Def Techが音楽を作り続ける理由。2ndベストアルバム「The Best」発表までの9年間の歩みを振り返る

Def Techの2枚組ベストアルバム「The Best」が12月22日にリリースされた。

実に9年ぶり2作目となる今回のベスト盤には、NTT東日本のCMソングに使用されている「Bolero」、YouTubeチャンネル「THE FIRST TAKE」でのパフォーマンスをきっかけに再注目されている代表曲「My Way」、オリンピック開会式、パラリンピック閉会式で活躍したドラマー酒井響希を迎えて再レコーディングした「おんがく MUSIC」などを含む全29曲が収録されている。

音楽ナタリーではアルバム発表を前にメンバーのMicroとShenにインタビュー。1枚目のベスト盤「GREATEST HITS」発表から約9年間、Def Techの2人が歩んできた道のりや、ベスト盤に収録された楽曲への思い、そして2人が音楽を発表し続ける意味について、じっくり語ってもらった。

取材・文 / 松永尚久

信頼を取り戻し、新たな関係性を築いた9年

──2012年4月に発表された「GREATEST HITS」から約9年、2作目となるベスト盤「The Best」が完成しました。まず、この9年はお二人にとってどんな時間でしたか?

Micro コツコツ活動をしてきた9年でしたね。「My Way」(2005年1月発表)のヒット以降しばらくは、アリーナクラスの会場や武道館みたいな大きめの場所でライブをして、ずっと“飛び級”でステップアップしていた感覚だった。でも2012年頃からは小さな会場でもパフォーマンスするようになった結果、自然とファンの方1人ひとりと触れ合える機会も増えてきたし、それをとても大切に思うようになりましたね。今ではファンの皆さんと交流することが当たり前になっています。

Shen 考えてみると、この9年で僕らは40代になった。もう「大人じゃない」とは言えない歳になったけれど、ライブで1人でも多くの人を楽しませたいというマインド自体は、9年前はおろかデビュー当時から変わっていないと思う。今はその気持ちに余裕が加わったというか、自分たちも音楽を純粋に楽しめるようになってきたと思います。

Micro 20、30代の頃は精神的にキツかったよね。

Shen 確かに。20代は自分たちで勝手に「こうあるべき」という姿を決めつけて、そのイメージに追いつこうと一生懸命だったし、30代になってそれが違うことに気付いて、悪戦苦闘した。そして40代になり、ようやく自分の気持ちとの折り合いがつくようになって、自分たちの本領を発揮できるようになった気がします。

Micro 本当にね。20代は心と体がバラバラだったというか。背伸びして生きようとしていましたね。30代になっても、周囲のアドバイスをちゃんと受け止められる度量がなかった。でも、今は自分たちの大人な部分と子供の部分のバランスをうまく保てるようになった。ようやく脂が乗ってきたなって。僕らは一度30代で解散していることもあって(2007年に解散し、2010年に再結成)、「またいつか解散するんだろう」という周囲からの不安みたいなものを感じていて、どこかでくすぶっていた部分もあったけれど、去年くらいからは一切そういうことを言われなくなって。ようやく認められた感じがしましたね。実際2人の関係性も、本当に素晴らしいものになっていて、ここ数年は喧嘩もしていないし。今では家族を超えた存在になっているかもしれません。

Shen もはや家族が入れない領域まで関係性が深くなったと思う。本当に今は、お互いがいいバランスで活動できています。

Micro この9年は、みんなの信頼を取り戻し、いろんな人と新たな関係を構築できた時間です。それに最近は「THE FIRST TAKE」出演のおかげで、自分たちの注目度がまた上がってきたなと感じているんです。280万枚のセールスを記録したデビュー作「Def Tech」(2005年1月発表)の頃より、顔がバレることが多くなりましたからね(笑)。

僕らが奏でていくべき音楽

──ここからはそんな9年間のDef Techの動きを、その間に発表された作品とともに振り返っていきたいと思います。まずは4月に初のベストアルバム「GREATEST HITS」、7月に限定配信シングル「Bolero」がリリースされた2012年。この時期はどんなことを感じていましたか?

Micro 僕らは、常に何かしらの大きな出来事に起因して活動してきたと思っていて。2001年のアメリカ同時多発テロをきっかけに、音楽で何かできることはないかと思ってDef Techを結成して、その10年後に起こった東日本大震災のときも、何もできない無力感にさいなまれながらも、音楽の中に希望や未来を見出して活動を続けた。さらに10年が経過した現在も、コロナ禍の影響で世の中が大きく変わってしまったけれど、これまで活動してきて思うのは、僕らはどうしても逃れられない苦しみの渦の中で、どうやったらそこから這い上がれるか、その方法を見つけ出すきっかけを聴く人に届けるために音楽をやっているということ。だから、ただ楽しい瞬間だけに僕らの音楽を聴いてほしいわけじゃない。僕らの音楽が、いろんな状況に身を置いている人の肩を強く抱いて、力強く前に押し出すくらいの存在になれたらと思っています。「Bolero」はまさに、そういう強い思いが表現されている楽曲。自分たちだけでなく、聴いてくれたすべての人を前進させてくれる力がある。僕らがこれから奏でていくべき音楽の方向性が見えた曲だったし、この年の活動も同様だったように思います。

Shen 僕らは、この世界で何ができるか、本当に必要なものは何かを伝えられる音楽を追求している一面もあって、その作業の中から「Bolero」は生まれました。リリースから9年経った今年、NTT東日本の企業CMソングに使用され、再び多くの人に耳にしてもらえるようになった。そういう機会を与えていただいたことは純粋にうれしいですし、この曲は時代なんか関係ない、ユニバーサルなメッセージが込められていると改めて思えました。我ながら、すごい音楽を残すことができたのかなと思います。

──翌2013年7月にはアルバム「24/7」を発表されましたが、改めて考えてどんな意味を持つ作品ですか?

Micro このアルバムは、みんなが24時間1週間365日聴きたくなる作品を目指したんです。それまで追求してきたヒップホップテイストの曲から、僕らのルーツであるハワイアンなものまで、Def Techとして本当に作りたかった世界を自然に表現できて。僕としてはこれまでのキャリアの中で、もっとも気に入っている1枚かもしれません。

Shen この作品では、いろんなミュージシャンの方々にフィーチャリングで参加していただいたし、日本だけじゃなくハワイでレコーディングした楽曲もある。僕も、自分たちが心から伝えたい音楽を表現できた作品だと思います。これが完成していなかったら、今の自分たちは存在していなかったかもしれない。まあ、過去のどの作品も、僕らにとってはかけがえのないマスターピースではあるのですが(笑)。

──どの楽曲にも魂がこもっていて、“捨て曲”などない作品ということですね。

Micro そもそも僕らには“捨て曲”という概念は微塵もないです。アルバム収録曲を決める際に、そういうものはすべて排除するので。アルバムを制作するときはいつも、100曲くらい収録曲の候補があるんですけど、必要ないと思ったものは躊躇なく切り捨てます。その強気な感じは、20代から変わっていないかもしれません。

そろそろ自分たちも楽しんでいいよね?

──その後お二人は精力的なライブ活動を続け、2015年6月に7thアルバム「Howzit!?」をリリースされます。

Micro デビュー以降活動しながら、Def Techの音楽は“ジャワイアン”だと言われつつも、僕らはこのジャンルに向き合った楽曲を残せていないのではと考えていたんです。でもこの作品で初めて、ジャワイアンにしっかりと向き合えたという手応えがありましたね。あとアルバムのジャケット裏には、僕がお尻を掻いている写真が使われているんですけど、このポーズは「SLAM DUNK」の桜木花道のオマージュなんです。大切な試合前なのに、つい素になってふざけてしまう彼の姿が、自分たちの音楽に対するスタンスと似ている気がして(笑)。

Def Tech 7thアルバム「Howzit!?」ジャケット。左から表面、裏面のビジュアル。

Def Tech 7thアルバム「Howzit!?」ジャケット。左から表面、裏面のビジュアル。

Shen 「Howzit!?」は、アートワークも含めて、既存の音楽シーンに流されないという僕らの姿勢が強く刻まれていると思います。それに、ジェイク・シマブクロがスマートフォンで送ってくれた音をもとに制作した「One Day with Jake Shimabukuro」など、ハワイアンミュージックの雰囲気を味わえる楽曲も収録することができた。僕ら自身が1人の人間として大切にしたいと思っていることを曲作りに反映できた結果、誰にも操られていない、生身の人間が奏でる音楽を作っていることを示す作品になったと思います。

──その約1年後、2016年7月には8thアルバム「Eight」を発表されました。

Micro この頃は、知人がこの世から去ったり悲しい出来事が重なったりして、人生について深く考えるようになった時期で。そういうことを踏まえつつ、生きることを楽しめるような音楽を追求するようになった。それ以前の僕らは、リスナーの皆さんに楽しんでもらう音楽をストイックに追求してきたけれど、それだけでは本当に苦しかった。「そろそろ自分たちも楽しんでいいよね?」という思いを表明したかったし、「Eight」を完成させた結果、実際に自分たちの音楽を奏でるのがさらに楽しくなりました。

Shen ハワイに帰ったとき、Def Techのことを知らない現地の人に「Journey」(「Eight」の収録曲)のミュージックビデオを観せるんです。すると、みんな目を輝かせて映像に見入ってくれるし、僕がミュージシャンであることを認めてくれる。その姿を見たときに、僕らは海外でも通用する音楽を残せたんだと感じましたね。

──2018年7月には、これまでの作品とは異なるアグレッシブな雰囲気をまとった音源集「Cloud 9」をリリースしました。

Micro この頃からShenが別の音楽プロジェクトをスタートさせて、新しいミュージシャンについて積極的に発信するようになったり、そこで知り合った仲間と共作したりするようになったんです。アメリカを中心とした海外の音楽シーンの流れを取り入れながら、新たなDef Techの姿を描けた作品でしたね。あと、このあたりからそれぞれ専用の音楽スタジオを設けて、お互い制作に集中したあとオンライン上で細かく曲のやり取りをするようになりました。

Shen 僕にとっては、“とても幸せ”という意味のタイトル通り、天国にいるような気分を味わえた作品。アメリカ人としての自分のルーツを刻めた気がしています。作品の制作スタイルについては、新型コロナウイルス蔓延の前に、リモートで楽曲が制作できる可能性を開拓できたのはよかったのかなと。こういう事態にならなくても、いずれはリモート作業がスタンダードになっていくだろうなと先のことを見据えることができたし、以降の作品の作業もスムーズになったと思います。