ナタリー PowerPush - ドラマチックアラスカ
物静かな“最終兵器”が秘めたる野心と自信
ちょっと歪な感じを出すことでカッコよさを探る
──さっきヒジカタくんが言っていた通り、ドラマチックアラスカの楽器隊にはそれぞれのパートがけっこう自由にフレーズを奏でている印象があります。
トバ 確かにわりと主旋律と違う感じで歌っているようなギターのフレーズが多いかもしれないですね。ギターが2本いて、両方ともコード弾きじゃ面白くなくて。だから僕のギターはいわゆるリードギター的。わりと曲の前面に出ていくようなフレーズを考えてしまうことが多いんですよね。
マルオカ 僕もそうですね。基本的には歌とギターを立たせることを意識していますけど、たまにはちょっと前に出てもいいかなっていう。そういう意味ではわりと自由にやっているところはあると思います。
ニシバタ それぞれが勝手にフレーズを考えて、それをスタジオで合わせながら作っていくやり方だとやっぱりそうなりますよね。スタジオでは周りのフレーズを聴いてちょっと自分のパートを調整してみたりとかもしますけど。そんな感じでいつも作っているんです。
ヒジカタ 普通にカッコいいだけではあんまり面白くないから、そういうやり方になるんだと思います。ちょっと歪な感じというか、わりと変化球的な感じを出すことで、カッコいいものを探ろうっていう意識はけっこうあるのかもしれないですね。
挫折の末に見た「こういうこともできますよ」という結論
──そういうキレのあるアンサンブルを前面に押し出した初の全国流通盤「ドラマチックアラスカ」が、いきなり高評価を受けて。ただヒジカタくんは、そこから今回のミニアルバム「オーロラを待っている」に至るまでにはわりと紆余曲折があったと言っていましたよね。
ヒジカタ そうですね。先に名前だけが広がっちゃったというか……。もちろんそれはすごいありがたいし、うれしいことだったんですけど、いざライブをやってみたらけっこうガッカリされることも多かったんですよね。今年の8月、9月の初めての全国ツアーでけっこう悔しかったことが多かったりとかして。もちろんそこにはいろんな要素があって、単純に自分たちの演奏技術の部分であったりとか、ステージに対する気持ちの部分だったりとかも、きっとあるとは思うんですけど……。
──そういう経験を踏まえて今回のミニアルバムはどんな感じにしていこうと?
ヒジカタ 前回のがわりと攻めた感じ、僕らを象徴するようなアップテンポの曲をバッと詰めた感じだったので、今回のはちょっと振り幅というか「僕らはこういうこともできますよ」っていうのを示したかったっていうのが、まずはあって。それこそ「打ち上げ花火」みたいなバラードを入れたりとか、前作にはないようなちょっと前向きな歌詞の曲を入れたりとかもして。
トバ 前回のは4曲しか入ってなかったですけど、今回は7曲入っているので「自分たちはもっといろんなことができるんだっていうことをちょっと知ってほしいな」って思いながら作っていったところはありますね。
マルオカ 個人的には聴いてくれる方が増えたっていうのも大きくて。やりたいようにやることも大事だから自分のやりたいことはしっかりやりつつ、でも「こういうのが聴きたいんじゃないかな」とか「こういう感じを求められているんじゃないかな」っていうことも少し考えながら作っていったというか。聴いてくれる人のことを意識しながら今回は作れたと思いますね。
ニシバタ うん。歌を大事にしたいっていうのは前から思っていて、今回は特に歌に合わせた雰囲気が出るようにっていうのを意識しながらドラムのフレーズも考えていったところがありますし。
ヒジカタ とりあえず前回よりはすごく頭を使ったアルバムになったと思います(笑)。
──どのあたりに頭を使いました?
ヒジカタ 前回のを出して、とりあえず自分たちの音楽を聴いてくれる人がいるっていうのがわかったので、その人たちに対してどういう書き方をしたらわかりやすく伝わるのかなっていうことを考えて。今回はホントにみんなで何回も音作りを確認して、ミックスも何回も調整しながら作っていったんですよね。
「ヒーローになりたいんですよね」
──歌詞に関しても何度も書き直してみたりした?
ヒジカタ そうですね。前回のではうまくアウトプットできてなかった部分っていうのもあって。今回はいしわたり淳治さんに入ってもらって、そういうアウトプットの仕方をいろいろ教えてもらったりとかしましたし。
──そうなんですよね。本作に収録されている「和心」と「打ち上げ花火」の2曲はいしわたり淳治さんがプロデュースしていて。いしわたりさんとは具体的にはどんなやり取りがあったんですか?
ヒジカタ それはけっこうたくさんあって……。
ニシバタ 曲のアレンジとかに関しては淳治さんと一緒に。全員でスタジオでやっていたんですけど、歌詞に関してはヒジカタと1対1で話していたので。
マルオカ そこで何を話していたのかは、実は僕らもよく知らないんですよ。
トバ 2人で個室にこもってやっていたので。
マルオカ で、ヒジカタがすごい顔して出てくるみたいな(笑)。
──(笑)。
ヒジカタ 何か歌詞の添削教室みたいでした(笑)。で、その教室を繰り返す中で今まで自分がどうやって歌詞を書いていたかっていうことをすごく気付かされましたし、自分の言葉選びの基準みたいなものもわかるようになっていって。ただ歌詞に対する自分の甘さにもいろいろ気付かされて……。ちょっと自己嫌悪に陥っていたところはありますね。
──だからすごい顔して部屋から出てくると(笑)。
ヒジカタ そうですね(笑)。でも、ホントいろいろ勉強になりましたね。前回は現状の気に入らないことをただ「気に入らない」というふうにしか言えなくて。でも今回は「じゃあ、それでどうするのか?」っていう、その先の部分まで書けた気がしています。
──なるほど。実際、このバンドを通じてヒジカタくんは現状をどうしていきたいんですか?
ヒジカタ やっぱり、その……ヒーローになりたいんですよね。
──その“ヒーロー”っていうのは、いわゆる“ロックスター”的なもの?
ヒジカタ そうですね、近いものがあると思います。高校生の頃から、実はそういう思いがあったりとかして。それこそ、たくさんの人の前に立って自分の曲を歌ってっていう存在ですね。
──今回のアルバムを作ることによって、そういう本音みたいなことがようやく口に出せるようになった感じ?
ヒジカタ そうかもしれないですね。前の作品を作っていた頃は、まだホントに何も見えない状態、自分の目の前しか見えない状態だったんですけど、その作品をリリースしていろいろな場所をツアーで回る中で何か光が見えてきてはいて。以前は「ヒーローになりたい」みたいなことを思っていても、実際に言うのはちょっとおこがましい気がしていたのかもしれないです。
収録曲
- 和心
- スーパーソニック
- それでも生きている
- 怠惰故
- シチヘンゲ
- 打ち上げ花火
- 星になる
ドラマチックアラスカ
ヒジカタナオト(Vo, G)、トバナオヤ(G)、マルオカケンジ(B)、ニシバタアツシ(Dr)からなるロックバンド。2010年同じ高校に通う4人で結成して以来、兵庫・神戸を中心に活動を開始する。2013年4月に地元神戸ポートアイランドのワールド記念ホールと神戸夙川学院大学で開催されたチャリティーフェス「COMIN' KOBE13」の「ESP BLACK STAGE」で大トリを務めるなど、ライブを積極的に展開する一方で同年6月に1stミニアルバム「ドラマチックアラスカ」をリリース。その後、初のライブツアーの開催や、「MINAMI WHEEL 2013」「MEGA★ROCKS 2013」などの大型イベントへの出演を経て、11月、いしわたり淳治もプロデューサーとして参加した2ndミニアルバム「オーロラを待っている」を発表した。