音楽ナタリー PowerPush -大滝詠一 ベストアルバム「Best Always」発売記念特集 曽我部恵一×OKAMOTO'S対談

曽我部とOKAMOTO'Sが覗いたナイアガラサウンドの深淵

OKAMOTO'Sがナイアガラサウンドに挑んだ「虹」

──OKAMOTO'Sは大滝さんが亡くなった直後にリリースしたアルバム「Let It V」(2014年1月発売)で、そのマッドな世界に挑戦しましたよね。「虹」は直接的に大滝さんのナイアガラサウンド、フィル・スペクターの“ウォールオブサウンド”を彷彿とさせる音作りで。なぜOKAMOTO'Sであのサウンドをやろうと思ったんですか?

オカモトレイジ

ショウ きっかけは単純に好きだからという理由で、自分たちなりの研究成果を形にしてみたかったんです。

レイジ ドラムも6回ぐらい同じプレイを重ねて。マイクの位置を変えたり。

コウキ 好奇心が大きいですね。単純にやってみたいっていう。

ショウ 本当は大人数でやっていたことを、4人だけでやってみようと。

曽我部 僕もやったなあ昔。本当はみんな並んで一斉に録るんだよね。ギターを重ねたりするのも。

ショウ はい。僕らは4人しかいないし、マンパワーに限りがある中で、デジタルの技術を駆使してどこまで近付けるか。

曽我部 ならなかったでしょ? 思っているものにはならないんだよね。

ショウ そうそう、そうなんですよ。

曽我部 でも大滝さんも、きっと思い描いていたものにはならなかったんだと思うんだよね。思い描いていたウォールオブサウンドにはならなくて、それがナイアガラサウンドになったんだと思う。それでいいと思うんだよね。4人しかいないから少しずつ重ねたものが、OKAMOTO'Sサウンドになっていくんだから。

ショウ そうですね。俺らが作ったものを、なんかのきっかけで大滝さんが耳にしてくれないかなというのが一番大きくて。「なんだこの20代そこそこのやつがマネして。全然ダメだね」って言われたかったんですけど(笑)、ちょうどリリースする前のタイミングで亡くなられてしまって……。結局一度もお会いしたことはなくて、それが本当に残念ですね。

──実際に1曲完成させてみて、いかがでしたか?

ショウ 俺は指揮官のような立場でみんなの演奏をジャッジする役割だったんですけど、3人は後半かなりしんどくなってたよね。

コウキ けっこうつらかった。重ねていくうちに意味があるのかないのかわからなくなってきて。ProToolsも動かなくなっちゃうし、「あれ、このトラック出てないよ」って言われても出てるような気がしてきたり(笑)。

ハマ 入っているはずのないストリングスが聞こえ始めてきちゃって(笑)。

曽我部 フィル・スペクターがやったRamonesのレコーディングみたいな。ギター何十回も重ねさせられたみたいで。

ショウ 3日間ずっと同じ目標に向かってやり続けてましたね。

レイジ でも日に日によくなってる手ごたえはあったよね。ランナーズハイになって、しんどくなったって印象はそんなになかったな。

ショウ 今聴き返してみても、やっぱりどうかしてるなと思う(笑)。狂ったパワーみたいなものは感じますね。

ライブバンドと録音芸術

──そこにOKAMOTO'Sが挑戦したというのが少し意外だったんですよ。OKAMOTO'Sはライブバンドと認識していたので。

ショウ うんうん、そうですよね。

──曽我部さんも多数のレコーディング作品を精力的にリリースされていますけど、新曲を作って歌を届けるというライブ活動が軸になっていますよね。ライブ活動を軸に持つ皆さんが、レコーディング、録音芸術に今どういう向き合い方をしているのか興味があって。

曽我部 ああ、いいですね。僕ね、ライブバンドの人が作るライブで再現できない曲ってけっこう好きなんですよ。The Beatlesみたいに、結局ライブ止めちゃうみたいな。ステージと作品が乖離しちゃってるというか。そこがレコーディングのよさじゃないかな。なんでもできちゃうでしょ?

──曽我部さんはその両方をやってきた印象ですね。

曽我部 もちろん弾き語りの作品だってあるし、なんでもできるからね。

ショウ ライブはライブ、ライブアレンジで演奏するというのが基本なんですけど、年々レコーディングへの興味が強くなってきて、ライブでもみんなのコーラスとエフェクターを踏む回数が増えてきて(笑)。

ハマ・オカモト

ハマ だんだん離れてきてますね。昔はライブでやってることをまんま録音するぐらいの勢いだったけど、最近はレコーディングテイクに平気でベースを2本入れたりしますし。ライブではどっちのパートを弾こうかなみたいな。

コウキ でも基本はライブを意識してやってるよね。

ショウ うん。ここはライブならこう表現できるだろうと。レコーディングはどんどんテイクを重ねられるし、ミスを手直ししたり、時間を1つ前に戻したりできるけど、ちょっとつたないレコーディングも好きですよ(笑)。完璧ではないけど「こういう音にしたいんだ!」って突き進んでる音が感じられる作品というか。

曽我部 ミュージシャンのその瞬間の全部が入ってる感じがいいんだよね。思いが乗ってる音。レコーディングは記録だから、そのときどきの思いが残っていく。慣れちゃうと「これが自分にとって一番いいやり方だな」ってわかってくるんだけど、若いときはそんなんじゃ許せないから自分の全部を入れようとしちゃうんだよね。フォークも好きだしパンクも好きだしみたいな思いを全部入れたいと思うんだけど、その全部入れたいという強い意志が音に残るから、それがレコーディングのよさですよね。それはライブでは表現できないことで。トライしてできなかった、というのも素晴らしいと思う。

ハマ 実験ですもんね、レコーディングって。ライブは実験結果じゃないけど、できることしかできない。僕らはレコーディングをするときはだいたい合宿をやってベーシックを録るんですけど、時間は限られているとは言え、1曲にものすごい時間を費やすことができるんですよ。このご時世、そんな贅沢な時間の使い方が許されているのは幸運なことで、「虹」みたいな楽曲を作ることもよく許してもらえたなと思うんですけど(笑)。実験の結果、想像の範疇を超えることもあれば、さっき曽我部さんがおっしゃったように、思った通りではなかったけどこれはこれで発見があったみたいな、クリエイティブが試されるのがレコーディングというものだと思っていて。残ってしまうものだから満足いくものにはしたいけど、振り返って「このときはまだつたなかったね」と思えること自体が素晴らしいと思えるようになってからは、よりレコーディングが楽しくなりましたね。

スタジオで軽く合わせた音が完全にナイアガラサウンド

──そういうアーティストとしての姿勢の変化があったとき、大滝作品に触れるとまた違った聞こえ方になりそうですね。

曽我部 それはありますね。大滝さんの場合は、ある意味「LONG VACATION」(1981年3月発売のアルバム)で完成しちゃったよね、音は。一度スタジオを覗かせてもらったことがあるんだけど、エンジニアの吉田保さんがセッティングして、演奏するメンバーがちょっと軽く音を合わせたときに、出てきた音がもう完全にナイアガラサウンドなの。ミックスされたみたいな、よく知ってるあの音がポーンと出てくるわけ。

ショウ へえー。

コウキ それはなんのレコーディングだったんですか?

曽我部 なんだったんだろう。みんな揃ってましたけどね。ユカリさん(上原裕)がいて鈴木茂さんがいて……何かカントリーのカバーを歌ってましたね。

スタッフ 「幸せな結末」(1997年発売のシングル)を録る前に、2カ月ぐらいリハビリとしてセッションをやっていて、確かそのときですね。

コウキ レコーディングに入るまでに2カ月セッションってすごいですね(笑)。

曽我部 大滝さんはそれまでの実験の積み重ねがずーっとあって、「ロンバケ」で完成したんだなってそのとき思った。でも僕「EACH TIME」(1984年3月発売のアルバム)が好きなんだよね。なんか空っぽっていうか、空虚で怖い感じがあって。全部ができるようになって、ソングライティングも完璧で、歌詞の世界観もできあがっていて、ジャケットもああなるだろうとわかった中で大滝さんが1枚作り上げた、ものづくりの怖さというか。怖さ、深さ、わからなさというのが「EACH TIME」にはあるんです。

ショウ それはよくわかります。「EACH TIME」の怖い感じ。「ロンバケ」は完全にいいアルバムなんだけど。

ハマ 完全にいい(笑)。

ショウ 完全にいいの。でも「EACH TIME」は完璧なんだけど……なんか違うんですよ。

曽我部 そう。なんか楽しんでない感じもするし。

ショウ その違和感がうまく言い表せなかったんですけど、「空っぽな感じ」と聞いて腑に落ちました。それすごいわかります。でも好きなんですよね、「EACH TIME」。なるほど、完成しちゃってたんでしょうね。

大滝詠一 ベストアルバム「Best Always」/ 2014年12月3日発売 / Sony Music Records
「Best Always」
初回限定盤 [CD3枚組]4320円 / SRCL-8010~2
通常盤 [CD2枚組]3780円 / SRCL-8013~4

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大滝詠一(オオタキエイイチ)
大滝詠一

1948年生まれ7月28日岩手生まれ。1970年代にはっぴいえんどのボーカル&ギターとして活躍し、解散後は自身のレコードレーベル「ナイアガラ」を創設。1981年発表のソロアルバム「A LONG VACATION」は日本のポップス史に残る名盤となった。その後も松田聖子「風立ちぬ」、森進一「冬のリヴィエラ」、小林旭「熱き心に」など数多くのヒット曲のプロデュースを担当。1997年には自身のオリジナル曲「幸せな結末」が月9ドラマの主題歌として大ヒットを記録した。2013年12月30日解離性動脈瘤により死去。2014年12月3日に初のベストアルバム「Best Always」がリリースされる。

曽我部恵一(ソカベケイイチ)

1971年生まれ、香川県出身のシンガーソングライター。1990年代からサニーデイ・サービスの中心人物として活躍し、バンド解散後の2001年からソロアーティストとしての活動を開始する。精力的なライブ活動と作品リリースを続け、客演やプロデュースワークなども多数。現在はソロのほか、再結成したサニーデイ・サービスなどで活動を展開し、フォーキーでポップなサウンドとパワフルなロックナンバーが多くの音楽ファンから愛され続けている。2004年からは自主レーベル「ROSE RECORDS」を設立し、自身の作品を含むさまざまなアイテムをリリースしている。3児の父。

OKAMOTO'S(オカモトズ)

オカモトショウ(Vo)、オカモトコウキ(G)、ハマ・オカモト(B)、オカモトレイジ(Dr)の4人からなるロックバンド。バンド名およびメンバー名は、彼らが敬愛する岡本太郎に由来する。抜群の演奏力とアグレッシブなライブパフォーマンスに定評があり、2010年3月にはアメリカのショーケースイベント「SXSW」に出演。続けて行われた全米ツアーでも高い評価を受けた。次世代のロックシーンを担うホープとして注目を集める中、2010年5月に1stアルバム「10'S」でメジャーデビュー。2011年7月には「FUJI ROCK FESTIVAL '11」に初出演を果たし、10月には初のアジアツアーを開催した。2014年はCDデビュー5周年を掲げ8月にRIP SLYME、奥田民生らを迎えてコラボレーションアルバム「VXV」をリリースし、秋にアニバーサリーライブツアーを実施した。