FOMAREが9月24日に新作EP「overturn」をリリースする。
今年結成10周年を迎えたFOMAREは、6月4日に新曲「サウンドトラック」を発表。同日にライブツアー「揉みに揉まれて10周年ツアー」をスタートさせ、全国のファンを熱狂に導いた。「overturn」のリリースはこのツアーファイナル当日に発表されたが、その直後にメンバーの“柿ピー”ことオグラユウタ(Dr)が脱退することに。バンドが大きなターニングポイントを迎えた中でリリースされる今回のEPには、FOMAREにとって新たな挑戦が多数詰め込まれている。
「overturn」のリリースを記念し、音楽ナタリーではアマダシンスケ(Vo, B)とカマタリョウガ(G, Cho)にインタビュー。10周年ツアーや新作の収録各曲、リリース前日の9月23日に控える無料ワンマンライブ「愛する人、場所」など、幅広いトピックについてたっぷりと語ってもらった。
取材・文 / 小林千絵撮影 / 須田卓馬
10年もやるなんて思っていなかった
──7月に終えた「揉みに揉まれて10周年ツアー」はいかがでしたか?
アマダシンスケ(Vo, B) めちゃくちゃいいツアーでしたね。作品のリリースに紐付かないツアーって男性限定ツアー(2019年と2023年開催の「small sausage tour」)くらいしかやったことがなかったんですが、楽しかった。
カマタリョウガ(G, Cho) しかも全会場ソールドアウトで。
アマダ うん、うれしかったですね。
カマタ やってみて改めて感じたのは、FOMAREのお客さんってめちゃくちゃいいやつが多いんだなということ。
アマダ わかる!
カマタ 俺らの言うことを聞かない人とかもいないし、女の子が多すぎるわけでも、男の子が多すぎるわけでもない。自分たちに似た人たちが集まっているんだなと感じました。
アマダ 音楽もですけど、俺とカマタと、当時は柿ピーさんの3人の人間性も愛してくれていたんだなってすごく感じたんですよ。10年の間にそういうファンがどんどん増えていって。FOMAREのライブはモッシュダイブも起こりますけど、みんなが楽しめるようにお客さん同士で助け合ってる。だからすごく安心して歌えたツアーでした。
──そもそも結成当初、10年後の姿というのはどういうものを想像していましたか?
アマダ 結成当初からずっとライブをしていたので、あまり想像する余裕はなかったかも。「とりあえず来年も何か曲を出したいな」と思っていたくらいで。
カマタ なんなら10年もやるなんて思っていなかったし。結成した当時は大学生だったので、卒業したら就職しようと思っていて。バンドは「楽しいからやっている」という感じだったのに、気付いたら……。
──就職という選択肢もあったうえで、結局その道を選ばなかったのはどうしてなのでしょうか?
カマタ 思ったより人気が出たから(笑)。バンドだけでいけそうだなと思って、大学も辞めちゃいました。
──実際に、FOMAREは結成から3年後にはsmall indies tableからリリースをして、着実にライブ会場の規模も大きくなっていっていますが、お二人としてはうまくいっていた10年でしたか? それとも苦しかった?
カマタ いや、今でもこうやって熱い思いでできているってことはやっぱり順調なんじゃないかなと思いますね。いまだにバンドをやりたくてやってるし。全然苦じゃない。
──正直、辞めたいと思ったことはありますか?
アマダ 本気で辞めたいと思ったことはないけど、スランプの時期はつらかったです。2020年くらいですかね。初めて47都道府県ツアーをやったときくらい。そのときもドラムがいなくて、ツアーファイナルで柿ピーさんが入ってくれたんですけど。その頃は「勢いとか若さだけじゃ、この人気は保てないな」ということを感じ始めたタイミングでもありました。しかもちょうどコロナ禍に突入して。
──コロナ禍といえば「長い髪」や「愛する人」などがバイラルヒットしていた時期でもありましたよね。その裏側で迎えていたスランプはどうやって乗り越えたのでしょうか?
アマダ 自分の中で納得いく曲が書けていない気がしただけで、それをライブでやってお客さんに発信していくうちに自然と解決できたのかな。隣でカマタがギターを一生懸命考えてくれて、柿ピーさんが一生懸命ドラムを叩いてくれるんだから、お客さんに届けてから答え合わせしようと思えた。
──カマタさんは辞めたいと思ったこと、もしくはそこまでは思わなくとも、バンドが面白くないと感じることはありましたか?
アマダ なくはないんじゃない?
カマタ うん。でもだからこそ、そうならないように自分が面白いと思うことを提案し続けています。バンドに夢中でいられるように、フェス(「FOMARE大陸」)をやってみようとか、若手と対バンしたいからサーキットイベント(「SLAM CIRCUIT」)をやろうとか。そういうことを1年中話していますね。
──確かに、FOMAREはずっと主体的に何かしらをやっていますよね。
カマタ よく言われます、それ。「君たちはずっとなんかやってるね」って。
自分の気持ちを前向きにするための曲でもある「サウンドトラック」
──先ほど、2020年あたりから勢いや若さだけじゃ続けていけないことを感じ始めたとおっしゃっていましたが、それについて今はどう考えていますか?
カマタ それは最近もまた感じていて。この間も、同い年のSIX LOUNGEの(ヤマグチ)ユウモリと話していたんですよ。「暴れるだけじゃなくて、ちゃんといいものを届けたいし、残したいよね」って。俺らは日本語で、自分たちのメッセージを伝えたくてやっているんだから。
アマダ ライブバンドとして認められたいし、どれだけ大きな会場でやれるようになったとしても「やっぱりFOMAREはライブハウスだよね」と言ってもらえていることはすごくうれしいし、誇りですけど、最近は「ホールも感じられるバンドだよね」と言われるバンドになりたいなとも思っていて。それこそ10年間、めちゃくちゃライブハウスでやってきたから、これからはシフトチェンジ……まではいかないですけど、ホールでのライブを想像できるような活動をしていきたいなと思っています。
──その話を聞いたうえで、新作として作ったのが“覆す”という意味を持つ「overturn」だと思うとすごく納得できますね。
カマタ そうなんですよ!
──ではまず、「overturn」にも収録されている先行配信楽曲「サウンドトラック」について聞かせてください。発売前にアマダさんが「いつも昔のことを振り返ってばかりで、あの頃は楽しかった。青春を生きていたとか浸ってるけど、今が1番青い! 青い!」とSNSで投稿していましたが、どういう思いで作った曲なのでしょうか?
アマダ 僕は来年30歳になるんですけど、10代から20代になるときのワクワクやドキドキが、30代になる前の今、なくて。そんなことを考えていたら書きたくなった曲です。「何歳でも、今楽しくいられたらいいでしょう」という、自分の気持ちを前向きにするための曲でもあります。
──リリースのタイミングも相まって、てっきりオグラさんへの気持ちを書いた曲なのかと思ってしまいました。
カマタ 確かに「ありがとうごめんよ」とかそれっぽいですね。
──「永遠に続くって信じてた」とか。
アマダ 確かに。でも柿ピーさんへの曲ではないですね(笑)。この曲を作ったときはまだ柿ピーさんが抜けることも決まってなかったですし。ただ、お客さんの中には柿ピーさんのことを考えながら聴く人もいるだろうし、それで悲しい気持ちになってくれても全然いいです。
──サウンド面で言うと、サビの後ろで鳴っているギターがいいアクセントになっていますよね。
カマタ いいですよね。この曲はトイズファクトリーからリリースする最初の曲だったので、新しいFOMAREも見せたいと思って。
──編曲にはakkinさんが入られていますが、やりとりはどのように?
カマタ メロディとか主なフレーズは自分たちで考えたんですけど、絶妙なコード進行などはakkinさんが提案してくださって。かなり勉強になりました。
アマダ 10年間ほとんどメンバーだけで作ってきたんですけど、このタイミングでプロデューサーさんと一緒にやるのはすごくいいことだなと。素直にそう思えたのもよかったですね。5年前だったら俺かカマタのどっちかが「嫌だ」って言っていたと思う。
カマタ そうだね、たぶん言ってた(笑)。でも今は「純粋に勉強させてほしい」という気持ちになれたし、何よりもakkinさんがめちゃくちゃいい人なんですよ。しかも今群馬に住んでいて。
──同じ群馬に住んでいるというのはFOMAREにとってはすごく大きな共通点ですね。
カマタ そうなんですよ。もう大好きです。
──「大人びた風で恥ずかしいけど」と歌詞の中でも触れていますが、歌詞は青春感のあるフレッシュな内容ですよね。
アマダ はい。こういう学校を感じさせるような曲って意外とFOMAREにはなかったんですよね。これまでは恋愛を歌う曲が多かったから。昔の青春ドラマを観返していて「こういう世界観いいな」と思って書きました。
カマタ 確かに“学校感”あるよね。甘酸っぱい感じ。
アマダ そう。これまではその甘酸っぱさを出すのがちょっと恥ずかしかったんです。だけど、これから30代になって、40代になって……とこれ以上大人になったら、もっとそういうものを歌えなくなる気がした。今だったら間に合うかなと思って書きました。
──この曲に限らず、今作では全体的にこれまで歌ってきたような恋愛の曲が少なくなった印象があります。FOMAREはこれまでアマダさんの個人的な恋愛を歌ってきていましたが、今作では恋愛を歌うにしても、個人的な出来事に感じさせないような書き方をしていたり、俯瞰していたりするものが多いなと。それも、先ほど話していたようなホールも似合うバンドになりたいというところから?
アマダ うーん……単純に最近あんまり恋愛してないからかも(笑)。昔のような革命的な恋愛をしていないから、自然とこういう歌詞になってしまっただけというか。あと、もっとたくさんの人、幅広く曲を届けられたらいいなと思い始めたタイミングでもあったから、そういう気持ちが自然と乗っているのかもしれないです。
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10周年を迎えた自分たちを描いた「宝物」