Def Tech|結成20年を経て生まれた等身大のサウンド

Cecilio & Kaponoのハーモニーに魅せられて

──「Face 2 Face」には、現在の人間同士の分断を生んだとも言われている、ソーシャルメディアを中心としたネットに依存する社会に対するメッセージが込められているように感じました。

Def Tech

Micro これは、僕らが最近ハマって観ているネット配信ドキュメンタリー番組「監視資本主義 デジタル社会がもたらす光と影」の影響が強いかも。ソーシャルネットワークを構築した人たちが登場し、自分たちは世界に爆弾のようなとんでもないものを作り出してしまったと告白する内容なのですが、僕らもよくないと思いながらもついついSNSを眺めてしまう。たぶん、ネットなしの生活は3日もたないんじゃないかというくらい依存している。だから、上から目線で「それをするな」とは決して言えないけど、「このままの状態だとヤバイよね?」と自分を含めて気付くきっかけを与える楽曲にしたいなと思って制作しました。

Shen 本当にこのドキュメンタリーはみんな観て考えたほうがいいと思う。コロナの前に作っていたのにソーシャルディスタンスが巻き起こる現在を予言しているようなフレーズもあるんですよ。

Micro 距離感や存在感が大切って書いているけど、コロナになってその大切さがより身にしみてきましたよね。

──「Instabation」もネットやソーシャルメディア依存に対する警鐘を鳴らしていますよね。

Micro そうそう。みんなセルフで自分の日常を簡単に発信しているけど、それに依存しすぎるのはどうなんだろうって。まあ自分たちも一緒なんですけど(笑)。

──ネット依存防止のために、Def Techはソーシャルメディアの更新がピンポイントなのですかね?

Micro あっ、それは単純に人手不足(笑)。本当はがんばって、1日2、3投稿したいところなんですが……。

──(笑)。そして本作のリード曲でもある「Like I Do」。これは2人のハーモニーをシンプルに聴かせるような仕上がりですね。20年活動してきたからこそ生まれる情緒みたいなものを感じます。

Shen 1999年に僕らが通っていたハワイの学校を卒業する際に流れた楽曲が、Cecilio & Kaponoの歌う「Goodtimes Together」だったんです。この曲の声が重なった瞬間に生まれるハーモニーにパワーがあって、それに魅せられた僕らは音楽活動をスタートしようと決意した。「その楽曲の持つエネルギーを、今の僕らだったら表現できるのでは?」と思い制作したのが「Like I Do」なんです。例え絶望に突き落とされたとしても、希望を見失わない、ポジティブなスタンスを保ち続けることの大切さだとか、今の自分たちだからこそ伝えられることを表現できた楽曲になったと思います。

好きな相手のそばにいられる自分も好き

──「Like I Do」はミュージックビデオも素敵ですよね。

Shen 早朝から撮影をスタートして、朝焼けと夕焼けの両方を同日に撮影することができたのは奇跡のようでしたね。

──男女カップルのピースフルな日常を捉えているとともに、Def Techのお二人の、恋人や友人とは異なる強い絆を感じさせる感動的な仕上がりになっています。

Micro 登場してくれた女の子が本当にかわいいんですよ! 彼女は僕が見つけたんです。実際のボーイフレンドと登場してくれて。だからリアルな表情が捉えられているのかなって。

──アルバムのジャケットも、MVと似たシチュエーションですよね?

Micro はい。どちらも横須賀で撮影したものです。ジャケットは、マイケル・ジョーダンがジャンプしているイメージですね(笑)。

──「Like」続きで、「I Like Me」は躍動的な“Day Time”と、スイートな雰囲気の“Night Time”の2バージョンが収録されていますね。

Micro 最初はNight Timeだけを制作していたんですけど、ギタリストでプロデューサーでもあるNagachoが自分でもアレンジしたいと提案してくれたんです。それで完成したものが、ボーカルや歌詞を変えていないのに似て非なる仕上がりで、アルバム全体を通して聴くと、この2つが存在していたほうがより心に届く作品になると思ったので、どちらも収録することにしました。

──歌詞は決まった相手がいるのに、ほかの人へも心が動くという内容で。

Micro コンプライアンス、ギリギリ大丈夫ですかね?(笑)

──曲の歌詞でしたら、きっと大丈夫ですよ(笑)。

Micro でも、お互い相手がいない状態でラブストーリーが始まってハッピーエンドになるという展開は、歳を重ねるにつれ難しくなっていくと思う。恋愛がスタートして、ドキドキするというシチュエーションは、どんな状況に置かれた人でも起こることじゃないのかなって。ただ、この歌詞で伝えたいのはそういうことではなくて、好きな相手のそばにいられる自分も好きだと言えるところ。相手のことを好きと思えるのは簡単なことだけど、相手を思う自分も認めてあげられるのは、素敵なことなのではないのかなって。

Shen 相手のことだけじゃなく、好きな自分のことも認めてあげること。それがいい恋愛をするためのキーポイントじゃないかって思う。

Micro 若いときは相手のことだけで精一杯になっちゃうしね。

──年齢を重ねたからこそ見える、恋愛の本質ですかね。このDay TimeとNight Timeの間にある「The Wheel of Fortune」は、ギターのアルペジオが哀愁を漂わせる、Def Techの楽曲としては新鮮な印象を受けました。

Micro 僕はずっと両親が怖いというトラウマというか、刺を抱えていて。「The Wheel of Fortune」は「それをどうにか取ることはできないか?」という思いをつづった曲。自分にとってはセラピーのようであり、自己分析できた楽曲になりました。

Shen 同タイトルの言葉遊びのクイズ番組がアメリカで放映されているんですけど、この楽曲では言葉がホイールのように回転しているような印象もある、車の中で聴いていると、気持ちいいですね。

──言葉遊びといえば、「Make Some Noise(Feat.YAY)」は、オーセンティックなヒップホップチューンですね。2018年にリリースした「KEEP MOVING」で共演しているYAYと、クールでエキサイティングなマイクリレーを披露しています。

Shen そう言われるとうれしいですね。現代の流行に比べるとビートが遅いのかもしれないけど、そういうヒップホップもクールだということを知ってほしくて制作しました。

──「Best Days」は、心にしみる楽曲ですね。人生を振り返ったとき、苦しかったりもがいたりしていた日々が、何より輝いて見えるという。現代に希望を与えるメッセージが詰まった楽曲だと思いました。

Micro 苦しい状態の渦中にいる瞬間は、この経験が将来役立つなんて微塵も思わないかもしれないけど、やがてそれが報われるとベストだと思えるようになるのかなって。自分たちにとってまだベストだと思える状態にまでたどり着いていないので。でもいつかやってくるその日のために今を生きよう、という思いをつづっている楽曲ですね。いまだ解決策を見出せていないコロナ禍において、この楽曲を発表するのは早すぎるのでは?と最後まで悩みましたが、何か伝わるものがあればいいなと思い収録しました。

──お二人の20年の月日に思いを巡らせることができる楽曲にもなっていると思いました。

Shen これまでたくさんの苦労を重ねているからこそ「Best Days」という曲を作ることができたと思う。僕らはこれまで、真正面から壁と向き合って進んできた。どんなに抜け道を探しても、結局壁にぶつかるのだから、最初からそれと向き合った方がいいと思ったし、苦労なくして人生は楽しくない。だから今後もそのスタンスで活動を続けていくのかなって。

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マイペースでマイウェイを歩んでいきたい

──ラストを飾る「All I Want Is Your Love」は、これぞDef Techの真骨頂といえる、ウクレレを駆使したジャワイアンソングですね。でも、サーフではなくゴルフがキーワードなのが新鮮です。

Micro これからはサーファーだけでなく、ゴルファーもファンに取り込みたいという思いで制作しました(笑)。日本って、僕らが活動を始めた頃からサーフィンやスケートボードと音楽が密接なつながりを持つようになったけど、ほかのスポーツではそれがない印象。もっと密接になっていけば、新たなファンを獲得できるんじゃないのかなと思う。あと実は、ハワイではサーファーたちが波のないときはゴルフに行くというのが定番になっていて。まあジョークで言う人もいるんだけど、だいたいサーフポイントの近くにゴルフ場があるから、密接な部分がある。ならば、日本で先にゴルフに関する楽曲を発表して、より幅広く僕たちの音楽を浸透させるのもアリなのかなって。

──今後の展開もしっかり見据えていますね。すでに30周年、いや50周年に向けての戦略も考えているのでは?

Micro (笑)。うさぎのように駆け足で進むのではなく、亀みたいにマイペースでマイウェイを歩んでいきたい。その中で、自分たちが痺れる音楽を作り続けていけたら。気付いたら、40年、50年経過していたという感じになっていたらいいですね。

Shen この関係は、50年先もずっと続いていくんじゃないかな。だって、音楽とかサーフィンとか、共通してわかりあえる人間がMicroくらいしかいないし。

──11月末には配信ライブが行われますね。そこでも濃密な2人の関係性やハーモニーを堪能できそうです。

Micro これまで全国ツアーを何度もやっているけど、まだまだ会場で会えないファンの人がたくさんいるんですよね。そういう人たちにも、僕らの現在を届けられるいい機会だと思っています。このパフォーマンスを通じて、Def Techの魅力を多くの人に体感してもらえたら。

Shen ライブに向けてちゃんと練習しないとね。どんなステージになるか、自分でも想像できないけど、とにかく楽しみです。

──それからDef Techのオフィシャルファンサイト「Def Tech Surf Club」がオープンするそうですが、どんな活動をされるのでしょう?

Micro 音楽だけでなく、サーフィンのレッスンやヨガなど、ライフスタイル全般を提案、共有できるコミュニティを作りたいなと思って発足させました。東京五輪のサーフィン競技をライブビューイングしたり、いずれはみんなでハワイにも出かけられたら。2020年同様、今後も思うように音楽活動ができなくなる事態が発生するはず。だから、音楽以外でも僕らの持っているカルチャーや思いを伝えられる場所にしたいですね。

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