裸の自分が本当の自分なのか?
──先ほど、鈴木さんは今作の曲に関して「今、体から出てきた曲」とおっしゃいましたけど、それは具体的にどういうことなのでしょうか?
鈴木 まあ、俺も今年で53歳だから。フィジカルのことを気にせずにいられなくなっているっていうのはあるよ。膝が痛いとか、よく靴擦れするようになったとか、白髪が増えたとか、シミが増えたとか。そういう体の変化を感じるし、今まで放っておいてよかったことが気になってきた。特にコロナ禍以降、そういうことをよく感じるようになって。少し前まで当たり前にできていたことができなくなってきたり、現状を維持するだけでもある程度努力をしないといけなくなってきたりもする。そうなると、意識の持ちようとして頭の中で考えるよりも、体全体で考える必要が出てきたっていうのはあるよね。あと、体重を落としたりもしたから、そういうこともあって、体に興味が向いたっていうのはあると思う。
──今作は、鈴木さんの歌い方にもこれまでと変化があるのかなと思うんです。軽やかというか、“歌を届けるための歌”という感じがしました。
鈴木 確かに歌うときにあんまり力を入れないようにしたかな。「2月26日」は父親が亡くなったときのことを歌っているんだけど、この曲が今までで一番、力を入れずに歌ってるかもしれない。俺はずっと力を入れて歌ってきたタイプだけど、そもそも歌って、力を入れれば入れるほど声は出なくなるものなんだよ。それは頭ではわかっていたことなんだけど、マイクを前にするとどうしても力が入っちゃうところがあって。でも、気持ちを入れながら力を抜くっていう歌い方を、やっとちょっとずつできるようになってきたかもしれない。
──本作の最後に収録された「右脳と左脳」は、右脳と左脳をモチーフにして、人間という存在に問いやメッセージを放っている曲という印象がありました。この曲は、歌詞の中で明らかに戦争を想起させる部分もあるし、同時代的なメッセージソングなのかなと思ったんです。
鈴木 「アメリカン・ユートピア」という、Talking Headsのデヴィッド・バーンのアルバムをもとにした映画があって。あの映画の冒頭で脳みその模型を持ってきて、「私たちは今、この部分が退化しています」みたいな感じで説明する場面があるんだけど、それがすごく面白くて。この曲の3番の「殺りたいなら 殺ってもいいんか?」から続く部分は確かに戦争のことも含めて歌っているんだけど、ノンフィクション作家の森達也という人が言っていた「戦争に関してひとつ言えるのは、“今やらないとやられる”っていう感覚があるから攻撃するんじゃないか」という言葉がずっと引っかかっていて。それが、この歌詞につながっている。ただ、全部質問系なんだよね。「今、こういうことを考えないとまずいんじゃない?」っていう。……ここまで説明するとダサいかな(笑)。
──いやいや。「借りもの競走」や「絶賛公開中」は、“借り物”や“演技”というモチーフを通して、自己に問いを投げかけているように聞こえました。言ってしまえば、「本当の自分とはいったいなんだろうか?」というような。
鈴木 そうだね。「裸の自分が本当の自分なのかな?」という疑問もあるし。人間って常に何かを演じている生き物なんじゃないのかっていう。今、こうやってフラワーカンパニーズは取材を受けているけど、「取材を受けている自分を演じている」ということなんじゃないのかとも思うんだよ。「演じている」なんて言うと悪く捉えられるかもしれないけど、そうじゃなくてね。部屋で1人でいるときだって、人はどこかしら、何かを演じているのかもしれない。要は、“人間”というものを演じているんじゃないの?っていう。ややこしい話になってくるけど。そもそも獣だったはずの存在が、人間という常識を演じている。そうじゃないと、社会的に生きていけないから。
──そうですよね。
鈴木 「借りもの競走」に関して言うと、ロックミュージックというもの自体が、欧米からの借り物なんじゃないの?という視点もあって。今の若い子はそうでもないと思うけど、俺らの世代くらいまでは、洋楽に対してちょっとうしろめたさを感じている部分もあるんだよ。「これって借り物じゃん」というコンプレックスがある。あとはもっと大きく言うと、「この肉体だって借り物なんじゃないの?」ということ。それこそ、「本当の自分ってあるの?」という。俺はずっと“本当の自分”を見つけたくて歌ってきたと思うんだよ。だからこそ、外に向かって歌うタイプではなくて、内省的な方向を突き詰めて歌ってきたんだけど、それは“本当の自分”というものがあると思って探してきたのか、それとも、ないかもしれないけど探そうとしていたのか、自分でも定かではない。でも、「本当の自分ってあるのだろうか?」という問いが、最近出てきたんだよね。たまねぎの皮みたいなもので、皮を剥いていけば、最後に宝物みたいな“本当の自分”が出てくると思っていたのかもしれないけど、最近は「皮だけしかないのかもしれないな」と思い始めた。
「本当の自分はあるのか?」という謎に向かって
──前に、森田真生さんの「数学する身体」という本を読んだときに、AIとか人工知能と呼ばれるものの礎を作った数学者のアラン・チューリングは、人の心を解き明かそうとする自分の行為を「たまねぎの皮を剥く」と表現していたと知って。今、そのことを思い出しました。たまねぎの皮を剥いていった先に何があるのか……。
鈴木 何もないのかもね。
──それがわからない(笑)。
鈴木 そうなんだよ(笑)。そこを、いろんな人が考えているんだろうね。話が大きくなっちゃうけど、あらゆる学問や芸術って、「本当の自分はあるのか?」とか「なんで生きているの?」とか「なんで死ぬのか?」とか、そういう謎に向かっていく、そのために存在するんだと思う。音楽だってそうだよ。だから、芸術だって無駄なものではないんだよね。いろんな謎に対して、「こういう考え方もありますよ」と示すものなんだから。
──そういう意味で、この「ネイキッド!」というアルバムには、「自分とは何か?」という問いや、「バンドとは何か?」という問いが、大きな謎として刻まれている感じがします。
鈴木 謎は謎のままなんだよ。
──でも、その巨大な謎が、すごくシンプルでファンキーなバンドサウンドに乗せられているという点が、「やはりフラカンだなあ」と思うし、「ロックンロールバンドだなあ」と思います。
鈴木 そうそう、こういう話をするとすっごい難しいアルバムだと思われるかもしれないけど(笑)、普通に聴きやすいアルバムができたと思う。
マエカワ 俺は、今回のアルバムは37分で終わっているところがすごく気に入ってる。アルバムを1枚通して聴くことってどんどん少なくなっているでしょ。それに、昔のソウルのアルバムなんて30分ないくらいの短いものもあるけど、「自分たちはなかなかそういうものが作れないな」と思っていた中で、19枚目のアルバムにして、こうやってコンパクトなアルバムができた。それは単純にうれしいことだよね。
──改めて、こんなにシンプルで楽しいアルバムなのに、こんなにも問いが深いアルバムというのは、やはりフラカンが突き詰めてきたものの重みを感じますね。
マエカワ そこは、鈴木圭介だからね(笑)。「軽いものを作ろう」と言ったところで、「十年後」みたいな歌詞も曲調も重い曲も出てくるわけで。でも、それはそれでいい。それがフラワーカンパニーズだからね。
公演情報
フラワーカンパニーズ ワンマンライブ「ゾロ目だョ全員集合!~フラカン33年、野音99年~」
2022年9月23日(金・祝)東京都 日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)
フラワーカンパニーズ・ワンマンツアー「いつだってネイキッド'22/'23」
- 2022年11月5日(土)茨城県 mito LIGHT HOUSE
- 2022年11月6日(日)栃木県 HEAVEN'S ROCK Utsunomiya
- 2022年11月17日(木)大阪府 FANDANGO
- 2022年11月19日(土)広島県 Live space Reed
- 2022年11月20日(日)香川県 DIME
- 2022年11月27日(日)北海道 PLANT
- 2022年12月3日(土)神奈川県 F.A.D YOKOHAMA
- 2022年12月9日(金)京都府 磔磔
- 2022年12月10日(土)京都府 磔磔
- 2023年1月21日(土)福岡県 LIVE HOUSE CB
- 2023年1月22日(日)福岡県 LIVE HOUSE CB
- 2023年1月28日(土)岩手県 Club Change WAVE
- 2023年1月29日(日)宮城県 SENDAI CLUB JUNK BOX
- 2023年2月4日(土)愛知県 ElectricLadyLand
- 2023年2月5日(日)大阪府 umeda TRAD
- 2023年2月25日(土)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
- 2023年2月26日(日)東京都 渋谷CLUB QUATTRO
- 2023年3月11日(土)群馬県 高崎CLUB Jammer's
- 2023年3月18日(土)熊本県 Django
- 2023年3月19日(日)鹿児島県 SR HALL
- 2023年3月21日(火・祝)鳥取県 米子 AZTIC laughs
- 2023年3月23日(木)兵庫県 神戸VARIT.
- 2023年3月25日(土)愛知県 豊橋club KNOT
- 2023年4月1日(土)青森県 青森Quarter
- 2023年4月2日(日)秋田県 Club SWINDLE
- 2023年4月8日(土)石川県 Kanazawa AZ
- 2023年4月9日(日)長野県 ALECX
- 2023年4月15日(土)神奈川県 小田原姿麗人
- 2023年4月16日(日)静岡県 Sunash
- 2023年4月22日(土)高知県 X-pt.
- 2023年4月23日(日)岡山県 PEPPERLAND
- 2023年4月29日(土・祝)滋賀県 COCOZA HALL
- 2023年4月30日(日)三重県 club chaos
プロフィール
フラワーカンパニーズ
1989年4月に鈴木圭介(Vo)、グレートマエカワ(B)、竹安堅一(G)、ミスター小西(Dr)の4人により名古屋で結成されたロックバンド。地元・名古屋を拠点とした精力的なライブ活動を経て、1994年に上京。1995年にアルバム「フラカンのフェイクでいこう」でメジャーデビューを果たす。2004年に発表された楽曲「深夜高速」は、ファンのみならず多くのロックファンから愛され続け、バンド結成20周年を迎えた2009年には「深夜高速」をさまざまなアーティストがカバーしたコンピレーションアルバム「深夜高速 -生きててよかったの集い-」がリリースされた。2015年12月には、結成26年目にして自身初となる日本武道館公演「フラカンの日本武道館 ~生きててよかった、そんな夜はココだ!~」を開催。2017年6月には自主レーベル「チキン・スキン・レコード」を立ち上げた。2022年9月に19枚目のオリジナルアルバム「ネイキッド!」をリリースし、日比谷公園大音楽堂(日比谷野音)でのワンマンライブ「ゾロ目だョ全員集合!~フラカン33年、野音99年~」を開催。さらに11月より全国ツアー「いつだってネイキッド'22/'23」を行う。