Czecho No Republic「Mirage Album」インタビュー|武井優心と空白の4年間 (2/2)

絶望を使った遊び方

──バンドで集まってもしゃべらないようなムードは解消されたんですか?

だいぶ空気はよくなったと思いますけどね。別にいがみ合ってるとかじゃなくて、シンプルにシャイな人の集まりなのかもしれない。ゼロイチのタイプの人間は俺しかいないので、俺がゼロイチを設けないと何も生まれないバンドで。逆に言うと彼らは俺がゼロイチを生み出すのを4年待ったわけじゃないですか。それはすごい精神力だなと思うんですよね。そうなるともう、感謝だなと思います。過去のどのインタビューを読み返しても「今が一番いい」とか言ってますけど、今はちゃんといいはずです。前は嘘ついてましたね。

武井優心(Vo, G)

──みんながイメージする“Czecho No Republic”を真正面から表現しようと思ったとき、具体的にどんな音楽を鳴らすべきだと考えながら曲を作り始めたのでしょう?

ライブで過去の曲ばかりやっていた不甲斐ない時期、結局頼る曲が決まってきたんですよ。わんぱくだったり、突き抜けたテンション感が出たり、シンガロングできたり、どうしても踊ってしまうようなリフやリズムがあったり。チェコ特有のにぎやかさや明るさがあって、かつ、洋楽インディーの匂いがする曲。結局そこかと思って。あと、幼稚じゃなくてキラッとしたかわいさというか、ちゃんと質の高いかわいさみたいなものが欲しいなと思いました。

──上品なかわいさがあり、その中にちょっとした毒や切なさもあるような表現ですよね。時代によって、人を惹き付けるバランス感は変わっていると思うんです。2010年代はまだ“幸福感”や“逃避”が求められていたけど、今は毒のないものを巻き散らすだけでは、すごくフェイクに見えてしまうような世の中じゃないですか。

毒っ気をまとったもの、みんな好きですよね。結局SNSも毒の羅列だし。知らないうちにそんな時代になってしまったなという感じはします。というか、可視化しやすくなったのかな。そういうのって、昔はみんな内に秘めてたけど、今はドヤ顔で提示するじゃないですか。しかも刺し方に角度があればあるほど湧く。……みんなそんな絶望してるのかな? わかんないけど。俺もしてますしね。「Bad Dreams」で言ってるのはそういうことで、「この世界は悪い夢」なんですよ。悪い夢から目覚めるという曲じゃなくて、悪い夢の中で一瞬大切なことに気付くっていう曲なんです。絶望を使った遊び方が、世の中の人とあんまり合わないかな。最近は世の中にいろんな曲があるので、まずは自分自身の100点を取れればいいのかなって思ってますね。

──チェコが表現している幸福感と毒っ気のバランスが、世の中的に見てもオリジナルだし、それがすごくいいなとアルバムを聴きながら思ったんですよね。「Bad Dreams」はどういうふうに生まれた曲ですか?

これは広島で書いたんですよ。広島にじいちゃんばあちゃんが住んでた家があって、今は誰も住んでないんですけど、いよいよその家を手放すという話を聞いて、そこで1曲書けたらいいかもと思ったんです。俺はヘッドフォンじゃなくてスピーカーで聴かないと曲が書けないから、スーツケースに詰め込んでガラガラ転がしながら行ったら、重さに耐えきれなくてまず東京駅に着くまでに3回くらい開いちゃって、汗だくにもなって、出だしから最悪で。着いたら着いたで2、3日は全然曲ができないし、しかも3日目に風邪を引いて、2日間くらい寝込んで何もできなくて。まさしく「Bad Dreams」。というときに突然、サビとイントロのメロディができました。一番思い出深い曲ですね。そのときの心境も歌詞にいっぱい含んでいます。

──その話を聞くと、「君の呼ぶ声」という歌詞についても想像が膨らみますね。

広島の家で昔の写真とかを見返して、ノスタルジックに浸っていたんです。そしたら体調が悪くなったので、「ノスタルジックに浸ってんじゃねえよ」って、じいちゃんばあちゃんが突き放してきたのかなと思って。だから「ノスタルジアの亡霊」という歌詞を入れました。活動してなかった時期に見出したチェコのアイデンティティを全部詰め込んだような曲ですね。質のいい幸福感というか。今後ライブでずっとやっていくことになる曲じゃないかなと思います。

武井優心(Vo, G)
武井優心(Vo, G)

チェコを取り戻す

──結果的に14曲も完成しましたけど、2023年2月から連続リリースした「emotional girl」「STORY」「Journey」が曲を書けなかった時期の突破口となった?

いや、そこはまだ俺の中でリハビリ期間なんですよね。去年の11月頃に、ライブもいいし、モチベーションやメンタルもいいし、いよいよバンドが仕上がったんじゃないかと感じられたから、アルバムを作ろうという話し合いになって。しかも2025年は15周年だから、それに向けて仕掛けていくための最高のアルバムを作ろうと。そこからしっかり曲を書き始めて、1曲目にできたのが「Life To Me」。そのあと「Friend」が書けたときに、いよいよ乗ってきたなという感じがしました。「Wonderland」はあえて狙いにいったというか、Arcade Fire的な壮大さを今一度やってみるのもいいかもなと思って書いて。この曲ができたときにやっと安心しましたね。

──「Life To Me」は何を思いながら書いたんですか? 悔いなく生きられるよう、自分を奮い立たせる曲ですよね。

「Life To Me」の制作は、チェコに寄せにいくというか、チェコを取り戻す作業だったんですよ。自分が心から納得する音源を作らないと、やめることも進むこともできないなと思ったんです。やめるにしても、「最後にいい音源を作ったんだ」と思えないと怨念が残るじゃないですか。人生の最後とか、このバンドが終わるときとかに何を思うのか、ということを書きました。でもドラムの(山崎)正太郎には「いいけど、ちょっと重いな。もう少し軽い感じがいいよ」って言われて、そこからもっと気軽に曲を書き始めましたね。

──「Pony Bambi」も、イントロの鮮やかなリフから“Czecho No Republic感”を存分に感じました。この曲、誰か違う人が歌ってますよね?

あれはメンバーみんなで歌ってます。この春から夏にかけてやった自主企画で、1曲の歌をみんなで回すということをやったんですよ。そうしたらお客さんのテンションがめっちゃ上がったんです。俺が歌うより盛り上がるから(笑)、じゃあそういう曲を1曲作っちゃえばいいかなって。もともとのデモは俺とタカハシのツインボーカルだったんですけど、レコーディングのときにちょうどそういうライブをやっていて、みんなで歌ってみました。ライブでいい差し色になるだろうなと思います。

武井優心(Vo, G)

──「HOPE」は逆にこれまでの“Czecho No Republic感”とは異なるサウンドだなと思って。深夜の思考の巡りが見えるような曲ですけど、繕ってない武井さんが出てる気がしていいですよね。

それはうれしいですね。気取ってる感じが出てないならよかったです。ちょうどよく熟してきたのかもしれないですね。本当に、時間のかかる男たちなんですよ。特に俺の人間的な成長速度は、人より10年くらい遅れてると思う(笑)。「HOPE」は2023年くらいに作ってた曲で、俺は別にアルバムに入れなくてもいいかなと思っていたんですけど、砂川さん(砂川一黄)が「入れていいんじゃないか」って言ってくれて。まだふわふわ悩んでる時期の眠れない日々の曲ですね。眠れなさすぎてちょっとサイケサイケデリックになっちゃった、みたいな。Living Ritaを始めたことによって、書けるゾーンがここまで深まった気がします。

武道館でやれたほうが幸せに決まってる

──そうやって4年間の迷いの時期を経て、“Czecho No Republic感”に向き合い直して作り上げた1枚を、なぜ「Mirage Album」と名付けたのでしょう?

この4年間、まさしく霧の真っ只中にいたので。しかも今もまだ、不確かな希望とか未来を追いかけてるわけじゃないですか。でも「ミラージュ」というのは妙に心地よかったり美しかったりもするわけで。それを全部ひっくるめて行こう、という感じですかね。結局、みんなそうだろうと思って。「生きる」ということが、そういうことかなと。最初は「Bad Dreams」というタイトルにしようと思ったんですけど、タカハシに「暗い。そこまで言い切るな」と言われて、みんなで相談して「Mirage Album」にしました。

──今、Czecho No Republicとしてどんなことをしたいと思ってますか?

「自分たちができる100点を取る」ということに尽きると思います。それが世の中に受け入れてもらえたらうれしいというだけですかね。別にあきらめてるとかではなく、それで本当にちゃんと成功したいなって。野心はありますよ。のんびり楽しくできりゃいいとは思ってないので。当たり前のようにZeppツアーができたり、武道館公演をやったり、これまで叶えられなかった夢を、全部叶えていきたいと思います。会場の規模を小さくして「今は今で幸せなんです」って言うのは楽だけど、それだと嘘になる。武道館でやれたほうが幸せに決まってるんだから。そこを目指したいですね。

武井優心(Vo, G)

公演情報

つぎはぎのMirage Tour

  • 2025年1月11日(土)大阪府 Live House Anima
  • 2025年1月19日(日)東京都 渋谷duo MUSIC EXCHANGE
  • 2025年1月25日(土)愛知県 ell.SIZE
  • 2025年2月8日(土)香川県 高松TOONICE
  • 2025年2月9日(日)広島県 CAVE-BE
  • 2025年2月11日(火・祝)福岡県 LIVEHOUSE OP's
  • 2025年2月23日(日)新潟県 GOLDEN PIGS BLACK STAGE
  • 2025年3月1日(土)宮城県 ROCKATERIA

プロフィール

Czecho No Republic(チェコノーリパブリック)

武井優心(Vo, G)、山崎正太郎(Dr, Cho)、タカハシマイ(G, Syn, Vo)、砂川一黄(G)からなるバンド。2010年11月に初のCD作品「erectionary」、2011年10月に初のフルアルバム「Maminka」をリリース。2013年10月に2ndアルバム「NEVERLAND」で日本コロムビアよりメジャーデビューした。2015年9月に3rdアルバム「Santa Fe」、2016年7月に4thアルバム「DREAMS」、2018年3月に5thアルバム「旅に出る準備」を発表。2018年4月に八木類(G, Syn, Cho)が脱退したのち、2019年4月にmurffin discs / mini muff recordsよりEP「Odyssey」をリリースした。同年7月には武井優心とタカハシマイが入籍。コロナ禍を経て、2024年11月に9thアルバム「Mirage Album」を発表した。