cono特集|菅波栄純(THE BACK HORN)&音楽ライター4名がシンガー conoの歌声の秘密に迫る (4/4)

相反する感情や状態を内包した歌声こそがconoの根源的な魅力

「ドクドク」
[作詞・作曲:皆見朝 / 編曲:KOUICHI(FEAR FROM THE HATE)]

天野史彬

5作目の配信シングルとなるこの「ドクドク」の作詞作曲を手がけたのは、conoと同じ音楽プロダクションEGOCLUBに所属するシンガーソングライターの皆見朝。アレンジはロックバンドFEAR FROM THE HATEのメンバーであるKOUICHIが手がけている。曲を再生すれば、冒頭からいきなり地を這う大蛇のようなベースラインと細かく刻まれるドラム、そしてconoの挑発的な歌声が響き渡る──そんな構成にまず驚かされるが、その後も息をつかせぬままに疾走する約3分半。ホーンやピアノなども鳴り響くサウンドはカラフルで華やかではあるのだが、曲の全体的な質感は一貫してヘヴィかつダークである。その要因となっているのは、ベースラインの存在感の大きさ、それにconoの歌声に依るところが大きいだろう。それに、歌詞。「さあ始まった 匿名希望 誹謗中傷」と始まる歌詞の世界観は、現代社会をシニカル含みの目線で睨んでいるようである。

坂井彩花

“正義中毒”という言葉が市民権を得てひさしいが、哀しき流行は今もなお続いている。なんてったって、正義感を振りかざすのは気持ちいい。ドクドクと高鳴る鼓動に、人はあっけなく魅せられる。果たして、その興奮は善か悪か。もしかすると、“毒”となって身体を蝕んでいるのではないか。エモーショナルなロックサウンドと風刺的な歌詞で、「ドクドク」はそう突きつけてくる。促音を多用することで、メロディに弾みを生み出すとともに、立ち止まるタイミングを逃して転がり続けていく主人公の様子を描写。効果的に用いられる音の跳躍も、罪悪感と快楽を行き来する心情を映し出しているようだ。conoの持ち味である活舌のよさやピッチコントロールのうまさあってこその旋律といっていいだろう。「君はどうだろう?」と投げかけただけで終わらず、「That's too bad」と言い切るラストも痛快だ。

ナカニシキュウ

conoのオリジナル曲としてはこれまでありそうでなかった、ネットミュージック直系のダークポップ。上下動が激しく音符の詰まった忙しいメロディラインと目まぐるしく展開する楽曲構成が“ボカロ以降”を思わせる1曲で、シリアスかつ性急なギターサウンドと“SNSの誹謗中傷”をテーマにした闇深い歌詞世界にもその系譜が見て取れる。ボーカリストとしてのスタイルを考慮すると、むしろこの路線こそが彼女の一番の“王道”に近いものと考えるのが自然で、水を得た魚のようにそのボーカルスキルを全解放した歌唱表現を存分に楽しむことができる。また、この手の楽曲ではほぼ定番とされている“がなり”を安易に使っていないところに彼女ならではの独自性を見て取ることもでき、アウトロでチラッと披露される伸びやかなフェイクも重要な聴きどころの1つだ。

森朋之

杢代和人(原因は自分にある。)の主演による学園ドラマ風のミュージックビデオも話題を集めた「ドクドク」は、「さあ 始まった 匿名希望 誹謗中傷」というフレーズとともに疾走するアッパーチューン。歌詞のテーマは、根拠不明や明らかなデマが飛び交いまくり、怒り、妬み、絶望、諦念などのあらゆるネガティブな感情が渦巻く(SNSを中心とした)現代社会の在り方。conoのボーカルからもリアルな憤りが伝わってくるが、単に不満をぶちまけるだけではなく、「本当のボクは僕が知ってるから」と自らに言い聞かせるような歌詞があるのもこの曲の奥深さにつながっている。鋭利なギターロックを軸に置きながら、きらびやかなピアノが印象的なサビのアレンジやジャズの風味を取り入れた展開もあり、気持ちよく翻弄されるような感覚も魅力的。ライブでも心地よい高揚を生み出しそうだ。

「Very Very Ape」
[作詞・作曲・編曲:eijun / 菅波栄純(THE BACK HORN)]

天野史彬

これまで「ああ畜生」や「ソコノケソコノケソコノケ」などインパクト大な歌い出しを紹介してきたが、この曲もすごい。「あざす」である。「感謝してる……んだよね?」と問い正したくなる歌い出しだが、この「Very Very Ape」の作詞・作曲・編曲を手がけたのは、eijunことTHE BACK HORNのギタリスト菅波栄純。この曲でギターも担当しており、ほかにも、なっち / ナツメ ユウキがベース、初穂がドラムとして参加している。2010年代後半以降のロックとボカロが混ざり合っていく時代の空気感を感じさせるような1曲で、サウンドは全体的に性急かつシャープでありながら、ギターフレーズや言葉のリフレインが、爽快感というよりはズブズブと沼にハマっていくような中毒性を生んでいる。「しょせんサルサルサル… サルですうちら」なんてフレーズを歌い上げるconoの歌声はチャーミングでありながら、どこかやるせない。そもそも「あざす」って誰に向かって言ってるんだろう? 誰に向かっても言ってないのかも。

坂井彩花

作詞曲・編曲を手がけたeijun / 菅波栄純(THE BACK HORN)は、初めてconoの歌声を聴いたときに、情報量の多さとカッコよさに衝撃を受けたという。それを踏まえて「Very Very Ape」を聴くと、歌ってほしい言葉やメロディがあふれてしょうがなかったんだなと思わずにいられない。これまでのconoにはないボカロカルチャーとギターロックが融合したユニークなテイスト、かつバンド隊は生演奏。クルクルと声色を変えたり、抜群の滑舌で言葉を放ったりというconoの特色を生かしながらも、素の声質を味わえる余地もしっかりと残されている。──と難しく書いてみたが、ひと言でいうとクレイジーでハイで超楽しい。「サルですうちら」や「永眠 永眠」なんてコール&レスポンスしたさしかないし、このサウンドをライブで浴びたら最後、サルのように踊り狂う未来しか見えない。

ナカニシキュウ

グルーヴィなバンドサウンドとトラップビートが入り乱れるシリアスな音像に、conoの変幻自在な歌声のうちでもキュートな成分を抽出したようなボーカル表現を乗せた、菅波栄純(THE BACK HORN)の提供曲。キャッチーで耳に残るサビメロを備え、それと同等かそれ以上に印象的なイントロのエフェクティブなギターフレーズが2枚看板を担う構造となっており、その意味では全体的な尖った印象とは裏腹にJ-POPとしての強度も非常に高い1曲であると言えよう。ミクスチャーロック的な展開をするBメロでは彼女の卓越したフロウも楽しむことができ、落ちサビパートでのウィスパー表現ではやや舌足らずな“幼い”発声なども駆使される。これまで以上に幅広い歌声のバリエーションが詰め込まれた、幕の内弁当のようにお得感のある意欲作でもある。

森朋之

楽曲を手がけた菅波栄純(THE BACK HORN)の「conoの歌声を初めて聴いた時、その情報量の多さ、格好良さに衝撃を受けました」というコメントを残しているが、その印象を最大化し、限界ギリギリまで攻めまくった結果が「Very Very Ape」だ。ギラギラと研ぎ澄まされたギターサウンド、性急にして予測不能な楽曲展開、刺激的なアップダウンを繰り返すメロディライン、そして、「クズもカスも自暴自棄も果てるまで踊れ」という歌詞がぶつかり合うこの曲は間違いなく、conoのキャリアの中で最もアグレッシブなロックナンバー。どこかダウナーな雰囲気をまといつつ、楽曲の危うい世界を生々しく際立たせる彼女のボーカルもまた、これまでにはない斬新な魅力を放っている。“cono×ロック”のケミストリーを存分に体感できる、ターニングポイント的な楽曲と言えるだろう。

「花束とすーさいど」
[作詞・作曲・編曲:キツネリ]

天野史彬

言うなれば、ゆったりとしたテンポのさわやかなオルタナティブロック的サウンド。こんなふうに言葉にすると「ありきたりな感じか」と思われてしまうかもしれないが、勘違いしてほしくない。この「花束とすーさいど」は、極めて心地いいポップネスを持ちながらも、同時に、聴いた体感は「こんなの初めて聴いた!」と思えるくらいに新鮮なのだ。繊細かつ大胆な意匠によってデザインされた、楽曲の時間と空間。聴く人の側に寄り添うように響き続けるconoの歌声を中心に、曲全体が伝える温度はとても温かくて親密だが、フレーズの動きや音の抜き差しが生み出す緩急はたくさんの驚きと、微かな不穏さをも感じさせる。作詞・作曲・編曲を手がけているのは、グミ山とN-Roachからなる2人組ボカロPユニット・キツネリ。conoの歌声は、これまでの楽曲にはなかった優しさとはかなさを見せている。悲しいのに穏やかなような、美しいのに残酷なような、「何もわかっていない」ことが、わかってしまうような……そんなアンビバレントな質感に包まれる1曲だ。

坂井彩花

一聴して目の奥が熱くなってしまった。あまりにも優しくて、はかなくて、強くて。いったい誰を思って歌ったのだろう。どんな変化球だって打ち返してきたconoによる、ド直球ストレートな歌唱。吐息たっぷりの声質は、哀しみもあきらめも憎しみも抱きしめて、祈りのように響く。与えられたテーマを最大限に描くだけでなく、自分の感情を音に乗せて届けることまでやり遂げてしまうのかと、完全に度肝を抜かれた。90年代後半から00年代前半のJ-POPを彷彿とさせるクリーントーンのギターを基軸としたサウンドも美しい。ギターとシンセサイザーが織りなすアウトロなんて、「ここで泣いていいんだよ」と待ち構えているようじゃないか。幸せなことばかりとはいかない人生。ときには投げ出したくなることもあるが、この歌と花束を日々に添えて、命を使い果たしていきたい。

ナカニシキュウ

幅広い音楽性を歌いこなす技術力と表現力、多彩なソングライター陣によるハイクオリティな楽曲でじわじわとその存在感を拡大してきたconoが贈る最新曲「花束とすーさいど」は、ミディアムテンポのギターポップ。これまでの路線とは明らかに一線を画すチャレンジングな1曲であり、「エッジィで突き抜けた楽曲を平然と歌いこなしてしまう彼女が“普通のポップソング”を歌ったらどうなるのか」という、ある種の“実験”であるとも解釈することができる。そして実験結果は言うまでもなく良好であり、「ギミギミ」で“本業ラッパー”としての力量を完全証明してみせたときとまったく同じように、本楽曲では“本業ポップシンガー”としてのポテンシャルを遺憾なく発揮。切なさとリリカルさ、メロディの美しさを真っ向から表現しきってみせた。

森朋之

金属的な響きとノイジーなきらめき、独創的なコード感を同時に感じさせるギタープレイから漂ってくるのは、オルタナティブロックの匂い。90年代オルタナをアップデートしつつ、現在進行形のインディーロックとも同期したサウンドに身を任せていると、サビでは突如として明るい解放感をたたえたメロディが広がっていく(ただし爆音ギターは鳴り続けている)。「花束とすーさいど」、つまり“キレイなものと虚無”のメタファーであろうタイトル通り、情緒不安定な楽しさがあるこの曲をconoはさらに幅を広げたボーカル表現によってしなやかに描き出している。美しさとダークネス、諦念と希望、悪意と善意、ネガとポジ。相反する感情や状態を内包した歌声によって、聴く者の心と身体を揺さぶりまくる。それこそがシンガー・conoの根源的な魅力なのだと改めて実感させられた。

cono

cono

プロフィール

cono(コノ)

多彩なサウンドに“ダウナーだけどハイ”な歌声で呼応する女性シンガー。デジタルディストリビューションサービス・TuneCore Japan主催のアワード「Independent Artist Awards」内の「TuneCore Japan PickUp 2022」にノミネートされたのを機に、フジテレビの音楽特番「M_IND」にてテレビ初パフォーマンスを披露。2023年4月に初のオリジナル楽曲「SLAPSTICK」を配信した。以降、繊細かつ力強い歌声を武器に、佐伯youthK、MONJOE、澤野弘之、eijun / 菅波栄純らさまざまな作家陣と組んだバラエティ豊かな楽曲をコンスタントに発表している。最新作は2025年11月21日配信の「花束とすーさいど」。

菅波栄純(THE BACK HORN / eijun)(スガナミエイジュン)

ロックバンドTHE BACK HORNのギタリストおよびメインコンポーザー。近年はバンドでの活動の枠に囚われずに他アーティストへの楽曲提供やプロデュースを多数行っており、自身のソロプロジェクトとなる“eijun”名義でも継続的に楽曲をリリースしている。

2025年11月28日更新