音楽ナタリー Power Push - DJ'TEKINA//SOMETHING a.k.a ゆよゆっぺ
EDM、アイドル、ボカロを横断する彼が見た各シーンの現状
テキサム、現在のボカロシーンを語る
──そうやってEDMやアイドルの現場にも身を置くテキサムさんは、もともとはボカロPとして名を上げたわけですが、現在のVOCALOIDシーンはどう見てらっしゃいますか?
もう、爆発力のかけらもなくなっちゃいましたね。
──以前、ニコニコ動画出身のあるアーティストさんが「僕らがボカロを始めた2000年代末はみんな純粋に音楽を聴かせたいと思ってやってたけれど、今の人たちはボカロを足がかりに有名になろうとしてるからつまらない」みたいなことをおっしゃっていたんですよね。
その時代すらも終焉に向かおうとしてますね。もはや有名になるためのツールとしても機能しなくなっているというか、そもそもボカロを聴く人間が減っているんですよね。もちろん、先日supercellのryoさんが4年ぶりに初音ミク曲を公開して話題になったりと、根強いファンの方もいるし、僕もVOCALOIDという文化に対して敬意を払っています。それでも、やはり新しい層を取り入れるのは難しくなってきていて、今のところ発展が望めないジャンルになってしまっているんですよね。
──テキサムさん自身も興味を失ってしまった?
残念ながら、そうですね。かつてのボカロシーンは音楽的な無茶が通る場で、それをみんなで面白がっていたんですけど、最近は音楽的な挑戦をする人も少ないし、それを挑戦だと感じる人もいないんですよね。結果、今のボカロシーンでは僕の音楽的欲求が満たされなくなってしまったというか、満たされないからいい曲が書けないみたいな悪循環に陥ってしまって。それよりも、たぶんバンドやDJで、お客さんの顔を見ながらやったほうが、今の僕は音楽的な飛躍ができるんじゃないかと思うんです。もっとも、僕はボカロシーンでの戦いに敗北した人間なんですけど(笑)。
──えっ、そうですか? メジャーデビューまでされているのに?
ボカロシーンでは勝ち切れなかったんですよ。VOCALOIDにスクリーモを歌わせるという、ニッチな方向で攻め続けてしまったがゆえに。それでも、自分がデビューするきっかけを与えてくれたボカロや、僕のボカロ作品を聴いてくださっている方々には本当に感謝してるんですけど、今は距離を置きたい。そのうえで、また自分がボカロで面白い曲を作るにはどうしたらいいのかを模索したいなと。
音楽に対しては一生わがままでありたい
──テキサムさんは2012年、ゆよゆっぺ名義のデビューアルバム「Story of Hope」リリース時のナタリー初インタビュー(参照:ゆよゆっぺ「Story of Hope」インタビュー)で、「『俺はラウドだけだから』みたいな感じになっちゃうのってすごくもったいない」とおっしゃっています。
はいはい。
──さらにインタビュアーの「ソロとバンド、その2本柱でこれから突き進んでいくぞと」という質問に対し、「たぶん2本じゃ済まないですけど(笑)」って答えてらっしゃいます。
はははは!(笑)
──予言的というか、4年経って本当にそうなっているのでちょっと驚いてるんですけど。
自分でも驚きました。やっぱり、僕はジャンルとか関係なくて、好きだと思ったら好きだし、とりあえず自分が面白いと思ったらそこに飛びかかりたい。これは別の媒体さんでもお話ししたことなんですけど、とある専門学校に臨時講師としてお呼ばれしたとき、そこの生徒さんから「ゆよゆっぺさんはいろんなことにチャレンジしていますけど、実際何をやりたいんですか?」って聞かれたんですね。
──もっともな質問だと思います。
で、そのあとの言葉が僕の胸に突き刺さったんです。「僕もゆよゆっぺさんみたいに、電子音楽もバンドもなんでもやりたいんですけど、それを先生に話したら『そんなことしてたら便利に使われて、デビューもできずに終わるよ』と言われたんです」と。それを聞いて僕は「じゃあ、俺ってなんなんだろう?」って思っちゃって(笑)。
──「俺は終わってないけど?」って(笑)。
そのとき僕は彼にうまく言葉をかけてあげられなかったんですけど、今1つ言えるとしたら、「自分が楽しいと思ったことを、何かしら理由をつけてやめてしまうのは、音楽に対する冒涜だよ」ってこと。可能性の芽を自ら摘んでしまうのはもったいないし、そもそも将来のことを考えて音楽をやる時点でナンセンスですよね。すごく無責任な発言をしてるのはわかってるんですけど、その時々に自分がやりたいと思ったことに飛びついてこそ、音楽の本質に触れることができると思うので。じゃなきゃ僕も「KAWA-EDM」なんか作らない(笑)。
──「KAWA-EDM」は“楽しそうだからやりたい”精神の象徴みたいなものですからね。
今回、僕は先ほども言ったように自分のわがままを押し通したわけですけど、その結果、納得のいくものを作ることができました。もちろん、それは僕のわがままを汲み取ってくださったスタッフの方々のおかげでもあります。そのことはしっかり胸に刻みつつ、これからも音楽に対しては一生わがままを貫いてやろうっていう気持ちになりましたね。そうしないと、楽しくないですから。
収録曲 / オリジナルアーティスト
- ヘドバンギャー!! TEKINA Remix / BABYMETAL
- でんでんぱっしょん TEKINA Remix / でんぱ組.inc
- シェキメキ! TEKINA Remix / Dream5
- プリプリ♥SUMMERキッス TEKINA Remix / SUPER☆GiRLS
- 夏祭り TEKINA Remix / Whiteberry
- 恋の天気予報 TEKINA Remix / ウェザーガールズ
- 鼓動の秘密 TEKINA Remix / 東京女子流
- IDOL TEKINA Remix / BiS
- チェケラ TEKINA Remix / Cheeky Parade
- secret base ~君がくれたもの~ TEKINA Remix / ZONE
- White Love TEKINA Remix / SPEED
ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016
- 2016年8月6日(土)茨城県 国営ひたち海浜公園
- 2016年8月7日(日)茨城県 国営ひたち海浜公園
- 2016年8月13日(土)茨城県 国営ひたち海浜公園
- 2016年8月14日(日)茨城県 国営ひたち海浜公園
※DJ'TEKINA//SOMETHING a.k.a ゆよゆっぺの出演は8月13日のBUZZ STAGE。
DJ'TEKINA//SOMETHING(ディージェーテキナサムシング)
ラウドロックをボーカロイドシーンに取り入れたオリジネーターとして人気を博したボカロP、ゆよゆっぺのDJ活動時の名義で、通称「テキサム」。ゆよゆっぺがメタルやスクリーモなどを基軸にしたサウンドなのに対して、DJ'TEKINA//SOMETHINGではフロアライクなEDMを追求している。「ROCK IN JAPAN」「COUNTDOWN JAPAN」「SUMMER SONIC」など大型フェスでDJを務めつつ、BABYMETAL、でんぱ組inc、Dream5、Kis-My-Ft2などのリミックス制作を担当。2015年に結成された、SPEEDの今井絵理子と島袋寛子によるユニット・ERIHIROのサウンドプロデュースを手がけた。2016年5月には女性アイドルグループのリミックスで構成されたアルバム「KAWA-EDM」をリリースしている。