Crossfaith|タイアップ曲に込めたポジティビティと信念

Crossfaithが両A面シングル「RedZone / Dead or Alive」を4月7日にリリースした。

このシングルにはアーケードゲーム「機動戦士ガンダム エクストリームバーサス2 クロスブースト」のタイアップソングとして書き下ろされた「RedZone」、マンガ「ONE PIECE」のキャラクター人気投票企画「WT100」のイメージソングとして書き下ろされた「Dead or Alive」の2曲を収録。付属するDVDには昨年8月に開催されたCrossfaith初の配信ライブ「SPECIES VIRTUAL WORLD TOUR - OPEN THE DIMENSIONS」の模様が全編収められる。

音楽ナタリーでは「RedZone / Dead or Alive」のリリースを記念してKoie(Vo)、Teru(Program, Vision)、Kazuki(G)の3人にリモートでインタビュー。昨年元旦に設立発表されたレーベル「Species Inc.」の構想や両A面シングルの制作エピソードを語ってもらった。

取材・文 / 西廣智一

自分たちらしい活動をしていきたい

──Crossfaithがレーベル「Species Inc.」立ち上げ後に音楽ナタリーに登場するのは、これが初めてです(参照:Crossfaith、新レーベル「Species Inc.」設立)。改めてレーベル立ち上げの経緯を聞かせていただけますか?

Teru(Program, Vision)(撮影:西槇太一)

Teru(Program, Vision) 以前は大きな事務所に所属していたので、大勢の人が関わっているぶん、曲作りのスケジュールや流通など自分たちでコントロールできない部分が多くて。今は配信が主流になったことでタイム感が重要になってくる時代だと思うんですけど、そういったことを考えたときに大きな組織にいることのメリットとデメリットの両方を感じたんです。以前所属していた事務所の方が言っていたんですけど、大きなレーベルや事務所というのは総合商社みたいなものだと。Crossfaithは万人受けというよりはクセの強い、けっこう尖った音楽性なので、そういう組織のテンプレートに縛られずに、自分たちのフォーマットを作って活動していきたいというのが動機としてありました。

──何かアイデアが生まれたときに、そこから大勢のスタッフさんと意思疎通している間に、そのアイデアの鮮度が少しずつ落ちてきてしまうかもしれないという。

Teru そこですね。今はYouTubeやサブスクがあるから、楽曲の鮮度に対してリスナーもすごく敏感になっていると思うし。特にヒップホップやダンスミュージックのシーンではそこがすごく重要視されていて、鮮度が高い状態の楽曲が世に出ていることが多い。時事ネタを含んだリリックを半年後に出したら意味が通じなくなってしまうだろうから。そういう面では、リスナーの共感を得られるからうらやましいなと思うんです。一方で、CDの場合はパッケージやブックレットに時間をかけたからこそできあがるものもあると思うので、一概にどちらがいいというわけではないんですけどね。だから、バンドにとって「この楽曲だったらこの届け方をしよう」「じゃあこの曲だったらミュージックビデオありきで届けたい」とか、そういう選択をしていくべきなのかなと感じて、「Species Inc.」を立ち上げました。

Koie(Vo) 今はスピード感もそうだし、Crossfaithの味をもっと濃厚にしていく、密度を高めていくような作業がどんどん増えているんです。いい曲、いいパッケージを作って、いいライブをするのはもちろんなんですけど、そこにプラスして、この1、2年で自分たちでレーベルを立ち上げたからこそ見せられるものを模索してきましたね。

Kazuki(G) ただ、レーベルを立ち上げることになって、よりCrossfaithというバンドの温度感をダイレクトに届けられる活動ができるかなと思っていたんですけど、僕らが独立した矢先にコロナ禍になって、ライブ活動もしばらくちゃんとできていなくて。今後はより自分たちらしいイベントを作り上げていきたいですね。そうすれば独立したという実感もより湧いてくるのかなと思っています。

いつもよりも少し優しく寄り添う

──前作の「SPIECIES EP」(2020年5月にリリースされた5曲入りCD)はコロナ禍以前に制作したものだったので、4月7日にリリースされた両A面シングル「RedZone / Dead or Alive」がこの状況下で初めて世に出る新曲になるわけですよね。

Kazuki 制作も含めてということになると、確かにそうですね。

──制作方法など、それ以前との大きな違いはありましたか?

Teru 俺たちはいつも新曲を作る際に、一軒家をまるまる改築したところで合宿しているんですけど、今回の曲も社会からちょっとディスタンスをとった状態で制作していたので、基本的には曲作りの過程はあまり変わらなかったかな。ただ、これは「RedZone / Dead or Alive」に収録されていない「Feel Alive」という曲の話なんですけど……去年の11月末と12月頭に「JAPAN TOUR 2020 - SYNTHESIS -」という、コロナ以降初めての有観客ライブをガイドラインに従って行って。そのときにお客さんのクラップをレコーディングして、そのまま楽曲の素材として使わせてもらったんです。「Feel Alive」も合宿で作ったんですけど、俺たちもメンバーとこんなに会えていない時期というのがこの15年なかったので、1つ屋根の下でみんなで過ごす時間がかけがえのないものにそのとき感じられて。昔だったら当たり前だった、一緒に酒を飲むことすらも愛おしくて、そういう過程で自然と完成したんです。コロナ以前にはできなかったものだと思うので、そういう意味では変わったのかもしれませんね。

──Kazukiさん、Koieさんはいかがですか?

Kazuki(G)(撮影:清水義史)

Kazuki 僕の中ではコロナ禍になってライブができなくなったことが、作曲をするうえで一番大きかったことでした。すべてをさらけ出す場としてライブというものがあったので、そういう場所がなくなるとどんどん感度が鈍っていく気がするし。でも、その中でまた新しく芽生える感情も確かにあったので、そこをなんとか形にするという感覚で。「RedZone / Dead or Alive」は、作曲の作業工程としては特に変わりはなかったんですけど、心持ちはライブがあった頃と今とではまったく変わりましたね。ライブがあればテンション感だけで作れていたけど、今では「どういう音楽を出すべきなんだろう」とか「何を発信するべきなんだろう」と強く意識するようになりました。

Koie 俺もそうですね。シングルに収録されている2曲はタイアップソングなので、そこまでコロナ禍のことを歌っているわけではないですけど、「こういう状況になってから作った曲だし、どういうメッセージが一番望ましいんやろう?」と考えたんです。そこで、前に進んでいくんだというメッセージを入れたいと以前より思うようになったし、「仮にパーソナルなことを歌ったとしても、自分の書いた歌詞がお客さんの心に密接に寄り添うんじゃないか?」とより濃密に考えるようになって。だから、こういう状況になってしまったタイミングを起点に、また新たに考えなくちゃいけないことも増えたなと感じています。

──実際、今回の2曲からはサウンドや歌詞含め、いつも以上にポジティブさが伝わってきましたよ。

Koie ありがとうございます。やっぱり今、自分もポジティブなメッセージを歌いたいし届けたいし、いつもよりも少し優しく寄り添えるような前向きさを大事にしました。

2020年8月に開催された配信ライブ「SPECIES VIRTUAL WORLD TOUR - OPEN THE DIMENSIONS」の様子。(撮影:西槇太一)
2020年8月に開催された配信ライブ「SPECIES VIRTUAL WORLD TOUR - OPEN THE DIMENSIONS」の様子。(撮影:西槇太一)

「ガンダム」の主人公のように闇を抱えている人たちへ

──「RedZone」はアーケードゲーム「機動戦士ガンダム エクストリームバーサス2 クロスブースト」のタイアップソング、「Dead or Alive」はマンガ「ONE PIECE」のキャラクター人気投票企画「WT100」のイメージソングと、日本のみならず世界にも名を轟かせる有名作品とのコラボレーションが実現しました。こんなビッグタイトルとのコラボ曲が2曲も詰まった、ヘヴィなサウンドを信条とするバンドの作品、かつてなかったですよね。

Teru 確かに(笑)。贅沢ですよね。

──長く歴史のある作品とのコラボということで、その世界観を楽曲に落とし込むことも重要だったのではないかと思います。そことの向き合い方は今回いかがでしたか?

Teru 「ガンダム」はそれこそ物心付く前から触れ合ってきた作品で、日本人のDNAに組み込まれているものだと思うんです。Crossfaithの作品はこれまで、SF映画からインスピレーションを受けることが多くて、その中には「ガンダム」の世界観も自然と含まれていたんですよ。小学校の頃、Koiちゃん(Koie)とよくガンプラを作って遊んでいましたしね。「RedZone」はゲームの戦闘シーンに使っていただいていて。ただ「ガンダム」は戦って爆発して終わりじゃなくて、人間模様もしっかり描かれている作品だと思うんです。能天気な主人公はほとんどいなくて、みんな何かしら闇や葛藤を抱えて戦っている。そういう、戦場にあるさまざまな人間模様とか感情が入り乱れているような部分は反映したいなと思って作りました。

──サウンドメイキングに関してはどうでしたか?

Teru SF感やメカ感を出すために、ギターと同じフレーズをシンセでなぞってみたり、曲中に出てくる「ブーン」という音もガンダムの“モノアイ”が光るときの音をイメージして作ったり。そういう遊び心はいろいろちりばめました。

Kazuki そういったアイデアは、タイアップ楽曲を作る際の面白みかな。Crossfaithの味だけじゃなくて、もう1つ違う要素をイメージしながら作るというか。

Teru せやな。やっぱり、かけ算になっていないと意味がないし。世代によってはタイアップに対してあまりいい印象を持っていない人も中にはいるんじゃないかなと思うんですけど、お互いの信念がしっかり交わっていれば、絶対いいものになると信じています。俺たちは俺たちの信念を貫くつもりでずっといるけど、そもそも「俺らに頼むってことはそういうことも承知のうえやろ?」という気持ちもあるので(笑)、好きにはやらせてもらいましたね。

──歌詞における「ガンダム」との親和性、かつCrossfaithらしさを貫くという点はいかがでしたか?

Koie Teruが言ったみたいに、かけ算は特に意識したけど、自分がものすごく好きな作品やからこそ感情移入しちゃうところも多くて。「RedZone」に関しては、本当に自分が戦場にいることをイメージしながら、「ガンダム」の主人公のように闇を抱えている人たちを共鳴させることを大きなテーマとして掲げているんです。SFっぽい歌詞かもしれないけど、違う状況に置き換えても理解できるようなことだと思うし、だからこそ今コロナ禍の状況で塞ぎ込んでしまっている人を自分のパワーでもう一度奮い立たせたくて。自分の大切な人を救いにいくだけじゃなくて、その裏にはそういうメッセージがあります。誰にとっても理解できるようなシチュエーションに置き換えれば響くものがあると思うので。