Eve|驚異的ヒットを記録した「廻廻奇譚」と最新曲「夜は仄か」をレビュー 進化の秘密に迫る

Eveの配信シングル「夜は仄か」がリリースされた。

2016年に初の全国流通盤「OFFICIAL NUMBER」を発売し、コンスタントにリリースを重ねてきたEve。中でも昨年12月に発表したテレビアニメ「呪術廻戦」第1クールのオープニングテーマ「廻廻奇譚」のストリーミング、ミュージックビデオの再生回数はともに1億回を越え、今なおロングヒットを遂げている。

音楽ナタリーでは新曲「夜は仄か」を中心にEveの楽曲の魅力を解説し、インターネット発のアーティストという枠をも越えて音楽界をにぎわせているEveの進化の秘密に迫る。

文 / 森朋之

Eveの名を世に知らしめた「廻廻奇譚」

2021年もっともブレイクが期待される──いや、すでに本格的なブレイクに突入しているEve。その存在は20年代の音楽シーンを牽引することになると断言したい。

歌い手、ボカロPに代表されるインターネットシーンで音楽家のキャリアをスタートさせたEveは、2016年に全国流通盤「OFFICIAL NUMBER」を発表。さらに2017年末には全曲自作曲によるインディーズアルバム「文化」をリリースし、収録曲「ドラマツルギー」のミュージックビデオが9400万再生を突破。2019年2月リリースのアルバム「おとぎ」、2020年2月に発表したアルバム「Smile」がそれぞれオリコンアルバムランキング2位を獲得するなど、アーティストとしての活動規模を順調に広げてきた。

インターネットシーンでの支持を基盤にしながら、テレビアニメ「どろろ」の第2期エンディングテーマ「闇夜」、ロッテ ガーナチョコレート「ピンクバレンタイン」のテーマソング「心予報」などのタイアップソングにより知名度を上げてきたEve。その名が一気に拡散したきっかけは、2020年10月に配信された楽曲「廻廻奇譚」だった。今や社会現象となっている大人気テレビアニメ「呪術廻戦」第1クールのオープニングテーマに起用されたこの曲は、疾走感とヘヴィネスを兼ね備えたサウンドとドラマティックに展開するメロディを特徴とするアッパーチューン。歌詞には「呪術廻戦」のストーリーと重なりながらEve自身のリアルな感情が反映されている。「廻廻奇譚」に対して、Eveは「僕の声質はどちらかというと軽い声だと思っているので、その声でどうダークで疾走感のあるドシッと重い歌を歌えるかをものすごく考えさせられました」「今までの曲作りでは意識してこなかったことを大事にしたので、自分にとっても思い入れの深い1曲になりました」(参照:Eve「廻廻奇譚 / 蒼のワルツ」対談 Eve×朴性厚監督)とコメントしている。その言葉通り、彼自身のキャリアにとっても大きな意味を持つ楽曲となった。「廻廻奇譚」は2021年3月15日付(集計期間:2021年3月1日〜3月7日)のBillboard JAPANのストリーミングソングチャート“Streaming Songs”で累計再生回数1億回を突破。MVのYouTube再生回数も1億回を超えるなど、現時点における最大のヒット曲となっている。これは「廻廻奇譚」の魅力、アニメ「呪術廻戦」の知名度の高さだけではなく、彼が2017年から築き上げてきた独創的な音楽性、MVやアートワークを通して発信してきたビジュアルのイメージがより多くのリスナーに届いた証左だと思う。

さらに今年2月には、ロッテ ガーナチョコレート“Gift”のテーマソング「平行線」がリリースされた。ヨルシカのsuisをゲストボーカルに迎えたこの曲は、切なくも愛らしいメロディの中で、すれ違いながらも、それでも気持ちを伝えようとする姿を描いたミディアムチューン。オーガニックな音像やsuisとのツインボーカルを含め、Eveにとって新機軸と呼べる楽曲となった。

孤独を描いたダンスナンバーで音楽シーンの中心へ

そしてこの春、待望の新曲が届けられた。タイトルは「夜は仄か」。これまで培ってきたEveの個性と、斬新なサウンドアプローチをバランスよく共存させた楽曲だ。

「夜は仄か」ミュージックビデオより。

最初に聞こえてくるのは、濃密なファンクネスをたたえたベースラインと四つ打ちのキック。一瞬のブレイク、缶のプルトップを開ける音が挿入された直後、ギター、シンセなど加わり、快楽的なグルーヴが立ち上がる。基盤になっているのは、2010年代後半から世界的な潮流となっているネオソウル、オルタナR&B、ADMのテイスト。現行のグローバルポップの流れを取り入れながら、どこか日本的情緒を感じさせるメロディと組み合わせることで、“世界基準のJ-POP”と称すべき楽曲へと結びつけているのだ。特に「寂しい星を持って / 愛されたいを知ってしまった少年」というフレーズに導かれるサビの圧倒的な解放感は、これまでのEveの楽曲にはなかった要素ではないだろうか。編曲は、「ドラマツルギー」「闇夜」「廻廻奇譚」をはじめ、Eveのほぼすべての楽曲に関わっているNumaが担当。彼の幅広いアレンジワークとギタリストとしてのセンスは言うまでもなく、Eveの音楽に不可欠だ。

「今日も生きてしまったな これで何年」から始まる歌詞も秀逸だ。部屋で1人タバコをくゆらせている主人公は、痛々しいまでの寂しさを抱えながら、会いたい、愛されたいという切実な願いを募らせていく。リスナーの人生観や精神状態によって、さまざまな解釈ができる歌詞だが、個人的には“コロナ禍における孤独”を強く感じた。人と会うこともままならず、先行きは不透明。生への実感が持てず、未来への不安が広がる現状を、「夜は仄か」の歌詞は、見事に捉えていると思う。曖昧で捉えどころのない感情を暗いだけの曲に結びつけるのではなく、気持ちよく踊れるダンスチューンに昇華しているところも、この楽曲の魅力だ。

もう1つ記しておきたいのは、「夜は仄か」の中心にあるのがEve自身の声だということ。前述した「廻廻奇譚」に対するコメント通り、どちらかというと軽やか、しなやかという印象があったEveのボーカルだが、「夜は仄か」においては、豊潤で奥深いフロウを描き出している。そう、この楽曲の豊かなグルーヴは、彼自身の歌声によって増幅されているのだ。心地よいリズムの揺れ、シリアスな歌詞の世界観をバランスよく響かせる表現力にも注目してほしい。

MVは、海外の映像クリエイター・Zemによるアニメーション作品。エキゾチックな絵柄、現実と電脳世界、過去と未来、身体性と心象風景を共存させた映像は、「夜は仄か」の多層的なイメージと見事に重なっている。楽曲のビートと完璧に同期しながら、歌詞の新たな解釈を示唆するストーリー性も素晴らしい。

楽曲をリリースするたびに音楽の幅を広げ、アーティストとしての確実な進化を遂げているEve。2021年、Eveは間違いなく音楽シーンの中心を担う存在になる。「夜は仄か」を聴けば、誰もがそのことを確信するはずだ。