音楽ナタリー Power Push - DJ'TEKINA//SOMETHING a.k.a ゆよゆっぺ
EDM、アイドル、ボカロを横断する彼が見た各シーンの現状
今年で4年連続となる「ROCK IN JAPAN FESTIVAL」への出演が8月13日に決定しているDJ'TEKINA//SOMETHING。ボカロP・ゆよゆっぺとして名を上げた彼は、2つの名義を使い分けながらさまざまなアーティストへの楽曲提供や、バンド、DJ、そしてBABYMETALの作詞・作曲・編曲・ミキシングなどジャンルレスな活動を展開している。今年5月にはそのBABYMETALをはじめ、でんぱ組.incやZONE、SPEEDといった女性アイドル楽曲をEDM風にリミックスしたDJ'TEKINA//SOMETHING名義のアルバム「KAWA-EDM」をリリースした。
EDM、ボカロ、アイドルという3つのシーンを横断する彼に、最新アルバムに込めた思いや自身の音楽観、そして現在の各シーンの状況について話を聞いた。
取材・文 / 須藤輝 撮影 / 佐藤類
聴いてて気持ちよければいいじゃん!
──まず「KAWA-EDM」について、アイドル楽曲をEDM風にリミックスするという企画の成り立ちからお聞きしていいですか?
僕は今まで、バンドやDJなどいろいろな活動をさせてもらっているんですけど、その行動原理は「どうにかして面白いことがしたい」という一点に尽きるんですね。で、このアルバムはその最たるもので、ほとんど悪ノリに近いというか……。
──いや、創作においてある程度の悪ノリはわりと大事だと思います。
ホントにファミレスで決まったような話で、マネージャーと「普通にリミックス出しても面白くないよね」「オリジナルのボーカル音源を使ったアイドルのリミックスって、誰もやってなくない?」「じゃあ、やろう」みたいな。僕も僕の事務所(TOKYO LOGIC)の人たちも、誰もやってないことをやるのが好きで。
──でも、そこで実際にやれちゃうフットワークの軽さは素晴らしいですよ。アルバムの方向性としては、どんなところを目指したんですか?
純粋に、自分がDJの現場で「こういうふうに使えたらいいな」と思える、かゆいところに手が届くようなアルバムにしたいなと。そこで一番大事だったのが、妄想力。要は、ちゃんとご本人が歌っているところを想像できる、歌心があるものにしたかったんですよね。原曲のメロディや展開も、一切崩してないと言ったら嘘になるんですけど、ちゃんとサビやAメロ、Bメロのラインが残るように心がけて。
──EDMって、乱暴に言うとアタックが強くてナンボみたいなところがありますから、歌モノとの衝突は避けられないでしょうね。
そうなんです。僕は中途半端の化身みたいなところがあるので、そこでいつも叩かれるんですよ(笑)。「これはEDMじゃない」あるいは「アイドルじゃない」みたいに。でも、僕はEDMの現場にもアイドルの現場にも身を置いて、その空気を感じたうえでこれを作っているんですね。実際、「KAWA-EDM」を謳っているくせに、厳密にはEDMとは呼べない曲もあるんですけど、ジャンルがどうこうではなくて、とにかく「聴いてて気持ちよければいいじゃん!」というものを作りたかったんです。
リミックスで妄想を具現化できた
──実際に聴いていて気持ちよさは十分に感じます。あと、例えばBABYMETALの「ヘドバンギャー!!」はダブステップ、でんぱ組.incの「でんでんぱっしょん」はドラムンベース、ウェザーガールズ「恋の天気予報」はグリッチホップ、BiSの「IDOL」はトラップと、曲によってアプローチの仕方が多彩ですよね。
これはもう、僕が現場で聴いたときに、一番アガれるであろう選択肢を採用しました。そういう意味では直感に左右された部分が大きいですね。
──具体的には?
例えばウェザーガールズさんの「恋の天気予報」の場合、僕は今までグリッチホップは作ったことがなくて、どうにかして挑戦したいと思っていたんですね。そのとき僕の思い描いていたグリッチホップの現場感が、ウェザーガールズさんのイメージと見事に合致したんです。実は、以前たまたま台湾でのイベントでウェザーガールズさんとご一緒したことがあって、いつか彼女たちの曲が書けたらなと勝手に思ってたんです。その妄想が、リミックスという形で具現化できたという。逆に、BiSさんの「IDOL」は、当初はトラップを作ろうっていう気持ちはまったくなかったんです。
──「IDOL」は、このアルバムの中ではほかの曲と少し毛色が違いますね。原曲からして、アイドルソングというよりはラウドロック的な曲だというのもあると思いますが。
だから、もう少しワブルベースを突っ込んでドラムステップ寄りにするとか、あるいはもっとダーティなビッグルーム系にしようかなと考えてたんです。でも、この「IDOL」のボーカルトラックだけをずっとループさせてたら、ふと「これはトラップだろ」って。とはいえ、そのとき僕はまだちゃんとトラップを理解していなかったというか、やおや(Rolandのリズムマシン「TR-808」)のよさも知らないトーシローだったんで、鍵盤堂とかに行ってハードウェアシンセに触ってきたりして(笑)。
──機材を触るところから(笑)。僕が不勉強なだけかもしれませんが、トラップって、あんまり日本で浸透してる感じではないですよね?
トラップは、日本人が苦手とされる帯域がメインになってる音楽なんですよね。僕らは骨格的に、50~60Hzくらいの低域がなじまない体をしているらしく。あと、トラップは曲の抑揚やメロディではなくて、低音の気持ちよさを感じる音楽でもあるんですけど、僕はこの「IDOL」のメロディを生かしつつ、いかにトラップ臭さを出せるかを意識しました。だからこの曲はとりわけ挑戦的なトラックですね。
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収録曲 / オリジナルアーティスト
- ヘドバンギャー!! TEKINA Remix / BABYMETAL
- でんでんぱっしょん TEKINA Remix / でんぱ組.inc
- シェキメキ! TEKINA Remix / Dream5
- プリプリ♥SUMMERキッス TEKINA Remix / SUPER☆GiRLS
- 夏祭り TEKINA Remix / Whiteberry
- 恋の天気予報 TEKINA Remix / ウェザーガールズ
- 鼓動の秘密 TEKINA Remix / 東京女子流
- IDOL TEKINA Remix / BiS
- チェケラ TEKINA Remix / Cheeky Parade
- secret base ~君がくれたもの~ TEKINA Remix / ZONE
- White Love TEKINA Remix / SPEED
ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2016
- 2016年8月6日(土)茨城県 国営ひたち海浜公園
- 2016年8月7日(日)茨城県 国営ひたち海浜公園
- 2016年8月13日(土)茨城県 国営ひたち海浜公園
- 2016年8月14日(日)茨城県 国営ひたち海浜公園
※DJ'TEKINA//SOMETHING a.k.a ゆよゆっぺの出演は8月13日のBUZZ STAGE。
DJ'TEKINA//SOMETHING(ディージェーテキナサムシング)
ラウドロックをボーカロイドシーンに取り入れたオリジネーターとして人気を博したボカロP、ゆよゆっぺのDJ活動時の名義で、通称「テキサム」。ゆよゆっぺがメタルやスクリーモなどを基軸にしたサウンドなのに対して、DJ'TEKINA//SOMETHINGではフロアライクなEDMを追求している。「ROCK IN JAPAN」「COUNTDOWN JAPAN」「SUMMER SONIC」など大型フェスでDJを務めつつ、BABYMETAL、でんぱ組inc、Dream5、Kis-My-Ft2などのリミックス制作を担当。2015年に結成された、SPEEDの今井絵理子と島袋寛子によるユニット・ERIHIROのサウンドプロデュースを手がけた。2016年5月には女性アイドルグループのリミックスで構成されたアルバム「KAWA-EDM」をリリースしている。