お線香の香りがするツイスト
──ワルツのリズムを引っ張った「eye catch *夢のつづき」を経て、後半「Hot Cha」からテンションがグッと上がりますね。歌詞の「めくるめく懐かしい未来 巡り巡る新しい過去」という、ねじれ感のあるフレーズがパンチラインだなと思いました。
ここは、写真家の森山大道さんの「過去はいつも新しく、未来はつねに懐かしい」という言葉を引用させてもらいました。実はこの言葉、「愛があるなら年の差なんて」の中でもちょっと使わせてもらっていて……最初はどっちかの曲だけに使わせてもらおうと思ったんですけど、やっぱり“言霊”というか、違う言葉に変えてみてもこれ以上にしっくりこなかったので、最終的にどちらも採用しました。きっと今はそういうムードなんですね。タイトルの「NOW」とも、“懐かしい未来と新しい過去を感じられる今”というニュアンスで辻褄が合うなと。それと、僕の娘たちは上の子が22歳、下の子が17歳なんですけど、娘たちがYouTubeで古い昭和の映像にハマってる姿を見て、パラレルにいろんな世界を行ったり来たりできる時代になったんだなと感じたこともあって、そういうことも歌詞に入れ込みました。
──あと、この曲調なのに「トゥットゥルッ パー」というソフトロック的なコーラスが混ざっているのが面白かったです。
はははは(笑)。なんとなくそういうコーラスが脳内で聴こえて、入れたくなっちゃったんです。普通この曲調では誰も入れないと思うんですけど、頭の中で鳴っちゃったからには絶対に入れようと。
──そして「テンプル通りのアイリーン」もほかのバンドではなかなか聴けない、スットコドッコイな雰囲気のビートが印象的です。
ありがとうございます(笑)。最近あまりこういう曲をやってなかったから、自分でも飢えていたところもあったかもしれないんですけど。ただ無理やりそうしたのではなく、あくまでも自然に浮かんできたものなので、自分でも「ああ、いいビートが出てきたな」と思いましたけどね。歌詞の世界観としても、香港の湾仔、黄大仙、横浜中華街の関帝廟通り、媽祖廟とかをイメージして。そのあたりの“お線香感”というか、そういうものを意識して書いた“お線香の香りがするツイスト”ですね(笑)。
──そのあとの「SSS」もまた、CKB特有の脂ぎったボッサですよね。
この曲は大きく言うと「発光!深夜族」(2004年発表)の親戚みたいなもので、僕が勝手に言っている“ヨコワケハンサム”の世界観ですね。歌詞に「心に立ち上がる 栄光への5000キロ」とある通り、外出自粛期間に観た石原裕次郎さんの「栄光への5000キロ」という映画をモチーフにしているんですけど、作中で何回か流れるアフリカンな曲を大サビで入れようと思って。あと歌詞の「コードネームは510」というのは、自分が乗っている車をビガップした感じです。
──車のイメージはそのあとに収録されている表題曲にもつながりますね。歌詞には「セリカ1600GT」が登場します。
「1600GT」といえば「ベレット」ですが、今回は「セリカ」。あと曲名はアルバムのコンセプト部分にはまったく関係ないんですけど、コーラスの部分で“Now”というフレーズをいっぱい歌っているので、「NOW」にしました。
──普通に聴く分には楽しい曲なんですが、歌詞のうら寂しい雰囲気感じが胸に刺さります。
うん、そういう曲です。歌詞には僕の友達のこととか個人的なメモリーも入っているので、悲しみみたいなものも根底にあるんですけど、それはあえて女の子か男の子かわからない曖昧な歌詞にしました。ちなみにさっき話した「セリカ」というのは、今僕が一番欲しい車なんですけど……初めて見たのは10歳だった頃かな。レトロフューチャー感のあるデザインで、子供にとっては“未来カー”でした。
ノッサンと思わずシェイクハンド
──そして「eye catch *昨日、今日、明日」をはさんで、ラストは小野瀬さん作詞作曲の「Hello, Old New World」で締まります。
この曲はノッサンがあのイラストを持ってきたあとに出してきたんですけど、最初は「天玉丼のテーマ」って仮の題名だったんですよ。でもそのタイトルにはあんまりピンと来なくて……そこから小野瀬さんが本気出して考えて「Hello, Old New World」というのが出てきたんですね。それを見たときに「このアルバムのコンセプトそのものじゃん!」とビビッときて、ノッサンと思わずシェイクハンドしたんです。イラストの世界観にもノッサンのフィーリングがバチバチッと一致して、お互いに何かが結びついたと感じた瞬間でした。
──アルバム全体を聴いたときにすごくいい幕引きの曲ですよね。
そう、クロージングテーマにぴったりの曲。懐かしさが漂う未来感というか。そしてこの「Hello, Old New World」という言葉に、今の状況と重なるかもしれないですけど、「悪いことだけじゃなくて、それによって気付いたこともあるだろう」というようなことが集約されている感じがしまして。
──こうやって話を聞いてみると、剣さんが「混乱した時代に凄くいいアルバムが出来ちゃった」とコメントされていたように、時代の雰囲気が込められた作品だなと改めて思います。きっと10年、20年後にこのアルバムを聴いたときに「あの時代はこんな感じだったな」と思う人が出てくるだろうなという。
だからあんまりこの期間が長く続くと困るんですよね。今の状態が懐かしい思い出になってくれないと。
──でもそこに必要以上に強烈なメッセージは込められていないですよね。それはもっとのちのちになってもCKBの楽曲として成立するバランスにしようという意識があったんですか?
はい。逆に「大丈夫だよ」ということを歌うよりも、“withコロナ”というか、こういう状況と共存していく覚悟や勇気を持たないといけないのかなと思い、やり過ごすための知恵というか、そういうエンタテインメントを意識したかもしれないですね。この作品にはアンニュイな空気感を閉じ込めておきたかったんです。
特別なライブになる予感
──ファンクラブ限定でリリースされる“CKB 友の会盤”には、さらに特典としてデモ音源集「初台録音シリーズ『NOW』編」のCDが付属します。
このデモ集に、アルバム本編でボツになった「ちんぴら珍念珍道中」「ATAGAWA」の2曲が入ってます。「ちんぴら珍念珍道中」は全員で録りたかった曲で、「ATAGAWA」はもともと編集で仕上げようと思った曲です。本当はこれ以外にもまだまだあるんですけど、もう収めきれないですね(笑)。
──そしてこのアルバムの発売後、10月30日に約15年ぶりの東京・日本武道館公演「CRAZY KEN BAND *NOW at 日本武道館 Presented by NISHIHARA SHOKAI」を有観客で開催されます。
客席は本来のキャパシティの半分以下でやります。でも公演中、お客さんは声援を送ってはいけないという決まりがあるらしくて……制約が多い中、お客さんがグッとくるような選曲を考えるのはすごく大変でしたけど、これなら大丈夫かなというものができたので準備しています。あと、いつも僕たちはライブを3時間以上やるんですけど、今はぶっ続けでやるのはダメみたいで。途中で換気タイムを設けたり、いろいろご不便をおかけすると思うのですが、それでも「来てよかった」と思ってもらえるようなライブにできるよう励みたいと思います。
──当日声援はなしですが、ライブ恒例のリクエストタイムは設けられますか?
はい。(手のひらを突き出し)こうやって念じながら、「テレパシーリクエストコーナー」をやろうかと思います(笑)。配信ライブでやったみたいにね。
──あははは(笑)。ひさしぶりのお客さんを前にしたライブになりますが、当日緊張したりはしなそうですか?
いつも始まる前は緊張より興奮のほうが勝ってて、前半はアドレナリンが出てるんですけど、MCになると急に緊張しちゃうんですよ。なんとなく流れが変わっちゃう気がして。それで後半になると興奮もだんだん収まってきて、今度は羞恥心が出てきて冷静になることもあります。今回の公演ではお客さんの声が聴けないですし、自分のコントロールを特に大切にしないとなと。このアルバムからも6曲くらい披露しようと思っていますし、特別なライブになる予感はありますね。
──それは楽しみです。すでに観客を入れてライブをやったアーティストに話を聞くと、観客がマスク姿で全員声を出せない分、ライブ中は客席のみんな目がギラギラしているそうです(笑)。
なるほどね。でもそれも暴発感があっていいかもしれない。そこにフォーカスして、普通のライブとはまた違うものができたらいいなと思います。ちょっと変態チックなライブになったらね(笑)。
公演情報
- クレイジーケンバンド「CRAZY KEN BAND *NOW at 日本武道館 Presented by NISHIHARA SHOKAI」
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2020年10月30日(金)東京都 日本武道館
※特集公開時より本文の一部を変更しました。
2020年10月21日更新