DEZOLVE「CoMOVE」インタビュー|「一緒に時間を動かそう」技巧派インストバンドが新体制で鳴らす4人の音 (2/2)

妻がお腹の子に歌っていた子守歌のメロディ

──では、ニューアルバム「CoMOVE」について聞かせてください。前作「Frontiers」以来、約3年ぶりのアルバムになりますが、今回はゲストミュージシャンを呼ばず、メンバー4人だけで制作されています。

北川 新メンバーの兼子くんが入って、新しい体制になりましたからね。「この4人のDEZOLVEを聴かせたい」という気持ちがありました。

山本 「ただいま」というか、DEZOLVEが戻ってきたというアルバムにしたかったんです。奇をてらったことはせず、これまで通りのDEZOLVE+αというか。

──メンバーそれぞれの個性もしっかり感じられますね。山本さんが作曲した楽曲「Vantablack」「Tiny Vision」「Atlantis」「Starting Point」は、DX7や電子ドラムのシモンズの音が印象的です。

山本 僕の曲にはすべてDX7の音が入ってます。最初に「フュージョンじゃなくてインストゥルメンタルバンド」という話をしましたが、自分の曲に関しては、ぶっちゃけフュージョンを作ってて。「Vantablack」以外の3曲は僕が好きだったフュージョン、皆さんがイメージするフュージョンをやろうと意識しました。そのためにDX7、シモンズは欠かせないし、ニワカじゃないところを見せたいというか(笑)、音色もしっかり作り込みました。DX7は実機の音をサンプリングしてるんですよ。

山本真央樹(Dr)

山本真央樹(Dr)

──80年代フュージョンを今のミュージシャンがやったらこうなる、という。

山本 “いろんな音楽を融合する”というのはこれまでと同じなんですけどね。今回はフュージョンという音楽をフュージョン(融合)したというか(笑)。メンバーにも参考音源を渡して、「こういう音色でお願いします」と伝えました。

友田 DEZOLVEは作曲者ファーストなんですよ。もちろん楽曲が一番上だけど、作曲者の意向を汲むという共通認識もあります。

山本 それがスキルアップや自分に足りないことに気付くきっかけになる。いい関係性だと思います。

──「Starting Point」は主旋律がすごくドラマティックですね。メロディに対するこだわりも強いのでは?

山本 メロディに関しては、曲の背景や内容によるところが大きいですね。「Starting Point」は、アルバムのタイトル「CoMOVE」とも関係しています。この3年間、コロナ禍で世界中が止まってしまった。タイトルには「ここから一緒に時間を動かしていこう」という意味を込めていて、「Starting Point」はまさにスタート地点、「ここから走り出そう」という思いから始まった曲なんです。最初は陰りがあるけど、曲が進行するにつれて、どんどん突き進んでいく。旋律だけで思いを伝えるのはすごく難しいですが、リスナーの皆さんの感情に訴えるようなメロディを書きたいと思ってますね。僕、「Tiny Vision」を書いているときに子供が生まれたんですよ。子供がこれから目にする未来がキラキラしたものであってほしいし、ワクワクがいっぱい詰まった曲にしたかった。Dメロには、子供がお腹にいたときに妻が歌っていたオリジナルの子守歌のメロディを引用しています。

一緒に歌えるようメロディはシンプルに

──北川さんは1曲目の「Heart of the World」をはじめ、「Landscape」「Migration」「Beyond the Sunset」の作曲を担当されています。

北川 「CoMOVE」というタイトルの“Co”は“一緒に”という意味なんですが、自分の曲に関しては合唱だったり、皆さんと一緒に歌えるようなパートを入れたくて。メロディはシンプルで、後ろで鳴っているリズムやフレーズが複雑に絡み合う、というバランスを意識しました。自分が作曲した4曲にはすべて、自分でコーラスを入れてます。

──「Migration」はパット・メセニーを想起させるところもありますね。

北川 はい、まさにパット・メセニー・グループを意識しました(笑)。「パット・メセニーの新しいアルバムにこんな曲が入っていてほしいな」というイメージから、DEZOLVEに寄せていったというか。自分が好きなことをやりましたね、「Migration」は。

実体験や思ったことを落とし込む

──そして友田さんが作曲したのは「Coruscate」「The Room of Serendip」「Uchronia」「Fleeting」ですね。

友田 DEZOLVEで曲を書くときは、アルバム全体のテーマやおぼろげなイメージをもとに、自分自身の実体験や思ったことを落とし込むのが好きで。「The Room of Serendip」はコロナ禍の自粛期間中、湯舟に浸かるのが趣味になったことがもとになっています。風呂に入ってリラックスした状態になると、曲のアイデアやイメージが浮かびやすいんですよ。ミュージシャンならわかってもらえると思うんですけど、お風呂は幸運がやってくる場所だし、“お風呂ソング”を作ってみたいなと。

友田ジュン(Key)

友田ジュン(Key)

──チルな雰囲気もありますね。

友田 そうなんですよ。「Uchronia」にもコロナ禍の時期に経験したことが反映されています。自粛期間中、外にまったく人がいなくて、時間が止まったような異様な雰囲気だったじゃないですか。「Uchronia」は“時間がない国”という意味があるんですけど、あの頃経験したことを曲にしたいなと思ったんです。12曲目の「Fleeting」は「一瞬一瞬を大切にしたい」というテーマで作りました。ポップでエモーショナルな曲にしたいなと思っていたら、メンバーがすごい演奏をしてくれて、想像以上の曲になりましたね。

兼子がDEZOLVEで意識する3つのこと

──メンバー皆さんのスキルとセンスによって、楽曲のポテンシャルが引き出されるんでしょうね。兼子さんとっては正式加入後、最初のアルバムです。手応えはどうですか?

兼子 僕はDEZOLVEで演奏するときに意識していることが3つあるんです。1つ目は、作曲者に寄り添うこと。違うバンドかと思うくらい、いろんなジャンルが入り交じっているので、楽曲を表現するためにプレイスタイルや音色を決めるようにしています。2つ目は、DEZOLVEとしての筋をしっかり通すこと。楽曲のテイストがこれだけあると、世界観が散らばりそうですけど、全曲を通してDEZOLVEらしさがある。ベースもその一役を担えたらなと思っています。3つ目は「兼子拓真が弾く意味」です。例えば僕は指ではなく爪で弾く奏法を使うことがあって、そういう自分ならではのテクニックを取り入れながら、ベースで“しゃべる”ことをしたいなと。「CoMOVE」は自分の中でその3つがバランスよく整ったアルバムになったと思います。レコーディング前はちょっと不安もあったんですが、いい作品になってよかったです。

──新体制になって初のアルバムが完成したことで、次のビジョンも見えてきたのでは?

山本 そうですね。レコーディングが終わった直後から、次の制作の話をするようなバンドなので。

北川 半年後くらいには新曲ができていそう。

山本 「次回はこういうことをやりたい」とか「この人にこういうプレイをしてほしい」というアイデアも、各々の中で湧き上がっていると思います。

──アルバム「CoMOVE」の楽曲をライブで聴けるのも楽しみです。ちなみに制作中って、ライブのことは考えてますか?

山本 いや、あまり考えてないですね。

北川 制作中はひとまずいい作品にすることに集中していて、ライブのことは、そのときになったら考えるようにしてます。

山本 ライブならではアレンジや音色もあるので。このアルバムのコピーバンドをやるような感じかな(笑)。

──アマチュアのプレイヤーの中にも「DEZOLVEの曲を演奏したい!」と思っている方が大勢いそうですね。

山本 実は自分たちは“コピーさせないバンド”と言ってるんですよ(笑)。もちろんすごい精度でコピーしてくださる方もたくさんいらっしゃって毎回驚きますけど、どこか読み解きにくい謎が1つや2つ残るような音楽にしたい、みたいな気持ちがありますね。

DEZOLVE

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プロフィール

DEZOLVE(ディゾルブ)

2014年結成のインストゥルメンタルバンド。北川翔也(G)、友田ジュン(Key)、山本真央樹(Dr)、そして2022年11月加入の新メンバー兼子拓真(B)からなる。正統派のフュージョンサウンド、テクニックを基礎としながら、さまざまなジャンルを取り入れ、これまでのジャズフュージョンの枠にとどまらないオリジナルの表現を追求している。2023年2月に現体制初のアルバム「CoMOVE」をリリースした。メンバー全員がスタジオミュージシャンとしても活躍し、数々のアーティストのレコーディング、ライブに参加している。