音楽シーンにその名を轟かせるEveが原点回帰のボカロに立ち返る理由

Eveが2月9日に初のボーカロイドアルバム「Eve Vocaloid 01」を配信リリースした。

YouTube登録者数は370万人を超え、今や日本の音楽シーンを代表するアーティストとなったEve。その肩書きを「シンガーソングライター」として認識している人も多いだろう。ストリーミング、ミュージックビデオともに2億回以上の再生数となった代表曲「廻廻奇譚」や、昨年12月にMVが公開された新曲「藍才」など、ここ最近の楽曲は基本的にすべて自ら作詞作曲し歌唱するスタイルで発表し、3月16日には2年ぶりとなるメジャー3rdアルバム「廻人」のリリースが予定されている。では、なぜこのタイミングで「ボカロP」としての活動の足跡をまとめたボーカロイド曲のアルバムを発表したのか。その意味するところを読み解いていきたい。

文 / 柴那典

Eveの出発点を形に

「Eve Vocaloid 01」は「ドラマツルギー」などEveがこれまでニコニコ動画に発表しながら音源としては未リリースだったボーカロイド楽曲9曲と、初公開となる「僕らまだアンダーグラウンド」「やどりぎ」「心予報」の初音ミク歌唱バージョンを加えた全12曲を収録したボーカロイドアルバムだ。Eveの原点とも言えるボーカロイド音源をこのタイミングでリリースすることに対し、まず1つ推察できるのは、広く名が知られるようになった今だからこそ、そのアーティストとしての出発点を形にしておくという意図があったのではないか、ということだ。

Eveとボーカロイドカルチャーとの出会いは活動初期にまでさかのぼる。以前にインタビューにて聞いた話によると、彼が最初にボーカロイド楽曲に触れたきっかけはsupercellによる2007年の楽曲「メルト」を友達に薦められて聴いたことだったという。halyosyによるその“歌ってみた”動画にも触発され、Eveは2009年からはニコニコ動画に“歌ってみた”動画を投稿するようになる。当初は趣味の1つだったというその活動が徐々に本格化していく中で自ら作詞作曲を手がけるようになったというのが、今に至るアーティスト活動の始まりだ。

Eveが初めてのボーカロイド楽曲「sister」をニコニコ動画に投稿したのは2016年12月2日。もともとは自ら歌唱する楽曲として制作され、2016年リリースの初の全国流通盤「OFFICIAL NUMBER」にも収録された1曲だ。

ちなみに、幻となっていた1stミニアルバム「Wonder Word」と2ndアルバム「Round Robin」という2枚の自主制作アルバムも、2021年12月30日に再販された。これらのリイシューにも、今のタイミングで過去からの来歴を改めて示すという意味合いを見出すことができる。

ボーカロイド楽曲の2作目は「ナンセンス文学」。こちらは2017年5月19日に初音ミクが歌唱したMVがニコニコ動画で、翌日に本人歌唱のMVがYouTubeで公開されている。「ドラマツルギー」「あの娘シークレット」「お気に召すまま」「アウトサイダー」「トーキョーゲットー」「ラストダンス」など、2017年から2018年にかけて発表されたオリジナル楽曲のMVはすべてこのスタイルで公開されている。いわば、ボカロPと歌い手としての活動を並行して進めてきたわけである。

自由でフラットなEveのスタンス

2019年2月にEveはアルバム「おとぎ」でメジャーデビュー。その後しばらくニコニコ動画への投稿は途絶えていたが、2021年9月30日、約2年9カ月ぶりとなる新曲「群青讃歌」を発表した。

この「群青讃歌」は、スマホゲーム「プロジェクトセカイ カラフルステージ! feat. 初音ミク」(以下「プロジェクトセカイ」)の1周年記念アニバーサリーソングとして書き下ろされた楽曲だ。

くっかが描いたEve「Eve Vocaloid 01」のキービジュアル。

くっかが描いたEve「Eve Vocaloid 01」のキービジュアル。

この曲もニコニコ動画に初音ミクが歌唱したMV、YouTube公式チャンネルに本人歌唱のMVが公開されているのだが、この曲においては本人歌唱のバージョンでも後半で初音ミクの歌声が重なってくるのがポイントだ。あくまでEveの歌声をメインにしながら、ラストのサビではデュエットのようなスタイルとなっている。

「プロジェクトセカイ」のゲーム中では、初音ミクらバーチャルシンガーと登場キャラクター(CVと歌は声優が担当)がともに歌うという演出がなされる。ボーカロイドと人が一緒に歌うという世界観を持ったゲームのためにEveが楽曲を書き下ろしたということも、この曲のポイントと言えるだろう。そういう意味では、「群青讃歌」をきっかけに「プロジェクトセカイ」以降の今のボーカロイドシーンとEveが再び近しい距離感になったことが、今回の「Vocaloid 01」につながったとも言える。

アルバムには、スマホゲーム「#コンパス 戦闘摂理解析システム」に提供されたものの音源としてのリリースはなかった「やどりぎ(ボーカロイドVer)」に加え、「僕らまだアンダーグラウンド」と「心予報」のボーカロイドバージョンも収録される。こうした楽曲を聴くと、アルバム「おとぎ」から「smile」、EP「廻廻奇譚 / 蒼のワルツ」と、よりダークでディープな作風へと幅を広げているメジャーデビュー以降のEveの音楽性の中で、アップテンポな曲調のさわやかなメロディとボーカロイドの相性がいいということも感じる。

また、気になるのは「Vocaloid 01」というナンバリングを冠したタイトルだ。今後のことは何も発表されていないが、ひょっとしたら継続したリリースを意図したシリーズになっていくのかもしれない。

数年前と比べ、ボーカロイドシーンとJ-POPシーンは格段に地続きのものになっている。YOASOBIのAyaseや須田景凪(バルーン)などJ-POPのメインストリームで活躍しつつボカロPとしても並行して活動を続けるタイプのアーティストも増えている。

そういった2020年代の時代性において、Eveのスタンスはとても自由でフラットだ。現時点ではまだ音源を聴けていないが、アルバム「廻人」もかなり強力なインパクトを持った1枚となるだろう。そちらも含めて、この先への期待はとても大きい。

Eve

Eve

プロフィール

Eve(イヴ)

2枚の自主制作アルバムを経て、2016年10月に初の全国流通盤「OFFICIAL NUMBER」をリリース。2017年5月にはすべて自作曲で構成されたオリジナルアルバム「文化」を発表。収録曲「ドラマツルギー」はYouTubeにて1憶1300万回以上(2022年1月時点)再生されている。2018から19年にかけて開催されたワンマンライブは、1万2000人を動員した全国ツアー「Eve winter tour 2019-2020 “胡乱な食卓”」を含めすべて即完している。2020年12月にテレビアニメ「呪術廻戦」第1クールのオープニングテーマ「廻廻奇譚」とアニメ映画「ジョゼと虎と魚たち」の主題歌「蒼のワルツ」を収録した音源「廻廻奇譚 / 蒼のワルツ」をリリース。2021年2月にヨルシカのsuisとのコラボレーション楽曲「平行線」、4月に配信シングル「夜は仄か」をリリースした。2022年2月に初のボーカロイドアルバム「Eve Vocaloid 01」を配信。3月にはオリジナルアルバム「廻人」をリリースする。また同じく3月にEveをフィーチャーした映画作品「Adam by Eve: A Live in Animation」が劇場およびNetflixにて公開される。

※記事初出時より本文の一部表現を修正しました。

2022年2月14日更新