クレイジーケンバンドの「NOW」|過去と未来から見た現在地 CKBの“今”を閉じ込めた20thアルバム

クレイジーケンバンドが通算20枚目の新作アルバム「NOW」を10月21日にリリースする。前作「PACIFIC」から約1年2カ月ぶりのオリジナルアルバムとなる今作は、収録曲のほとんどがコロナ禍の中で制作されたというバンドにとっての“今”を閉じ込めた作品。6月に発表された「IVORY」「だから言ったでしょ」や、1月公開の映画「嘘八百 京町ロワイヤル」の主題歌「門松」、NHK Eテレ「おじゃる丸」のエンディングテーマに使用された「夢の夢」といったタイアップ曲を含む計18曲が収録されており、“今”を「混乱した時代の夜と朝の間」と表現しながら、以前とは様変わりした世間のムードとその裏で爆発するエネルギーがCKBなりの解釈で描かれている。

音楽ナタリーでは、作品のリリースを記念して横山剣(Vo)にインタビュー。「数年後にアルバムを聴いた人たちが『2020年ってこんな時代だったよね』と思えるような作品に」という思いでアルバムを制作したという横山に、自身がコロナ禍の中で何を経験し、何を思い感じたのか、作品を通して自身やバンドには“今”がどんなふうに見えているのか、また10月30日に開催される約15年ぶりの東京・日本武道館公演への思いについても語ってもらった。

取材 / 臼杵成晃 文 / 瀬下裕理 写真 / 岩澤高雄

作るというより“出す”

──これまでCKBは1、2年に1回のペースでコンスタントにアルバムを発表して来ましたが、今回のアルバムでついに20枚目です。さすがご自身たちでもレパートリーのすべてを把握されるのは大変じゃないですか?

大変ですよ。「そんな曲あったっけ?」と思うこともあります(笑)。それにメンバーもそうなんですけど、お客さんによって思い入れのある曲が違うので、ライブをしても「あれはやってくれなかった」と不満を言われることもあったりで(笑)。

──(笑)。これまでCKBは、そのときどきの世間のムードやバンド内のブームを反映しつつも、結成時にすでに確立されていた音楽性をひたすらに磨き続けている職人のような印象があります。ご本人としてはどのような感覚でしょうか?

もう考える間もなく、どんどん新曲のアイデアが浮かんできちゃうので……その中から「これは今年のキモになるかな」という曲をセレクトしてただアルバムを作ってきたという感覚ですね。それ以外にも埋もれ曲というか、世に出なかった曲もいっぱいありますし、曲を作るというよりは“出す”という感じです(笑)。

──そもそもCKBはデビューの段階でキャリアのある方が集まっていたバンドですよね。そんなベテランの方々が、ほぼ毎年新作を発表しているというのは本当に珍しいことで。

ほっとくと曲が出てきてしまうので……ただタイアップとかで事前に「こういう感じでお願いします」と言われるとフリーズして「結局できませんでした」と謝ってボツにするだとか(笑)、そういうこともたまにあります。

──タイアップの場合、クライアントはおそらく楽曲に「CKBっぽさ」を求めていると思うんですが、ご本人たちとしてはただ単にCKB印の楽曲を出せばいいわけではないという難しさがあるんでしょうか。

そうですね。タイアップがあったおかげでポテンシャルが引き出される場合もあれば、逆にギアが入らなくて、最終的に「これだと出すわけにはいかないから、ごめんなさい」ということもあります。自分が納得しないものは絶対に出せないですからね。でも僕はもともと職業作家になりたかったので、そういう話をいただけることはすごくうれしいんです。当時、山下達郎さんや大瀧詠一さんが「三ツ矢サイダー」のCMソングを担当していたのを見ていたり、いつか車のCMを作りたいと思っていたので、広告代理店に直接電話して「どうやったらCMに使ってもらえますか」と問い合わせたくらいでした。でも、いざ自分でやるとなると難しさはありますね。

──曲が浮かんでくるのはどんなときですか?

車に乗っているときが一番多いです。あとは何もせずに寝ているときに突然浮かんできて、起きてすぐに形にすることもありますね。逆に何かを作ろうと思ってスタジオに入ったり、ホテルで缶詰めにしてもらったこともあったんですけど、そういうことをすると1つも出てこない。ウナギみたいなもので、「養殖じゃなくて天然じゃなきゃ無理!」みたいな(笑)。

オイルがあるから気を付けて走んなさい

──CKBとしては、コロナによって事態が変化し始めた春頃はどんな状況でしたか?

幸か不幸か、ちょうどアルバムのレコーディングシーズンだったので、デモテープを作ったりスタジオで作業したりしていました。やることがあったというのが、ちょっとした救いでしたね。しかもうちの場合、バンドは大所帯ですけど、コロナに関係なくいつもレコーディングで一緒にスタジオに入るメンバーはドラムス、ベース、ギター、鍵盤の最大4人までですし、「せーの」で音を出す曲は作年末か今年の1月には録り終わっていたので、そこは問題なかったです。

──ちなみにこれまでアルバムは夏に発表されることが多かったと思うんですが、今作のリリースはもともと秋の予定だったんですか?

はい。でも秋に出そうとしているアルバムの制作中に、夏向けの「IVORY」という曲ができちゃったので「これはもう夏のうちに出そう」ということで、シングルとして先にドロップしました(参照:クレイジーケンバンドが5年ぶりシングル「IVORY ep」リリース、横山剣が新曲口ずさむティザー公開)。

──なるほど、夏に「IVORY ep」が出たのはそういう理由だったんですね。今作はインタールードのアイキャッチやいくつかの楽曲にフランス映画のサントラ的なロマンチックなムードがあって、その空気感が全体的に漂っていると感じるのですが、やはりそれは秋のリリースを意識してのものだったんでしょうか?

やっぱり秋に響くような作品にしたいという意識はありましたね。これまで9月発売の作品ももちろんあったんですけど、10月って夏の終わりとはまた全然違う雰囲気ですしね。そこにさらにコロナが来て、ステイホーム期間中にやったことがすごく反映されていると思います。断捨離しようと思って部屋を片付けたんですけど、そのときに出てきた古い車雑誌や音楽雑誌、愛読書、レコード、あとは映画のビデオとか、何度も観た作品をもう1回観返したりしました。特に映画は「慕情」や「卒業」、ブルース・リーやアラン・ドロンが出ていた作品とか……結局まったく断捨離はできずに、ただ部屋が散らかっただけでした(笑)。みんなそうだと思いますけど、やっぱりこういうときにしかできないことですよね。

小野瀬雅生が横山剣に送った「2022年の生活(Life in 2022)」の画像。

──剣さんがアルバムに寄せたコメントには「収録曲中、2曲を除く殆どの楽曲がStay Home中に生まれた楽曲なんですけど、数年後に『2020年ってこんなだったんだよね』ってなれば本望です」とありましたが(参照:クレイジーケンバンドが新作アルバム発表、横山剣「混乱した時代に凄くいい作品が出来ちゃった」)、それが強烈に伝わってくる作品ですよね。しかも「皮肉にもこんな混乱した時代に凄くいいアルバムが出来ちゃった」ともおっしゃっていますが、今の世の中に対するCKBの返答として、すごくいい作品だなと思いました。

ああ、ありがとうございます! 今作は「新しい過去」「懐かしい未来」の真ん中に位置する「今」を描いたアルバムですけど、それを決定的にしたのは、ギターのノッサン(小野瀬雅生)が僕に送ってきた1枚のイラストなんです。1962年にイタリアの新聞に掲載された「2022年の生活(Life in 2022)」という題の絵らしいんですけど、これがすごくて。(イラストを見せる)

──うわあ、まるで予言ですね!

そう。最初はノッサンが「絵の中の男の人が僕に似てる」って送ってきて(笑)。でもこの、過去と現代と未来が混ざり合っている感じが大きなヒントになって、このフィールがアルバムの鍵になったんです。だから無意識にパッと浮かんだ「NOW」というタイトルが非常に意味を持って降臨して来た感じです。レースで言えば「そこはオイルがあるから気を付けて走んなさい」みたいなところに今僕たちは居るんだな、という思いで。

YouTuber横山剣

──CKBの今年の“NOW”なことといえば、4月に剣さんがYouTuberになりましたよね(笑)(参照:CKB横山剣がYouTuberに、「クレイジーケンのなんとかかんとか」でルーツ語り)。

はい(笑)。スタッフからやろうよという話が出て。これまで新譜の説明やお知らせについてしゃべったりはしていたので、自分としてはそれと同じようにやっているつもりなんですけどね。でも今だったらYouTuberというふうにカテゴライズされてもいいやと。でも、あれって動画の再生回数が表示されるじゃないですか。それを見てハラハラしたりしていました(笑)。

──動画でご自身のルーツについて、ゆるくかつディープにお話されているのがすごく面白かったです。

ありがとうございます。でも、好きな音楽の話をしているときの再生回数は少ないのに、僕がなんにもしゃべらずにただ運転しているだけの動画がたくさん再生されているのを見ると、「しゃべらないほうがいいのかな」と思っちゃいますよね(笑)。

──あと最近のCKBといえば、6月と9月にオンラインライブ「インターネットのクレイジーケンバンド」を行いましたが、実際にやられてみていかがでしたか?

僕は「早くやろうよ」と言っていて、もともとは4月に1回目をやる予定だったけど、メンバーやスタッフだけでも集まること自体がよくないということで延期して。いろいろと整わないもんで、最初はなかなか実現に至らなかったんですよね。

横山剣(クレイジーケンバンド)

──無観客ライブだとダイレクトな観客のリアクションがなくなりますし、戸惑いはありませんでしたか?

そうですね。だからちょっとだけマインドセットを変えて、自分たちだけの特別なテレビ番組、例えば音楽番組のCKB特集に出ている気分でいればいいやと思いましたね。

──なるほど。TVショー的な考え方ですね。

はい、もうその考え方に切り替えましたね。やる前はお客さんがいないのにやってらんないよという気持ちが正直あったんです。ところが、実際に配信ライブをやってみたら、メンバー全員で音を合わせること自体がひさしぶりだったので、そのうれしさもあってめちゃくちゃ興奮して「なんかイイネ」と思いました。うちはメンバーの人数が多いから、それだけでけっこう場が熱くなるもので、本当はもうちょっとお互い近い距離で演奏したいとかそういうやりにくさはありましたけど、バンドの“火事場のバカ力”みたいなものを実感しました。あとはステージの近くに置いてあるタブレットにいろいろコメントが出てくるので、それを見ていると一方的な気分ではなくなるというか。「みんながちゃんと反応してくれてる」と安心しました。幸いディスりはほとんどなかったですし(笑)。コメントの字が小さくて流れるのも速いので全部は目で追えないんですけど、なんとなく動いているのはわかるから、それだけで見てもらってるという実感はありました。