音楽ナタリー PowerPush - ドレスコーズ

“解放”の真意

セルフライナーノーツ

去る4月1日、我々ドレスコーズはワンマン公演「京都磔磔における初期のドレスコーズ」にて、日本コロムビアからキングレコードへの移籍を発表しました。
そしていよいよ完成をむかえたのが、この“Hippies E.P.”であります。

昨年末に発表した前作“バンド・デシネ”及びそのツアーは、結成から2年の間のぼくらの成長、葛藤、苦難に報いる素晴らしいものでした。
それでもぼくは、このバンドが正当な評価を受けているとは到底思えませんし、この4人のポテンシャルが十分発揮できているともまだ思えないのです。

ぼくはロック音楽をこよなく愛しています。ゆえに、そのあやうさ、むつかしさも理解しているつもりです。純度のきわめて高い音楽を、短いスパンの中で発表し続けること。ロック音楽がポピュラーであり続けるということ。ぼくらの活動は、そんなことへの挑戦でもある、とこの資料の中でだけ打ち明けさせてください。

とにかく、ぼくらはもっと成長し、それに見合う評価も得るべきだ、という忸怩たる思いがドレスコーズを次の季節へと押し進めました。

ゲストミュージシャンの参加

当初の予定では移籍後、まずシングルを発表。その後しかるべきタイミングで大傑作のフルアルバムがジャーン!という、なんともほわほわした計画があって、それをもとにEVIL LINE RECORDSとのはじめての制作ミーティングが開かれました。
そこで、まずぼくは「メンバー4人に対し中立的、客観的意見を与えてくれるアドバイザーが今は必要だ」と申し出ました。
前作から半年というわずかな期間で飛躍的な進化をとげるには、薄氷を踏むがごとくの慎重な足どりでもって、確実に最短ルートを進まねばなりません。そのための補助者、ナビゲーターが必要だ、と考えたのです。
そしてぼくらの手をとってこの作品に導いてくれたのが、□□□(クチロロ)の三浦康嗣さん、アレンジャーの長谷川智樹さん、エンジニアの渡部高士さんです。
各氏の経歴はここでは省きますが、さまざまな音楽や文化に対しフラットな目線を持ちながら、それを自分のやり方へと転化させてゆく我々の創作においてはこれ以上ない、的を得た布陣だったと自負しております。

制作について

そして楽曲制作は今年の2月中旬からスタートしています。
結成から2年で、我々が勝ち得たものと、未だ獲得できていないもの。
次作でそれを補完すべきか、それともすべてを投げ打って、この時代のマスターピースとなりうる前人未到の(つまり過去2作とも全く違う)音楽を模索するか。バンドが選択したのは、後者でした。

ぼんやりとぼくに浮かんだイメージは、すべての意味を放擲する音楽。ロックンロールだとか正義だとか、人生だとか勝敗だとか、そういったあいまいな意味・価値を全てなきものにするような、圧倒的にストロングな音楽。そんなものこそが、ぼくらにはふさわしい。
ある日のミーティングで、「メンバー、スタッフも含めたチームが一丸となって進む未来、バンドの新章を指し示す旗を掲げよう」という提案がなされました。
そのあと家に帰ったぼくが、携帯電話でポチ、ポチと打った言葉があの『ダンスミュージックの解放』というやつです。それは4月1日のレーベル移籍のニュースとともに大々的に発表されました。

このスローガンは徐々にメンバーの中で大きなものとなり、実際スタジオでも「こんなマニフェストじみたやり方自体がナンセンスじゃないか」という意見も出ましたが、それでも我々はなんとか「自分たちに見合ったダンス、のための音楽」を見つけるべく、構築と解体を繰り返す終わりのないセッションを始めたのです。

各楽曲について

そんな中でまず生まれたのが、M-1“ヒッピーズ”とM-3“Ghost”の原型でした。まずはこれをシングルと仮定し、バンドはそのままアルバムに向けた楽曲制作を続行します。

しかし、先行リリースとなるのがたった2曲では、標榜するテーマに対しボリュームが足りないのではないか。ぼくらがいま現在踏み込んでいる地点をフアンに正しく理解してもらうのに「シングル」というフォーマットは本当にふさわしいのだろうか? という疑問から、急遽このようなE.P.形式と相成ったのでした。
そういった意味で、今作のテーマをもっとも象徴する仕上がりとなったのはM-5“若者たち”でしょう。ハウス~テクノ的アプローチのなかで山中治雄(Ba.)のベーシストとしての類いまれな才能がいかんなく発揮されています(それはM-1“ヒッピーズ”も然り、です)。
丸山康太(Gu.)がこんなことをボソッ、と言っていたのを思い出します。
「『バンド・デシネ』がギターのアルバムだとしたら、これは治雄のアルバムだね。」 ぼくがうむうむ、と深く同意したことは言うまでもありません。
□□□の三浦さんを制作に迎えるにあたり、ぼくがどうしても挑戦してみたかったのはM-4“メロディ”のような日本語でのラップです。前作のリード・トラック“ゴッホ”で試みたものをもっと突き詰めてやってみたかった。個人的には今作でもっともお気に入りのナンバーです。ギターが恐ろしい冷め方をしている。
これに、制作の初期段階でセッションから生まれたM-2“ドゥー・ダー・ダムン・ディスコ”を加えてE.P.は完成しました。菅大智(Dr.)によるイアン・ペイスも真っ青なダンスビートが白眉の出来ですね!

最後に

ダンスミュージックと真っ向から向き合うことは、音楽の歴史そのものと向き合うことです。
我々が音楽に求めてきたこと。それは、「忘れてしまう」ということ。
「意識の解放」と「忘却」は、構造がとてもよく似ています。
時間を、場所を。明日の予定や、世俗のしがらみを。もしかしたら性別を、国籍を、言語を、自分が自分たる所以を。つまり、かなしみを忘れること。
たとえばぼくらの最も遠い予定は「死ぬこと」だったりするわけで、そんな根源的なかなしみから、解放されたいと願うこと。それこそが、ぼくらがダンスへむかうステップの、第一歩かもしれない。
「ぼくらは死なない」という無謀な挑戦。失敗は目に見えていて、それでも歌う、踊る。そんなぼくらは、まるでヒッピーズ。
ダンスによって忘れてしまえることを言葉で書き留め、忘れないようにする。それをダビング(ハードディスクからCD)したものが、今作品の5曲なのです。

2014年8月
ドレスコーズ 志磨遼平

ドレスコーズ
ドレスコーズ

志磨遼平(Vo)、丸山康太(G)、菅大智(Dr)、山中治雄(B)による4人組ロックバンド。2012年1月1日に山中を除く3名で初ライブを実施し、同年2月に山中が加入して現在の編成となる。6月には大阪、名古屋、横須賀で「Before The Beginning」と題したツアーを突如開催。7月に1stシングル「Trash」をリリースし、タイトル曲は映画「苦役列車」主題歌に採用され話題を集めた。12月に1stフルアルバム「the dresscodes」、2013年11月にフジテレビ系アニメ「トリコ」のエンディングテーマ「トートロジー」を含む2ndフルアルバム「バンド・デシネ」を発売。2014年4月にキングレコード内EVIL LINE RECORDSへの移籍を発表し、9月に移籍第1弾作品として5曲入りCD「Hippies E.P.」をリリースする。