりする。最適化されたものじゃない、歪でオリジナルなものに惹かれる感覚は、AIからじゃ得られないですから。

Yuto 音楽って、映画でもテレビでもニュースでも、エンタテイメントにおいてどこでも必要やないですか。その前提の中で、SpotifyやApple Musicが生まれて、音楽がコンテンツ化してきているというか、ネタ出し合戦みたいになっている。プレイリスト文化が強まってくると、プレイリストで強い音楽しか残っていかないことになっていく。そこにはまらない歪だけどいい音楽もあるのに、忘れ去られていくみたいな。それは自分で音楽を作っていてめっちゃ思うことでもあるんです。例えば「こういう終わり方だと、プレイリストで次の曲につながるとき違和感が出るやろ」とか「ほんまはアルバムの1曲目から15曲目があったら、こうやった方が自分の作品はよくなるけど、シングルカットしてプレイリストに入っていくから、こうやって終わらせておこう」みたいな考えをしなきゃいけないケースも多いと思うんです。

沙田 単曲で完結するような感じにしちゃうとか。

Yuto そうそう。アルバム全体で聴いたときの作り方とまた全然違う。それはクリエイター側のジレンマとしてあるのかなって。曲の構成もサウンドデザインもすごく変わってくると思う。

井澤 今、逆に抑揚を付けない音楽が流行ってるじゃん。それってプレイリスト効果なのかなって俺はすごく思う。

Yuto だって、日常生活の中でうるさい音楽聴きたくないもんね。

片山 フェス受けする音楽がガンガン出ていたのとちょっと似ている感じがする。

Yuto もしかしたら、それは音楽の性質なのかもね。昔はそれがラジオやったし、テレビやったし、メディアによって変容していく部分があるというか。

沙田瑞紀(miida)

──沙田さんも作る側として、考え方の変化はありますか?

沙田 プレイリストに入りたいなという気持ちはあります(笑)。ただ、それがどのぐらい作曲に影響するかはわからないです。プレイリストに入ること自体はチャンスではあるけど、そこはあまり考えない方がピュアなものができると思うんです。

Yuto 確かにそこに入るための曲作りって、どうしてもできないよね。

沙田 そうですね。それはなんか違う気がします。

スタジオ「FS.」の可能性

──コロナ禍において、配信ライブや映像収録ができるスタジオ「FS.」もオープンされました。このスタジオはどういう考えのもと生まれたものなんですか?

タイラ さっき言った両輪のうち、ストリーミングではないアウトプットを増やそうという考えで生まれたものです。配信リリースの場合、店舗でのインストアライブがしづらいじゃないですか。FRIENDSHIP.がそういう場所を提供できたらいいんじゃないかと思ったのも理由の1つです。ほかにもアナログ盤を作って「FS.」だけで売るみたいなイメージもあったんですけど、ちょうどいい場所が見つかった時期にコロナになったので、スタジオのほうに完全に振り切ったんです。実際にお客さんを入れる予定はまだないんですが、お酒を充実させたバーカウンターもあるんですよ(笑)。

Yuto そこだけはこだわりたかった(笑)。

井澤 この前実験的にLITEのレコーディングをしたんですけど、思いの外録れました。それにうちの楠本(構造)がエンジニアもやっているんです。

Yuto 機材はすごくいいのを入れたんですよ。

タイラ 音響機材はYutoが見てくれたんだよね。今後はFRIENDSHIP.が間に入って、「FS.」でレコーディングした音源のリリースをシリーズ化できればと考えています。基本的には配信や収録に特化しているんですけど、いろいろな使い方ができる場所になればいいなと。奥冨くんが実店舗を大切にしているのと一緒で、コロナが収まったら何かやりたいですね。

奥冨直人(BOY)

奥冨 お店って人やものが集まる場所で、その可能性をずっと模索しているんです。お店もバンドと一緒で、いろいろな人と対バンしながら成長したり変化したりしていく。自分がサブスクとかインターネットで感じたことを最終的には店でも広げていって、そういう場所を守りたい。いつでも何かが生まれるような環境作りはしたいなと思うんですね。そういう場所がアーティストの活力になったり、音楽だけじゃなくても、もっと広いところでお客さんの日常の彩りとしても大切なものになっていくはずなんです。

──それでは最後に。FRIENDSHIP.の今後の展望を教えてください。

タイラ 4つあるんですけど、まず1つ目に、FRIENDSHIP.をグローバルにアプローチしていきたい。そこはキュレーターを増やしたり、切磋琢磨しながら考えています。2つ目はプレイリスト以外のアウトプットを増やし続けること。3つ目はサービス内容をもっと研ぎ澄ませていくことで、コラボとコライトとかFRIENDSHIP.内の化学反応を作っていくのもめちゃくちゃ大切だなと思っています。4つ目はさっき言った両輪のリアルなファンベースを固めるために、SNSをどうやって使っていくべきなのか、YouTubeをどう整えるべきか、そのほかにもアーティスト活動に必要な知識をティーチングしてあげられたらと思っていて。両輪がイコールになるように、アーティストがしっかりいい活動ができるようにサポートしてあげたい。去年から引き続きですけど、この4つを中心にやっていきたいですね。

FRIENDSHIP.×音楽ナタリー オリジナル楽曲募集企画

応募期間:2021年3月23日(火)19:00~4月16日(金)23:59