アナログ化してグレードが上がった音像に
──「HIT NUMBER」をレコードで聴いたときはどんな感覚がありましたか。
おかもと EVIS(EVISBEAT)さんのリミックス(「HIT NUMBER – EVISBEATSとPUNCH REMIX」)はアナログ化される前から自分でもすごく好きだったんですけど、デジタル音源で聴いていたときに感じていた浮遊感が倍増するようなよさを感じましたね。オリジナルバージョンの「HIT NUMBER」も、ほぼ自分だけでパソコンで作ったトラックがアナログ化されてどんな音像になるんだろう?と思っていたんです。実際にレコードで聴いたら、自分ではチープだと思っていたトラックがちゃんと音楽になってるなって感動しました。
ハマ 音像のグレードが上がったと。
おかもと そう。グレードが上がった気がしたのと、新しくジャケット違いでアナログ化された「HIT NUMBER」を作れたことで曲自体にさらに愛着が湧いて。人のいろんな面を見てどんどんその人を好きになっていくような感覚に似てるなと思いました。
──OKAMOTO'Sは2015年発表の「OPERA」以降のオリジナルアルバムはすべてレコード化されていますが、初めて自分たちのレコードをリリースしたときはうれしかったのでは?
ハマ 本当にそうですね。ずっとレコードを作りたいと言っていたんですけど、レーベルがなかなか首を縦に振ってくれなくて(笑)。でも、ある日レーベルサイドのミスが発覚して、それに怒った僕が「その代わりに2枚組でアナログをリリースさせてください」って言ったんですよ。
おかもと すごい!
──どんな交渉術ですか(笑)。
ハマ それで「OPERA」のレコードが2枚組でリリースされることになったんです(笑)。でも、「RECORD STORE DAY」もそうだし、本当に今はレコードをリリースできるきっかけがどんどん広がってるから、それは素晴らしいことだなと思います。
自分が死んだあとも残る音楽メディアはレコードだけ
──この流れで改めてハマくんにレコードの音の魅力を語っていただけたら。
ハマ 今からレコードを楽しもうとしてる人が多く読む記事でもあると思うので、あんまり音に対する込み入った話をしないほうがいいかなとも思うんですけど、音の情報量で言えば周波数の帯域幅はCDよりも多いんです。だからこそ、さっきえみそんが言ったような「疲れない」とか「溶け込む」という感覚を覚えるんですよね。もちろん、そのうえでレコードの音の本領を発揮させるためにはハイスペックなオーディオ環境で聴いたほうがいいのは間違いないんだけど、なぜさっき「最初は高級なプレイヤーにこだわらなくてもいいと思う」と言ったかというと、結局僕がレコードを掘ることをずっとやめられない理由は、再生するまでのプロセスが好きだからなんですよね。好きな曲を探して聴く行為はサブスクでもできるけど、わざわざレコードを買うためにレコード屋に行って、買う目的ではなかった1枚に出会えることもある。そこまではCDも同じ体験ができるんだけど、いざレコードを買ってそれをスリーブから出して盤を傷付けないようにターンテーブルに置いて、同じく盤を傷付けないように慎重に針を置く……その音楽と向き合うための段階を経ていく体験がほかのメディアにはないものなんですよね。
おかもと 確かに。
ハマ あとはストリーミングであれば「このアルバムで気に入ったのは1曲だけだったな」と思ったらプレイリストからほかの曲は削除できるけど、レコードはスペースも取るし捨てるのもはばかられる。でも、そういう体験やモノの先にある音楽であることがレコードの一番の魅力だと思うんです。そのあとにオーディオのスペックとか、音のよさ云々という話がついて回ってくる。やっぱり僕は世の中が便利になっていくにつれて失われたプロセスに取り憑かれてるんですよね。僕は7inchオタクで、同じ曲のプレスされた国が違うレコードとかもめちゃくちゃ持っていて。
おかもと そういう意味では「HIT NUMBER」にジャケット違いのレコードがあるのも同じようなことかも。
ハマ そう、そういう話になってくるんですよ。それはサブスクでは味わえないモノの魅力でもあるじゃないですか。あと、1980年代初期にプレスされたCDはメディアの寿命がやってきて今では聴けなくなっているものもけっこうあると聞いて。
おかもと そうなんだ! 知らなかった!
ハマ そう考えると結局音楽メディアで一番生き残ってるのはレコードなんですよね。実際に50年代にプレスされた現役で聴けるレコードが実在しているわけで。OKAMOTO'Sがレコードをリリースしている理由はそれもあるんです。僕らが死んだあとも残る音楽メディアはレコードだけだから。
おかもと そう考えるとすごく強いメディアなんだね。
レコードでよく聴こえる曲を作りたい
──ここで、2人に用意してもらったレコードをTechnicsの「SL-1200MK7」で聴いてみましょう。
(※「HIT NUMBER」を試聴)
ハマ レコードで聴くと「こんなにシンセベースが出るんだ」って思ったんじゃない?
おかもと 思った。ミックスのときにもっとシンベの音を出せばよかったとも思ったし。
ハマ そうなるよね。
おかもと ほぼLogicのプリセット音源で作ったトラックというのもあるんですけど、デジタル環境で聴いてるときよりも自分で入れたバッキングボーカルの音がすごく際立って聞こえますね。
ハマ 音像に余裕があるんですよね。僕は大好きなザ・ゴールデン・カップスというGSバンドの1st(「ザ・ゴールデン・カップス・アルバム」)を持ってきたんですけど、OKAMOTO'Sのレコードを持ってこいよって話ですよね(笑)。
おかもと 確かに(笑)。でも、持ってきてもらったレコードを聴いてみたいです。
ハマ これはいわゆるオリジナル盤なんですけど、別に音がいいから持ってきたわけじゃなくて。これ、オリジナル盤でありつつ、当時の白盤なんですよ。音楽業界ではリリース前にメディアや関係者に配られるCDを白盤って呼びますけど、白盤の由来ってここからきてるんですよ。ほら、「文芸宣伝課」っていうスタンプも押されていて。
おかもと あ、本当だ。「見本」って書いてある。
ハマ で、盤面は当時の東芝音楽工業が日本盤だけに作っていた赤色のもので。赤盤は音が劣化しないという都市伝説があるんだけど、それは大嘘で(笑)。
おかもと 嘘なんだ(笑)。でも、赤の盤面ってかわいいね。
ハマ そう、そういう魅力もあって。このアルバムに入ってる「銀色のグラス」という曲は、初めてレコードを聴いてぶっ飛んだときの1曲です。
おかもと 聴いてみたい!
(※ザ・ゴールデン・カップスの「銀色のグラス」を試聴)
ハマ 僕は何台かレコードプレイヤーを持ってますけど、Technicsさんのプレイヤーは間違いないですね、やっぱり。
おかもと 今日いい音響でレコードを聴いて、さらにレコードでよく聴こえる曲を作りたいと思いました。「この低域で鳴っていい音があるんだ!」という発見がありましたね。
ハマ こういう音で聴くと作り手的にも音作りの引き出しを増やせるよね。レコードを通ってるミュージシャンと通ってないミュージシャンでは音作りが明確に違うということもよく言われてるし。
おかもと 絶対に全然違うよね。それを実感できてよかった。
RECORD STORE DAY JAPAN
毎年4月の第3土曜日に世界で同時開催されるアナログレコードの祭典「RECORD STORE DAY JAPAN」。2008年にアメリカでスタートし、現在世界23カ国で数百を数えるレコードショップが参加を表明している。日本での運営は東洋化成が担当。レコードショップでは数多くのアーティストのアナログレコードの限定盤やグッズなどを販売。世界各地でさまざまなイベントも行われ、毎年大きな盛り上がりを見せている。今年は世界的な新型コロナウイルス感染拡大の影響を受け開催時期を調整し、「RSD Drops」として8月29日、9月26日、10月24日の3回に分けて行われる。