エドガー・サリヴァン|新生エドサリが作る“共鳴”ポップス

ビークルのお面を被って学校へ……

──佐々木さんは、坂本さんが言っているように「魂を解放したい」と思って音楽を作っていることろはありますか?

佐々木萌(Vo) 坂本遥(G)

佐々木 うーん、そう言われると、「ああ、そうかもな」って……今、思っています(笑)。

坂本  無意識なんだ? それも衝撃なんだけど(笑)。

佐々木 うん、無意識(笑)……でも、自論みたいなものはずっとあるし、「人と違いたい」というよりは「人と違うなあ」っていう意識は持ちながら生きてきたような気がする。

坂本  だって、BEAT CRUSADERSのお面被って学校に行ったりしてたんでしょ?

佐々木 うん……友達いなかったのにそんなことしていたのは、今思うと鋼の心臓だったなって思うけど。ビークルのお面を被って、学校の廊下で1人で歌っていたときは、周りの反応をみて「これが人の白い目か」と思った……。

──そんな過去が(笑)。

坂本  僕から見ると、普段、悶々としながらも現実をちゃんと生きている萌ちゃんと、曲作りをしているときの爆発しそうなくらい豊かなアイデアを抱えて自由に生きている萌ちゃんがいて。その「日常の自分」と「本当の自分」の軋轢が、彼女の作る曲にも出ているような気がするんですよね。萌ちゃんって、根本的にすごく真面目だし、会社員になってもちゃんと生きていける人だと思うんですよ。建前でも生きていける。でも、本当はそうじゃない萌ちゃんもいて。そこに萌ちゃんのアーティストとしての求心力があるような気がします。

──最初から芸術家肌で貫けているわけではないからこそ、芸術に対する欲求や願望も人一倍強くなるというか。

坂本  そう、すごく殻を壊したがっている人だと思うんです。

佐々木 なるほどなあ……。あんまり自分で言葉にしたことはなかったけど、そうなのかな。でも、なんでも未来のための過程だとは思っています。野心家っていうことでもなく、将来の安泰のためにっていうことでもなく。何をするにしても、今は未来への過程でしかないと思っているんです。それは、「解放された自分」に行き着くまでは粛々と生きていたいからかもしれない。そうでないと、自分の気が休まらないんですよね。だから、「将来の夢は?」とか「目指している会場は?」とか聞かれてもあまり具体的には答えられないんです。私は素直な感情を発して、それをちゃんと人に伝えられる存在になりたい。自分と向き合って、ちゃんと心を開けるようになりながら、周りを巻き込んでいきたいだけだから。

──なるほど。

佐々木 といっても、どこまでいっても満足できない気がするんですけど。

自分だけがフォーカスできる「NEWS」

──佐々木さんの曲作りは、どのようなところから始まっていくものなのでしょうか?

佐々木 自分が見た景色の一瞬であったり、生きていく中であったうれしいことや悲しいことが蓄積されていくうちに、ポンッとメロディになる瞬間があって。もちろん意識的に作るときもあるんですけど、一番気持ちがいいのは自分の中で積み重なってきた哲学や感動が音になるときですね。調子がよければ鼻歌からコード進行やアレンジがパッと思い付くときもあるし、そうやって降りてきたものから肉付けしていくっていうやり方が一番うまく曲ができるパターンです。今回の作品も、特に「今夜ステキになって」「Cry me」「WONDERFUL WONDER」の冒頭3曲は、そういう瞬間から生まれた曲という感じがします。

──今作が「NEWS」というタイトルになった理由はなんだったのでしょうか?

エドガー・サリヴァン

佐々木 今の曲作りの話にもつながるんですが、雨が止んだあとの空気の美しさに感動できた瞬間みたいな、日常の中にある奇跡的なことってあると思うんです。特に今は暗いニュースが多いし、誰かに持ち上げられたような話題も多いと思うんですよ。バズっているものでも、蓋を開けてみたら誰かに操作されていることがたくさんある。でも他人に強要されていない、自分だけがフォーカスできる日常の中の素敵なことをみんなもっと見つけていけたらいいなと思ってこのタイトルを付けました。人に与えられたものではなく、自分だけがグッとくることができるものを私は「NEWS」と呼びたいと思って。

──確かに自分で選んでいるようで、誰かに選ばされていることが多い……そこに対する恐怖心は僕もすごくあります。

坂本  普段流れているニュースも、ほぼ恣意的に選ばれているものばかりなんじゃないか?と思ってしまいますよね。それなら結局、信じられるのは自分だけなんじゃないかと思う。他人が選んだものじゃなくて、自分が見た景色、感動した瞬間を「NEWS」と呼んでもいいんじゃないかと。

佐々木 それと、私たちが指す「NEWS」は悲しいことでもいいと思うんです。悲しいことでも、本当に自分が心から感情を揺さぶられたのなら、それを大事にしながら暮らしてみようよと言いたいんです。もちろん、それは「日々に感謝をしなさい」みたい感じでもなくて……誰かのために自分を謙虚に保つ必要もないと思う。もっと「素敵なんだから、見なさいよ!」くらいの気持ちというか(笑)。

──それが悲しみや怒りであれ、自分の感情は自分のものでしかないですからね。

佐々木 うん、そう思います。

──4曲目「MILK(50%)」の「今夜も眠れなくていいんだよ」というフレーズなんて、まさに日々の暗がりにも美しさを見出すようなフレーズですよね。

佐々木 私は、本当にきれいごとが好きじゃないので。「大丈夫。泣かないでいいんだよ」じゃなくて、「眠れなくていいんだよ」って言いたいんです。眠れない夜だって絶対にあるんだから。その人間らしさを肯定したい。これは自分に向けてのメッセージとして書いている部分もあるんですけどね。