「深夜高速」から10年以上経った今の本音
鈴木 ずっとツアーばっかりやってますからね。アメリカのバンドにはツアーの歌が多いんですけど、それに憧れて作ったのが「深夜高速」だったんです。ただ、あの曲は書いているうちにどんどん視野が広がって、ツアーの歌というよりも人生そのものを歌ってるんですよね。「ハイエース」の前半はそうじゃなくて、車で移動している状況をそのまま歌ってるだけなんですよ。
マエカワ 淡々と情景を描写してるからね。
鈴木 「深夜高速」を作った頃から10年以上経って、10時間ぶっ通しで車に乗ってたりすると、身体もしんどいし、キツいことも増えてくる。それをそのまま歌ってみたくて。リズムが変わって速くなる後半は、今の自分たちの本音が出てるんですよ。「いつまでこんなの続けられんだよ」っていう。
福本 なるほど。「深夜高速」は“歳を重ねてしまった元・若者の歌”という感じだったけど……。
マエカワ まさに(笑)。
鈴木 確かにまだ青春の名残みたいなものがあったかも、あのときは。
福本 その時期も通り過ぎて、「ハイエース」は四十代、五十代の男の生活の歌になってますよね。ほかに仕事があるわけでもないし、生活としてコレをやるんだよっていう。夢がないわけではないけど、とにかく、この生活を続けるんだということじゃないですか。
鈴木 そうですね、確かに。
福本 ただね、我々はずっと“元・若者”でもあるんですよ。もっと言えば、フラカンはずっと青春ってヤツを歌っていると思うんです。人間だけですからね、青春のことをずっと考えている生き物は。「もっとやれたんじゃないか」とか「いや、自分はずいぶんやってきたはずだ」とか。鈴木さんの歌詞は、自己肯定と自己否定の間でグルグル動いているけど、それは我々の日常でもあるわけで……。僕が描いた「最強伝説 黒沢」も実はそうで、青春をうまく生きられなかった男を描こうと思って、始めました。
鈴木 青春を謳歌できなかった人ですね。
福本 そう。100人いれば、90人は謳歌できなかったはずなんです。そのことをフラカンは、ずっと歌っているんじゃないかなと。今回のアルバムはそこがさらに充実しているんですよね。いろいろな思いを抱えている我々の人生に、寄り添ってくれているというのかな。人生の伴走者みたいなバンドだと思いますね、フラカンは。
今回のアルバムで「元に戻った」
福本 「花のようでした」も好きですね。この曲はラブソングと言っていいと思うんだけど、好きな女性と別れてから3年くらい経って、ふと「あの人、どうしてるのかな?」と思い出すっていう。こっちはこっちでそれなりにやってるし、相手の女性もそうなんだろうけど、なぜか「どうしてるんだろうな」って思ったりするじゃないですか、男は。
鈴木 都合がいいときに思い出すんでしょうね、たぶん。毎日のように思い出すわけではないけど、自分に余裕があるときになんとなく考えるというか。
福本 そういうしんみりした感じもいいんだよね。「ローラ!」(「傷だらけのローラ」)みたいに熱いラブソングじゃなくて。
マエカワ 確かに「傷だらけのローラ」は熱いですからね(笑)。
福本 この年齢になると、ああいうのは無理じゃないですか。「花のようでした」で歌われている恋心は我々の世代のリアルですよ。
鈴木 恋愛に対する熱量がなくなってますから(笑)。
福本 そういうことも含めて、今回のアルバムは「元に戻った」という印象もあるんですよね。この前のアルバム(2015年1月リリースの「Stayin' Alive」)は幅を広げようとしていた感じがあって、それはそれでよかったんだけど、今回は、本来の形に戻ったという感じがします。
マエカワ その通りですね。長くやってるとどうしてもマンネリになってきちゃうから、少しずつ変えようとしたり、新しいことをやってみようとするんですよ。2008年から去年までメジャーのレコード会社にいたんですけど、それも「いろんな人の意見が聞きたい」という狙いがあったんです。20周年のときに「やれることはやってきたし、これ以上自分たちで広げるのは難しいかもな」と思って……。
鈴木 自分たちだけでやってたら、絶対になかったようなチャンスももらったしね。この年齢になったら、今まで興味がなかったことに手を出すのは難しくなるじゃないですか。(メジャーのレコード会社に在籍することで)それができたと言うか。
次のページ »
武道館後、立ち位置を見失いかけた4人
- フラワーカンパニーズ「ROLL ON 48」
- 2017年9月6日発売 / チキン・スキン・レコード
-
[CD]
3000円 / XQNG-1001
- 収録曲
-
- ピースフル
- 人生Roll On
- ハイエース
- てのひら
- NO YOUNG
- 花のようでした
- HAPPY!
- あまくない
- キャンバス
- 最後にゃなんとかなるだろう
- あなたはだぁれ?
- フラワーカンパニーズ
- 1989年4月に鈴木圭介(Vo)、グレートマエカワ(B)、竹安堅一(G)、ミスター小西(Dr)の4人により名古屋で結成されたロックバンド。地元・名古屋を拠点とした精力的なライブ活動を経て、1994年に上京。1995年にアルバム「フラカンのフェイクでいこう」でメジャーデビューを果たす。以後、2000年までに6枚のフルアルバム、1枚のミニアルバム、12枚のシングルを発表。翌2001年にメジャーレーベルを離れ、活動の場をインディーズに移す。その後も「発熱の男」「東京タワー」「世田谷夜明け前」「脳内百景」といった名作を連発。特に2004年に発表されたシングル「深夜高速」は、ファンのみならず多くのロックファンから愛され続けている。2008年11月、7年8カ月ぶりにメジャー復帰。バンド結成20周年を迎えた2009年には「深夜高速」をさまざまなアーティストがカバーしたコンピレーションアルバム「深夜高速 -生きててよかったの集い-」のリリースや、11年ぶりの日比谷野外大音楽堂ワンマンライブなどで注目を集めた。2010年1月には結成20周年を記念した初のオールタイムベストアルバム「フラカン入門」を発表。同年3月発売のシングル「元少年の歌」は映画「誘拐ラプソディー」の主題歌に起用され話題となった。その後2013年に「ハッピーエンド」、2015年に「Stayin' Alive」とオリジナルアルバムをリリース。同年12月19日、結成26年目にして自身初となる日本武道館公演「フラカンの日本武道館 ~生きててよかった、そんな夜はココだ!~」を開催。当日券含めて完売、大成功を収めた。2017年6月に自主レーベル「チキン・スキン・レコード」を立ち上げると、9月にレーベル第1弾作品となるアルバム「ROLL ON 48」を発表した。
- 福本伸行(フクモトノブユキ)
- 1958年12月10日神奈川県生まれ。1979年月刊少年チャンピオン(秋田書店)にて「よろしく純情大将」でデビュー。1982年に投稿作「ワニの初恋」で第9回ちばてつや賞大賞を受賞、翌年も大賞を受賞した。1989年近代麻雀ゴールド(竹書房)にて「天」を連載開始。以降、1992年にアクションピザッツ(双葉社)で「銀と金」、近代麻雀(竹書房)では「アカギ~闇に降り立った天才~」を開始した。ギャンブラーたちの命を賭けての心理戦が読者から絶賛を受ける。1996年週刊ヤングマガジン(講談社)にて「賭博黙示録カイジ」を連載開始。創作ギャンブルの目新しさと、金で運命を狂わせる男たちを描きヒット作に。同作は1998年に講談社漫画賞を受賞し、2007年にアニメ化され2008年には実写映画化。他にも「アカギ」が2005年にアニメ化、2015年にドラマ化。「銀と金」は1993年にVシネマ化、2017年ドラマ化された。2007年、週刊少年マガジン(講談社)にて「賭博覇王伝 零」を連載開始。 現在は週刊ヤングマガジンにて「賭博堕天録カイジ ワン・ポーカー編」、ビッグコミックオリジナルにて「新黒沢 最強伝説」、近代麻雀にて「アカギ~闇に降り立った天才~」を連載中。