“生きている”デコミクをステージに立たせるには
──ここまでの話を伺う限り、ライトネスはダンスパフォーマンスに長けているわけですよね。
単純に長けているだけでもなくて、ライトネスはライブに至るまですごく練習してダンスが上手になった、という背景があります。その過程がにじみ出るようなステージにしたいという思いが、ギターやダンスの表現につながっていると思います。ダンスにおいてはどちらも上手なんですが、「ハオ」と「愛言葉V」では、より2人の個性を伝わりやすく表現しています。
──ライブ中、ライトネスとダークネスが肩を並べてパフォーマンスするのが「ハオ」「愛言葉V」の2曲だからですね。
はい。リズムの取り方も細かい所作も違う。性格の違いが動きにも出ているのがわかるのが、この2曲。それともう1つ。デュエット曲に関しては本当に2人が歌う用にミクの歌声も2本分調声していて。基本的にライトネスとダークネスの歌い方は一緒なんですが、デュエットするところだけは明確に違いをつけています。ライブ中「こっちがライトネスの声」と聞き分けるのは難しいかもしれませんが、“2人で歌ってる感”は出せたと思います。
──その“歌ってる感”は細部にも表れてますよね。例えば、歌唱中にライトネスが肩で息をしていたり。
そうなんです。ライトネスは体力が少ないんです。一方でダークネスは肩で息をしない、そういうところもこだわっています。
──調声の話に関してですが、今回のライブ開催に当たって、すべての楽曲の調声をやり直したと伺いました。
はい。ライブを開催するうえで、それが一番大変だったかな。どんなにがんばっても1曲分のボカロの調声には2、3営業日かかるんですよ。27曲分だから、おそらくアルバム2枚分くらいの作業時間を要しています(笑)。
──方法論としては、過去に作ったボカロの音源を流すこともできたわけですよね。なぜそこまでこだわって作り直したんでしょうか?
「デコミクLIVE」のテーマが「生きているデコミクをステージに立たせる」なので、ボーカルのコンディションがそろっていない状態で歌うことに、僕自身が違和感を感じてしまう。制作時期が違うものを1つのライブで出すわけにはいかないので、“2026年2月14日のデコミク”としてすべての楽曲に手を入れています。これはまだ仮定の話ですが、例えば将来もう一度「デコミクLIVE」を開催するとしたら、すべての調声をし直すと思います。そうじゃないと「生きている」とは言えないので。
胸を張って「満点」と言えるセトリ
──ライブのセットリストはどのように決めましたか?
ライブ冒頭の「Reunion」と「アンドロイドガール」はずっと前から決めていました。6thアルバム「アンドロイドガール」の冒頭と同じ構成にしていて、これもライブを意識しながら作っていたんです。それと、最後に新曲の「愛言葉V」を届けることも決めていたので、その間をどう構成するかを考えていきました。基本的にはブロックごとに構成していて、冒頭から「ヒバナ(Reloaded)」「ゴーストルール」「キメラ」まではダークネスのロックゾーンで、ライトネスが「サラマンダー」でロックの流れを引き継ぎながら「妄想感傷代償連盟」までダンスゾーンを展開する、というように。
──泣く泣くセットリストに入れられなかった曲もたくさんあったと思います。
意識したのは、どの年代の人も楽しめるライブにすること。最近のヒットソングばかりやると昔からのファンは寂しいかもしれないし、昔の曲ばかりやると最近好きになってくれたファンが楽しめない。僕自身はどの年代のどの曲も好きだけど、ファンのことを考えながら自分の欲を出さないように客観視して、すべてのお客さんに楽しんでもらえるようなセットリストにしたつもりです。人によって好き嫌いはもちろんあると思いますが、初めて開催する「デコミクLIVE」のセットリストとしてはこれが満点だと胸を張って言える内容になったと思います。
──結果として27曲が披露されたわけですが、この曲数が90分という尺に収まることも驚きでした。ライブ体験としての濃密さはもちろん、ほぼノンストップで高難度の楽曲を演奏するバンドメンバーもすさまじいなと。
ライブを開催するうえで、ベースとバンドマスターを晶ちゃん(堀江晶太 / PENGUIN RESEARCH)にお願いすることだけは決めていたんですよ。晶ちゃんにOKをもらったあと「メンバーに希望はありますか?」と聞かれたから、「僕がやりたいセットリストを完璧に演奏できる最強のメンバーを集めてほしい。誰にするかは、プロでありバンマスでもある晶ちゃんに任せたい」と伝えたら、本当に“最強”が集まってくれました。ライブ前日のゲネで、「バンドメンバーの皆さんには、たやすく演奏できないような曲を、しかもこのような短い曲間でお願いしてしまって申し訳ないです」と伝えたら、晶ちゃんが「いやもう本当に」と言ってて。その言葉に全部詰まってたなって(笑)。
──27曲を90分というだけでも驚きなのに、昼夜2公演ですからね。
夜公演が終わったあとは、みんな魂が抜けてました。本当にバンドメンバーの皆さんには感謝しています。
キャリアにとってアンカーとなる「愛言葉V」
──ライブのフィナーレを飾る「愛言葉V」は、ライブで初披露された新曲でもありました。
DECO*27って基本的には無料で楽しめるコンテンツなんですよ。MVはすべてYouTubeにアップされているので、お気に入りの曲も動画も無料でアクセスできる。でもライブはそういうわけにいかなくて、今回だとSS席が1万円以上する。みんながお金を出して来てくれるからこそ、当日を楽しみにしてくれた気持ちとか、ライブへの期待感を僕が壊してしまうわけにはいかない。だから「愛言葉V」の制作は、いつもよりファンのほうを向いて作りました。これまでの「愛言葉」に比べて「一緒の場にいたよね」という気持ちが共有できる作りになっていると思います。
──「愛言葉V」のアレンジにkz(livetune)さんが参加しているのも1つのトピックだと思います。kzさんはDECO*27さんがボカロPを始めるきっかけを作った人でもあります。
最初に話した“一度目に救われた話”は、kzさんの「Packaged」を聴いたことですからね。今回「愛言葉V」のアレンジをお願いするにあたっては、自分がこれまで積み上げてきたものや、ライブやミクに向けた熱い思いを伝えさせていただいて。
──kzさんに曲を委ねることで、サウンド自体はどう変化しましたか?
すごくよくなりました。kzさんの作る音に触れていると、ボカロを始めた当初のキラキラしていた記憶がよみがえってくるんですよ。「愛言葉V」に至るまでいろんな曲調のものを作ってきたし、これからも新しい曲調にどんどん挑戦しようと思っているけど、kzさんに携わってもらったことで、いい意味で原点も感じられる仕上がりになった。DECO*27のキャリアにとって、いいアンカーが打てたと思います。
世界中で僕よりDECO*27のことが好きな人はいない
──「デコミク LIVE」においてDECO*27さんはボカロPという一面だけでなく、主催会社であるOTOIROの一員としての立場もあるわけですよね。主催として意識していたことは何かありますか?
「デコミクLIVE」を開催するにあたって目標としていたことが2つあって。1つ目はクリエイティブの面で「デコミクが生きている」というテーマを感じてもらえるような演出、パフォーマンスを見せること。もう1つは、「デコミクLIVE」のような興行がビジネスとしてちゃんと続けていけるように、赤字が出ないようにすること。この2つがちゃんと達成できた自負があるので、今回のライブは大成功だと言えると思います。1つ叶えられなかったのは、初開催なのもあって会場が東京だけになってしまったこと。今後ライブをやることがあれば、もう少し開催地を増やしたいと考えています。
──今後「デコミクLIVE」のような1人のボカロPの楽曲を、専用の3DCGモデルが披露するイベントは増えると思いますか?
もちろん出てくるとは思いますが、めちゃくちゃ大変ですよ。生半可な気持ちならオススメできない(笑)。僕がやったことを追うよりも、みんなそれぞれクリエイターの頭の中にあるやりたいことは、死ぬほどがんばれば実現可能なんです。それを今回僕が示せた、ということだと思います。あきらめずに目標を追っていけばいいことがあるし、初音ミクには夢があるなと感じてます。本当に。
──DECO*27さんはどうして“死ぬほどがんばれた”のでしょうか?
僕自身がやりたかったから。もっと言うと、自分がDECO*27の大ファンなんですよね。おそらく会場に集まった誰よりも、世界中で僕よりDECO*27のことが好きな人はいないと思う(笑)。そうでなければこのライブは実現できなかったと断言できます。どこかでファンとの解釈違いが起きて「こんなはずじゃなかった」と思わせない、そういう自信はありました。
1年分の曲作りは終わっている
──念願だった「デコミクLIVE」を終えて、今後の活動に関しては何か考えていることはありますか?
これから先かあ。もちろんライブはこれっきりにせず、続けていきたいです。あとは楽曲制作ですね。実はこの先1年間リリースする分の新曲制作はすでに終わっています。
──これだけのライブ制作をしながら、1年先まですでに完成しているんですか?
はい。「MVをしっかり作りたい」とか考え始めると、曲はかなり早く上げる必要があるので。順番に前後はありますが、すでに1年分はできてますね。今回の「デコミクLIVE」の調声で過去の曲と向き合う時間が生まれたわけですが、これがけっこう面白い。今と過去の曲調をミックスしたら面白いかも、と思って作った曲もいくつかあって。また新しいDECO*27をお見せできると思っています。
──これまでの曲のように、将来的にはライブにつながる可能性も……。
もちろんあります。ただ、1つここで明言しておきたいのは、2027年が「27(ニーナ)」の年だからといって、2027年にライブを開催するとは思わないでください(笑)。準備にめちゃくちゃ時間がかかるので、1年に1回のペースは正直難しい。その代わりと言ってはなんですが、今回の「デコミクLIVE」を円盤化して皆さんのもとに届けることはできそうなので、楽しみに待っていてほしいですね。
──十数年前にDECO*27さんが感じていた「燃え尽き」がなくて安心しました。
もう大丈夫です(笑)。曲作りに関しては盛り上がることも盛り下がることもなく、淡々と続けられるタイプなんですよね。自分に元気がないときに曲が作れない、みたいなのはプロとして自分を許せないですし、自分のテンション感に曲が影響されないでほしいとも思っていて。常に新しいことに挑戦しながら、書くペースだけは落とさないように曲作りをしています。
──ライブ以外でDECO*27さんが達成したいこと、挑戦したいことはありますか?
1つありますけど、これはまだ言えないですね。ジワジワやっていこうかなというものなので。いつかみんなにいいお知らせができたらうれしいです。ちなみに僕が歌い出すとかではないので安心してください。
プロフィール
DECO*27(デコニーナ)
アーティストでありながら他ミュージシャンのさまざまな楽曲の作詞、作曲を手がける音楽プロデューサー。ロックやエレクトロニックをベースにしたジャンルレスなミクスチャーサウンドとポップでキャッチーなメロディ、独特な言葉遊びが10~20代の支持を得ている。2008年10月にVOCALOIDを使用した作品を動画共有サイトに投稿開始。これまで公開されたDECO27の楽曲の関連動画を含む総再生回数は15億を超える。さまざまなアーティストへの楽曲提供やMILGRAM -ミルグラム-の楽曲プロデュースと並行して、活動の原点であるVOCALOID楽曲を発表し続けている。また、2026年には東京・国立代々木競技場第一体育館で自身がプロデュースする初音ミク・デコミクによる初の3Dワンマンライブ「デコミク LIVE starring 初音ミク『Hello』Produced by DECO*27 / OTOIRO」を開催した。
DECO*27 (@deco27_39) | Instagram




