DEZOLVE「CoMOVE」インタビュー|「一緒に時間を動かそう」技巧派インストバンドが新体制で鳴らす4人の音

インストゥルメンタルバンドDEZOLVEが6thアルバム「CoMOVE」をリリースした。

2020年発表の前作アルバム「Frontiers」がヒャダイン(前山田健一)にテレビ番組で紹介され、音楽ファンから広く注目を浴びたDEZOLVE。約3年ぶりのフルアルバムとなる「CoMOVE」ではジャンルの枠を超えた音楽性、高度な演奏能力に裏打ちされたアンサンブル、情景が浮かぶような魅力的なメロディがひとつになっている。

音楽ナタリーでは、メンバーの山本真央樹(Dr)、友田ジュン(Key)、北川翔也(G)、新加入の兼子拓真(B)にインタビュー。それぞれの音楽的ルーツ、バンドに対するスタンス、“一緒に動き出す”をテーマに掲げた「CoMOVE」の制作背景を聞いた。

取材・文 / 森朋之撮影 / はぎひさこ

DEZOLVEを形作るメンバーのルーツ

──DEZOLVEと言えばフュージョンというイメージがあると思いますが、メンバーの皆さんはこのバンドの音楽性について、どう捉えていますか?

山本真央樹(Dr) バンドを始めたときはフュージョンのイメージが強かったと思うんですけど、一方で「これまでのフュージョンバンドとは風向きを変えたい」という気持ちもあって。ジャズとロックが融合してフュージョンという音楽が始まったのだとしたら、自分たちはなるべく多くの音楽を吸収して、フュージョン(融合)させたかったんですよね。だったらフュージョンバンドではなく、インストゥルメンタルバンド、歌がないバンドですよと説明するほうがいいんじゃないかなと。さっきの取材で、そういうことになりました(笑)。

──DEZOLVEの音楽の核になっているのはメンバーの皆さんのルーツだと思います。音楽に興味を持ったきっかけを教えてもらえますか?

北川翔也(G) 母親が音楽好きで、自分は3歳からピアノ、小学校低学年からギターを弾き始めて。クラシック、ロック、ポップスなどを聴いていたんですが、中学生のときにジェフ・ベックに出会って、ジャズやフュージョンに興味を持つようになったんです。そこからパット・メセニーなども聴くようになって。

──パット・メセニーはジャンルを超越したギタリストですからね。

北川 そうですね。作品によってはギターをほとんど弾いてなかったり、オーケストラ、民族楽器的な要素を入れた楽曲もあって。ギタリストというより、音楽そのものを表現したアーティストだったと思うし、すごく影響を受けてますね。DEZOLVEでもギタリストとしての自分よりも、楽曲を表現するためにギターがあるという考え方なので。

北川翔也(G)

北川翔也(G)

──なるほど。山本さんはどうですか?

山本 最初はブリティッシュロックですね。Queenから始まって、Sparks、It Bitesなどを聴いていたんですけど、振り返ってみると、好きになった理由は鍵盤だったんです。小さい頃から鍵盤が入っていない音楽には惹かれることがなくて、もちろんドラムは好きですけど、一番好きな楽器は鍵盤だと思います。なので僕からキーボード担当の友田くんへの注文が多いんです(笑)。

友田ジュン(Key) (笑)。

山本 吹奏楽部に入っていたこともあって、いろんな楽器が鳴っているカラフルな音楽も好きなんですよね。1つの楽器で成り立つ音楽もいいですけど、いろんな楽器が代わる代わる主役になる曲をたくさん聴いてきたので。カシオペア、T-SQUAREなどのフュージョンバンドは、まさにそうですよね。

友田 僕も父の影響で、小さい頃からカシオペアやT-SQUAREを聴いてました。父は趣味でベースを続けていて、DXシリーズの初期モデル・DX7(ヤマハが販売していたシンセサイザー)を持ってるくらい楽器好きなんです。ずっと家で流れていたし、僕にとってインストの音楽は身近だったんですよね。その後、なぜか熱帯JAZZ楽団を聴き始めて、そこからオスカー・ピーターソン、トミー・フラナガンなども好きになって。ビバップのピアニストも好きで、ジャズピアニストを目指すようになりました。最初は生ピアノを弾く人間になるつもりだったですけど、もともとエレクトーンを弾いていたし、フュージョンに馴染みもあったので、気付いたらキーボードも弾いてました。ピアニストのクリヤ・マコトさんが僕の師匠なんですが、クリヤさんに音楽観を広げていただいたことが、今のプレイスタイルにつながっているんだと思います。

兼子拓真(B) 僕はロックが最初ですね。父が趣味でギターを弾いていて、70年代のロック、ハードロックが大好きだったんですよ。家でかかっているのも、The Rolling Stones、Led Zeppelinなどの往年のロックばかりで、僕もすごく好きになりました。ベースのルーツになっているのは、ヴィクター・ウッテンですね。ベース1本でメロディ、ベースライン、パーカッションまでやっているのを、初めて聴いたときに感動して。そこからですね、ジャズやフュージョンに興味が湧いたのは。ほかの楽器を引き立てるのがベース本来の役割だとは思うんですが、フュージョンは全員が主張しているし、「こんなにベースが“しゃべって”いいんだ?」と視界が開けた感じがあったんです。超絶技巧のプレイも好きですね。

──超絶技巧のプレイ。DEZOLVEはまさにうってつけじゃないですか。

兼子 そうなんですよ(笑)。むしろ「もっと主張して」と言われることもあって。普段の現場ではけっこう我慢してるというか、抑えることもあるので……。

北川 このバンドで発散してるんだ?(笑)

兼子 (笑)。今はほかの楽器を立てる演奏も好きだけど、DEZOLVEではレコーディングの1テイク目から思い切り弾いてもいいし、むしろそれを求められるので。

山本 兼子くんと会ったのは別のアーティストのレコーディング現場だったんですよ。そのときはポップスだったので、ベーシストとしていろんな表現ができるわけではなかったんだけど、そのプレイも素晴らしかったし、すごく話しやすくて。連絡先を交換して、僕のソロアルバム(2021年8月発表「In My World」)だとか、別の案件にも参加してもらって、DEZOLVEのサポートもお願いするようになりました。

兼子 サポートの仕事だけじゃなくて、自分が“しゃべれる”というか、ベーシストとして表現できる場所がないかなと思っていたんですよ。なのでDEZOLVEに参加できたのは本当によかったです。

兼子拓真(B)

兼子拓真(B)

こんなの弾けるか!

──プレイヤーとしてすごく楽しい場所ですよね、DEZOLVEは。

北川 どんな曲を書いてもメンバーがしっかり表現してくれるし、自分のイメージを超えた演奏をしてくれることも多い。切磋琢磨できる環境ですね。曲を作るときも、メンバーをどれだけ唸らせられるかを意識しています。

友田 ハハハハ。

山本 いい意味で演奏する人のことを考えてない(笑)。作曲者のやりたいことにほかのメンバーが付き合っているというか、曲によって作家とスタジオミュージシャンが入れ替わっている感覚です。曲を作った人から「これを演奏してください」と譜面を渡されるという図が毎回あるので。

北川 スタジオでセッションしながら作ったら、そのときにできる範囲のものしかできないと思うんです。DEZOLVEは作曲者がしっかりデモ音源を作るし、レコーディングでフレーズやアレンジが変化することもあって。そういう化学反応がこのバンドのよさでもあると思いますね。

友田 音楽的なバックグランドが違うメンバー3人(友田、北川、山本)が作曲するので、楽曲によって雰囲気が全然違うんですよ。結果的にいろんなジャンルがちりばめられるし、全員が好きなことを制約なくやってるのも面白くて。楽曲はデモの段階でほぼ完成してるんですが、メンバーのプレイを乗せると100点が120点、130点になる。個展を共同で開催しているような感じがありながら、バンドとしての個性があるのもいいな、と。ほかにはないバランスのバンドだと思います。

兼子 メンバーから新曲のデモを受け取るたびに「こんなの弾けるか!」って思いますけどね(笑)。各々がとんでもない技巧を基礎として持っているのも事実で。だからこそ燃えるし、「負けたくない」と思うんですよね。DEZOLVEに参加してから、演奏技術がめちゃくちゃ上がったし、幅も広がりました。

友田 全部の楽器の特性を深く理解しているわけではないので、ピアノでは弾きやすくても、ギターやベースだったら難しいというフレーズもあって。それに合わせて練習を重ねることも必要なんですよね。

北川 鍛錬の場だね(笑)。

友田 楽曲が世に出る前にハードルがあるんですよ。メンバーに「いい曲だな」と思ってほしいし、自分の曲はイケてるのか?という気持ちもあって。

山本 「難しくしよう」という意識はゼロなんですけどね。音楽というものは人のことを考えず、やりたいことをやれば、自然と演奏が難しくなるんでしょうね(笑)。

北川 そうだね(笑)。

山本 例えばほかのアーティストに曲を提供したり、劇伴やBGMのために曲を作るときは当然、相手や作品のことを考えるじゃないですか。DEZOLVEはそうじゃなくて、それぞれがやりたいことをやって、書きたい曲を書いてるので、そこは全然違いますね。

DEZOLVE

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聴きやすいけど難しい。コスパが悪いんです

──実際、DEZOLVEの音楽は聴いた感じはまったく難しくなくて、むしろ聴きやすいですよね。どの曲もメロディアスだし、ポップスを聴いているような感じがあります。

山本 そうなんですよね。聴きやすいんだけど、やってることは難しい。コスパが悪いんです(笑)。

北川 それを目指しているところもあるからね。「聴きやすい」と言ってもらえるのはうれしいです。

山本 うん。演奏の難度よりも作品が大事という共通認識があるし、「聴いてくれる皆さんに、こんなふうに届いてほしい」という意識もありますね。

──インストゥルメンタルバンドを普段聴かないリスナーにも届きそうですよね。インストバンドの魅力を広く届けるために意識していることはありますか?

山本 メンバーそれぞれがスタジオミュージシャンなので、いろんな場所で演奏したり、アレンジャーとして参加したりする機会があって。例えばポップスの楽曲で、DEZOLVEっぽいアレンジを取り入れることもあるんですよ。それを聴いてくれた方に「この曲、誰が演奏してるんだろう?」と興味を持ってもらえたらいいなと思っています。そういう意味ではバンド以外の活動もDEZOLVEにつながってるんですよね。