武道館後、立ち位置を見失いかけた4人
マエカワ でも2015年の武道館ライブ(参照:フラカン初の日本武道館ワンマンは満員に「次は50代のバンドにバトン渡したい」)が終わったあとくらいから、またちょっと状況が変わってきて。鈴木も思うように曲が書けなくなってたし、バンドとしても立ち位置を見失いかけてたと思うんです。それで「もう一度、4人だけで作ってみよう」と思ったんですよね。それがいいことか悪いことかは別にして、とにかくメンバーだけでやってみようと。
福本 今回のアルバムを聴くと、以前と同じような形なんだけど、もっと深みがあるんですよね。しっかりした根っこがあって、表現がさらに深くなってる。原点回帰は成功だったんじゃないですか?
マエカワ レコーディングを始めたときは不安だったんですけどね。4人だけで作ると、こじんまりしちゃうんじゃないかって。それを打破してくれたのが、さっき言った「ハイエース」なんです。
福本 今の状況がそのまま出ているように感じるのは、そういうことなんですね。表現に嘘がないのも、フラカンの素晴らしさの1つだと思うんですよ。鈴木さんは仮想のことは歌わないじゃないですか。松任谷由実の「サーフ天国、スキー天国」みたいに仮想の世界をポップに表現する方法もいいけど、鈴木さんはそうじゃなくて、自分の手で触れられることしか歌わないですよね。
鈴木 そうですね。地べたに沿っていることじゃないと歌えないと言うか。そのやり方がすべてだと思っているわけではないんだけど、聴いている人に求められている曲を作るっていう職人的なやり方はできないので。
福本 それはいいことだと思う。フラカンはロックバンドだけど、すごくフォークを感じるんですよ。ロックフォークと言うかフォロックと言うか(笑)。
マエカワ いいですね、フォロック(笑)。確かにそれもあると思います。70年代フォークの世界も好きなので。
福本 そこも好きなところなんですよ。僕らは若い頃に「歳を取ったら演歌を歌うようになるんだよ」と言われていたけど、たぶん一生歌わないんですよ。演歌にもいい歌はあるけど、それよりも昔のフォークに惹かれるんです。(吉田)拓郎だったり、(井上)陽水だったり。五十代くらいの人は「今の歌で、歌える歌がない」なんて言うけど、ぜひフラカンを聴いてほしいですね。皆さんも上の世代の人を、大事にしたほうがいいですよ(笑)。
マエカワ 大事にします(笑)。実際、そのくらいの年齢の方もライブに来てくれてますからね。若い人もけっこう多いけど、年齢層が広がってきてるので。
日常に潜むカイジ
鈴木 僕、「カイジ」を読んでいて思うことがあって。ギャンブルで駆け引きしているとき、カイジはずっと自分の中で延々と会話してるじゃないですか。「こう来るか? いや、ちょっと待てよ」って。
福本 そうですね。
鈴木 僕らは全然ギャンブルをやらないから「相手の裏の裏を読む」みたいな経験はないんですけど、ライブ中に似たようなことが起きるんですよ。僕は歌う人だし、メインでしゃべってるから、その日の空気をつかめているかどうか一発でわかるんです。そこで脳内会話が始まるんですよね。「今のMCはあれでよかったのか?」「いや、そうじゃないかもしれない」「今客はこう考えているはずだから、次はこうしよう」とか。
マエカワ ははははは(笑)。
鈴木 そういうことって、日常にもあるんですよね。「急いで電車に乗ったけど、1本見送って、あっちの車両に乗ったほうが結局は早く着いたんじゃないか?」とか。
福本 それはそうだと思います。俺は北海道まで自転車で行ったことがあるんだけど、その間もずっと1人で考えてたんですよね。まさに「閉じれば閉じるほど開いていく 頭の中の世界」(「ピースフル」)ですよ(笑)。
音楽には勝ち負けがない
鈴木 ホントですね(笑)。ライブで言うと、あまりにも流れがつかめないこともあるんです。30分のステージで15分過ぎてもダメだったりしたら「今日はもうダメかな」って思ったり。
マエカワ ライブにも流れがあるからね。
鈴木 うん。「最初の3曲は演奏がバラバラだったけど、MCをバシッと決めたら流れが変わった」とか。MCがダメでも演奏で流れを引き寄せることもあるし、お客さんに助けられることもあるし。それも全部駆け引きなんですよ。常に流れを読もうとしているんですけど、「自分では読んでるつもりでも、大きな流れに流されてるだけではないか?」と思うこともあって。
福本 カヌーで川を下ってるような状態なのかもしれないですね。川の流れはあるんだけど「こういうふうに漕げば、あの岩は避けられるはずだ」とか。
鈴木 確かに。それともう1つ思うのは、音楽には勝ち負けがないということなんです。ギャンブルは結果がハッキリしてるじゃないですか。ライブはそうじゃなくて、いろんなパターンがあって。こっちが納得していてもお客さんには響いてなかったり、逆に「今日はダメだった」と思っても「今までで一番よかった!」と言われたり。その度に「これは一体何だろう?」って考えるんですよね。お客さんによっても、同じライブを観て「最高」と思う人もいれば「最低」と感じる人もいる。極論言えば相手の体調次第ですから。
福本 その場ではわからなくても、しばらく経ったあとに結果が出ることはないんですか? つまり、同じ場所に1年後に戻ってきて、どれだけお客さんが入るかっていう。マンガの場合もそうなんですよ。人気ランキングの結果がわかるのは、大体3週間後くらいで、さらに、それが、単行本になって、その結果がわかるのは、描いているときから考えたら、1年後だったりするわけで。
マエカワ なるほど。確かにバンドの活動にも大きな流れがありますからね。
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バンドを続けるコツ
- フラワーカンパニーズ「ROLL ON 48」
- 2017年9月6日発売 / チキン・スキン・レコード
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[CD]
3000円 / XQNG-1001
- 収録曲
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- ピースフル
- 人生Roll On
- ハイエース
- てのひら
- NO YOUNG
- 花のようでした
- HAPPY!
- あまくない
- キャンバス
- 最後にゃなんとかなるだろう
- あなたはだぁれ?
- フラワーカンパニーズ
- 1989年4月に鈴木圭介(Vo)、グレートマエカワ(B)、竹安堅一(G)、ミスター小西(Dr)の4人により名古屋で結成されたロックバンド。地元・名古屋を拠点とした精力的なライブ活動を経て、1994年に上京。1995年にアルバム「フラカンのフェイクでいこう」でメジャーデビューを果たす。以後、2000年までに6枚のフルアルバム、1枚のミニアルバム、12枚のシングルを発表。翌2001年にメジャーレーベルを離れ、活動の場をインディーズに移す。その後も「発熱の男」「東京タワー」「世田谷夜明け前」「脳内百景」といった名作を連発。特に2004年に発表されたシングル「深夜高速」は、ファンのみならず多くのロックファンから愛され続けている。2008年11月、7年8カ月ぶりにメジャー復帰。バンド結成20周年を迎えた2009年には「深夜高速」をさまざまなアーティストがカバーしたコンピレーションアルバム「深夜高速 -生きててよかったの集い-」のリリースや、11年ぶりの日比谷野外大音楽堂ワンマンライブなどで注目を集めた。2010年1月には結成20周年を記念した初のオールタイムベストアルバム「フラカン入門」を発表。同年3月発売のシングル「元少年の歌」は映画「誘拐ラプソディー」の主題歌に起用され話題となった。その後2013年に「ハッピーエンド」、2015年に「Stayin' Alive」とオリジナルアルバムをリリース。同年12月19日、結成26年目にして自身初となる日本武道館公演「フラカンの日本武道館 ~生きててよかった、そんな夜はココだ!~」を開催。当日券含めて完売、大成功を収めた。2017年6月に自主レーベル「チキン・スキン・レコード」を立ち上げると、9月にレーベル第1弾作品となるアルバム「ROLL ON 48」を発表した。
- 福本伸行(フクモトノブユキ)
- 1958年12月10日神奈川県生まれ。1979年月刊少年チャンピオン(秋田書店)にて「よろしく純情大将」でデビュー。1982年に投稿作「ワニの初恋」で第9回ちばてつや賞大賞を受賞、翌年も大賞を受賞した。1989年近代麻雀ゴールド(竹書房)にて「天」を連載開始。以降、1992年にアクションピザッツ(双葉社)で「銀と金」、近代麻雀(竹書房)では「アカギ~闇に降り立った天才~」を開始した。ギャンブラーたちの命を賭けての心理戦が読者から絶賛を受ける。1996年週刊ヤングマガジン(講談社)にて「賭博黙示録カイジ」を連載開始。創作ギャンブルの目新しさと、金で運命を狂わせる男たちを描きヒット作に。同作は1998年に講談社漫画賞を受賞し、2007年にアニメ化され2008年には実写映画化。他にも「アカギ」が2005年にアニメ化、2015年にドラマ化。「銀と金」は1993年にVシネマ化、2017年ドラマ化された。2007年、週刊少年マガジン(講談社)にて「賭博覇王伝 零」を連載開始。 現在は週刊ヤングマガジンにて「賭博堕天録カイジ ワン・ポーカー編」、ビッグコミックオリジナルにて「新黒沢 最強伝説」、近代麻雀にて「アカギ~闇に降り立った天才~」を連載中。