ナタリー PowerPush - DOPING PANDA
ドーパン覚醒。バンド史上最大の変化を解き明かす
DOPING PANDAが新作ミニアルバム「anthem」をリリース。表題曲を含む計5曲を収録したこのアルバムは、バンドが新たな段階に到達したことを示す、非常に重要な作品となった。
これまでのドーパンを知るファンなら誰もが驚くであろうサウンド面での大きな変化。この変化はいったい何によってもたらされたものなのか。Yutaka Furukawa(Vo,G)の口からは、そんな疑問に対する意外なほどに明確な回答が返ってきた。
取材・文/大山卓也 インタビュー撮影/中西求
自分のスタジオを作ったのが制作のきっかけ
──問題作ですね、これ。
あー、それ毎回言われてるような気しますけどね(笑)。
──前作「decadence」から5カ月という短いスパンで発表されるミニアルバムということで、まずは今このタイミングでリリースを決めた経緯から教えてほしいんですが。
まあ、いろんな要素があるんですけど、ひとつ理由としてはスタジオを作ったっていうことがでかくて。
──ドーパンのプライベートスタジオ?
うん、夏に作ったんです。普通のホームスタジオなんですけど、そこに機材買って入れて。だから今回エンジニア入れずに、全部自分でやってるんですよ。マイキングもレコーディングも音作りも、マスタリング以外の作業は全部自分でやってます。
──じゃあ新しいスタジオを作ったし、せっかくだからレコーディングしようということですか?
言っちゃえばまあそうですね。スタジオが完成したのがツアー後半が始まる直前の8月で、そのままツアーに出てスタジオ遊ばせちゃうのがイヤだったんで。あとみんな不安だったと思うんですよ。エンジニア入れないで本当にできるのかなって。まあ俺は絶対できるって思ってたんで、みんなに納得してほしかったのと自分も安心したかったから。だからむりやり……すごくタイトなスケジュールだったけど、作ろうよって話になって。
──それが今回のこの作品をリリースする大きな理由のひとつ?
うん、あともうひとつはツアースケジュールの問題もあって。6月にアルバム出して2カ月ぐらいはすごくいい密度でやれてたんだけど、7月のLIQUIDROOMがすごく盛り上がって、ライブの内容もよくて、ファンにとっても俺たちにとってもファイナルみたいな感覚になっちゃったんですよね。で、ツアー後半回る前にもう一回なにか自分たちを喚起するものが必要だと。それがないとツアーがちょっと消化試合みたいになっちゃうぞっていうのがあって。
──それで急遽新作を出しちゃおうっていう?
うん。リキッド終わった後、これがなかったらたぶんなんだかよくわかんない下半期になってたと思うし。この作品がツアー後半のモチベーションになってくれて、そのおかげで下半期いい感じでやれそうだなっていうのはありますね。
明らかに今までの音源とは鳴ってる音が違う
──実際に自分たちのスタジオでレコーディングしてみてどうでしたか?
やっぱり全然違いますよね。
──いい点、悪い点あると思うんですが。
まだ慣れてないし戸惑うところも当然あるんですけど、それを凌駕するぐらいいいとこが多いです。「decadance」のときも言ってたかもしれないけどもうずっとね、僕は音楽始めてから一回も自分の音源に納得したことがないんですよ。頭で鳴ってる音像を再現できたことがないんです。中学生でLed Zeppelin聴いて一気に音楽にのめり込んでいったときの、あのドキドキ感がずっと未解決で。言葉が通じない国の音楽のほうがドキドキする理由は何なんだろう、なんで日本の音楽はドキドキしないんだろうってずっと考えてて。だからスタジオを作って、少なくとも自分の頭で鳴ってるものが表現できそうだってことをつかんだだけでも今までとは雲泥の差ですね。
──確かに今回の「anthem」は、これまでの音源とは印象が大きく違います。
うん、それがどんだけの人に伝わるかはわかんないけど、もう明らかに今までの音源とは鳴ってる音が違うんで。
──前回「decadance」であれほど完成度の高いアルバムを作って、次の一手がこれか、という驚きがあったんですが。
いや、僕は「decadance」が僕の目指す方向での完成度は決して高いとは思わないですね。作曲の完成度は当然上がってるし、そこはそこで正しいとは思うんだけど、いざ音響だけの話をすると「decadance」はあくまでも音圧重視の日本的な音ですよね。
──確かに「decadance」までの作品が音圧重視だったとしたら、今回は全体的に隙間があるというか、奥行きがある感じがしますね。
それが結局音像の話なんですよ。前までみたいな音圧的な音楽って平面、2次元なんです。だからマスタリングで音圧を上げても2次元の紙が大きくなるだけ。でも僕がずっとドキドキしてた洋楽とか、音楽が音楽たるところにある音楽っていうのは奥行きまで全部あって3次元なんですね。だからマスタリングとかで音圧上げると、こういうちっちゃい箱が立体的に箱ごと広がる感覚なんです。ちゃんとその場で演奏してる感じがするし、それを“隙間”って感じるのはすごく正しい感覚で。
──なるほど。
確かに音圧があると派手に聴こえるけど、それは僕の中では音楽ではないんですよ。そこをどうすれば音楽的にできるかっていうことに、今回自分でやっと気づいたというか。音数もね、今回みんなに言われるんですよ。「シンプルになりましたね」とかって。でも実は音は全然減らしてないですよ。むしろ「anthem」に関してはアレンジは複雑になってるし、それはひとつひとつの音が全部聴こえてるからシンプルに聴こえるんだって僕は認識してるんです。「decadance」までの楽曲では、アレンジを複雑にすると、例えばサビに入ったらキーボードが聴こえなくなったりとか、そういう事故が頻繁に起こってて、それについての討論はエンジニアとも散々やってました。「どうしてここで聴こえなくなるんですか」「いや、聴こえてるよ、言ってる意味がわかんない」「これは僕が作りたい音楽じゃないです」みたいな。それが「decadance」を作り終わった後の不満につながってたんですよね、今思えば(笑)。
CD収録曲
- anthem
- the mugendai dance time
- I said enough for one night
- lady
- music you like
DVD収録内容
- ライブ映像60分+ミュージックビデオ1曲収録
DOPING PANDA(どーぴんぐぱんだ)
Yutaka Furukawa(Vo,G)、Taro Houjou(B,Cho)、Hayato(Dr,Cho)から成る3ピースバンド。1997年の結成当初は主にパンク/メロコアシーン界隈で活動していたが、生来のダンスミュージック好きが独自の発展を見せ、後にエレクトロとロックのハイブリッドな融合を担う存在に。インディーズでのブレイクを受けて、 2005年にミニアルバム「High Fidelity」でメジャーデビュー。時代の空気を反映させたサウンドとエンタテインメント性抜群のライブパフォーマンスで、幅広いリスナーからの支持を獲得した。全国各地でツアーやライブ出演を精力的に展開し、ロックフェスティバルでは入場規制を頻発させている。2008年にはイギリスで初の海外公演に挑戦。ワールドワイドな活動にも注目が集まっている。