結成33周年のフラワーカンパニーズ、“裸”のままの4人をぶつけたアルバム「ネイキッド!」 (2/3)

今までのフラカンを壊した「借りもの競走」

──やはりコロナ禍を経て、ツアーを再開し、改めて自分たちを見つめ直したことが、この「ネイキッド!」にも影響を与えていると思いますか?

マエカワ そうだね。小西が言っていたように、ツアーができなかったこの2年間でよかったこともあって。考える時間ができたことで、特に演奏に対しての気付きはたくさんあった。「自分はこういうことができていなかったんだ」という気付きがそれぞれあって、それがバンドにフィードバックされているところは多々あると思う。単純に、演奏が前より丁寧になったよね。ライブではもちろんエモーションを爆発させるけど、丁寧に演奏することを前提として爆発させることと、何も考えずに流れでやることは全然違うから。そう考えると、悪いことだけではなかったなと思う。もちろん、コロナが起こしたこの状況は誰にとってもよくないことなんだけど、ネガティブなことばかり言い続けても仕方がないしね。

──鈴木さんはどう思われますか?

鈴木 時間があったから、いろいろ考えたよね。いろんな音楽も聴けたし。惰性でやってきたことを考え直したり。これからもっと考えたいこととして、「4人組バンドの構造ってこれでいいのかな?」というのも出てきたし。もちろん、今までのやり方もそれはそれでありなんだけど、例えばドラムが当たり前のように8ビートを叩いて、周りもそれに合わせていく感じとか、歌に関してもそうだけど、なんの疑問もなくやっていたことってあるんだよ。それを壊せないかなって。そういう感覚は、この2年間で自分の中で出てきた。ポストパンクの時代の人たちみたいな、全部を解体させていく感じというか。あの感じが、ちょっと自分の中でキテるっていうのはあるかもしれない。

マエカワ 今回、そういう感じで作った曲もあるからね。

──おそらく、3曲目の「借りもの競走」ですよね?

マエカワ そうそう。この曲は、最終的にはまとまったけど、制作過程では壊せるところまで壊したから。面白かったね、これは(笑)。

鈴木 この曲に関しては、「いい曲を作る」ことが目的ではなかったから。いいとか悪いとかより、「今までやったことのないことをやろう」というのがこの曲の目的で。そもそもは歌のコード進行だけなんとなくあったんだけど、そのコード進行をどんどん壊していって。自分としては、ヒップホップとまでは言わないけど、今までしてこなかったような韻の踏み方をしたし、ギターもベースもドラムも、手癖じゃない、「今までやったことのないことをやって」と言って。だから曲がまとまるのにすごく時間がかかった。途中でわかんなくなっちゃうところまでやったからね。「大丈夫か、これ?」って(笑)。この曲は、途中経過を聴かせたいくらいだよ。竹安も、「どう弾いていいかわかんない」って言ってたもんね。

竹安 うん、今までの弾き方が染み付いちゃっているから、もうギターを弾かず、別の楽器をやっちゃえばいいんじゃないかっていうくらい考えた。

竹安堅一(G)

竹安堅一(G)

小西 ドラムも、「いつもと違う筋肉を使わないと」っていうレベルだった。頭で理解しないと、筋肉もそれを超えていかないし。でも、それに挑戦してよかったし、無理をしてでも手癖から離れるということをやってみて、「これでいいんだ」と思えたことは大きかったと思う。曲として残せたこともよかったと思うし。

マエカワ 自分たちの演奏に、研究者みたいに向き合ったよね。「完成しなかったらそれでいいや」くらいの気持ちで作っていくという。それは楽しかった。ただ、あまりにも壊しすぎて「お客さんが楽しめないのはどうなんだろう?」というのも考えながら、最終的にはこの形になったんだけど、鈴木から「サビは俺が歌わず、3人で歌うのはどう?」という話が出て。それもこれまでのフラカンを考えれば壊れた発想だし、面白いなと思ってやってみた。こういう曲があると燃えるよね。

──鈴木さんがおっしゃるポストパンク的な発想というのは、改めて伺うと、どういったところから出てきたものなんですか?

鈴木 単純に、もともとそういう音楽が好きで。ポストパンクというか、俺としてはニューウェイブという言い方のほうがしっくりくるけど、あの時期の音楽が好きだし、今のイギリスのインディーズシーンでは、ポストパンクを感じさせるバンドがぽんぽん出てきている。Yard Actとか、Courtingとか、Dry Cleaningとか。その辺りをサブスクで聴いている時期があって、面白かったんだよね。ヒップホップはそんなに聴かないし、ダンスミュージック系も苦手だから、「最近の音楽にはついていけないな」と思うことが多かったんだけど、イギリスのインディーズシーンは俺でも「カッコいいな、新譜を聴きたいな」と思う若い人たちがけっこういて。「自分がときめけるものがまだあったんだ」と思ったんだよね。そういう人たちに出会えるならサブスクも悪くないなと思ったな。

──なるほど。

鈴木 ただ、フラカンのアルバム全体を「借りもの競走」みたいな方向にしようとは思わないんだけどね。それをやると俺たちはバラバラになっちゃうと思うし、そういうのはお客さんも望んでないと思うから。でもアルバムに1、2曲はこういう曲があってもいいのかなと思った。特に今回は「行ってきまーす」にしろ、「歌のネイキッド」にしろ、いわゆるフラカン節が入っている曲はすでにたくさんあったし。だからこそ、「借りもの競走」を作れたっていうのもあると思う。

影響を受けたものへの感謝

──前作「36.2℃」の制作では、前提としてアルバム複数枚分くらいの曲のアイデアがあったというお話がありましたよね。その中には、マエカワさんと竹安さんが作詞作曲した曲もあったと伺いましたが、今作にはその時期に作られた曲もあるんですか?

鈴木 いや、前回のストックは一切使っていなくて、今、体から出てきた曲を作っていった感じだった。リーダー(マエカワ)が作った曲も入っているけど、例えば「私に流れる69」なんかは、リーダーが曲を持ってきて「こういう歌詞を書いてほしい」という提案があって書いたんだよ。

──「私に流れる69」の歌詞は、鈴木さんが自身に影響を与えたマンガや映画、音楽などの固有名詞を羅列していくスタイルですが、マエカワさんとしては、このアイデアはどういったところから生まれたものだったのでしょう?

マエカワ この33年間、鈴木が歌詞を書いて、この20年近くは曲もほとんど鈴木が書いて、2年に1枚はアルバムを出して、という感じでやってきたけど、単純に「大変だよな」と思っていて、「アイデアは出したいな」とずっと思ってたんだよ。そこで、鈴木の好きなものを羅列して、それに感謝する曲を作ったら面白いかなと思って。鈴木が曲を作る場合はまず歌があることが多いんだけど、俺が作る場合は構造からというか、ガワから作る場合が多いんだよね。「人は人」もそう。竹安が最近コーラスとか歌に積極的になってきたから、「竹安がワンフレーズ歌う歌詞にして」と伝えて。

鈴木 「私に流れる69」で羅列したのは20歳ちょいくらいまでに影響を受けたもので、本当はもっと小さい頃のもので締めようと思ったんだけど、いかんせん思い出せなくて。でも、ほとんどがマンガとアニメだよね。で、途中から音楽が出てくる。あと、俺らと同世代の人だったら出てくるであろうプロレスやプロ野球が出てこない。スポーツからまったく影響を受けていない。

鈴木圭介(Vo)

鈴木圭介(Vo)

──皆さんの下の世代の僕からすると、ロック好きで、かつプロレス好きな方は上の世代に多い印象があります。

鈴木 そうそう、多いんだよ。この世代はプロレス世代で、中学生の頃に新日とかが大人気だったから。でも、俺はまったくわからなかった。スポーツって、観ていても全然面白くないんだよなあ。

マエカワ小西竹安 (笑)。

鈴木 ディスってるわけじゃないよ(笑)。でも、人がやっていることを応援するという感覚が俺にはあまりわからない。プロレスはショー的な要素があるから、エンタテイメントとも言えるのかもしれないけど、プロ野球とかって、やっている人たちは観ているみんなのためにやっているんじゃなくて、自分のためにやっているんじゃないのかなと思うんだよね。周りの人たちはそれを観て、応援して楽しんでいるけど、やっている本人たちは自分たちの試合で勝つか負けるかを一生懸命やっているだけであって、「周りを楽しませよう」とは思っていないんじゃないかなと思う。わかんないよ、俺が間違っているだけかもしれないけどね。