山本真央樹1stソロアルバム「In My World」発売記念特集 山本真央樹(DEZOLVE)×神保彰|憧れのヒーローとの対談が実現 異世代ドラマーによるフュージョン・ドラム談義

若手フュージョンバンド・DEZOLVEのドラマー山本真央樹が8月25日に1stソロアルバム「In My World」をリリースした。

テレビ朝日系「関ジャム 完全燃SHOW」にてヒャダインこと前山田健一に“激推しバンド”として紹介されるなど、メンバー全員が20代という若さながら、正統派なフュージョンサウンドにさまざまなジャンルを取り入れた音楽性で高い評価を受けているDEZOLVE。その中心メンバーである山本はこれまで数多くのアーティストのレコーディングやライブに携わってきたほか、作編曲活動にも力を注いで楽曲提供を行い、その才能を発揮してきた。

そんな山本の1stソロアルバムには本田雅人(Sax / ex. T-SQUARE)、則竹裕之(Dr / ex. T-SQUARE)、山本恭司(G / BOWWOW)ら凄腕ミュージシャンが参加。音楽を作るうえでいろいろな情景を思い浮かべ、求める形にたどり着く、その道のりがアルバム全体で表現されており、20分を越えるシンフォニックな大曲「In My World」を筆頭に、フュージョン、ジャズ、クラシック、プログレなど、山本の多彩なルーツと作曲センスが反映されている。

音楽ナタリーではアルバムのリリースを記念し、日本を代表するフュージョンバンド・カシオペアなどで知られる大先輩ドラマー・神保彰との対談をセッティング。「In My World」の楽曲の話題はもちろん、作曲家、ドラマーとしてのスタンス、1980年代のフュージョンに対する評価、現在のリズムの進化などについて語り合ってもらった。

取材・文 / 森朋之撮影 / 平山尚人

「In My World」を聴いてひっくり返った

──神保さんと山本さんの対談はこれが初めてだそうですね。

神保彰(右)と記念撮影する小学生時代の山本真央樹(左)。

神保彰 そうですね。最初に真央樹くんに会ったのは、まだ高校生のときだったよね?

山本真央樹 実は小学生のときにお会いしてるんです。ライブに行かせてもらって、そこでご挨拶させてもらって。小学校2年生のときにカシオペアの存在を知って、そのときから神保さんは僕のヒーローなので。

神保 いやいや(笑)。

──カシオペアを聴いたきっかけは?

山本 小さい頃はロックばっかり聴いてたんですけど、父親から「ジャズやフュージョンも聴いてみたら?」と、「CASIOPEA PERFECT LIVE II」(1987年発売のライブビデオ)とデビュー20周年のライブ映像作品(2000年発売の「20TH」)を渡されて。その2作品を観て神保さんのドラムにすごく感銘を受けたんです。本当に何百回観たかわからないし、どこでどういうアングルになって、神保さんがどんなフィルを叩くのかもすべて覚えてしまったんですよ。教則ビデオも観たし、ずっと「神保さんならこう叩くだろう」と想像しながら練習していて。僕はドラムを習ったことがないんですけど、勝手に師事してました(笑)。

神保 ありがとう。うれしいです。

──神保さんは山本さんの音楽や演奏に対して、どんな印象を持っていますか?

神保 以前から演奏は聴かせてもらってたんですが、初のソロアルバム「In My World」を聴いて、ひっくり返りました。音楽性の幅広さ、奥行きがあって。今、いくつだっけ?

山本 29歳になりました。

神保 20代でここまで完成度が高いアルバムを作れることが信じられないです。特にタイトルになっている、シンフォニックな大曲「In My World」はすごいです。僕もいつかこういう曲を書いてみたいと思っているし、それを自分のゴールに設定してるところがあるんですが、最初のアルバムで実現させているのが衝撃でした。演奏テクニックはもちろんすごいし、アレンジのアイデアも斬新で。ドラマーというより、素晴らしいミュージシャンだなと思いました。

山本 ありがとうございます。とてもうれしいです。

音楽の美しい連鎖

──タイトル曲「In My World」は20分を超えるクラシカルな楽曲ですが、どんなテーマで制作されたんですか?

山本真央樹

山本 僕は中高の6年間、吹奏楽部に在籍していて、主にクラシックを演奏していたんです。作曲を始めたのも、クラシックの和声や対位法を勉強したのがきっかけなんですが、ポップスのシーンではそういう楽曲を書くタイミングがなかなかなくて。せっかく自分のアルバムを出させてもらえるんだから、自分のルーツをさらけ出す場所がほしいと思って着手したのが「In My World」なんです。DEZOLVEというインストのバンドもやっているんですが、あまり長い曲を持っていったらほかのメンバーに迷惑がかかるだろうし。

神保 (笑)。

山本 ソロアルバムであれば、ある程度、自分のやりたいこともやれますからね。曲の長さをあまり気にせず、クラシックのような、サウンドトラックのような楽曲をやってみようと。願望、希望、野望が叶いました(笑)。

──山本さん自身のやりたいことがもっとも強く出ている楽曲なんですね。

山本 そうですね。実は「In My World」のような楽曲はあまり聴いてもらえないだろうなと思っていたんです。フュージョン、ロック、ジャズなどのテイストの楽曲のほうがウケがいいだろうし(笑)、実際、アルバムの前半はそういう曲が多くて。「In My World」はボーナストラック的に収録したんですが、思いのほか皆さんに注目していただけました。

神保 アルバムを自分でプロデュースするのは大変な作業ですからね。自己満足になってはいけないし、自分のやりたいこと、聴いてくれる皆さんの好みなども含めて、トータルで制作する必要がある。

山本 そうですよね。今回のアルバムについては、自分のルーツが見える作品にしたかったんです。今までに聴いてきた音楽を自分のフィルターにかけて、新しい音楽として放出すると言いますか。クラシック音楽はカシオペアはもちろん、T-Square、パット・メセニー、Queen、King Crimsonなども聴いてきたし、それらの音楽から受けた影響を集約して、山本真央樹の“In My World”を表現したいなと。なので楽曲の中に、「こういうアーティストが好きなんだろうな」とニヤっとしてもらえるようなフックも入れてるんです。

神保 2曲目の「Dawn~Sunrise Avenue」は80年代のフュージョンのテイストが強く出てますね。

山本 まさにそうです。80年代後半のフュージョン、特に角松敏生さん、堀井勝美プロジェクトのサウンドを意識しました。特にシンセの音にはこだわってます。コンピューターのソフトシンセではどうしても再現できなかったので、角松さんのスタジオにお邪魔して、実機の音をサンプリングさせてもらったんですよ。

神保 そのこだわりはすごい(笑)。角松くんのスタジオには、今もキーボードやシンセが山のようにあるの?

山本 そうですね(笑)。宝の山でした。

神保彰

神保 「Dawn~Sunrise Avenue」は楽曲の構成もすごいなと思いました。80年代のフュージョンは、Aメロ、Bメロ、サビというシンプルな構成がほとんどだったんですが、真央樹くんの楽曲は万華鏡のように多面的で。我々の世代にはなかった発想だし、新世代のフュージョンだなと。

山本 ありがとうございます。それはおそらく、クラシックの影響だと思います。モチーフになるメロディ、主題を変容させるという発想で、それをフュージョンにどう取り入れるのか、と考えていたので。

──しかも、メロディがキャッチ―ですよね。

山本 それはもう、80年代フュージョンの影響ですよね。当時のフュージョンはポップスのようだし、基本的には僕もポップスを作っている意識なので。

神保 そうやって発展させているのは素晴らしいし、僕としてもうれしいですね。我々も前の世代のミュージシャンからいろんなことを学んで、それを自分たちなりに解釈してアウトプットしてきて。僕ら世代の音楽を真央樹くんたちが取り入れて、新しいものとして表現しているのは、まさに音楽の美しい連鎖ですよね。