「EVANGELION FINALLY」発売記念 高橋洋子×林原めぐみ|戦友同士が語る「エヴァ」の25年

「残酷な天使のテーゼ」はエヴァの象徴

映画「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生」より

林原 まずは改めて「残酷な天使のテーゼ」の話から。アニメのオープニング曲というのは基本的に毎週流れるので、番組の顔になるわけですけど、それを差し引いたとしても、第1話で観たときから、歌詞、メロディ、映像の全部がいきなり襲いかかってくる印象があった曲だったよね。「『少年よ神話になれ』って何?」ってなりましたし、作中にはまだ登場していない(渚)カヲルくんが一瞬だけ映っていたり、カットワークもサブリミナルに近いような速さがあって、いまだかつて見たことのないようなアニメのオープニングだなと。始まりであり、終わりであり、すべてが入っている。「エヴァンゲリオン」の象徴だと思います。

高橋 めぐちゃんも「残酷な天使のテーゼ」を歌ったことがあるよね?(1996年発売の林原のアルバム「bertemu」に収録された「残酷な天使のテーゼ<AYANAMI Version>」)

林原 あの時代はキャラクターソングという形が世に定着してきた時期でもあって、私はそもそも「綾波レイって歌うのか?」という感じだったけど、「まあ命令なら歌うか」と思い、自分の中でいろいろ折り合いをつけてレコーディングしました。「FLY ME TO THE MOON」も3回くらい歌ったけど、当時はまだスタジオに庵野さんが来ていて。そのときのディレクションは「3番目に出てくる子として歌って」だったんだけど「2人目よりももっと冷たい感じで歌ってほしい」と言われて、歌を歌うことに対してこの演出はなんなんだろう?と思ったのを覚えてる。だから私の場合は、歌であり、芝居であり、みたいなところがありますね。その後は庵野さんも忙しくなったから、歌のレコーディングはお任せになっちゃったけど。

高橋 私は「残酷な天使のテーゼ」のレコーディングのときに初めて監督とお会いしたんです。ボーカリストは準備が必要なので、少し早めにスタジオに行ったら、誰よりも早く着いてしまって。そしたら裸足に黒のサンダルの男性がふらーっと現れて、どなたかわからないけど一応挨拶しておいたら、その方が監督だったんです。

林原 あはは、目に浮かぶ(笑)。

高橋 で、ブースに入ってからは、外の会話は何も聞こえない状態でした。ディレクターの方からトークバック越しに「こうしてください」という指示は受けましたけど、庵野さんから直接何かを言われたことはなくて。

林原 ちなみに「こうしてください」と言われた中で覚えているものはある?

高橋 冒頭の歌い方に関して「年齢感をもっと若く」というディレクションが入って。それは大月(俊倫)さんに言われたんですけど、それもみんなの話し合いの結果なんですよ。ブース越しに何か言い合っているのは見えるんだけど、私は何も聞こえない状態だし、私から「どうしたんですか?」と聞くこともできないような雰囲気で。なので庵野さんから私に直接何かを言われたことはないです。

林原 でも、そこに庵野さんがいたのなら、絶対に庵野さんの意見だと思う。テレビシリーズの頃は、庵野さん自身も手探り状態だったし、脳の中にあるものを具現化するのが得意な方ではないので、その辺は大月さんがガンガンつついて、わかりやすく伝えようとしてたと思うよ。「もっと、こう、違う何かを」じゃダメだよ、って(笑)。

歌ったあとは委ねるしかない

高橋 「残酷な天使のテーゼ」のレコーディングのときは必死に歌うだけだったから、私も皆さんと同じく、毎週その時間にテレビの前に正座して、テレビシリーズを第1話から観て「エヴァンゲリオン」という物語を知っていったんです。3話ぐらいからもう観ないではいられない中毒症状が始まり、20話以降は本当に心を痛めながら観ていて。それから何十回と観返していますけど、観るたびに答えが違うんですよ。テレビシリーズが終わって、劇場版が作られる話になったときに、私がまたテーマソングを歌わせてもらえることになって。「魂のルフラン」と「心よ原始に戻れ」の2曲を、どちらが主題歌として使われるかわからない状態でレコーディングしたんです。その後、映画館に観に行ったらEVA量産機がクルクル回りながら降りてくるところで「私に環りなさい」と流れてきたので、「えー、ここで使われるんだ!?」とビックリして(笑)。

映画「新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に」より

林原 その恐ろしさを感じたのは、私も同じ。新劇場版の「今日の日はさようなら」にせよ、何もかも。もうね、委ねるしかないんですよ。

高橋 「残酷な天使のテーゼ」のときは何も知らない状態で歌ったのに対して、「魂のルフラン」は作品のことを知ったうえで歌っている違いはありました。とはいえ「魂のルフラン」に関しては、歌入れ当日にFAXで歌詞がきたんです。それをスタッフの方が譜面の下に書き入れて歌うという、ギリギリの進行で……まあそれもまた「エヴァ」っぽいんですけど(笑)。みんながいい作品を作るためにせめぎ合いをしている中でのレコーディングだったので、そのとき一緒に録っていた「心よ原始に戻れ」も含めて、どちらが主題歌に選ばれてもいいように、前よりもさらにプロフェッショナルに徹して歌いました。自分が歌う場合、碇シンジくんがどうとか、初号機がどうということはまったく頭になくて。作品を観たから、知ったから心構えが変わったけど、作品の内容を考えながら歌うことはないんだよね。

林原 それがいいと思う。それでいい、じゃなくて、それがいい。