音楽ナタリー Power Push - ゆよゆっぺ×ヒゲドライバー

筋肉タイプ? 骨タイプ? インターネット発アーティスト同士の作曲談議

ボカロPとしてキャリアをスタートさせ、BABYMETAL、ももいろクローバーZ、バンドじゃないもん!などの楽曲制作を手がける一方、DJ'TEKINA//SOMETHING名義でのDJ活動や、ポップコアバンド・GRILLED MEAT YOUNGMANSのフロントマンとしての活動もしているゆよゆっぺ。彼は9月28日にGRILLED MEAT YOUNGMANSの1stミニアルバム「EATMANS」を発表し、さらに10月26日にはシンガーソングライターとしてのデビューアルバム「ゆとりだから本気になれない」をリリースする。

今回音楽ナタリーでは、彼と同様にソロアーティストとしての活動のほか、アニメ作品やアイドルへの楽曲提供、ロックバンド・ヒゲドライVANでのライブなど多彩な活動を展開するヒゲドライバーを迎え、ゆよゆっぺとの対談を企画。インターネットを出発点にしつつ、現在は幅広いフィールドで才能を発揮している2人に、それぞれの音楽観、クリエイティブに対する考え方などについて語り合ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 佐藤類

ボカロPなんて調子のいい奴らの集まりだろ

──ゆよゆっぺさん、ヒゲドライバーさんが初めて会ったのはいつですか?

左からヒゲドライバー、ゆよゆっぺ。

ゆよゆっぺ 初めて会ったのは、ヒゲさんが東京に出て来た初日ですよね。

ヒゲドライバー そう、上京初日。2010年くらいかな。

ゆよゆっぺ 僕はまだ20歳になったばかりだったんですけど、ヒゲさんが東京に来るというので「会ってみたい」と思って、引っ越しを手伝いにいって。荷物なんて何もなかったんですけどね(笑)。

ヒゲドライバー 確かに何もなかった(笑)。

ゆよゆっぺ 僕の中でヒゲさんは「インターネットの長(おさ)」みたいなイメージだったんですよ。直接会って話をしたいと思ってたんですけど、そのときは絶妙な壁があって。

ヒゲドライバー 完全に初対面でしたからね。

──お互いの音楽についてはどんな印象を持っていたんですか?

ゆよゆっぺ

ゆよゆっぺ ヒゲさんの音楽に最初に衝撃を受けたのはWindowsのリミックス(Windows XPの効果音のサンプリングだけを使った楽曲「Hello Windows」)ですね。「Windowsの音だけでこんなにいい曲を作ってる人がいるんだ!?」っていう。そこからMyspace、muzieでほかの楽曲も聴かせてもらって「ヤバい!」ってなって。僕は音楽をロジカルに考えるタイプなんですけど、そのときはヒゲさんの楽曲がどうやって成り立ってるのか、よくわからなかったんですよ。でも、そこから汲み取れるコード感、メロディがとにかくよかったんですよね。

ヒゲドライバー へー(笑)。僕もゆっぺさんの名前は知ってたんですが、VOCALOIDの楽曲やボカロPというものに興味がなくて、ちょっと毛嫌いしていた部分もあるんです。「ボカロPなんて、ブームに乗っかってる調子のいい奴らの集まりだろ」みたいに思っていたというか。

ゆよゆっぺ そんなにボカロPを焚き付けることもないだろうと思いますが(笑)、そういうところもありましたね、確かに。

ヒゲドライバー でも、実際にボカロPの人に会って「ヒゲさんの曲、好きです」とか「前から聴いてました」と言われると、印象が変わっちゃうんですけど(笑)。ゆっぺさんに初めて会ったときも「透明少女」を褒められたのかな。その後、ゆっぺさんの曲を聴かせてもらって「ただのボカロPではないな」ということもわかって。

ゆよゆっぺ お!

ヒゲドライバー

ヒゲドライバー また毒のある言い方になっちゃいますけど、ボカロPに対して「ボカロってものを取っ払ったら、その音楽、中身は何もないよ?」って思ってたんです。でも、音楽としてカッコいい作品を作ってる人もいらっしゃったんですよね。身近なところで言うと、kz(livetune)さん、sasakure.UKさんとかはすごく尊敬してますし。ゆっぺさんの楽曲もやっぱりそうで、ボカロを取っ払っても受け入れられるものだと思って。

ゆよゆっぺ 僕としては「ボカロという技術と、自分がもともと好きだったハードコアやスクリーモを足したら、面白いスキマ産業になるんじゃないか」と思ってたんですよね。

ヒゲドライバー スキマ産業ですか(笑)。

こうやってバンドの話ができるのは幸せ

──ゆよゆっぺさんはGRILLED MEAT YOUNGMANS、ヒゲドライバーさんはヒゲドライVANというバンドのフロントマンとしても活動しています。お二人にとって、バンドはどんな意味を持っているんですか?

ヒゲドライバー まあ、僕がバンドを始めたのは最近なんですけどね。ゆっぺさんはもともとバンドをやっていたから、そこは違いますよね。

ゆよゆっぺ そうですね。バンドをやることで生きてきたという自負もあるので。バンドというものが好きだし、ヒゲさんがバンドを始めたときも、ちょっとうれしかったんですよ。

ヒゲドライバー (笑)。実はずっと言われてたんですよね。「ヒゲさん、バンドやらないんですか? 対バンしましょうよ」って。

ゆよゆっぺ 言ってました(笑)。言い方は悪いですけど、「ヒゲさん、もったいないな」って思ってたんですよね。「なんで『Kiss me』や『東京ソーダ』をライブハウスでやらないんだろう? そうすれば絶対に人が集まるし、そこで1つの空間を作るのが一番いい形なのに。感動間違いなしじゃん!」って。20歳くらいのときは「一番カッコいい音楽はバンドっしょ」みたいな考え方があったんですよ。バンドだけでは足りない部分をボカロやインターネットで補助していけたらいいなっていう。

──今は考え方が変わってるんですか?

ゆよゆっぺ 今は……よくわからなくなってます(笑)。ただ、根本はやっぱりバンドなんですよ。DJもそうなんですけど「人前で音楽をやることがすべて」というのは変わってないので。楽曲を作ること、1人で世界観を作り込むことも大事ですけど、一番は「人にどう伝えられるか」ですからね。

ヒゲドライバー 僕も実は、最初は「バンドをやりたい」という気持ちがあったんです。だけど思うようにメンバーが集まらなかったから、1人で音楽を表現することを考えて、ヒゲドライバーとしてピコピコ音楽(8bit音源を使用したチップチューン)を始めて。でも、今は周りにいいミュージシャンがたくさんいるし、「原点に戻って、バンドをやるのもいいんじゃないか」と思うようになったんです。

ゆよゆっぺ よかったです、ホントに。ただ、今となっては「バンドをやらなかった理由もあるんだな」ということもわかるんですけどね。ヒゲさんとは4~5年くらい同じ事務所に所属しているんですけど、その間「バンドこそが至高じゃん!」と思っていた僕の考えが揺らぐような事案がたくさん発生して(笑)。リアルな話ですけど、そうなると「どうすれば音楽で生活できるか」ということを考えるわけです。自分のワガママだけでは続けられないんだな、とか。

ヒゲドライバー やっぱり難しいですからね、バンドは。練習も必要だし、機材ごと移動しなくちゃいけないし。1人でやるDJのほうが楽なんですけど、メンバーと一緒に人前で演奏して、ワーッと盛り上がることだったり、お客さんとの一体感を感じられるのはやっぱり楽しいんです。大変なことも多いけど、ライブをやれば全部が報われるというか。

ゆよゆっぺ ホントにそうですよね!

──ゆよゆっぺさんやヒゲドライバーさんから「バンドが最高」みたいな話が聞けるなんて、めちゃくちゃエモいですね!

ヒゲドライバー ハハハハハ!(笑)

ゆよゆっぺ ありがとうございます。最近はクリエイターとして名前を知ってもらえることのほうが多いと思うから、こうやってバンドの話ができるのは幸せなことですよね。

GRILLED MEAT YOUNGMANS 1stミニアルバム「EATMANS」 / 2016年9月28日発売 / 1944円 / MOtOLOiD / LOID-0014
GRILLED MEAT YOUNGMANS 1stミニアルバム「EATMANS」
収録曲
  1. Overture
  2. 復讐のベジタリアン
  3. Good Morning Bounce
  4. Get Ready
  1. Pegasus
  2. 夜食
  3. S.O.Y
  4. Thank You My Bee
ゆよゆっぺ ニューアルバム「ゆとりだから本気になれない」 / 2016年10月26日発売 / ヤマハミュージックコミュニケーションズ
初回限定盤 [CD+DVD] / 3024円 / YCCW-10290/B
通常盤 [CD] / 2484円 / YCCW-10291
CD収録曲
  1. You and beautiful world
  2. めいめろ
  3. Story of Hope
  4. Hope
  5. Lost Story
  1. Sweet Circle
  2. ゆとり
  3. 本気になれない
  4. Cry
  5. だから
  6. いつでも、どこでも
初回限定盤DVD収録内容
  1. 「だから」ミュージックビデオ
  2. ゆよゆっぺのチョリ帰省2~松下先生インタビュー動画~
ヒゲドライバー ベストアルバム「ヒゲドライバー10th Anniversary Best」 / 2016年1月20日発売 / 2808円 / EXIT TUNES / QWCE-00556
ヒゲドライバー ベストアルバム「ヒゲドライバー10th Anniversary Best」
収録曲
  1. ALARM
  2. Sono Sabi
  3. Kiss me
  4. Reset me
  5. チェリー
  6. Hello Computer
  7. SAMURAI BEAT
  8. マイティボンジャック
  9. ukigumo
  10. アナログ
  1. KOKORO BEAT
  2. 雲のスピード
  3. ホログラフ
  4. キュート・ポップ
  5. 498 Tokio
  6. PULSE LASER
  7. GIGI BABA
  8. HAPPY HEART BEAT
  9. REMEMBER THE BEAT
ゆよゆっぺ
ゆよゆっぺ

ラウドロックを軸にさまざまなジャンルを盛り込んだVOCALOID楽曲をニコニコ動画に発表し、何度 も“殿堂入り”を果たしている人気ボカロP。2012年9月にアルバム「Story of Hope」でメジャーデビューを果たしたあとも、自身のバンド・GRILLED MEAT YOUNGMANSや、DJ名義のDJ'TEKINA//SOMETHINGとしての活動、BABYMETALをはじめとするさまざまなアーティストへの楽曲提供など活躍の幅を広げている。ゆよゆっぺとしては2014年7月には同名の小説と完全連動したアルバム「ぼかろほりっく」を発表。2016年には、5月にDJ'TEKINA//SOMETHINGとして女性アイドルグループのリミックスで構成されたアルバム「KAWA-EDM」、9月にGRILLED MEAT YOUNGMANSとして1stミニアルバム「EATMANS」を発表し、10月にゆよゆっぺ名義でシンガーソングライターとしての1stアルバム「ゆとりだから本気になれない」をリリースする。

ヒゲドライバー
ヒゲドライバー

2005年に無料インディーズ音楽配信サイト・muzieで楽曲を発表したのを皮切りに、主にインターネット上で活動しているソロアーティスト。2008年にWindowsの効果音だけで作られたオリジナル曲「Hello Windows」をニコニコ動画に投稿して話題になる。同年6月に初のオリジナルCDアルバム「ヒゲドライバー1UP」を発表して以降、ハイペースで音源をリリース。スピード感のあるキャッチーなメロディーを得意とし、インストのチップチューンから歌ものロックまで幅広いジャンルの曲を制作している。近年はアーティストやゲーム、アニメへの楽曲提供を数多く担当。2013年に、バンドプロジェクトを始動してCDとミュージックビデオを制作するためクラウドファンディングサイト・CAMPFIREで支援を募り、翌2014年にヒゲドライVANを結成。ヒゲドライバーとしては、2016年1月に10周年記念ベスト盤をリリース。バンドは2016年6月にミニアルバム「インターネット・ノイローゼ」を発表した。