今年結成20周年、デビュー15周年を迎えたDef Techが、11月18日に10枚目のアルバム「Powers of Ten」をリリースした。
「Powers of Ten」にはアルバム発売に先駆けて配信リリースされた「Like I Do」や、ソーシャルメディアへのメッセージが込められた「Face 2 Face」「Instabation」など、計10曲が収録されている。音楽ナタリーでは本作の発売を記念してDef Techにインタビュー。アルバムの制作過程や結成20周年を迎えた心境を聞いた。
取材・文 / 松永尚久 撮影 / 友野雄
僕らはなんでも話せる仲
──2020年は、Def Techにとって結成20周年、そしてデビューから15周年というアニバーサリーイヤーですが、この社会状況だとなかなかお祝いムードにはなりませんよね。
Micro 神様は僕らのことを簡単にお祝いしてくれないんだなと思いました。毎回、節目節目でいろんな出来事が起こっていますからね。結成当初は、アメリカで同時多発テロが起こったし、結成10年を迎えた頃には東日本大震災があって、節目節目でいろんなハードルを僕らに与えてくれるなって。でも、そのたびに音楽の必要性を強く感じるようになっている。だからきっと今回の試練は、「まだまだ音楽を作り続けろ」と言われているようなものだと思っています。
Shen この20年、いろんなことがあった。それを乗り越えて、音楽活動で生活できたことが本当に奇跡だと思う。サポートしてくださった方々に対する感謝の言葉しかありません。
──この20年、ずっと楽しい状態で音楽を続けられたのでしょうか?
Shen 振り返ればいろんなことがあったけど、今はそれらがすべて楽しい経験だったと思うようにしています。あと、僕らはのめり込んでしまうと、仕事と遊びの境界線がなくなってしまうタイプで。だから真剣に取り組む瞬間もあるけど、きちんとリラックスもできる。そのバランスをうまく保ちながら、20年活動できた気がしますね。
──いつお会いしても、お二人ともピースフルで、周囲も笑いが絶えない印象です。
Shen 僕らはなんでも話せる仲なんです。だからいつも楽しい。さっきの撮影中も、笑いすぎて頭がクラクラしちゃったほどだし(笑)。
──20年間、その関係性と2人での音楽活動が続いている秘訣は?
Micro 「My Way」だけのヒットだったら、僕らは別々に活動をしていたと思いますよ。「一発屋」と呼ばれるのは嫌だったから(笑)。「Catch The Wave」を制作して、ヒットしたから、続けられていたのかも。でも、単純に楽しいだけで20年続いてきたわけじゃなくて。楽曲を制作することによって、自分たちにとっても、またリスナーの方々にとっても何かしらの気付きがあった。そういうこともあったからこそ、ここまで続いてきたのではないかとも思っています。
Shen デビューの段階から、ただ自分の思いを吐き出すのではなく、リスナーに届くメッセージ性のあるものを作りたいと思っていたからね。
──お二人の真摯な思いは次の世代にも伝わっていて、Def Techから影響を受けたと公言するミュージシャンもたくさんいます。また「My Way」がソーシャルメディアを通じて再ヒットしていますね。
Shen 今は僕らのようなサーフな感覚を持つ楽曲が少ないから、逆に新鮮に響いているのかもしれないですね。僕らの次の世代の台頭は、自分たちにとっても新しい刺激になります。
Micro これまで突っ走って活動をしてきたけど、それが次の世代の心にちゃんと響いていたのだと思うと、純粋にうれしい。またこの活動を通じて、音楽シーンを牽引することができたと思えて、誇りに思います。でも、次の世代に負けずにこれからもノーリタイヤで活動するので。時代のちょっと先を行く音楽を発信して、可能性をどんどん広げることができたら。
Shen でも自分たちが時代を牛耳る王様だとは思っていなくて。そう思ったら終わりというか、周りからそう言われても、自分たちは常に新しいことを試し続ける挑戦者だと思ってるんです。常に勉強し、進化することを止めないでおきたい。また、この20年で自分たちの中に揺るぎないコアとなる部分が生まれたと思うから、これからどんな音楽を取り入れても、Def Techらしさが失われることはないという自信はできました。
これまでの作品の中でもっともチルアウトな内容
──記念すべき10作目となるアルバム「Powers of Ten」がリリースされました。20年活動してきた2人の軌跡がしっかり刻まれた、じっくり聴ける作品になっているという印象を受けました。
Micro これまでの作品の中でもっともチルアウトな内容になっていると思います。こういう雰囲気の音をずっと作りたかったんですけど、僕らはこれまでクラブやヒップホップのシーンなどでパフォーマンスすることが多かったので、そこに合う曲をメインに制作していて。「これを聴いてみんな卒倒してくれ」というくらいインパクトの強い曲を多く発表してきた。でもここに来て、背伸びをしない等身大の自分たちを表現したくなったんですよね。
Shen もちろん現在でも怒りやパッションは持っているのですが、それをより洗練した形で表現してみたくなった部分はあります。でも、本作にもヒップホップはあるし、自分たちのルーツを表現した曲も収録されていますよ。
──フルアルバムとしては4年ぶりになります。今回はどんな思いを持って制作しましたか?
Micro この4年の間に音楽は確実にデジタルで聴かれる割合が増えてきた。そこであえてローファイで生な音を追求したら、新鮮に耳に響くのかなって。温かさがありながら、飛び抜けて耳に残るフレーズのある楽曲にしようという意識もあったし、2人の声を前面に押し出そうとした曲もあったし。
──今はサブスクなどで、アルバム全体としてではなく、楽曲単位で聴かれることが多くなってきました。そこは意識しましたか?
Micro 僕らのファンはアルバム全体を通して聴いて、さらにライブに足を運んでくださる方が多いと思っているので、最初から最後まで楽しんでいただけるように構成した部分もあります。
──お二人の呼吸、そして温かさが伝わってくるライブ感のある音になっていますが、今年はコロナの影響で、なかなか思い通りに制作できないジレンマがあったのでは?
Micro リモートで制作することが増えましたね。みんなでスタジオに入って細かい調整をすることが頻繁にできなかったので味気なさを感じたのは確かです。でもリモートならではのよさもあって、細かいことをいちいち気にしなくなった。感覚で「いいね」と思ったものを最終的に選べたような。結果、手作り感を残せた作品になったのかなと思います。
──では今回も制作はハワイと東京で?
Micro 最初はそのつもりでいたんだけど……。
Shen 僕がハワイに帰ってしまうと、日本での作業が滞ってしまうリスクがあったので、今回は日本でレコーディングをしました。
──今年に入って作った楽曲が多いのですか?
Micro いや。「Best Days」は5年前くらいからあった楽曲で。参加してくださったギタリストさんは、もうこの世にはいないんです。その一方で、昨年末にパッとできた曲もあるし。
──そうなんですね。では今回のアルバムを波のサイズに例えるとしたら?
Micro うーん。「Surf Me To The Ocean」は超でかい波に早朝から遭遇したという感じだし、「All I Want Is Your Love」は波がないからゴルフでもしようぜって感じだし。1曲ごとにコンディションが違うのかな。
Shen 全体的に、いい感じのオーバーヘッド。チューブに入れるくらい最高の波って感じ。
──オープニングを飾るのは波の音で始まる「Surf Me To The Ocean」。なかなか自由に海に行くことができないこの時期を少しだけ忘れさせてくれる、エネルギッシュなナンバーですよね。
Micro コロナ禍の前に作っていたのに、この時世を予見しているような曲になりましたね。風邪をひいただけで周囲から冷たい視線を浴びせられたりだとか、人と人との関係性が分断されつつある状況で、苦しくなった心と体を少しでも忘れることができたらというメッセージの入った楽曲になったと思う。また海からスタートするのもDef Techらしいし。
──エレクトロなビートが心を弾ませますね。
Micro これはケイティ・ペリーの楽曲を参考にしながらも、その感覚を海っぽいテイストに変換して完成させました。
Shen この曲のタイトルを「Take Me(連れて行って)」ではなく「Surf Me(サーフィンに行こう)」としているセンスが最高だなって。またビートの速い打ち込みサウンドは、今までやりたくて表現できなかったこと。それを取り入れることができてよかったなと思う。
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Cecilio & Kaponoのハーモニーに魅せられて