音楽ナタリー Power Push - DJ'TEKINA//SOMETHING a.k.a ゆよゆっぺ
EDM、アイドル、ボカロを横断する彼が見た各シーンの現状
「secret base」なのに、なぜか踊れる
──挑戦的といえば、ZONEの「secret base ~君がくれたもの~」はナチュラルに四つ打ちのクラブ仕様になっていますが、この曲ではBPMを変えていますよね?
これは、音楽的にはちょっとルール違反を犯してるんです。まず、僕はダンスミュージックのテンポの中で、原曲の持つゆったり感や夕暮れ感、夏のアンセム感を出したいと思ったんですね。そのためにテンポを速めつつ、本当に申し訳ないながら、例えば若干リリースタイムを切ったり、歌の入りのサ行の呼気を丸めたりとか、緻密な処理をいろんなパートで施してようやくこのグルーヴができたんです。
──まさに今年もご出演なさる「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」のような、夏フェスにハマる曲。
でも、そういう処理をなるだけ気付かせないようにがんばって作ったんですよ。だから「BPMを変えていますよね?」って突っ込んでもらえるのはうれしい反面、それを悟られないようにしたかった(笑)。
──失礼しました(笑)。でも、繰り返しになりますがあくまでナチュラルに聞こえました。
ありがとうございます。僕は、例えば「変拍子をなるべく変拍子に聴かせないようにする」みたいなことに面白さを見出すタイプなんですよね。難しく作った曲を難しく聴かせたくないというか、難しいことをしたからこそキャッチーにできた音楽っていうのが、僕にとってはすごく意味があって。それをこのアルバムでどれだけ散りばめられるか勝負してみたところもあるんです。
──なるほど。
「ホントにそのドロップいるの?」とか言われるかもしれないんですけど、そのドロップが入ってる理由は僕の中に明確にあるし、それは実際に現場でかけたり聴いたりしたらわかってもらえるはず。あのZONEさんの「secret base」なのに、なぜかリズムに乗ることができる。そういうリミックスにするために、スネア1発、キック1発にこだわって作りました。
──着想の部分は「妄想」とおっしゃったように、ある種感覚的で、その妄想を具現化するためにすごく緻密な作業をしていると。
例えばカップヌードルの容器って、当たり前のようにあの形をしていて、僕らもそれになんの疑問も持たないじゃないですか。でも、カップヌードルの生みの親で日清食品の創業者の安藤百福さんは、とんでもない試行錯誤の果てにあの形にたどり着いたらしいんですよね。そういう誰も気付かないけど実はものすごく重要な部分を突き詰めていくのが、創作活動をするうえで一番楽しい作業だと僕は思うんですよね。だから、この「KAWA-EDM」はすごくわがままなアルバムなんですよ。そこまで作り込ませてもらった、自分のエゴを通したという意味で。
取り逃がしたアイデアは、もう一生出てこない
──別の媒体のインタビューで、テキサムさんはBABYMETALの「メギツネ」のアレンジを担当なさった際、デモを36パターン作ったとおっしゃっていました。そういう経験があればこその試行錯誤なのかなと思ったのですが。
ベビメタちゃんは特殊というか、試行錯誤というよりはトライアスロンみたいな、どこまでも走り続ける感じ(笑)。プロデューサーのKOBAMETALさんが一切妥協を許さない方なので。
──確かにBABYMETALの音作りは、狂気じみてますよね。それこそスネアの1音にしたって、乾き方や硬さに徹底的にこだわっているのが感じられます。
ただ、そこにこだわる作業は後回しでもいいんですよね。つまり、最初の発想が何より重要で、僕自身、ベビメタちゃんの楽曲で時間を費やしたのは、ほとんどが発想したあとの作業なんですよ。もともと僕は、音楽を作るうえで「悩んだら負け」みたいに思っていたんですけど、今回「KAWA-EDM」を作るにあたって、スピードと発想力がいかに大事かっていうのが、以前にも増して身に染みたんですよね。
──思い付いたアイデアはすぐに形にしなきゃいけない、みたいな話ですか?
そうです。「あ、これだ!」ってひらめいたアイデアは、その一瞬を取り逃がしてしまったら、たぶんもう一生出てこないんですよ。リミックスはアイデアが勝負なので、その一瞬のひらめきにどこまで自分が追いつけるか、アイデアを具現化させるまでのスピードが大事なんです。「恋の天気予報」をグリッチホップにしたのも、「secret base」をあのテンポにしたのも、それぞれの発想をうまく捕まえることができた結果だし、逆に、もっと面白いアイデアを逃していたかもしれませんけど、それを言い出したらキリがないですよね。
──これ以外のパターンもあり得たっていうのは、あらゆる創作活動に言えることでもあるので。
お風呂に入ってるときにひらめいて、「これはいいぞ!」って思いながら体を拭いてる最中に忘れるとか(笑)。そうやって取り逃がしたアイデアもいっぱいあるし、必ずしもすべてが僕の思惑通りに行ったわけでもないんですけど、アウトプットされたものの中で一番気持ちよかった曲たちがこちらになります、という感じです。
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収録曲 / オリジナルアーティスト
- ヘドバンギャー!! TEKINA Remix / BABYMETAL
- でんでんぱっしょん TEKINA Remix / でんぱ組.inc
- シェキメキ! TEKINA Remix / Dream5
- プリプリ♥SUMMERキッス TEKINA Remix / SUPER☆GiRLS
- 夏祭り TEKINA Remix / Whiteberry
- 恋の天気予報 TEKINA Remix / ウェザーガールズ
- 鼓動の秘密 TEKINA Remix / 東京女子流
- IDOL TEKINA Remix / BiS
- チェケラ TEKINA Remix / Cheeky Parade
- secret base ~君がくれたもの~ TEKINA Remix / ZONE
- White Love TEKINA Remix / SPEED
ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016
- 2016年8月6日(土)茨城県 国営ひたち海浜公園
- 2016年8月7日(日)茨城県 国営ひたち海浜公園
- 2016年8月13日(土)茨城県 国営ひたち海浜公園
- 2016年8月14日(日)茨城県 国営ひたち海浜公園
※DJ'TEKINA//SOMETHING a.k.a ゆよゆっぺの出演は8月13日のBUZZ STAGE。
DJ'TEKINA//SOMETHING(ディージェーテキナサムシング)
ラウドロックをボーカロイドシーンに取り入れたオリジネーターとして人気を博したボカロP、ゆよゆっぺのDJ活動時の名義で、通称「テキサム」。ゆよゆっぺがメタルやスクリーモなどを基軸にしたサウンドなのに対して、DJ'TEKINA//SOMETHINGではフロアライクなEDMを追求している。「ROCK IN JAPAN」「COUNTDOWN JAPAN」「SUMMER SONIC」など大型フェスでDJを務めつつ、BABYMETAL、でんぱ組inc、Dream5、Kis-My-Ft2などのリミックス制作を担当。2015年に結成された、SPEEDの今井絵理子と島袋寛子によるユニット・ERIHIROのサウンドプロデュースを手がけた。2016年5月には女性アイドルグループのリミックスで構成されたアルバム「KAWA-EDM」をリリースしている。