Ryu Matsuyama×mabanua│3つの個性が織り成すサウンドスケープ

イタリアと日本の音楽環境の差

mabanua 音楽活動をするうえでイタリアのほうがよかったところはありますか?

Ryu 音楽に対する概念……ですかね。日本の音楽はエンタテインメント性やパフォーマンス性も含めて成り立っていると感じていて。海外の人は外見ではなく中身の音楽を楽しみたい人が多いと思うんです。僕が好きなオルタナティブアーティストは、あまりエンタテインメント性を気にしていないんですよね。歌詞に関しても、日本が「君はそう思うでしょ?」という感じだとすれば、海外は「僕に共感して!」という感じで、少し違う気がするんです。僕も捉えきれていないし、何か言える立場ではないんですけど。でも両方取り入れられたらスーパー作詞家になれると思うので、いろんな歌詞や音楽に触れて勉強したいですね。

mabanua なるほど。反対に日本のほうがいい部分はありますか?

Ryu 設備ですかね。

mabanua

mabanua 俺もまったく同じことを考えていました。去年中国のあるライブハウスで自分のマイクを使おうとしたら、コードをつないだ瞬間にハウり出したことがあって。

Ryu わかる。イタリアも一緒です(笑)。日本のライブハウスは設備がいい。イタリアではあり得ないです。カフェで使うレベルのスピーカーとかざらにあるので。あと日本っていろいろな場所で音楽が流れてるんですよ。イタリアは、街中で全然音楽が流れてないんです。

mabanua 日本のほうがガンガン流れてるんですね。

Ryu 情報量は多いと思います。渋谷のスクランブル交差点あたりにはモニタが3、4個あってずっと音楽が流れている。それだけで何かしらインプットはされていると思うんですよね。そういう環境で生まれ育ちたかったし、うらやましいなと思います。

mabanua イタリアでは、小さいスピーカーしかない音楽環境の中でも、素晴らしいパフォーマンスをする人もたくさんいると思うのですが、「機材がよくないからいいパフォーマンスができませんでした」というのはイタリアだと通るものですか? 自分はOvallというバンドをやっていて、海外にライブをしに行ったらカフェのような設備のときがあって。いざ演奏したらドラムの音しか聴こえなかったんです。でもそれを機材のせいにしていいのかなって。どんな環境でもいいパフォーマンスができるようになるべきなのかな。

Ryu カフェの設備でいい音を出せるアーティストが、整った設備で同じ演奏ができるかどうかはまた違う気がします。まあでも、うまい人はどこでも同じ音を出しますよね(笑)。イタリアは設備が整ってないからこそ、ガツガツとした人が多いし、整ってないからこそやめるのが早いので、音楽人口がめちゃくちゃ少ないんです。

mabanua そうなんですか?

Ryu クラシックをする人は多いんですよ。でもバンド人口はめちゃくちゃ少ないです。500人以上いる高校に通ってましたけど、バンド活動しているのは僕らだけでした。

mabanua そうなんだ。学祭に軽音部がいっぱい出演している、みたいなこともなかったんですね。

Ryu そんな青春送りたかったです(笑)。

10年前から変わらない音楽性

mabanua 俺がRyuさん個人にもシンパシーを感じた点があって。Ryuさんは楽曲プロデュースもされてるんですよね?

Ryu そうですね。と言っても主にテレビのテーマソングやBGMです。

mabanua それは何歳くらいからされてるんですか?

Ryu 25、26歳くらいから依頼をいただくようになりました。誰かの楽曲プロデュースもやってみたいのですが、ツテがないので。実は僕ら自身もプロデュースされたいんですけど、なぜか僕らの音楽を聴いた人からは、頑固なバンドだと思われているみたいで声がかからないんです。近くでプロデューサーの方の仕事ぶりを見て、技を盗んでいきたいんですけどね。

mabanua 確かに、排他的な意味ではなくて、孤高の拘りぬいたサウンドを作っているバンドという印象を受ける方もいそうです。

Ryu もちろん拘りはありますけど、話し合いの中からいい音楽は生まれると思っています。多くの人と関わってRyu Matsuyamaを大きくしていきたいですし、自分の求めているサウンドスケープを作りたいですね。

mabanua なるほど。今って、持続する厚みのある音やダイナミクスなサウンドは流行りではない気がしていて。それがまただんだん変わって、有機的な音楽が次に流行ると思ってるんですよ。だからRyu Matsuyamaさんはもっとガーンって来るんじゃないかなと思ってます。

左からRyu、mabanua。

Ryu 僕もそう願ってます(笑)。好きなことをやるのが一番大事だと思ってますが、やっぱり売れたほうがいいですし。最近どうしてお金が欲しいか考えたんですけど、お金がたくさんあってやりたいことって結局音楽なんですよ。好きなことをやるという考えなので、10年前から音楽性も変わってないですしね。

mabanua 確かに音源をいただいた新曲とこれまでの作品のサウンドを聴き比べても、共通点が多いですもんね。自分のやりたいことがはっきりしていて、奇をてらって変えるつもりはないという意志が伝わってきます。

Ryu まったくないですね(笑)。

mabanua だけど新曲のサウンドが、アルバム「Between Night and Day」の楽曲よりもエモーショナルになってる気がしたんですよ。音楽家としての表現力が伸びている感じがしました。

Ryu うれしいです。もっともっとエモーショナルになりたい。音楽やっていてきついときもあって、ホントは「これが俺だ」っていう素晴らしいアルバムを作れたときに音楽をやめたいと思ってるんです。でもそれは一生できないかもなとも思っていて。最近同い年のTENDREが流行っていることとかも、やっぱり悔しいっちゃ悔しい。でも家に帰って「TENDREみたいな曲を書くぜ!」って思ったのに結局サウンドスケープ感のある曲ができるんですよ。

mabanua でも自分のできることとできないことを認識することで、自分の個性がより引き立っていく気がします。

Ryu そうですよね。昔は悔しさから曲を書くこともあったんですけど、僕も30歳になりまして、最近は悔しさで曲が書けなくなってきてますね。