デーモン閣下|演劇×ロックの融合、劇団☆新感線とコラボレーションした異色アルバム

デーモン閣下が10月16日にニューアルバム「うた髑髏(どくろ) -劇団☆新感線劇中歌集-」をリリースした。

魔暦19(2017)年11月に発表された「うただま」以来およそ2年ぶりのソロアルバムとなる本作は、劇団☆新感線とのコラボレーション作品として制作された。デーモン閣下は魔暦前4(1995)年に上演された劇団☆新感線の公演「星の忍者」で主演を務め、劇中歌を書き下ろし。魔暦元(1999)年の聖飢魔IIの解散黒ミサでは、劇団☆新感線を主宰するいのうえひでのりが演出を担当した。さらにデーモン閣下は昨年まで上演された「髑髏城の七人」シリーズで劇中歌を歌唱するなど、20年以上にわたって劇団☆新感線と交流を重ねてきた。

アルバム「うた髑髏(どくろ) -劇団☆新感線劇中歌集-」には、これまでに制作されたデーモン閣下と劇団☆新感線によるコラボレーション楽曲12曲を収録。演劇とロックが融合した個性的な作品に仕上がっている。音楽ナタリーではデーモン閣下にインタビュー行い、劇団☆新感線との関わりやアルバムの制作について語ってもらった。

取材・文 / 森朋之 撮影 / 新元気

デーモン閣下と劇団☆新感線の出会い

──ニューアルバム「うた髑髏(どくろ) -劇団☆新感線劇中歌集-」は、デーモン閣下と劇団☆新感線とのコラボレーション作品です。このアイデアはどういう経緯で実現したのでしょう?

昨年まで、劇団☆新感線がIHIステージアラウンド東京で「髑髏城の七人」シリーズを延々と上演していただろう? その最後の2シリーズの劇中歌の作詞依頼があり、そのうち「Season極」では吾輩もオープニングとカーテンコールの曲を歌ったのだ。その流れもあり、「これまで舞台のために作ってきた曲を“セルフカヴァー”みたいにやったら面白いかもな」と漠然と思い始めたのがきっかけだな。劇団☆新感線の楽曲以外にも、単発もののコラボレーション楽曲がけっこう存在しているので、それらをまとめてアルバムにすることを考えていたところ、吾輩のプロダクションの社長が「全曲、劇団☆新感線の曲だけのほうが面白い」と言い出し、この作品につながったのだ。

──デーモン閣下と劇団☆新感線は1980年代から交流があるそうですね。

左から劇団☆新感線の俳優・古田新太、主宰者・いのうえひでのり、デーモン閣下。

厳密に言うと平成元年、魔暦前9(1990)年あたりからだな。その前は先方が一方的に聖飢魔IIを知ってくれていて、黒ミサを観に来てくれていたのだ。面識を持ったのは、魔暦前9(1990)年に発表した吾輩の最初のソロアルバム「好色萬声男」のときだったと思う。プロモーションとして「コンサートでただ演奏してもつまらないから、演劇にしよう」という話になり、アルバム収録曲のストーリーと関連付けた芝居をやったのだが、そのときに小道具係として劇団☆新感線の劇団員が参加してくれたのだ。そのあと、大阪を拠点にしていた劇団☆新感線が東京でも公演を行うようになり、吾輩も頻繁に観に行くようになったな。

──劇団☆新感線は当時から舞台にロックやヘヴィメタルを取り入れていましたよね。

そうだな。ヘヴィメタルに限らず音楽の使い方がとても個性的で、それに合わせた立ち回りや殺陣、ダンスも非常にカッコいい。そしてストーリーには真面目な要素もあるが、おおむねバカバカしい(笑)。そのギャップがよかったんだろうな。カッコよさとバカバカしさが同居しているという。

デーモン閣下

──閣下ご自身も、もともと演劇に興味があったんでしょうか?

うむ。世を忍ぶ仮の学生の頃、俳優養成所に通っていたこともあったからな。聖飢魔IIを結成したときも、まだ通っていたぞ。

──1980年代は鴻上尚史さんの劇団「第三舞台」、野田秀樹さんの「夢の遊眠社」など、新しい劇団がブームを巻き起こしていました。

バンドブームと時を同じくして、若い演劇人がオリジナリティを競っていたからな。痛快活劇という点では、劇団☆新感線が群を抜いていたな。

舞台の楽曲を書くのは得意

──「うた髑髏(どくろ) -劇団☆新感線劇中歌集-」は、主に1995年上演の「星の忍者~Stranger in a Strange Star」、2017年から2018年に上演された「髑髏城の七人」の楽曲で構成されています。閣下ご自身が主演し、楽曲も提供した「星の忍者」は、劇団☆新感線とのコラボレーションが本格的に始まった作品ですね。

そうだな。楽曲に関しては岡崎司(1990年代から劇団☆新感線の音楽制作に携わっているコンポーザー、ギタリスト)氏が過半数書いているのだが、記憶が正しければ「自分が歌う曲のいくつかは作曲させてほしい」と申し出たのだと思う。芝居用に曲を書くのは初めてだったが、非常に面白かったな。ただ、役者としての稽古と並行して詞曲を作るのはまあまあ大変であった。

──そして「髑髏城の七人」は劇団☆新感線の代表作です。

デーモン閣下

本当によくできた芝居だよね。笑わせるところもしっかりあるし、それぞれの人生を背負った登場人物たちがあるきっかけで絆を結び、1つの目的に向かって進むというストーリーも素晴らしくて。楽曲に関するいのうえ氏からの依頼も明確で、非常にスムーズだったな。あらかじめ物語があって「こういう場面でこういう人が歌うので、こういう曲をお願いします」と依頼が来るので、曲にどういうメッセージを込めて、何を訴えるのかを考える必要がない。それはとても楽だった(笑)。そういう縛りを嫌うミュージシャンもいるかもしれないが、吾輩はどうやら得意なようだ。「聖飢魔IIや閣下が作るタイアップ曲は素晴らしい」と、ブルボン小林氏にも言われたことがある(笑)。

──アルバムに収録されている楽曲は舞台用の曲からバージョンアップされていますが、制作はどのように行われたのですか?

まずは楽曲を聴き直すところからだな。特に「星の忍者」は24年前の作品なので、舞台のDVDから楽曲を抜き出して、「こんなだったなー」と言いながら聴いた(笑)。いくつかの曲で微妙な手直しもしているぞ。当時、詞はすべて稽古が始まってから制作したので、とにかく急いで作ったせいか、今聴き直すと「この歌詞はおかしいぞ?」と思うところもあって。あとは英語の歌詞の文法。魔暦前10(1989)年に発布した第五大教典「THE OUTER MISSION」(聖飢魔IIの音楽アルバムのようなもの)あたりからは吾輩の配下である日本語がペラペラのアメリカ人に文法をチェックさせているのだが、「星の忍者」のときはそんな余裕がなかったんだ。今回改めて見てもらったらやっぱり間違っているところがあったので、そこは直しておいた。

──サウンド面のアレンジに関してはどうですか?

そこは大きく変えることはなかったな。吾輩が作曲したものは基本的にハードロックだし、岡崎氏の曲も世界観がハッキリしていて、カッコいい曲ばかりだから。「星の忍者」の楽曲に関しては当時のマスターテープがどこにあるのかわからなかったので、「録音し直すしかない」という話になったんだ。アレンジはほぼ同じだが、シンセの音などは少し変わったかな。流行もあるし、機材の進化もあるからな。


2019年10月17日更新