eill「HAPPY BIRTHDAY 2 ME」インタビュー|自分で自分を愛するために歌う“1人パーティ” (2/2)

演技をするような感覚

──曲の後半には誕生日の定番曲である「Happy Birthday to You」のメロディで「Happy Birthday to me~」と歌うパートも用意されていて。ピアノの伴奏のみで感情を込めた歌声を響かせることで、一瞬でガラッと曲の景色が変わりますね。

“1人誕生日”というこの曲のシチュエーションを改めて提示するために、ちょっと切なく1人で歌うパートもあったほうがいいかなと思ったんですよね。あそこは確か、電気を暗くして歌った気がします。「まだ寂しさが足りないよね?」「もう1回、歌います!」というやりとりをしながら、演技をするような感覚で丁寧に表現していきました。

──先ほどの天使と悪魔のパート同様、テンションの落差が大きいパートなので1曲を通して歌うとなるとなかなかしんどそうですよね(笑)。

ヤバいですね(笑)。まあでも、パートによって表情がころころ変わっていくのをリアルタイムで感じてもらう楽しさがある曲だと思うんですよね。なのでライブで歌うのがすごく楽しみです。

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──曲のテーマをストレートに伝えるサビではどんな表現を意識しましたか?

アレンジは最初のデモからけっこう変化していったんですけど、サビに関しては当初の低温調理っぽい雰囲気が残っているんですよ。

──熱量がワッと上がるタイプのサビではないということですよね。

そうそう。AメロとBメロはかなり遊んでいるけど、サビは「イエーイ!」というテンションの高い感じではないという。そこはちょっとクールに祝っている雰囲気を意識して歌いましたね。さらに言うと、サビの前半はちょっと弱い自分を認識しつつ、それすらも愛する気持ちをイメージして。サビの後半ではちょっと気持ちが振り切った感じを出せたらいいかなって。「彼氏に振られても」「彼氏を振っちゃっても」、自分はそういう人間だからいいじゃん!という。

──個人的には、心地よいフェイクを聴けるアウトロのにぎやかな雰囲気もすごく好きです。

いろんな楽器にお祝いしてもらっているような楽しいアウトロですよね。楽器も全部がソロを演奏しているような感じで、モントゥーノというレゲトンっぽいピアノを入れてもらったりしました。今回、トークボックスを初めて使ってみたんですけど、それによってめちゃくちゃおしゃれになったところもお気に入りですね。ちょっとシックなUKサウンド感が一気に出ました。パーカッションやサンバホイッスルは私も演奏しています。

何かしらの一歩を踏み出すきっかけに

──MVの話も聞かせてください。今回はeillさんご自身が監督を務められ、編集まで手がけているそうですね。これまでもそういった作品はあったんですか?

インディーズ時代の「20」や「Succubus」、最近で言うと「23」も自分でやってますね。今回はそもそも自分のパーソナルな経験や感情から生まれた曲だったので、「ダメな自分を愛してあげよう」というコンセプトが目で見ても伝わるようにしたいという気持ちが強くて。なのでジャケ写も含めて自分で全部やってみようかなって。MVの内容的には、私のリアルな1日を描いた内容になっています。監督としてカメラチェックをしながら、自分が出演もするというのはかなり大変でしたね。監督をしながら役者もやられている方がどれだけスーパーマンなのかを強烈に感じました(笑)。

──このインタビューは6月頭に実施していますが、現状悪魔のささやきと戦いながら編集作業もやっている最中だと。

そうそう(笑)。歌とリップを合わせる作業とか、もう終始「ヤバいヤバい!」と思ってますね。ある程度編集したものに対して、さっきディレクターから修正点がいくつか送られてきたので、「はあ……」みたいな(笑)。でもいろんなところに悩みながらモノ作りをしていくのはすごく楽しいですね。いいMVに仕上がるようにがんばります。

──同様にご自身でプロデュースしたというジャケ写では、1人誕生日を思い切り満喫する姿が表現されていますね。

MVを撮影した部屋でジャケも撮ったんですけど、かなりご機嫌な雰囲気ですよね(笑)。背景のタッセルは自分で注文して買ったものだし、服もすべて私物。楽しい1人パーティ感をちゃんと出せたんじゃないかと思います。

──実際、1人パーティをしたことはあるんですか?

よくやりますよ。誕生日当日にはないですけど、自分へのご褒美という感覚で日常的によくやります。自分の中では“宴”と呼んでるんですけど(笑)、急に夜中にメイクをバッチリして、お気に入りのかわいい洋服に着替えてごはんを食べたり、アニメを観たり。楽しいからみんなもぜひやってみてほしいですね。

──それが結果的に自分を愛することにつながるはずですしね。

そうそう。この曲やMVから何を感じてもらうかは人それぞれで全然いいんですけど、「私も1人でパーティしてみようかな?」とか「自分にプレゼント買ってあげようかな?」「ネイルをかわいくしてみようかな?」と何かしらの一歩を踏み出すきっかけになったら私としてはすごくうれしいです。1人パーティが流行るといいな(笑)。

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1人の女性としてできることを増やしたい

──eillさんは本作のリリースと同時に24歳になったわけですが、年齢を1つ重ねた今、何か思うことはありますか?

とりあえず怖いですよね。こないだ23歳になって「23」という曲を書いたばかりなのに。1年の流れが早すぎて。一生は一瞬で終わるんだろうなと最近すごく思います(笑)。

──何か新たにやってみたいことは?

私には、歌を通して思いを伝えられる音楽という大切なものがありますけど、24歳の私は1人の女性としてできることをもう少し増やしたいと思っていて。周りの友達を見ていると、仕事と恋愛の両立に悩んでいたり、育児に奮闘している子もいたりする。嘆いているだけじゃ乗り越えられないこともだんだん増えてくると思うので、そこに対しても自分なりにアプローチしてみたい気持ちがあるんです。そのうえでこれまでの自分の人生をもう一度振り返り、考え直すことも必要だと思うし。

──今まで以上に1人の女性としての人生を見つめ直したいということですか。

そうですね。ここからまた年齢を重ねていくと、今までとは違った悩みや葛藤が生まれてくるはずですから。私はそういった1つひとつのことを、1人の女性としても、1人のアーティストとしてもしっかり乗り越えていきたいんです。

──その姿はほかの人にとっての勇気にもつながるでしょうしね。

そうであったらいいですよね。私はこれからもみんなと一緒に泣いていきたいし、それ以上に笑っていきたい気持ちが強いんです。そのために音楽はもちろん、ファッションなんかも含め、自分らしさを大切にしながら楽しんで生きていきたい。それが今の、1つの大事な目標ですね。

──その目標はすでにクリアされている印象もありますけどね。

そうなのかな? でも変えたい部分もまだまだたくさんあるんですよ。私は常にいろいろなことを抱え込みすぎる癖があって。自分でなんでもできる人と思われがちですけど、実は全然そんなことないから、すぐいっぱいいっぱいになっちゃうんです。もう少し人を信じる心を手に入れたい(笑)。

──誰かに頼ることができれば少し楽になる部分もあるのかもしれないですね。

そうそう。自分で全部やろうとして失敗したら元も子もないですからね。昔から家族や友達によく言われてきたんですよ。「eillは何も話してくれないから悲しい」みたいなことを(笑)。これからはそういう自分から脱皮して、信じられる人にはどんどん頼っていこうと思います。

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プロフィール

eill(エイル)

東京都出身のシンガーソングライター。15歳の頃から歌い始め、同時にPCで作曲も開始する。2018年6月にシングル「MAKUAKE」でCDデビュー。ソウルやR&Bなどブラックミュージックの要素が色濃く反映された楽曲やシルキーかつソウルフルな歌声が魅力。K-POPをはじめ、韓国カルチャーへの造詣が深く、テヨン(ex. 少女時代)やEXIDへの楽曲提供などでも知られる。2021年4月にテレビアニメ「東京リベンジャーズ」のエンディング主題歌「ここで息をして」でメジャーデビューを果たし、その後「hikari」「花のように」「23」と立て続けに配信シングルをリリース。また同年9月に配信された竹内まりや「プラスティック・ラブ」のカバーは、映画「先生、私の隣に座っていただけませんか?」の主題歌として使用された。2022年2月にメジャー1stアルバム「PALETTE」をリリース。自身の誕生日である6月17日に最新曲「HAPPY BIRTHDAY 2 ME」を配信リリースし、9月からは全国9カ所を周るライブハウスツアーの開催が決定している。

衣装協力
シースルートップ 58300円 ※参考価格(ストロングテ / エムエイティティ)
キャミソール 5500円(ガールズソサエティ)
スカート 38500円(ラインヴァンド / ラインヴァンド カスタマーサポート)
その他 スタイリスト私物
エムエイティティ:INFO@THE-MATT.COM
ラインヴァンド カスタマーサポート:customer@leinwande.com
ガールズソサエティ:http://thegirlssociety.net/